文献紹介 臨床心理学 第17巻第6号「特集 犯罪・非行臨床を学ぼう」(刑事弁護)
2018年07月20日刑事弁護
特集「犯罪・非行臨床を学ぼう」です。
それぞれの価値観と経験が強く出ている論文が多く、刺激を受けます。一部取り上げますが、他にも興味深い論文がありました。
「罪と人に相対する」村瀬嘉代子(元家庭裁判所調査官)
ある法律家は担当する加害者の調査に際して、司法に係属するまでにいたる加害者の生い立ちを聞き取る一方で、自分自身の生い立ちを振り返ることを常とされている。目の前の人を一方的に対象化する技術の研鑽にのもとらわれるのではなく、偽らず飾らず、虚心坦懐に相手へと我が身を呈することにより、これに感応した相手はおのずと反応を生ずることになるのではないか。
自らを含め、人は他者の犠牲によって生きているという自覚は加害者臨床における臨床家に必要な資質。暁幸と偶然により罪なき人でいられているという意識が必要。
「少年法の現在地」廣瀬健二
少年法は保護教育と犯罪対策の双方の面を担わなければならない。社会の寛容・国民の支持を得られる制度・運用でなければ少年法の維持すら危うくなる。重大・凶悪犯罪について18歳以上を保護するのはは不当だという被害者の意見は説得力に富む。他方、年少者の可塑性から18歳以上の者への教育的な修正の必要性も合理的な見解である。双方の調和をはかるべきであるが、実態を踏まえね必要がある。凶悪重大なものは極少数であり、成人なら大半は起訴猶予、罰金、執行猶予とされる事件であり、単純な一律引き下げは厳しい処分を求める立場にたっても有効な解決とはならない。
「犯罪は増えているのか減っているのか」高橋哲(法務総合研究所室長長官=犯罪白書発行元)
犯罪は全体的に減少。殺人は2016年に戦後最少を記録。一方、暴行・脅迫、特殊詐欺、ストーカー、児童虐待事件が増加。これは社会の認知と関係機関の対応の変化が背景。
少年事件は人口比率で見ても急減。凶悪化や低年齢化をうかがわせる要素もない。「数は減ったが、質が変わった」という論調も疑問。動機が理解しがたい非行は昔からある。
高齢者の犯罪は他の年齢層が減少するなか横ばい状態。女性高齢者の伸び率が非常に高い(窃盗・覚せい剤)。中高年層が、若者の規範意識が低下していると主張しているのを見るが、当の中高年層の規範意識を涵養しなければならないのでは。
再犯率も低下傾向にある。「再犯率は低下しても再犯者率(犯罪者のうち再犯者が占める率)が増加している」との意見もあるが、これは初犯者が著しく減少しているから。
臨床心理士は個別事情を踏まえて対応するが、基準点となる情報に引きずられやすいことが多くの研究で明らかになっている。全体像や一般的な傾向を把握しておくことは有益である。
「裁判員に犯罪をどう身近に感じてもらうか」橋本和明
犯罪心理鑑定=情状鑑定は、責任能力鑑定と異なる。事件を起こした人の人生を線でとらえて、文脈によって理解しようとするもの。
情状鑑定の参考文献として著者の「犯罪心理鑑定の意義と技術」がある→注文しました。
「「あのときは運が悪かった」という性加害者を叱責すべきか」 嶋田洋徳
どちらともいえない。ただ一般論として、罪の提示によるコントロールよりも、報酬の提示によるコントロール方が学習効果は大きい。
「加害の背後にある「傷」をどう扱うか?」藤岡淳子
まず、加害者の「傷」を開示してもらうことが必要。安全なサークルをつくることで開示させる。加害に回る男性たちが実は一番恐れているのが「無力」であることであり、かりそめの有力感を求めて不適切な「選択」をする。彼らの傷を聞いたとして、「共感」は不可欠だが、「同情」は百害あって一利ない。同情は彼らを無力な状態にとどめるだけだからである。