交通事故、警察に通報したのに救護義務違反になるかという相談
2023年08月26日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、交通事故を起こしたので警察を呼びました。相手は怪我しているようですが、普通にお話できていたので救急車は呼んでいません。
A、理論上は救護義務違反が成立しますが、現実的には立件されていないと思います。
【解説】
法律論としては、報告義務と救護義務は別なので、警察に通報していても救護義務は成立します。後掲の最高裁判例があります。ただし、この事案は被告人は結局警察官の指示に従わず立ち去った事例です。通常は、警察の指示に従っているのであれば、期待可能性がないとされて立件されていないと思います。
【参考裁判例】
最判昭和50年2月10日
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51085
【弁護人藤田一伯の上告趣意のうち憲法三一条、三八条違反をいう点は、本件の場合において道路交通法七二条一項所定の救護、報告義務は消滅したものであるとし、これを前提とする主張である。
しかしながら、警察官が、車両等の交通による人の死傷又は物の損壊事故が発生した直後に現場に来合わせて事故の発生を知り、事故を起した車両の運転者に対しとりあえず警察用自動車内に待機するよう指示したうえ、負傷者の救護及び交通の危険防止の措置を開始した場合であつても、右措置の迅速万全を期するためには、右運転者による救護、報告の必要性が直ちに失われるものではないから、右運転者においては、道路交通法七二条一項前、後段所定の義務を免れるものではない。この点の原判断は、結論において相当であり、所論は、その前提を欠くものである。】
東京地判昭和49年3月30日最高裁判所刑事判例集29巻2号45頁
(弁護人の主張に対する判断)
二、報告義務につきその必要性がないとの主張について
弁護人は、判示第三の二の事実につき、本件事故発生後、間もなく、警察官が事故現場に到着して事故処理にあたつたのだから、道路交通法七二条一項後段所定の報告義務はないと主張する。
よつて検討するに、本件事故は、被告人が警察官のいわゆる検問を突破して逃走中に発生したものであつたため、事故発生後、間もなく、被告人を追跡してきた警察官が現場に到着して、応急の事故処理にあたつたものであるが、その際、被告人は、警察官からパトカーの中にいるように指示されたのに拘らず、その直後、現場を立去つたものであつて、その間、警察官に対し、本件事故について何らの報告も行つていないことが明らかである。
ところで、自動車の運転者等に右報告義務を課したのは、交通事故があつた場合に、警察官をして、負傷者に対する万全の救護と交通秩序の回復に適切な処置をとらせるためであるところ、たまたま事故現場に来合わせた警察官が、負傷者の救護等応急の事故処理に着手した場合であつても、当該警察官は事故の状況を詳細に知悉しているわけではないのだから、当該運転者等から、事故の状況につき、法律の定める事項の報告を受けてこそ、負傷者救護についての万全の措置と交通秩序の回復についての適切な処置をとり得ると言えるのであつて、本件について前示のような事情があつたとしても、被告人の右報告義務を否定することにはならないと言うべきであるから、弁護人の右主張は理由がなく失当である。