防犯カメラ映像の収集や再現実験不存在等の不備を指摘して犯人性を否定したバイクとの接触転倒による自動車運転致死事例(福岡地判令4.1.26)
2024年01月24日刑事弁護
警察公論に毎年付属する付録『警察実務重要裁判例』は、警察官目線での重要な裁判例(未公刊裁判例を含む)を紹介・解説してあり大変参考になります。令和5年度では、防犯カメラ捜査に関して興味深い指摘がありましたので紹介します。捜査機関に提出する意見書でも援用できるでしょう。
防犯カメラ映像の収集や再現実験不存在等の不備を指摘して犯人性を否定したバイクとの接触転倒による自動車運転致死事例
福岡地判令4.1.26
LEX/DB (文献番号) 25571 963
警察公論2023年12月号付録『警察実務重要裁判例令和5年版』147頁
【近時、裁判所は客観証拠を中心に事実を認定する傾向にある。本件は、この客観証拠の収集の過程で、①防犯カメラ映像をモニタ越しに写真撮影しただけで、映像データの証拠化を怠ったこと、②本件車両を本件防犯カメラで撮影した場合にどのような映像になるかの再現実験を怠ったことが、被告人の犯人性の立証に失敗した主要な原因となっている。
防犯カメラ映像については、これを写真撮影するだけでなく映像データを証拠化すべき旨は、各都道府県書においても夙に注意喚起がなされているものと思われるが、各捜査員においては、本件を、防犯カメラ映像を証拠化することの重要性に関する他山の石とすべきであろう。
また、防犯カメラには、それぞれの特性がある上、現場や天候の状況によっては、実際とは異なる思わぬ色がモニタ上で再現されることも少なからずある。本件のように、犯人性が争われている事案においては、実際に被告人車両がどのように写るのかを当該防犯カメラによって再現することは必須の捜査事項であったといえるであろう。】
ホーム > 月刊誌 > 警察公論2023年12月号(第78巻第12号)
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3885
防犯カメラと犯人性については、これらの論文も参考になります。
①路上で発生した強制わいせつ事案において防犯カメラ映像を精査するなどして犯人性を認定した事案
仙波 周太郎 捜査研究 72 (7), 33-42, 2023-07
②実務刑事 判例評釈(case 331)福岡高判令4.3.29 防犯カメラに撮影された犯人映像と被告人との異同識別に関する顔貌鑑定の証拠能力を認め、その鑑定等に基づいて被告人の犯人性を認めた事例
木村 誠宏 Keisatsu koron 78 (3), 81-95, 2023-03
③防犯カメラと刑事手続
法学教室 (507) 10-16, 2022-12④防犯カメラ映像内の鏡への映り込みや医師の意見を基に被疑者を追及して犯行態様を明らかにした傷害致死事件 : 実例捜査セミナー
澤内 美直 捜査研究 71 (10), 51-59, 2022-10
⑤検証刑事裁判(第5回)防犯カメラ映像の画像鑑定の証拠評価の在り方
田岡 直博 刑事弁護 (101) 104-109, 2020
⑥防犯カメラ画像が証拠となる犯罪事実の認定について
守下 実 警察学論集 / 警察大学校 編 71 (4), 20-49, 2018-04
⑦実例捜査セミナー Since 1988 犯人性が問題となった強盗致傷事件において,防犯カメラ映像を効果的に立証に用いるなどした事例
石井 崇史 捜査研究 65 (8), 92-102, 2016-08
⑧船戸宏之・福間匠「画像鑑定が関連する事案のうち、顔貌など人の同一性が問題となるものを巡る刑事実務上の諸問題」
判例タイムズ1513号(2023年12月号)37頁