事件を終わらせるだけでなく、その後の人生の自由を守る。
私は、刑事弁護を弁護士業務の中心としています。不起訴や無罪、刑の軽減を目指すことは、もちろん重要です。しかし、私が考える「解決」は、刑事処分が決まったところで終わるものではありません。
仕事を続けられること。ご家族との関係が保たれること。事件後も不安に縛られず、新しいことに挑戦できること。私は、ご本人とご家族の10年後、20年後、30年後への影響まで想定しながら、弁護方針を考えています。
目指すのは、先の見えない状況をできるだけ早く解消し、その解決の過程で、将来に不要な負担や不安を残さないことです。
刑事事件は、人生の一部であっても、人生のすべてではありません。
事件の後、ご本人やご家族が、それぞれの人生を自分の意思で選べること。そのために、いま何をするべきか、何をしない方がよいかを考えるのが、私の弁護方針です。
このページの内容
捜査実務を理解し、必要な働きかけをする
決まった手法に当てはめず、解決への道筋を考える
事件後の不安を減らし、人生の選択肢を守る
判断の理由を説明し、自分の見立ても見直す
被害回復を大切にし、ご家族に不要な負担を残さない
刑事「専門」という表示を用いない3つの理由
1.捜査実務を理解し、依頼者のために働きかける
警察の考え方を知ることと、警察と同じ判断をすることは別です。
私は、警察・検察の実務に関する文献や資料を長年にわたり収集・研究し、警察官向け専門誌『警察公論』(立花書房)で、実務教養小説「涼井警部補の事件簿」を連載しています。本誌では捜査側、オンライン版では弁護人側の視点から、同じ事件を描いています。
捜査機関が何を疑い、どの証拠を重視し、何を確認できれば次の判断に進めるのか。その実務を理解するのは、判断をそのまま受け入れるためではなく、依頼者のために何を説明し、どこを争い、いつ働きかけるべきかを考えるためです。
例えば、事実関係について誤解があると考えられる場合には、資料や意見書の提出を検討します。逮捕や報道発表による影響が懸念される場合にも、判断の基準と具体的な事情を踏まえ、必要な申入れを行います。単に「早く終わらせてほしい」と要望するのではなく、適切な判断に必要な情報を届けることを重視しています。
受任した事件で不適切な取調べが疑われる場合には、問題となる言動を具体的に確認し、弁護活動の一環として改善を求めます。必要に応じて、担当者への抗議にとどまらず、上司や監督部門への申入れなど、警察内部の指揮・監督の仕組みを踏まえて対応します。
意見書を出した、抗議をしたというだけで、仕事が終わるわけではありません。その後の取調べや捜査の対応を確かめ、依頼者の状況を改善するために、次に何が必要かを考えます。
弁護方針が、捜査機関と対立するものになるか、協力するものになるかは、あらかじめ決まっているものではありません。具体的な事件の内容と展開、依頼者の状況により適切な対応は都度異なります。私は、法令と弁護士としての職業倫理を守り、独立した立場から、依頼者の権利と利益のために判断します。
この弁護方針を支える研究と実績
捜査機関とは独立した弁護士の立場で続けてきた警察実務の研究、警察官向け専門誌『警察公論』での連載、これまでの裁判実績や経歴は、「弁護士紹介」にまとめています。弁護方針の背景にある、研究と実務の積み重ねをご覧ください。
2.決まった手法に当てはめず、解決への道筋を考える
事件が続いている間の不安や、生活上の負担も、解決すべき問題の一部です。私は、争うべき点を見極め、必要な弁護活動を尽くしながら、可能な限り速やかな解決を目指します。
ただし、早く終わらせるために、事実と異なることを認めるよう勧めることはありません。事実関係、証拠、法律上の評価を検討し、争う必要があれば、捜査段階でも法廷でも必要な主張を行います。
取調べで説明するか、黙秘するかも、一律には決めません。事件の内容、証拠の状況、捜査の進展、担当捜査官の言動や対応、ご本人の心身の状態などによって、適切な選択は変わります。
話すことによって生じる危険と、説明の機会を見送ることによる影響の両方を検討します。そのうえで、黙秘を選ぶ場合にはその意思を支え、説明する場合には、何を、いつ、どのような方法で伝えるかを具体的に考えます。ご本人が取調べで話すことと、弁護人が意見書や客観資料を提出することも、分けて検討します。
黙秘権は、ご本人のための権利です。黙秘を続けることも、供述することも、それ自体を弁護活動の目標にはしません。
新しい弁護手法も学び、必要に応じて取り入れます。しかし、その手法を使うこと自体に価値を置くのではなく、この事件で、ご本人にどのような利益と負担が生じるかを考えます。自分の得意な方法に依頼者を合わせるのではなく、依頼者の事情に合わせて方法を選びます。
3.事件後の不安を減らし、人生の選択肢を守る
刑事処分が決まっても、仕事や家族関係への影響、賠償の負担、個人情報についての不安が残ることがあります。私は、事件を終わらせることと並行して、そうした負担をできるだけ残さない解決を考えます。
匿名示談――情報流出を心配し続けなくて済むように
示談では、相手方の意向や事件の事情に応じて、ご本人の氏名・住所を相手方に新たに伝えずに解決する「匿名示談」を検討することがあります。当事者を特定する方法や合意の履行を確認し、必要な被害回復と両立できるかを考えます。
私が重視しているのは、情報流出の危険を減らすことだけではありません。実際には何も流出しなかったとしても、「いつか知られるかもしれない」と悩み続ける時間そのものに、負担があると考えています。
新しい仕事に挑戦するときや、人前に出る機会が訪れたときに、過去の事件への不安から一歩をためらってしまう。そうした自己制限の原因を、事件の解決時にできるだけ残さないようにしたいのです。
匿名示談は、すべての事件で選べる方法ではなく、別の経路から情報が伝わる可能性までなくせるものでもありません。それでも、不必要な情報開示を避け、将来の不安を抱える理由を一つ減らすことには、情報流出の有無とは別の意義があります。
生活を続けられる解決を考える
示談金や弁護活動に伴う費用についても、事件後の生活を踏まえて考えます。処分を軽くするためであっても、実行できない支払約束や、ご家族の生活を立ち行かなくする負担を当然の前提にはしません。
損害賠償や勤務先への対応なども、刑事手続の外の問題だからと切り捨てず、受任する業務の範囲を確認しながら、必要な対応を整理します。
事件のことを考え続けなくてよい時間を取り戻し、その後の人生を自由に選べる余地を残すことも、私が目指す弁護活動の成果です。
4.判断の理由を説明し、自分の見立ても見直す
同じように見える事件でも、ご本人が大切にしていることや、生活上の事情は異なります。まず、何を心配し、何を守り、これからどうしていきたいのかをお聞きします。
そのうえで、現在分かっていること、まだ分からないこと、これから確認するべきことを分け、弁護士としての見解をお伝えします。選択肢を並べるだけではなく、それぞれの利点と負担、私がどの対応を勧めるのか、その理由まで説明します。
ご希望に沿うことだけでなく、不利な事情や不確実な点もお伝えします。安心していただくためだけに楽観的な見通しを述べたり、ご依頼を促すために不安をあおったりするのではなく、現実を踏まえて方針を考えていただきたいからです。
ご本人の意思を尊重することと、専門的な判断をご本人に丸投げすることは違います。判断に必要な情報を調べ、見通しと理由を示したうえで、ご本人と方針を協議します。
また、ご本人のお話も、捜査機関の説明も、資料や証拠と照らして検討します。記憶と記録に食い違いがあれば、その理由を確かめます。ご本人を責めるためではなく、見落としていた事情によって不利益が生じることを避けるためです。
疑い、確かめる対象には、私自身の判断も含まれます。最初の見立てや過去の成功体験に固執せず、新しい証拠や捜査の動きがあれば、方針を見直します。一度決めた方法を貫くことより、その時点で依頼者のために何が必要かを考え続けることを大切にしています。
5.被害回復を大切にし、ご家族に不要な負担を残さない
被害が生じている事件では、その被害をどう受け止め、回復していくかを大切にします。示談も、処分を軽くするための書類を得ることだけが目的ではありません。相手方の意向を尊重し、実行できる約束を検討します。
事実関係に争いがある場合には、その点を確認したうえで対応します。相手方に不本意な判断を迫るのではなく、それぞれが納得できる解決の可能性を探ります。
一方で、ご家族が当然にすべてを背負うべきだとも考えていません。ご本人を支えたい気持ちと、怒りや不安が同時にあることも、経済的・時間的な負担に限界があることも踏まえます。
ご家族を情状証人にしない、という判断もあります
刑事裁判では、ご家族に、本人の生活状況や今後の支援について証言する「情状証人」としての出廷をお願いすることがあります。しかし、情状弁護を尽くすために、必ずご家族を法廷に立たせるという考え方はしません。
例えば、執行猶予が見込まれる事件では、証言によって期待できる利益と、ご家族の心理的負担や、その後の家族関係への影響を比較します。他の資料による立証も含めて検討し、証言の必要性が乏しいと判断した場合には、「今回は、ご家族に情状証人として出廷していただく必要はありません」と、理由を添えてお伝えします。
単に「証人になるかどうか」をご家族に委ねるのではなく、その必要性自体を弁護士が判断する。それによって、出廷の負担だけでなく、「断ったら本人に不利になるのではないか」という心理的負担も減らしたいと考えています。
必要なご協力をお願いする場合にも、目的と内容を説明し、協力できる範囲を相談します。ご家族への情報共有は、ご本人のご意向を確認しながら進めます。
ご家族への不要な負担を減らすことは、事件後のご本人の生活を支える関係を守ることにもつながります。判決を得るための対応が、その後の家族生活を損なわないかまで考えるようにしています。
補足:刑事「専門」という表示を用いない3つの理由
私は、刑事弁護を業務の中心としていますが、当事務所の広告では「刑事専門」という表示を用いていません。専門性を深めることを否定しているのではなく、次の理由からです。
① ご依頼の問題を、刑事事件という枠だけで切り分けないため
私は、刑事弁護に加え、犯罪被害者側の代理人業務や、企業法務・交通事故を中心とする民事事件にも取り組んでいます。刑事手続だけを切り離しても、ご本人が直面している問題の全体は見えません。
受任する業務の範囲は確認しつつ、関連する問題にも目を向ける。取扱分野の表示にご本人の問題を合わせるのではなく、目の前の人に必要なことから、対応を考えたいと思っています。
② 自己評価の言葉より、仕事の内容を見ていただきたいため
日本弁護士連合会の「業務広告に関する指針」は、専門性の判断の客観性が担保されないまま「専門家」「専門分野」等と表示することについて、誤導のおそれがあるとして、「表示を控えるのが望ましい」としています。
私は、この趣旨を踏まえ、「専門」という言葉で自分を評価するのではなく、どのような事件を担当し、何を研究し、どのような文章を公表しているかをお伝えしたいと考えています。経歴、裁判実績、執筆活動は、弁護士紹介ページで公開しています。
③ 専門性を深めながら、依頼者の人生を見る視野を保ちたいため
刑事事件の知識と技術を深めることと、刑事手続の外にある生活を見ることは、どちらも必要です。学んだ手法は選択肢として増やしていきますが、それを使うことが、ご本人のためになるかは事件ごとに考えます。
専門性は、依頼者の選択肢を広げるために使うものです。弁護士が自分の得意な方法を実践するために、依頼者の選択肢を狭めることがあってはならないと考えています。
警察実務を知る。依頼者の立場で考える。その後の人生まで見据える。
何を主張したか、どの手法を使ったかだけでなく、それによって何を守れたのか。そして、将来に不要な負担を残さなかったか。私は、2012年の事務所開設以来の経験と日々の研究を重ねながら、一つひとつの事件で、その問いに向き合っていきます。
薬院法律事務所
弁護士 鐘ケ江 啓司(福岡県弁護士会)


