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薬院法律事務所

刑事弁護

自転車の酒気帯び運転(初犯)で危険性帯有による行政処分を回避する方法(刑事弁護、道路交通法違反)


2026年08月30日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は会社員です。飲み会の帰りに自転車に乗っていたところ、酒気帯び運転で警察に検挙されました。これまで交通違反歴はなく、今回も事故は起こしていません。しかし、自転車の酒気帯び運転でも、自動車の運転免許が停止されることがあると聞きました。仕事で車を使うため、免許停止になると非常に困ります。刑事事件の処分を待っていればよいのでしょうか。それとも、今からできることがあるのでしょうか。

A、自転車の酒気帯び運転でも、運転免許を持っている人については、「危険性帯有」を理由として免許停止処分がなされることがあります。ただし、酒気帯び運転で検挙されたというだけで、全員が自動的に免許停止になる制度ではありません。 警察庁も、自転車の違反には運転免許の点数は付されない一方、自動車等を運転することが著しい交通の危険を生じさせるおそれがあると公安委員会が認める場合には、免許停止処分があり得ると説明しています。

対応としては、刑事事件の処分や免許停止に関する通知を待つだけでなく、従前の運転状況、今回の経緯、反省及び具体的な再発防止策を整理し、早い段階で警察の担当部署に上申書等を提出することが考えられます。

重要なのは、単に「初犯なので許してください」「仕事で免許が必要です」とお願いするのではなく、今後、自動車等を運転させることについて著しい危険がある者とは評価すべきでない事情を、具体的な資料とともに伝えることです。

不起訴処分など、刑事事件としての対応については、関連記事の「自転車の酒気帯び運転(初犯)で不起訴処分を獲得する方法(刑事弁護、道路交通法違反)」もご参照ください。本記事では、それとは別に問題となる、運転免許の行政処分への対応を解説します。

 

【解説】

 

1 不起訴・罰金という「刑事処分」と、免許停止という「行政処分」は別の問題です

 

まず理解していただきたいのは、刑事事件の処分と、運転免許の行政処分とは、目的も手続も異なるということです。

刑事処分は、過去の違反行為に対する責任を問うものです。これに対し、運転免許の行政処分は、将来の道路交通上の危険を防止するために行われます。同じ交通違反を原因としていても、それぞれ独立して判断されます。(岡山県公式サイト)

したがって、「起訴猶予で不起訴になったから、免許停止もなくなる」とは限りません。逆に、罰金刑になったからといって、それだけで危険性帯有による免許停止が当然に決まるわけでもありません。

もっとも、刑事事件の結果が全く無関係という意味ではありません。警察実務の解説でも、危険性帯有の判断資料として、刑事事件としての成立の有無、処罰の有無、種類・程度等が挙げられています。刑事処分の結果も一事情として検討されますが、行政処分の要件については別途判断される、という関係です。

そのため、免許への影響が心配な場合には、刑事弁護と並行して、行政処分への対応も検討する必要があります。

 

2 危険性帯有とは何か――違反点数による処分とは異なります

 

道路交通法第103条第1項第8号は、免許停止等の処分事由として、次のように定めています。

前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。

いわゆる「危険性帯有」です。同号及び道路交通法施行令の基準により、6か月を超えない範囲で免許の効力を停止することができます。

この制度で問題となるのは、自転車の違反に自動車と同じ違反点数を付けることではなく、その人に自動車等を運転させた場合の危険性を評価することです。

したがって、自転車で検出された呼気中のアルコール濃度について、自動車の酒気帯び運転の点数表をそのまま当てはめ、免許停止や取消しが決まるわけではありません。一方で、「自転車の違反には点数が付かないので、免許には何の影響もない」という理解も誤りです。(警察庁)

なお、道路交通研究会による『月刊交通』の実務解説は、危険性帯有の適用について、公安委員会に無制限の裁量が認められるものではなく、拡張解釈を避け、該当性を慎重に評価する必要があると説明しています。

 

3 第12次交通安全基本計画と警察実務は、個別の事情を踏まえた判断を予定しています

 

令和8年3月27日に決定された第12次交通安全基本計画は、令和8年度から令和12年度までの交通安全施策の基本となる計画です。(内閣府ホームページ)

同計画88頁では、自転車利用者について、飲酒運転等の悪質・危険な違反の反復や、違反による事故の発生を取り上げ、法を無視する心理的傾向、過去の処分歴・違反歴等を踏まえ、危険性帯有者と評価できる場合には免許停止処分等で対処する方針が示されています。(内閣府ホームページ)

ただし、これは**「初犯で事故がなければ免許停止にしてはいけない」という規定ではありません。** 基本計画は施策の方針を示すものであり、道路交通法上の処分要件を、反復違反や事故がある場合だけに限定するものではありません。

一方で、この計画を踏まえると、弁護活動においても、今回の違反だけを切り離して論じるのではなく、過去の運転状況や反復性の有無を丁寧に整理することが重要になります。

また、道路交通研究会「交通警察の基礎知識(275)危険性帯有による行政処分について」(『月刊交通』2025年9月号)も、自転車運転者への適用に当たり、事案の重大性、危険性、被害の程度、処分歴・交通違反歴、法無視の心理的傾向等を総合的に判断すると説明しています。

ここで注意したいのは、「初犯」という言葉の意味です。「刑事事件の前科がない」ことと、「これまで交通違反や免許停止の記録がない」こと、さらには「実際に飲酒運転を繰り返していない」ことは、それぞれ別の事情です。

弁護士としては、「初犯です」という一言で済ませず、何について前歴がなく、どのような運転をしてきたのかを確認して説明する必要があります。

 

4 免許停止の通知を待つだけでなく、捜査段階から事情を伝えることを検討します

 

私は、危険性帯有による行政処分が問題となり得る事件では、聴聞等の通知が来てから初めて対応するのではなく、その前の段階で、本人側の事情を判断資料として届けることが重要だと考えています。

『月刊交通』の実務解説でも、事案を取り扱った所属と行政処分担当課が連携し、行政処分の上申と、危険性帯有の適否についての個別具体的な検討を行うことが説明されています。

そこで、弁護人から事件を担当する警察署に対し、本人の反省文、運転記録に関する証明書、再発防止策等を添えて、危険性帯有による免許停止の対象としない取扱いをお願いすることが考えられます。

必要に応じて、運転免許の行政処分を担当する部署にも資料を提出し、既に報告や上申がなされている場合には、追加資料として検討していただくようお願いします。

なお、道路交通法上、処分を行うのは、原則として、その処分事由に該当することとなった時点の住所地を管轄する公安委員会です。検挙された都道府県と住所地が異なる場合には、どの部署に資料を届ける必要があるかも確認します。

もちろん、上申書を出すこと自体によって処分が回避できるわけではありません。通知が届いた場合には、その内容と期限を確認し、必要な手続に対応することが大切です。

 

5 「初犯・事故なし」を、具体的な資料で説明します

 

危険性帯有への対応では、本人に有利な事情を並べるだけでなく、できる限り客観的な資料で裏付けることを考えます。

まず、従前の運転状況です。 運転記録証明書は、過去1年、3年又は5年間の交通違反、交通事故及び免許の行政処分の記録を証明するものです。また、無事故・無違反で経過した期間を証明する「無事故・無違反証明書」もあります。目的に応じて取得する資料を選びます。

ただし、過去5年間の証明書に違反の記載がないことをもって、生涯一度も違反をしたことがないと証明できるわけではありません。証明される期間や内容と、本人から聴取した事情とを区別して説明します。もっとも、早急に対応しなければならないことを考えると証明書を取得しないまま進めることもあります。

次に、今回の具体的な経緯です。 飲酒をした場所、帰宅方法をどのように決めたのか、自転車に乗った区間、事故や他人への被害の有無などを整理します。本人の記憶だけでなく、確認できる範囲で経路図や関係資料も検討します。

「事故がなかった」という事情は説明すべきですが、それだけで運転が安全だったことになるわけではありません。また、「少し休んだ」「乗った距離が短かった」という事情も、酒気帯び運転を正当化する理由にはなりません。

そして、本件後に何を変えたのかです。 反省文を作成しただけでなく、帰宅方法の変更、家族との確認方法、交通ルールの学習など、実際に始めた取組を資料にしていくことを考えます。

 

6 反省文では、謝罪だけでなく「同じ判断を繰り返さない方法」を示します

 

反省文は、単に「深く反省しています」「二度としません」と書けばよいものではありません。

私が重視するのは、本人が、何を軽く考えていたのか、どのような危険があったのか、今後はどの行動を変えるのかを、自分の言葉で説明できることです。

例えば、「自宅まで少しの距離だから大丈夫だろう」と考えて乗車したのであれば、その考え方自体が誤りだったことを理解する必要があります。「結果的に事故がなかったので問題は小さい」という説明ではなく、事故に至らなかったことと、自らの行動の危険性とは別であると受け止めることが大切です。

警察庁も、飲酒が運転に必要な認知・判断・操作に影響し、転倒だけでなく、歩行者との衝突など他人に危害を及ぼす危険があると説明しています。こうした基本的な危険性を理解した上で、再発防止策を考えます。(警察庁)

具体的な対策としては、例えば次のようなものが考えられます。

  • 飲酒する予定の日は、自転車や自動車で出掛けない。 予定外に飲酒することになった場合は、車両を置いて帰り、飲酒の影響がないときに回収する。
  • 帰宅方法をあらかじめ決める。 公共交通機関を利用できない時間になった場合も、タクシー等を利用し、その場の自己判断で自転車に乗らない。
  • 家族等の協力を得られる場合は、帰宅方法を共有する。 「見守ります」という抽象的な約束だけでなく、出発前の連絡や帰宅確認など、実行できる方法を決める。

家族の協力が得られない場合には、その人の生活状況に合った別の方法を考えます。実行できない約束を並べるより、継続できる具体策にすることが重要です。

また、自転車の交通ルールを学び直し、学習した内容と今後の行動をレポートにまとめることや、参加可能な交通安全教室等を検討することも考えられます。警察庁の自転車ポータルサイトでは、自転車安全利用五則や基本的な交通ルールが公表されています。(警察庁)

これらは「受講すれば免許停止を免れる」という仕組みではありません。本人の認識と行動がどう変わったのかを説明するための取組です。

 

7 上申書は、取締りを否定するのではなく、本人の事情を丁寧に伝えるものにします

 

警察への上申では、飲酒運転の取締り自体を否定したり、「自転車なのに処分するのはおかしい」と主張したりする必要はありません。

伝えるべきことは、今回の行為を軽く考えているのではなく、従前の運転状況と本件後の具体的な取組も含めて、将来の危険性を判断していただきたいという点です。

例えば、上申の趣旨としては、事実関係を確認した上で、次のような内容が考えられます。

本人は今回の行為を深く反省し、飲酒後の帰宅方法を改めるなど、具体的な再発防止策に取り組んでおります。従前の運転状況、本件の経緯及び別添資料をご考慮いただき、危険性帯有者として免許停止処分の対象としないお取扱いをご検討くださいますよう、お願い申し上げます。

「仕事で免許が必要」という事情も、具体的な影響を説明することは考えられます。しかし、それだけで道路交通上の危険性が否定されるわけではありません。

むしろ、業務上の運転状況、従前の安全運転実績、勤務先で実施されている安全運転管理などについて、確認できる事情があれば整理します。勤務先に協力を求めるかどうかについては、職場への影響も含め、本人と相談して慎重に判断します。

なお、本人が事実関係を争っている場合には、その内容を十分に確認する必要があります。行政処分を避けたいからといって、事実と異なる反省文を作成したり、刑事事件での説明と矛盾する主張をしたりしてはいけません。 刑事事件と行政処分の双方を見据えた対応が必要です。

 

8 処分の回避が難しい場合には、軽減・猶予も検討します

 

危険性帯有に該当しないと判断されることと、該当すると判断された場合に処分を軽くされることは、別の問題です。

例えば、広島県公安委員会が公表している「自動車等の運転者の運転免許の効力の停止等の行政処分量定に関する規程」第4条第2項には、危険性帯有による停止についても、運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情がある場合に、処分を軽減できる旨の規定があります。また、基本量定が30日又は60日である場合には、所定の条件の下で処分を猶予できるとされています。(広島県公式サイト)

ただし、これは初犯者全員に当然に適用されるものではありません。実際の事件では、処分を担当する公安委員会の最新の基準を確認し、その事件のどの事情が軽減・猶予の理由になるのかを検討します。

また、処分をしないこと、処分を猶予すること、免許停止処分後に講習によって停止期間を短縮することは、それぞれ異なります。 講習による短縮は、免許停止処分そのものをなかったことにする制度ではありません。(広島県公式サイト)

最初から「免許停止は仕方がないので、講習で短くすることだけを考える」と決めるのではなく、まず危険性帯有に該当するのかを検討し、その上で必要に応じて軽減・猶予や停止期間の短縮まで視野に入れることになります。

 

9 まとめ――刑事事件と運転免許の問題を、早い段階から並行して検討します

 

自転車の酒気帯び運転は、「自転車だから大したことはない」と考えてよい問題ではありません。一方で、初めての違反について、従前の運転状況や本件後の取組を十分に確認せず、「免許停止は避けられない」と決め付ける必要もありません。

行政処分への対応では、本人が実際に再発防止に取り組み、その内容を、過去の運転状況や今回の経緯とともに整理して届けることが大切です。

私は、「処分を受けると困る」という不利益の説明だけでなく、「今回の反省と具体的な対策を踏まえれば、今後の運転について著しい危険がある者とまでは評価すべきでない」という説明を、資料に基づいて行うことが重要だと考えています。

相談の際には、警察に検挙された日時、告げられた呼気検査の結果、これまでの交通違反歴、警察から交付された書類、現在届いている通知などを整理しておくと、検討を進めやすくなります。

刑事事件としての不起訴処分を目指す活動については、「自転車の酒気帯び運転(初犯)で不起訴処分を獲得する方法(刑事弁護、道路交通法違反)」をご参照ください。前科の問題と、運転免許の問題の両方について、早い段階から対応を検討することをお勧めします。

 

【主な参考資料】

 

中央交通安全対策会議「第12次交通安全基本計画」(令和8年3月27日決定)88頁。

道路交通研究会「交通警察の基礎知識(275)危険性帯有による行政処分について」『月刊交通』2025年9月号(696号)83~90頁。特に、危険性帯有の判断枠組みについて84~85頁、自転車運転者への適用について87頁、関係部署の連携と個別具体的な検討について90頁。

警察庁「自転車ポータルサイト」及び広島県公安委員会「自動車等の運転者の運転免許の効力の停止等の行政処分量定に関する規程」。

 

自転車の酒気帯び運転(初犯)で不起訴処分を獲得する方法(刑事弁護、道路交通法違反)