若手弁護士の心構え(福岡県弁護士会新規登録弁護士等研修(選択)レジュメ)
2024年01月15日弁護士業・雑感
私は、毎年福岡県弁護士会に新規登録した弁護士向けに「若手弁護士の心構え」というタイトルで講演をしています。今年は4年目になりますが、レジュメを改訂しましたので参考までにホームページに掲載いたします。
若手弁護士の心構え
令和6年2月1日
弁護士 鐘ケ江啓司(63期)
第1 自己紹介
2009年 司法試験合格
2010年 春山法律事務所入所
2012年 薬院法律事務所開設(現在に至る)
主要取り扱い分野は刑事弁護、企業顧問、交通事故、その他一般民事
第2 若手弁護士の心構え(基本編)
1 守秘義務を遵守すること
守秘義務は、弁護士がもっとも重視すべきことです。
売上げや顧客満足度に直結するものではないですが、ここで失敗すると全て台無しになります。
最近は、プライバシーに対する権利意識が高まっていますので、トラブルにも繋がりやすいです。職務上請求で取得したコピーの交付といったことでも、懲戒の対象になることもあります。弁護士賠償責任保険にも念のため加入しておくべきですが、一度流出したら取り返しのつかない情報もあります。
起案をするために記録を持ち帰る、飲み会の席で友人に愚痴る、弁護士にとっては日常の一部ですがどこで聞かれるかわかりません。センシティブな情報を取り扱っているのだと意識して、仕事は家に持ち帰らない、といった習慣をつけておくことが大事です。
その他、FAX送信をする場合の短縮登録や、番号を読み上げての送信といったミスを防止する手法も取り入れていくべきでしょう。
私自身の失敗談として、刑事弁護で「自宅に書類を送らないでくれ」と言われていたのに、事務員にきちんと伝達できておらず自宅に書類を送ってしまったことがあります。以後は相談表に「住所地への送付を希望しない場合」の欄を作成し、明示することにしています。
2 無理をしないこと(心身の健康を維持すること)
弁護士業務はマラソンのようなものです。無理な処理をしてしまうと、明日以降の仕事にも影響します。
仕事をしていればどうしても好調・不調の波があります。体調を崩すこともありますし、不当な業務妨害を受けて精神が不調になることもあります。どんな時でもベストの仕事をすることは無理なので、スケジュールにはゆとりをもって組みましょう。
3 自分にできること、できないことを見極めること
お客さんは、弁護士に様々な期待をします。
その中には訴訟で解決できることもあれば、交渉で相手方が応諾しない限り解決しないこともあります。さらには、交渉で相手方が応諾したとしても、その解決にしこりが残るということもあります。新人のうちは「交渉力で解決する」ということに憧れると思いますが、無理な交渉は上手くいかなかったり、上手くいっても後悔が残ったりします。
かといって、何でもかんでも「できません」といっては弁護士として生きていけないわけで、どこで線引きをするかが大事です。私の場合、「正直に取り組める仕事」であれば、どれだけ手間がかかるとか、複雑だといったことであってもチャレンジしていくべきだと考えています。
自分ができることは何かということを、新人弁護士向けの本や、先輩弁護士の意見を聞いて見極めていってください。
4 不正を拒絶すること
ボス弁によっては、不当な事件をイソ弁に投げる人もいるようです(という話を聞く)。自分の首を絞めることになるので、断るべきです。
新人は、どんな分野の事件でも精一杯取り組むべきですが、不当な事件は断固として拒否すべきです。「仕事は選ばないが、客は選ぶ。」ということです。新人を利用してあくどいことをさせようと狙ってくる顧客もいます。気づいた時点ですぐ辞任できるような体勢をとることです。
「嘘をつかなければいけない仕事はしない」。
これは十分に意識してください。
5 習慣化すること
「心構え」は意識してもすぐ忘れてしまうものです。
「習慣」にすることで意識をしなくても実践できるようになります。
「当たり前のことを当たり前にやる」ことが大事です。
第3 若手弁護士の心構え(業務編)
1 徹底的に仕事に取り組むこと
時間は限られていますが、限られた時間の中で最善を尽くしていくことが大事です。徹底的に取り組んだ経験は別の事件でも役に立ちますし、お客さんからの信頼にも繋がります。
Facebookのグループ(法曹同士が法律の解釈論等を気軽に相談できる場所)や同業者のメーリングリスト(Kben-net)などで質問をすることで自分では気づかないことに気がつくこともあります。
2 勉強を継続すること
弁護士にとっての武器は「知識」「知恵」です。実務は常に変化し続けています。最新の情報に触れてブラッシュアップしていくことは弁護士業務を安定して続けていくために不可欠です。
「その時々に調べれば良い」というのは一面の真実ですが、ざっくりとでも頭に入っていないとそもそも問題点に気がつかない、ということがあります。日弁連のeラーニングなど無料で活用できる教材もありますので、積極的に活用していくべきだと思います。
私の場合は、講演を聴くのが苦手ですが、法律雑誌を月20冊弱購読しており、目次だけは見るようにしています。
3 得意分野を見つけること
弁護士の業務範囲は幅広いです。色々な事件に取り組んでいると、その中で自分自身がわりと取り組みやすい分野というものが見えてくると思います。それが見つかれば、その分野を伸ばしていくべきです。弁護士の「専門性」はこれからますます問われていくことになると思います。
私の場合、独立した当初に顧客が3人しかおらず、しかも全て法テラスでした。仕事がないので当番弁護の担当日を交代してもらい、国選弁護に取り組むなかで刑事弁護はわりと取り組みやすいことに気がつきました。
そこで今は刑事弁護、特に在宅事件に力を入れています。警察官しか買えない部内用の書籍なども手に入れて、そのことをホームページでもアピールしています。
4 同業者との関わりを深めること
委員会活動でもSNSでもよいので、同業者とのつながりはあった方が良いです。独りよがりになるのを防げますし、仕事にもつながることがあります。
第4 若手弁護士の心構え(営業編)
1 弁護士業界の3つの変化
(1) 司法改革による弁護士の激増(弁護士白書 2019年版)
2005年時点では2万人程度でしたが、4万人以上に増加しました。しかし、事件数は増えていません。
(2) 日本弁護士連合会報酬等基準の廃止
平成16年4月1日。
報酬が自由に決定できるようになりました。
(3) 弁護士広告の解禁(平成12年以降)
広告が原則自由化されました。
2 旧来のビジネスモデルは維持できない
30年程前の街弁の鉄板戦略は次の通りでした。
【どんな事件でも、正当な事件であれば、値段に関わらず引き受けて全力を尽くす】
弁護士へのアクセスがほぼクチコミに限られていた時代は合理的戦略でした。「あの先生であればなんとかしてくれる」ということで多くの客が集まり、その中で利益率の高い事件も来るという仕組みです。
例えば、
①少年事件で、手弁当で頑張った、
②少年の知人が交通事故で重度後遺障害になり弁護士を探していた。
③少年からの紹介で②の依頼か来る。
といったこともありえました。
今は②の時点で、知人がスマホで探した事務所に流れてしまいます。この傾向は今後ますます強くなると思われます。
3 地方零細街弁事務所の苦境
近時、残念ながら弁護士の非弁提携や、横領事件の報道が多く見られるようになりました。その中には「人権派弁護士」として名高い方たちもいらっしゃいます。私は、その背景には上記の弁護士業界の変化があると考えています。
地方の零細街弁事務所の場合、かつては、弁護士が少なく、通信技術も発達していないので、この地域で弁護士に頼むならこの人しかいない、という状況がありました。法律扶助制度も未発達でしたので、弁護士は地域の信頼を得るために、困っている人の事件は断らず、「赤ひげ」のように金持ちからは多くのお金をもらい、中間層からは標準料金、貧しい人からは報酬を減額、あるいは取らないといった形で経営していました。富裕層の30万円と貧しい人の30万円は意味が全然違うので、これはこれでバランスが取れていました。
しかし、司法改革により広告が解禁され、新人弁護士が増員され、通信技術が発達したことにより状況が変わりました。
都市部の大規模街弁事務所としては、広告を出して全国から富裕層、中間層、そして依頼者の資力に関わらず確実な回収が見込める交通事故等の依頼を吸い上げることが可能になりました。さらに、大規模化された事務所の広告、知的資産の積み重ね、大規模化自体による信用の向上で、担当者が新人弁護士でも受任につなげることができるようになりました。その結果、都市部の大規模街弁事務所は拡大を続けています。
この流れは顧客から見たら当たり前のことです。顧客としては少しでも自分にとって有利な解決を望んでいるのですから、「専門」や「大手」に頼めば有利な解決ができるのではないか、なんでも引き受けている弁護士は専門としていえる技量がないのではないか、等を考えて、広告費を出していることを考慮しても、リスク回避のために都心部の大手に頼むというのは当然の心理です。
実際、技術を磨かない街弁も多くいました。零細街弁事務所の経営者としては、大規模事務所の新人弁護士に頼むより、もっと適切な仕事をする真面目な弁護士はたくさんいるのに…という思いもありますが、「依頼者は、目の前の弁護士が信頼できる『先生』なのか、『詐欺師』なのかわからないのだから、広報せずに信頼してもらおうというのが間違い」なので、仕方ないことです。大手であるということは、それ自体で「安心感」を与えているということも見逃せないポイントです。
一方、地方の零細事務所は、貧困層の依頼(法テラスでしか頼めない)のみ地元に残されることになり、それをいくらこなしても「あそこはお金がなくても頼める」ということで知られるだけになり、昔のように信頼が積み重なることで単価の高い事件が来るということが少なくなってきました。じわじわとゆでガエル状態になっているということです。最初は技術もなく、営業(広報)もできない人が淘汰されるだけでしたが、今はそれができている人も淘汰されつつある状況です。
4 若手弁護士はいかなる戦略をとっているか
① ネット広告展開
インターネット広告で一見客を集客するという手法です。
(メリット)
効率的な集客が可能です。
(デメリット)
広告費がかかります。競争が激しいです。
② 法テラス受任
法テラス利用可能であることをアピールして集客する手法です。
(メリット)
事件には困りません。
(デメリット)
単価が安いです。法テラスに価格決定権を握られます。
③経営者団体への加入
商工会議所や中小企業家同友会、青年会議所などに加入して顔見知りになることで事件を受任するという手法です。
(メリット)
経営の安定につながる企業顧問を獲得できる可能性があります。大型案件が来る可能性があります。
(デメリット)
会社経営者との関係維持の努力が必要です。競争も激しいです。
④元依頼者からの事件紹介
依頼者に「他に困っている人がいたら紹介してください」とお願いしておくことで、別の顧客を紹介してもらう手法です。
(メリット)
最初から信頼関係がある程度できています。
(デメリット)
紹介してくれる顧客層ができるまで時間が必要になります。
⑤弁護士・他士業との関係強化
弁護士会の会務に積極的に参加したり、社労士会に社労士として登録したりする等をして、他士業から顧客を紹介してもらう手法です。
(メリット)
経営者団体への加入と同様のメリットがあります。他士業との連携による事件処理が可能となります。
(デメリット)
専門性を強化して特色を出すことに加えて、他士業との関係を維持する必要があります。
それぞれの弁護士が、個性に応じて①~⑤を組み合わせているのが実態でしょう。事務所規模を拡大することで、信用性を高める手法をとる弁護士もいます。
独立しても食べていくことはそう難しいことではないです。独立当初は利用しようと怪しい依頼を持ち込んでくる人がいますが、断りましょう。新規案件の獲得より、悪縁を作らないことが大事です。
4 私の戦略
① ネット広告展開
インターネット広告で刑事弁護の案件を受任しています。意識していることは「特色」を出すことです。多数の弁護士がいるなかで、「この弁護士に依頼したい」と思わせられるかどうか。消費者目線でホームページを作っています。ニューウェーブと呼ばれる大規模事務所のホームページは立派です。そこに対抗できるのは「特色」しかないと考えています。ただ、近時は飽和状態になってきて、ここからの依頼は減少しています。昨年は1件のみでしたので、より発信を強化して、「刑事弁護」の専門性を打ち出すことにしています。
② 法テラス受任
私自身は6年前に契約解除しました。負担のわりに収益にならないことと、事件が容易に来ることが逆に頼ってしまう危険を生むと判断したためです。
③ 経営者団体への加入
福岡県中小企業家同友会中央支部に加入しています。月7000円の会費で、それなりに紹介での依頼がきます。もっとも私は例会への参加率が低いので、そう多くはないです。会務に参加すると、多くの事件が来るようです。
④ 元依頼者からの事件紹介
忘れた頃に電話があります。収益の柱ではないですが、重要な収入源になっています。
⑤ 弁護士・他士業との関係強化
Facebookで同業者との交流を活発にしています。私の場合、年間400万円以上の書籍を購入し、電子化しています。会ったことがない同業者から紹介で仕事がくることもあります。現状、収益の柱になっています。
第5 新人ゼミの意義について(新人ゼミレジュメより転載)
私は、新人ゼミの意義は、中堅弁護士のノウハウや経験を新人に伝え、交流することで、新人が挫折しないように支えることだと考えています。より具体的に述べますと、こういうことになります。
良く、弁護士は経験年数が大事だと言われますが、それは次のような理由からだろうと考えています。
① 法制度に対する知識が蓄積される
② 言語化されていない対人対応のスキル(お客さんや、交渉相手のどこが押すポイントかを態度などから読み取り、働きかける能力)
③ 十分に法制度化されていない業界の慣習に対する知識を習得できる(慣習を理解していないと制度の活用に難がでるだけでなく、「仲間」として信頼されない=相手に信用されないので相手を動かせない)
④ 頼りあえる人間関係(相手の人格に対する信頼に基づく互恵的関係)が構築される。
逆にいえば、これらは年数だけ経過しても身につくものではありません。これらの積み重ねが、実際に面談したお客さんに評価されることにつながります(ホームページなどでの集客については別論です)。
そして、①は属人性がないですが、②は属人性が高く、かつ、どのような人を相手として選択するかにより身につけるべきものは変わってきます。③は属人性が低く、どの分野を主力分野として選択するかにより変わります。④は属人性が高く、生き方そのものが問われる、のだと理解しています。一方、弁護士の能力としてはこれに限ったものではなく、⑤営業力(潜在顧客の望むものを読み取り、それがあることを示す能力)、⑥純粋な体力、⑦事務処理能力があります。特に、⑥は新人が一番強い部分です。
新人ゼミの意義は、これらの能力を伸ばしていくためにどうすべきか、ということについて、中堅弁護士がそれぞれの考え方を説明することだと思っています。わたしの考えとしては、第一に、「取り返しのつかない失敗をしないこと」を意識した上で、
①勉強すること、調査すること、よりよい仕事を追求すること。
②お客さんや相手方、他の弁護士の話を受容的に良く聞くこと、いろいろな本(漫画や映画がお勧めだけど、自分が心地よいのが一番)を読み感情の機微に触れること。
③自分の活動分野の業界内の人間と交流していくこと、真摯に対応していると色々な人が色々と教えてくれます(裁判官、検察官、警察官に教えてもらえることもある)。
④信頼できる人間と積極的につながり、信頼できない人間とは距離を置いていくこと。信頼できるかできないかについては、周囲の人を見て判断するという方法もありますが、付き合ってみて「嫌な感じ」を受ける人からは速やかに離れることが大事です。
⑤様々な人と会うこと、それぞれの営業スタイルを見て自分が真似できそうなことを取り入れること、トライアンドエラーを繰り返すこと
⑥栄養のある食事、十分な睡眠、運動、が大事です。
⑦事務処理と一言でいってもそれぞれ得意・不得意があります。例えば、大量の証拠から関係ありそうな情報を集めてまとめるのが得意とか、細かい数字を分析するのが得意だとか、仕事を通じて得意分野を発見し、その能力を磨いていくことが大事です。
成功者の話の真似で行ける場合もありますが、それは似たタイプであることと、過去と今で業界の構造が変わっていないことが必要です。自分がどういう弁護士になりたいか、そのためにどうすべきかの答えは自分で見つけないといけません。それでは、各論に入っていきます。
第6 弁護士業務に役立つ漫画
私は漫画が大好きで、大量に購入して読んでいます。漫画や小説、映画などの「フィクション」を軽視する方も結構いるのですが、私はこれらに触れることはとても大事だと思っています。「嘘の物語」だからこそ、人間の心理や社会の仕組みについて本質を語れるのです。良い漫画はたくさんあるのですが、今回は特にその中でも新人弁護士に読んで欲しい、という漫画を挙げます。
①七海仁(原作)=月子(漫画)『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』(集英社、既刊13巻)
新宿でメンタルクリニックを開業する精神科医が、多くの人の心を救っていく話です。パニック障害やうつ病、統合失調症や、窃盗症(クレプトマニア)、PTSD、パーソナリティー障害、DV被害者、解離性障害、パワハラ加害者等々……。街弁をしていると関わることが多い人たちの姿や、適切な対応方法が漫画の形でわかりやすく表現されています。日本は精神病に対する忌避感が強く、精神科に通うことができずに、課題を抱えて弁護士のところに来ることがしばしばあります。そういった人は、自分が何に苦しんでいるかが理解できないということもしばしばです。弁護士が知識を身につけておくことは、相談者や依頼者の気持ちを楽にすることにつながるだけでなく、表面化している問題の根っこにある課題を解決することにも繋がります。法曹もメンタルヘルスを損なうことがしばしばある職業ですので、自分自身の振り返りにも役立つでしょう。関連して、松本耳子 (著), 岡田尊司 (読み手)『マンガでわかる 愛着障害~自分を知り、幸せになるためのレッスン~』もお勧めします。
https://grandjump.shueisha.co.jp/manga/shrink.html
②宮口幸治(著)=佐々木昭后(漫画)『マンガでわかる 境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社、全5巻)
発達障害や知的障害とは診断されないものの、グレーゾーンとされる子どもたちの支援について漫画仕立てで解説した本です。子どものことで悩んでいるご家庭は多いですし、依頼者が抱える課題の背景を辿っていくと、依頼者自身の「特性」が原因となっているということも多くあります。また、自分自身の「特性」を見つめ直すことにもつながります。たとえば、「人の話が聞き取れない」「他人の表情が読めない」「他人の感情が理解できない」「自分の感情が理解できない」……。それぞれの人には特性があります。その特性を活きて「長所」となるか、特性のために苦しんで「短所」になるかは環境次第です。
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594085759
③名越康文監修『まんがでわかる 隣のサイコパス』
世の中には、他人の苦痛が一切自分の苦痛にならず、かつ、言語や挙動で他人の心理を操作することに長けている人たちがいます。認知的共感性は高いけれども、情動的共感性が低い、という人たちです。弁護士の中にも結構いるようで、いわゆる「サイコパス」と呼ばれます。そういったボス弁のところに運悪く就職してしまうと、散々に痛めつけられることになります(弁護士法人甲野法律事務所事件・横浜地川崎支判令和3年4月27日労働判例1280号57頁)。また、相談者・依頼者として出会うことがあります。事前知識がないと、彼ら・彼女らの「泣き落とし」や「脅迫」に振り回されて、弁護士が苦しむことになります。漫画ではないですが、岡田裕子『難しい依頼者と出会った法律家に-パーソナリティー障害への理解と支援-』もお勧めです。
https://www.kanzen.jp/book/b351462.html
④中川瑛(原作)・龍たまこ(漫画)『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』
街弁業務において必ず取り組むことになるのが離婚事件です。本書は、無自覚にモラハラをする男性が、自分自身が何故モラハラをするのかに気付いて、立ち直っていく姿を、四コマ漫画の形式で描いています。モラハラ被害者側で受任する場合も、加害者側で受任する場合も、参考になる文献だと思います。漫画では『モラハラ夫』にしていますが、もちろん『モラハラ妻』もたくさんいます。おそらくは同じくらいいるでしょう。弁護士が知識を持っておくことは大事だと思います。原作者の『孤独になることば、人と生きることば』もお勧めします。
https://www.lettuceclub.net/news/article/1189788/
⑤ユヴァル・ノア・ハラリ(原案・脚本)『漫画 サピエンス全史』(河出書房新社)
ベストセラーの漫画化です。法律を含めた社会の制度や、倫理・道徳といった概念が「虚構」であり、人間が「虚構」を信じて共有することにより文明を築き上げたことがストーリー仕立てで描かれています。内容に批判はありますが、私たちが取り組む「法律」「正義」「人権」などが人間によって作り出された「虚構」であることは事実です。自分自身を含めて、俯瞰的に物事を見るために良い本だと思います。
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309293011/
第7 おわりに
「弁護士は、何十年たっても一兵卒として戦場に立たなければならない」
これは私の師匠である春山九州男先生の言葉です。新人であれ、10年目であれ、40年目であれ、みな同じ土俵にいます。それぞれの個性を活かして、自分なりの弁護士像を作っていってください。
初心を忘れず、誠実に、状況にあわせて努力を続けていく人は、苦しい時でも周囲が助けてくれます。わからないこと、困ったこと、気軽に周囲に相談していきましょう。私もしょっちゅう周囲に相談しています。一人で抱え込むのが一番良くないです。皆さんのご活躍をお祈りします。
以上