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薬院法律事務所

刑事弁護

文献紹介 駒井彩「実例捜査セミナー 弁護人が公判で展開するケースセオリーを予測して捜査を行ったことで有罪判決が得られた事例」(刑事弁護)


2018年07月20日刑事弁護

駒井彩「実例捜査セミナー 弁護人が公判で展開するケースセオリーを予測して捜査を行ったことで有罪判決が得られた事例」捜査研究2017年10月号

出会い系サイトで出会った男女の事件です。17歳の女性の家に、被告人が迎えに行き、車内で無理矢理わいせつ行為を行ったという事案になります。こういうのは、密室での事件になるので、双方の供述の信用性が特に問題になります。

「弁護人は,公判段階において,開示を受けたあらゆる証拠を検討した上で,被告人にとって最も都合がよく,かつ証拠と矛盾しない主張(いわゆる「ケースセオリー」)を行う。そのため,捜査段階においては,証拠開示を受けた弁護人や被告人がどのような弁解や主張を行うのかあらかじめ想定しつつ捜査を行うことが必要となる。
さらに,弁護人は,被害者や目撃者等の検察側証人の供述についても,開示を受けたあらゆる証拠(供述調書に限らず,再現報告書や聴取結果報告書も含む。)を検討し,供述の変遷があれば,当該供述には変遷があり信用でき ないと主張するため,被害者供述や目撃者等の供述について変遷の有無,変遷があるとしてその変遷が合理的なのかどうかについてよく検討を行う必要がある。」

「本件で被害者の供述を裏付ける証拠としては,
・被害直後の被害者の胸から被告人のDNA型と一致する唾液が検出されたこと
・被害者が逃げ込んだコンビニエンスストア店員の供述(被害者が,恐慌状態で店内に逃げ込んできて,助けを求めてきたという内容)及び同店員の供述を裏付ける状況が記録された同店内設置の防犯カメラ映像
・母親の供述(被害者が電話で「今から殺される。」などと言ってきたことから,すぐに車から逃げて近くのコンビニエンスストアに逃げ込むように指示をした上,母親自身もコンビニエンスストアに向かい,被害者を保護したという内容)
などが存在した。」

しかし、仮に被告人から 「車内で同意の下(若しくは同意があると誤信した状況)でわいせつ行為を行い,その後トラブルになり, 脅迫はしていないものの口論になった末,被害者が車を降りてどこかに行っ てしまった。」などと弁解されると、証拠と弁解が矛盾しないことになってしまいます。

ここで、検事としてはどうすべきか、という内容でした。

この事例では、逮捕後、被告人は体に触れてもいない、という弁解をしたので、検察庁で取調べの全過程を録音・録画して、供述を保全したそうです。勾留満期で唾液が検出されたことを伝えても、心当たりはないと弁解を固定させたそうです。そこが、最後まで決め手になっています。

公判廷において,弁護人と被告人は,被害者の胸から被告人の唾液が付着した事実についてつじつまを合わせるため. 「車内で被害者が胸をはだけた状態で抱きついてきたことから,被害者の胸に被告人の唾液が付着した。」旨主張し,捜査段階からの供述を変遷させたけど、あっさり排斥されたそうです。被害者供述の変遷についても指摘してきたけど、控訴審でも供述の信用性を揺るがすような変遷はないとして有罪が維持されたそうです。

弁護人の視点からすると、被告人が完全黙秘していたのであれば、証拠不十分で無罪になる可能性もあった案件だと思いました(この事件がえん罪という趣旨ではなく)。最近は完全黙秘を勧める弁護人も増えています。

http://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/201710/

 

ケースセオリーについての参考書籍

https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139367