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薬院法律事務所

企業法務

弁護士業務を通じてみる、サイコパスについての雑感(刑事弁護、一般民事)


2024年02月15日労働事件(企業法務)

弁護士業務をしていると、サイコパスではないかという人たちを見かけます。

 

サイコパスとは、「あえて」ざっくりと表現すると、情動的共感性の機能不全のため、他人が苦しんでも一切自身の心が痛まない人たちのことです。一見「魅力的」であり、相手にあわせて「理想的な人物」に擬態する才能と、相手をいくら凌辱しても心が痛まないという特性を持ちます。その「魅力」に引き込まれて徹底的に搾取される人が後を絶ちませんので、私はこの記事を作成しました。サイコパスの「心理」は、「普通の人」が想像できない心理ですので、知識としてよくよく知っておかないといけません。サイコパスの「特性」そのものはマイナスではなく、冷静な判断力、行動力の高さ、立ち直りの早さを活かして周囲を喜ばせる存在になることもあるのですが…残念ながらこれに加虐趣味などが加わると大悪人になります。

 

サイコパスの特徴ですが、「他者に対して魅力的な人間であるように振る舞う」パターンも多いですが、必ずしもそうではなく「みじめで哀れな存在」に擬態することもあります(寄生型サイコパス)。要するに「相手をコントロール」するために最適な手法を選んでいるのです。人口の1~4%ほどいると言われていますが、普段は「擬態」していますのでサイコパスとはわからず、ごく身近な人の心と行動を操り、「道具」として使い倒していることがあります。良く、フィクションではクールで冷静なキャラクターが「サイコパス」として描かれることがありますが…実際は「人情のある人」に擬態していることが多いと思います。その方が現代社会で生きていくには好都合だからでしょう。一見すると、「頼りがいのある人」に見えたり、「優しい人」に見えたり、「正義感がある人」に見えたり、「かわいそうな人」に見えたりするので、その擬態により「優しい(情動的共感性の高い)」人を騙して取り込んで、「認知的不協和の解消」や「一貫性の原則」、「認知バイアス」など様々な人間の心理の仕組みを利用して、自分に逆らえないように…いや、むしろ自発的に奉仕をするように仕向けます。

 

末尾の『図解 サイコパスの話』の監修者名越康文氏は、サイコパスが他人を巧みにコントロールするのは、「人間を冷たく観察すること」で学んだものであり、サイコパスにとって人間は観察対象であり、ある意味、自分とは異なった種類の生物と見ているのだろうと述べています(68-69頁)。私もそうだろうと考えています。自分以外の人間を「おもちゃ」としてしか見られない特性があるので、発覚しない場面や、罰が与えられない場面ではどれだけ残酷なことでも平気でできます。罪悪感が存在しないので、「反省」もしませんし、落ち込むこともありません。自分自身の苦痛にも鈍感なのです。ただ、自分にとって有利になると思えば、「反省したふり」、「落ち込んだふり」をすることは良くあります。すべてが「擬態」です。

 

相手がサイコパスか否かを見抜くのは難しく、きちんと調べるなら最低1年以上、できれば数年は必要といわれます(『図解 サイコパスの話』33頁)。ただ、そうやって迷っているうちに抜き差しならない関係に引きずり込まれてしまう危険があるので、サイコパスの特性や、人を搾取する手口について学んでおくことはすべての人にとって重要なことです。サイコパスでなくても同じような手口を使う人たちもいます(自己愛性パーソナリティー障害等)。『図解 サイコパスの話』は、サイコパスの種類や、特性、特徴的な行動、対処法についてわかりやすく説明した名著です。すべての方にお勧めできます。

 

私が考える見分けるポイントは「ことば」ではなくて、「実際の行動」のみを証拠に基づいて確認することです。サイコパスは「嘘」を多用することから、客観的な証拠と付き合わせて行動を確かめていくとその「嘘」が見抜けることがあります。

 

このサイコパスと思われる人たちですが、刑事事件で出会うこともありますが、民事事件の方がむしろ多いです。何故なら、彼ら・彼女らは心理操作が巧みなので、自分自身が「犯罪者」とされることを回避する能力も巧みだからです。これにより、人知れず苦しんでいて、しかも苦しんでいることを言い出せない人たちは多くいると思っています特に、若くてまだ認知的共感性が発達しておらず、生まれ持っての素質である情動的共感性が高い人(優しい人)が餌食とされることが多いです。非常に嫌な話なのですが、サイコパスはそういう方を集中的に狙います。サイコパスは、冷徹に、相手が「どういう表情」をしたらどう反応するか、「どういう言葉」をいえばどう反応するかを観察して、自分の言動を操作して相手を動かします。情動的共感性の高い人は、社会の中で傷つくことが多いので、そういう方に「理想的な他者」に擬態することで近づき、搾取するのです。一般的に、年齢を重ねるほど心理操作は熟練していきますので、「優しい人」あるいは「(生育環境が抑圧的だったために)嫌といえない」年下の相手を狙うパターンも多いと思います。

 

サイコパスと関わってしまったことに気が付いた場合にどうすべきかですが、「一刻も早く関係を断つ」ことが最善の解決策です。サイコパスの場合は何を言っても無駄というより、話せば話すほどマイナスです。彼ら・彼女らが改心することはなく、こちらの態度を冷徹に「観察」して、どうすればより効果的に「支配」できるかしか考えていません。心がすり減らされますし、人生の時間を無駄にして、他の人との交流のチャンスを失い、男性不信(女性不信)を植え付けられるなどの被害に遭います。相手にされないといずれ諦めます。彼ら・彼女らが唯一恐れることは「相手にされなくなる」ことですので。「良心をもたない人たち」「良心をもたない人たちへの対処法」という書籍に詳細で実践的な対処法が書かれていますので、参考にされてください。

 

最後に大事なことですので強調いたしますが、サイコパスについては、学術的にはロバート・ヘア氏の作成したチェックリストがありますし、グレーゾーンもありますので、安易に実在の人物を「サイコパス」と認定することは厳に慎まないといけません。侮辱罪や名誉毀損罪が成立するリスクもあります。もっとも、この記事はサイコパスについて厳密な定義をすることが目的ではなく、「そのような【人間】が実在している」ことを一般の方に注意喚起することが目的ですのでご理解ください。その存在を知らないと「想像」することすらできないからです。

 

サイコパスについての学術的な説明は、末尾の参考記事をご覧下さい。

 

【参考記事】

中谷陽二「サイコパシー再考-CleckleyとHare-」アディクションと家族2007年8月号(24巻2号)「パーソナリティ障害」117-122頁
119頁
【注意すべき点は、次に紹介するHareのとらえ方と異なり、Cleckleyではサイコパシーが凶悪犯罪と直結されていないことである。もちろん反社会行動を懲りずに繰り返すことがサイコパスの本性であるが、それはdistressつまり迷惑行為と言うべきものである。著名な凶悪犯罪者をプロトタイプにしたHareのサイコパスのイメージとは落差がある。Cleckleyはあくまで病院臨床を起点にして、サイコパスを前にした治療者の体験から発想する。これはサイコパスの治療論にも反映されている。初期には適切な隔離施設を用いた治療に期待を向けていた。しかし最終的には、自分は楽観的でありたいが、精神医学はこれらの破壊的な人びとを根本から治癒させる方法を見出せないと述べ、彼らを適切な法律の統制下に置くことを提案する。このようなところに臨床医としての苦渋が表れている。】
岡田裕子『難しい依頼者と出会った法律家に-パーソナリティー障害への理解と支援-』(日本加除出版,2018年2月)
107頁
【「反省を促す」ということについては, R男のような反社会性パーソナリティ障害の人に対して,精神面での治療を行い,正常な良心や罪悪感を持たせ,反社会的行動を思いとどまるようにさせることは,非常に困難だと言われています。ただし, ある種の条件下での長期的な治療によって,改善の余地はあるとは言われています。たとえば, 反社会性パーソナリティ障害の人は,反社会的な行動によってストレスフルな気持ちを発散させてしまい,気持ちを内省することができないので,精神科的な治療としては,入院させてきつく行動を制限し, ストレスがあっても行動に移せないようにします。そうすることで,ようやくストレスを感じ, 自分の内面を見つめる作業ができることになると言われています(Gabbard, 1994)。
これは精神科の治療としては, 費用も人員もかかり,実行するのは現実的にかなり困難なものです。それくらい, 反社会性パーソナリティ障害の人の内面を本質的に変えていくことは難しいことなのです。】
108-109頁
【反社会性パーソナリティ障害の人は, とても口達者です。ごまかすための咄嵯の嘘がうまく,言い逃れがうまいので, つい編されてしまうということが起こります。咄嵯に作ったストーリーとはいえ,真偽がないまぜで,全体として信ぴょう性が高いように聞こえるのです。反社会性パーソナリティ障害の人が嘘をつくことに良心の呵責を感じないために,平然と嘘をつく態度には疑いを差しはさみにくいものです。】

https://www.kajo.co.jp/c/book/06/0605/40708000001

記事紹介【事例から学ぶ:#027 精神病質の不正実行者を見分ける】(犯罪被害者)

 

【参考文献】

冒頭の2冊の書籍は名著ですので、強くお勧めいたします。中学生でも読めますので一家に一冊、自衛のために購入すべきです。とりわけ、「対処法」が具体的に記載されている点が特徴です。

名越康文監修『図解 サイコパスの話 あなたの近くにも存在する! 身近な人や世間に潜む「裏の人格」を読み解く!』

https://www.nihonbungeisha.co.jp/book/b333158.html

原田隆之 『サイコパスの真実』

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480071378/

私たちの身近にいる人格障害、「マイルド・サイコパス」

https://www.dr-mizutani.jp/dr_blog/psychopath/

サイコパスは性に奔放?遺伝子の影響は?進化心理学で考える反社会的人格

https://yomitai.jp/series/shinka/03-komatsu/

『良心をもたない人たち』――身近に潜む“サイコパス”にご注意を

https://ddnavi.com/review/407603/a/

※学術的な説明はこれらの記事をご参照ください。特に①の講演が参考になります。

 

①2022 年度第 1 回心理学部学術講演会

現在のサイコパス研究の到達点
-感情理解の特性と脳画像研究-
三重大学教育学部教授・三重大学教育学部附属小学校校長
松浦 直己

https://www.psy.kobegakuin.ac.jp/~kgjpsy/5_2/pdf/01_202303.pdf

【共感性と罪悪感 および協力行動

• 通常の社会的感情を持つ人は苦しんでいる人を見ると、自分も苦しい
• 自分のせいで人が苦しんでいるのを見ると、その苦しみはさらに大きい
• よって、苦しんでいる人を見ると助けたくなる(社会心理学では、協力行動・援助行動)
• 助けることにより、その人の苦しみが軽減されるだけでなく、自分の苦しみも緩和される。
• 進化論的には、このような社会的感情は、人間社会の社会的絆を進化させてきた(社会的行動)。

共感性と罪悪感

• つまり、共感性と罪悪感は極めて近い感情である。
• これらは、人間の向社会的行動の基盤となっている
• サイコパスはこれらの社会的感情が欠落しているか、もしくは十分なレベルに達していない。
• そこには、進化論的にみて、神経学的な障害があるのではないかと推測されてきた。
• 現在では、その神経学的メカニズムも解明されてきている】

 

②Japanese Psychological Review2019, Vol. 62, No. 1, 39–50

米田英嗣 ・間野陽子 ・板倉昭二

「こころの多様な現象としての共感性」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/62/1/62_39/_pdf/-char/ja

【3.2 共感の病理と反社会的行動
本節では,サイコパスの特性とその診断について議論をする。サイコパスの犯罪者は,被害者を誘い出す際には魅力的で打ち解けた態度を見せることがあり,高い認知的共感力を示す。一方で,犠牲者に暴行を加えるときは無感覚になり,情動的共感の欠如を示す(Keysers & Gazzola, 2014)。
つまり,サイコパスを持つ人は,他者を認知的に理解することには長けているが,他者の痛みを自分の痛みとして感じる能力が劣っているのである(Bloom, 2016)。
サイコパスは,共感に対する障害というよりも,情動の鈍磨といったほうが適切である可能性がある(Prinz, 2011)。したがって,共感の病理と考えるよりも,情動的共感の機能不全が主たる症状で,その結果として,素行症(素行障害)や反社会性パーソナリティ障害が引き起こされると考えるほうが妥当であるかもしれない。素行症とは,他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式で,人および動物に対する攻撃性,所有物の破壊,虚偽性や窃盗,重大な規則違反などに基づいて診断される(DSM-5; AmericanPsychiatric Association, 2013)。反社会性パーソナリティ障害とは,18 歳以上にならないと診断がつけられない,他人の権利を無視し侵害する広範な様式で, 15歳以降,社会的規範への不適合,虚偽性,衝動性,いらだたしさおよび攻撃性,自分または他人の安全を考えない無謀さ,一貫した無責任さ,良心の呵責の欠如などによって診断される(DSM-5; American Psychiatric Association, 2013)。
高い認知的共感を持つサイコパスといった特性自体は,障害ではない。認知的共感は,社会生活を円滑にする重要なツールとして機能する場面は多い(de Waal, 2009)。また,認知的共感は,悪に対する抑止力ともなりうるだろう(BaronCohen, 2011)。しかしながら,その有効なツールをいかに使用するのか,他者の幸福のために用いるのか,他者から幸福を奪うために用いるのか,その使用方法が問題である。CU 特性を持つ児童に対する共感性および道徳の教育を行うことは,非常に重要な課題であると言える(Salekin & Lynam, 2010)。】

 

③サイコパスはためらわない?−−嘘つきの脳のメカニズム(update.2019.09.26)

https://www.thats.pr.kyoto-u.ac.jp/2019/09/26/8535/

【−−−収監中の受刑者のMRIを撮るって……すごい実験ですね。ところで、「サイコパス」という言葉自体はよく聞くんですけど、その定義を教えていただけますか?
「サイコパスは大きな枠組みとしては『反社会性パーソナリティ障害』に位置づけられています。『反社会性』という言葉の通り、暴力をふるったりルールを守らなかったりといった特徴が見られるんですね。
そしてそのなかには、良心や罪悪感、共感性が欠如していたり、冷酷であったりといった、いわゆる感情の問題をもつ人たちがいる。こうした特徴に該当すると『サイコパス』と呼ばれます」

−−−サイコパスって、生まれつきのものなんですか?
「先天的な要素、つまり遺伝的要因は大きいだろうといわれています。ただし後天的な要素、つまり、周囲の環境からの影響を否定するものではありません。脳の中では『扁桃体』という、感情の処理にかかわる領域が不具合を起こしているという説が主流ですね。
サイコパスの人は感情の部分が鈍くなっているため、誰かを泣かせたり、怒られたりしてもあまり気にならないようです。特に、罰に対する感受性が鈍い。そのせいで、道徳的な価値観などを形成できないまま育つと考えられています」】

 

④Web医事新報 No.4758 (2015年07月04日発行) P.68

福井裕輝 「精神病質者(サイコパス)とは」

https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=3772

【サイコパス研究から見えてきたことは,彼らの病理の中核に情動障害があるということです。つまり,共感性の欠如などがあるために,その結果として様々な問題行動を引き起こすのです。】

 

⑤サイコパスは性に奔放?遺伝子の影響は?進化心理学で考える反社会的人格

https://yomitai.jp/series/shinka/03-komatsu/

【サイコパスには、良心や共感性の欠如に加えて、恐怖心の欠如という特徴があります。サイコパスというと、冷酷な利己主義者で、自分の利益のためならば平気で他人を傷つけるというイメージがあります。こうした性質は共感性の欠如と関係しています。その一方で、恐怖心の欠如は、大胆さや行動力につながります。それが悪い方向に現われると犯罪者になります。処罰されることに対する恐怖心がないためです。逆に大きな社会的成功につながることもあります。失敗を恐れずに挑戦を繰り返すためです。

世間一般のイメージそのままに犯罪者になる人と逆に社会的成功をおさめる人、同じサイコパスでもどこが違うのでしょう? 経営者、医師、弁護士などにサイコパスが少なからず含まれていると言われています。このような成功するサイコパスは自分の行動を適切にコントロールする調整能力が高いと考えられます。他者と良好な関係を築くことが自分の利益になる状況においては、共感性や良心からではなく、損得勘定の結果として、表面上好意的に振る舞うことは合理的です。調整能力の高いサイコパスにはそれができます。】

 

ハラスメント加害者が、被害者の「被害の自覚」を抑圧する手法について(「傍観者」の作成)

文献紹介 草柳和之「効果的なDV被害者支援のために : 被害者ファーストを探求する」家庭の法と裁判46号(2023年10月号)

いわゆる「性的同意」と「不同意わいせつ・性交」の関係について(犯罪被害者)

性加害者の心理についての考察(不同意性交・不同意わいせつ・独身偽装)

悪質な刑事弁護人が駆使する心理操作テクニック紹介(犯罪被害者)

 

※2025/3/25 ChatGPT4.5で検証してもらいました。

了解しました。「弁護士業務を通じてみる、サイコパスについての一考察」という記事において述べられている法律事務所の体験談や分析が、犯罪心理学の研究や学術的知見と整合しているかどうかを詳しく検証します。

記事内で取り上げられているサイコパスの特徴、行動傾向、実務での出会いの記述などが、犯罪心理学における標準的な理論(たとえばヘアのPCL-RやDSMの診断基準、実証研究など)とどのように一致・不一致しているかに注目します。

調査結果がまとまり次第、お知らせします。

はじめに

福岡の薬院法律事務所による記事「弁護士業務を通じてみる、サイコパスについての雑感」では、筆者(弁護士)が実務経験から感じた「サイコパスと思われる人物」の特徴や行動について述べ、一般の読者に注意喚起をしています。本レポートでは、その記事に挙げられたサイコパスの特徴やエピソードが、犯罪心理学の理論・研究(ロバート・ヘアのPCL-R〔サイコパシー・チェックリスト〕やDSM-5の反社会性パーソナリティ障害、最新のサイコパス研究など)とどの程度一致しているか専門的に検証します。以下、(1) 記事で述べられたサイコパスの特徴と学術的定義との一致、(2) 法律実務でのエピソードの妥当性(犯罪心理学的視点から)、(3) 記事中に誤解やステレオタイプ・過度な一般化がないか――これらの観点ごとに整理して評価します。

1. サイコパスの特徴: 記事の記述 vs. 犯罪心理学の知見

記事はサイコパスを「情動的共感性の機能不全」により「他人が苦しんでも一切心が痛まない人」と定義し、表面的な魅力他者への擬態(理想的人物や哀れな被害者を装う)能力、そして他者を平然と搾取・凌辱できる冷酷さを強調しています。これらの特徴は、おおむね現代の犯罪心理学で定義されるサイコパス(精神病質者)の中核的特性と合致しています。以下、主要な特性ごとに照らし合わせます。

  • 良心の欠如・共感性の欠如: 記事の定義通り、他者への罪悪感や思いやりの欠如はサイコパスの最も典型的な特徴です。ヘアのPCL-Rでも「良心の呵責の欠如」「冷淡で共感性の欠如」といった項目が核心に据えられています (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb)。DSM-5の反社会性パーソナリティ障害(ASPD)においても「他者を傷つけても罪悪感がない」「良心の欠如」が特徴的とされています (Antisocial personality disorder – Wikipedia)。記事中で筆者は「他人が苦しんでも心が痛まない」「罪悪感が存在しないので反省もしない」と述べていますが、これは研究上も裏付けられたサイコパスの情緒的欠落です (Psychopathic Personality)。実際、脳画像研究からもサイコパスは共感や良心に関わる脳部位の機能低下が示唆されており、前頭前野腹内側部(vmPFC:共感・罪悪感に関与)と扁桃体(恐怖・不安に関与)の結びつきが弱いことが報告されています (Psychopaths’ Brains Show Differences in Structure and Function – School of Medicine and Public Health)。こうした神経学的証拠も、「他者の痛みに心が動かない」サイコパス像を支持しています。
  • 表面的魅力・巧みな操作性: 記事では、サイコパスは一見「魅力的」で相手に合わせて理想的な人物を演じることができ、あるいは場合によっては「みじめで哀れな存在」(被害者を装う「寄生型サイコパス」)として振る舞い、人を引き込むと指摘されています。この表面的な魅力(※いわゆる“うわべだけの魅力”)と人たらしの上手さは、古典的なサイコパス像と一致します。ヘアのPCL-Rでも第一因子に「饒舌で表面的な魅力」「人を操るための狡猾さ」が含まれます (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb)。Cleckleyの『仮面の舞踏会(The Mask of Sanity)』以来、サイコパスは一見普通どころか魅力的に見える人格であると強調されてきました。研究者ロバート・ヘアも「サイコパスは社会的捕食者であり、魅力や操作を駆使して他人を容赦なく利用する」と述べています (Psychopathic Personality)。記事が述べるように、サイコパスは相手を支配するためならどんな役柄でも演じ分けることができます。実際の研究でも、「彼らは他者の表情や感情反応を読む認知的共感能力(いわば“冷たい共感”)は持ち合わせており、それを悪用してあたかも共感しているかのように装える」ことが確認されています (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree) (Psychopathic Personality)。記事中の「冷徹に相手の表情と言葉を観察し、自分の言動を操作して相手を動かす」という描写 は、この科学的知見と完全に合致します。つまりサイコパスは他人の心を理解する知性は持ちながら、良心や情のブレーキがないためにそれを純粋に操作・搾取の目的に使うのです (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。
  • 虚偽と欺瞞の常習性: 記事には「サイコパスは嘘を多用する」「客観的な証拠と突き合わせて行動を確認するとその嘘が見抜けることがある」とあります。他者を操るため平然と嘘をつくこともサイコパスの代表的特徴です。研究的にも病的虚言はPCL-Rの評価項目の一つであり (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb)、ASPDの診断基準にも「繰り返し嘘をついたり他人を騙したりすること(欺瞞性)」が含まれます。岡田裕子氏の専門書でも「反社会性パーソナリティ障害の人はとても口達者で、とっさに作った嘘でも真実とない交ぜにすることで全体としてもっともらしく聞こえてしまう」「嘘をつくことに良心の呵責を感じないため平然と嘘をつく態度には疑いを差し挟みにくい」と解説されています (弁護士業務を通じてみる、サイコパスについての雑感(刑事弁護、一般民事) | 薬院法律事務所)。記事で指摘されているように、サイコパスの発言を額面通り信じてしまうと欺かれやすいため、言葉でなく客観的な行動証拠を見るべきというのは合理的な助言です (弁護士業務を通じてみる、サイコパスについての雑感(刑事弁護、一般民事) | 薬院法律事務所)。実際、彼らは他者を騙すことへの罪悪感が乏しく(あるいは皆無で) (Psychopathic Personality)、巧妙に嘘と真実を織り交ぜて取り繕う傾向があるため、外部から見抜くには時間と注意を要します。
  • 冷酷さ・攻撃性と感情の浅薄さ: 記事では「発覚しない場面や罰が与えられない場面では、どれだけ残酷なことでも平気でできる」「自分自身の苦痛にも鈍感」と記されています。これはサイコパスの良心の欠如による冷酷さと、恐怖心・痛みの鈍麻を示すものです。科学的知見でも、サイコパスは他者の苦痛に対する共感や罪悪感が欠如しているだけでなく、しばしば恐怖や不安といった感情反応も減弱していることが知られています (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree) (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。例えば、サイコパスは驚愕反射や条件付けられた恐怖反応が弱い(いわゆる「低恐怖仮説」)との古典的研究報告も多数あり、これは罰を避ける抑制が効きにくいことにつながります (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。記事が触れている「自身の痛みに鈍感」という点も、共感性の欠如からくる感情全般の浅さを示唆しており、実際「サイコパスは通常の人より不安や恐怖を感じにくく、結果として非常に落ち着いて自信ありげに見える」と報告されています (Psychopathic Personality) (Psychopathic Personality)。ただし「加虐趣味などが加わると大悪人になる」との記事の記述からもわかるように、全てのサイコパスが残虐行為そのものを好む(サディスト傾向が強い)わけではありません。しかし相手の苦痛に良心のブレーキがかからないため、利得や快楽のためなら平然と暴力や犯罪に及ぶ素地があります (Psychopathic Personality) (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。記事内でも「冷徹に観察してより効果的に支配することしか考えていない」と指摘されている通り、彼らの攻撃性は感情的憎悪というより支配欲求や利己的欲求の産物と考えられます 。この点は「他者を『おもちゃ』としか見られない」という表現にも現れており、実際に専門家も「サイコパスは他人を物のように扱い、その苦しみに対する共感がない」ため他人を単なる目的達成の道具として使うと説明しています (Psychopathic Personality)。総じて、記事で描写された冷酷さや感情の浅薄さは研究上の知見と整合的です。
  • 衝動性や責任感の欠如: 記事では主にサイコパスの計算高い一面に焦点が当てられていますが、学術的には慢性的な衝動性無責任さもサイコパス(ASPD)の特徴です (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb) (Antisocial personality disorder – Wikipedia)。PCL-R第二因子には「衝動的」「行動の抑制ができない」「無責任」「若年期の問題行動」といった項目が含まれ、DSM-5でも「衝動性」「向こう見ずで攻撃的」といった行動面の異常が挙げられます (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb) (Antisocial personality disorder – Wikipedia)。記事中には衝動性について直接の言及はありませんが、「年齢を重ねるほど心理操作は熟練していく」とあり 、若年時には浅はかな攻撃や問題行動もあったものが、年齢とともにより洗練された隠蔽的手口になる可能性を示唆しています。この点は興味深い観察です。一般にサイコパスの犯罪的行動(特に暴力犯罪や逮捕されるような行動)は20代でピークに達し中年以降減少する傾向(いわゆる“バーンアウト”)が指摘されていますが (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb)、一方で根本的な共感欠如や操作傾向は年齢とともに消えないため、むしろ経験によって巧妙さが増すことは十分ありえます(This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。記事の記述はこの「加齢による表面化しにくい巧妙化」に着目しており、衝動性が見えにくいサイコパス(いわゆる“成熟した成功裡のサイコパス”)に関する観点として妥当です。したがって、記事が衝動性に触れていない点は強調の違いであって、誤りではありません。
  • 有能さと社会適応: 記事では「サイコパスの特性そのものはマイナスではなく、冷静な判断力・行動力の高さ・立ち直りの早さを活かして周囲を喜ばせる存在になることもあるが…残念ながら(加虐性があると)大悪人になる」と述べられています。これはサイコパス像の一側面として興味深い指摘です。実際、サイコパス的特性(恐怖心の低さや大胆さ、自己中心的な決断力)は、犯罪以外の分野では一見有利に働く場合もあります。現代の研究では、サイコパス特性を大胆さ(boldness)邪悪さ(meanness)衝動的脱抑制(disinhibition)の3要素に分ける理論(トリアーキックモデル)が提唱されており、そのうち大胆さはリーダーシップなどに寄与しうる側面もあります (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today)。もっとも「周囲を喜ばせる存在になる」と言えるケースは限定的であり、多くの場合は自己中心性や共感欠如が原因で人間関係を破綻させます。ただ、記事のこの指摘は**「全てのサイコパスが常に反社会的行動をとるわけではない」ことを示唆しており、これは研究的にも正しい観点です。実際、近年注目されている“成功したサイコパス”**(犯罪者にはならず社会的地位を得ているサイコパス)の存在は、この「特性そのものは社会適応に利用しうる」という考え方と符合します (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today)。たとえば、高い知性と冷静さを持つサイコパスは企業経営や政治などで表面上成功し、法に触れない巧妙な手段で自己利益を追求することがあります(後述)。記事はそうした「表向き有能で魅力的だが裏で他人を搾取する人物」が実在することを読者に知らせることを目的としており、この点は科学的知見やケース報告とも整合しています。
  • 有病率・人口割合: 記事では「人口の1~4%ほどいると言われている」と記載されています。学術的な推定によれば、サイコパスに該当する人(PCL-Rで30点以上を示す成人)は一般人口の約1%前後とされています (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb)。例えば米国では約1%、英国では約2%との報告があります (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb)。記事の「~4%」という数字は若干高めですが、これはおそらく「マイルド・サイコパス」などサイコパス傾向を持つグレーゾーンの人々まで含めた広い概念での推定値でしょう(実際、心理学者マーサ・スタウトは一般人口の約4%が良心を持たない社会的捕食者であると述べています (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb))。したがって1~4%という範囲自体は、定義の幅によっては大きく外れてはいません。また記事でも触れられている通り、サイコパスにはグレーゾーンが存在し、明確な線引きは難しいとされます。DSM-5では反社会性パーソナリティ障害の診断基準を満たさないまでも共感性の欠如や自己中心性を持つ人物が存在し、これをサブクリニカル(臨床域に満たない)サイコパスとも呼びます (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today)。記事は安易なレッテル貼りを戒めつつも「身近にもそうした人格が存在する」ことを知らせるというバランスを取っており、この立場は妥当と言えます。

以上のように、記事に挙げられたサイコパスの主要な特徴(共感欠如・罪悪感の欠如、表面的魅力と偽装、嘘と操作性、冷酷さと情動の浅さなど)はロバート・ヘアのPCL-RやDSMの定義とほぼ完全に一致しています。加えて、記事は「一見善人を装う」「グレーゾーンがある」「高機能で社会に潜む場合がある」といった点にも触れており、これは現代のサイコパス研究の到達点(例えば「全てが映画の殺人鬼のような極端例ではなく、実社会で成功しているケースにも目を向ける必要」 (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today))を踏まえた記述と言えます。筆者は自身でも複数の専門書や論文、講演資料を参照しており(記事末尾に豊富な参考文献が列挙されています、記事内容は単なる印象論ではなく科学的知見に裏付けられたものと評価できます。

2. 法律実務におけるエピソードの妥当性(犯罪心理学からの分析)

記事後半では、筆者が法律実務で関わった“サイコパスと思われる人たち”のエピソードや対処法が紹介されています。主なポイントごとに、それが犯罪心理学的に見て妥当か検証します。

  • 刑事事件より民事事件で遭遇しやすい: 筆者は「サイコパスと思われる人たち」に刑事事件(加害者)として出会うこともあるが、「むしろ民事事件の方が多い」と述べています。その理由として「彼ら・彼女らは心理操作が巧みなので、自分自身が『犯罪者』とされることを回避する能力も巧みだから」と分析しています。これは非常にもっともな指摘です。実際、全てのサイコパスが重大犯罪者になるわけではなく、その多くは巧妙に法をかいくぐりつつ他人を搾取する傾向があります (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today) (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。研究においても、犯罪者として検挙されるサイコパスは氷山の一角に過ぎず、社会には**“捕まらないサイコパス”が存在するとされています。例えば、ヘアとバビアクの著書『Snakes in Suits』(職場のサイコパス)では、企業内で権力や利益のために他者を踏みにじりつつもコンプライアンスの隙を突いて責任を逃れる企業犯罪型・ホワイトカラー型のサイコパスが描かれています (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。また、「成功裡のサイコパス」の研究でも、高い知能と社会スキルを持つサイコパスは表立っては違法行為をせず社会的地位を築く場合があると示唆されています (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today)。記事の筆者は実務上、そのような「法には触れないギリギリの搾取」で他人を苦しめる人物に数多く接してきたのでしょう。法律相談には、詐欺まがいの金銭トラブルや、巧妙なハラスメント、家庭内虐待(DV)やストーカー、人間関係のもつれ等、刑事事件化しづらいが深刻な被害を伴うケースも多く含まれます。サイコパスは往々にして自らは違法ギリギリのラインを守りつつ、他人に違法行為を代わりにさせたり(教唆や共犯として利用)、法の盲点を突いて被害者を追い詰めたり**します。したがって、「民事事件の方が多い」という筆者の感覚は妥当であり、犯罪心理学の知見とも一致します。
  • 被害者となる人の傾向: 記事では、サイコパスの標的にされるのは「若くて認知的共感性が未発達で、生まれつき情動的共感性が高い人(優しい人)」が多いと述べられています。要するに、お人好しで他人を疑わず、NOと言えないタイプが狙われやすいということです。これは臨床的な実感として非常に納得できますし、多くの専門家も指摘するところです。サイコパスは他人の共感や情に付け込むため、情が深く共感能力が高い人ほど格好の餌食になる傾向があります。実証研究として「どのような人がサイコパス被害者になりやすいか」を直接示すデータは限定的ですが、被害者支援の文献や臨床報告からは一貫して「共依存的・献身的な性格の人」「自尊心が低く相手に尽くそうとする人」が巧妙な加害者(サイコパスやナルシシスト)の標的にされやすいとされています。また記事でも言及されているように、人間心理の“認知的不協和”や“一貫性の原則”(一度信じた相手を疑いたくない心理)を利用されると、真面目で素直な人ほど深みにハマりやすいことがわかっています。サイコパスは最初は理想的な恋人・友人・雇用者を装って相手を惹きつけ、その後で徐々に本性を現しつつも、「この人がそんな酷いことをするはずがない」と被害者が信じ込んでしまうよう巧みに誘導します。これはいわゆるガスライティング(心理操作による現実否認)やマインドコントロールの手口とも共通します。記事の「情動的共感性の高い人は社会の中で傷つくことが多いので、そういう人に『理想的な他者』に擬態して近づき、搾取する」という記述は、まさに臨床現場で報告される被害パターンそのものです。例えば家庭内DVの加害者が最初は優しく依存させておいて徐々に支配するケースや、詐欺師が相手の同情心を引いてお金を引き出すケースなどが典型でしょう。総合すると、**「優しい人ほど危ない」という筆者の警告は経験的にも理に適っています。唯一付け加えるなら、サイコパスは必要とあらば誰をも標的にし得るため、必ずしも若年者や善良な人だけが被害に遭うわけではありません。しかし「抵抗・反撃しにくい相手を選ぶ」**のは彼らの本能であり、一般的に見て純粋で人を疑わない人が付け込まれやすいのは事実です。
  • 心理操作の手口とその分析: 記事が紹介する実務エピソードから浮かぶサイコパスの手口は、「冷徹な観察による巧みな演技・洗脳」「周囲への責任転嫁」「被害者を孤立させる」といったものです 。これらは犯罪心理学的にも典型的な操作型サイコパスの手口です。サイコパスは被害者に罪悪感を抱かせたり、錯覚を起こさせたりして支配力を強めます。記事にあるように、善良な被害者を取り込み「認知的不協和の解消」や「一貫性の原則」といった心理を利用することで抜け出せなくする戦略は、社会心理学の理論とも整合します。例えば一度加害者を信用して多くを奉仕してしまった被害者は、「自分がそこまで尽くしたのは相手が特別な存在だからだ」と思い込もうとし、相手の矛盾した行動を正当化してしまう(認知的不協和の解消)ことがあります。またサイコパスは被害者の周囲に対してもうまく立ち回り、自分を善人に見せ被害者を「おかしい人」だと思わせる策略(いわゆるスミアキャンペーン=中傷キャンペーン)を張ることもあります。法律実務でも、モラルハラスメント加害者が周囲には善人を装い、被害者だけを密かに追い詰めるケースがあり、被害者の訴えが理解されにくいことが問題になります。記事には直接書かれていませんが、「苦しんでいることを言い出せない人たちが多くいる」という筆者の言葉から、そうした被害者の孤立状況もうかがえます。さらにサイコパスは「自分が悪者にならないよう予防線を張る」能力にも長けており、法的責任を回避するための記録操作や嘘の根回しも得意です。このように、記事の描写する手口は実証研究で明らかになっているサイコパスの典型的行動パターン(平然と嘘をつき責任逃れする、人間関係を操作する、他人を物のように扱う (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)等)と矛盾せず、むしろ具体例として説得力があります。
  • 「関係を断つ」対処法の妥当性: 筆者は、サイコパスと関わってしまった場合の最善策は「一刻も早く関係を断つ」ことであり、「話せば話すほどマイナス」「彼らが唯一恐れるのは相手にされなくなること」と述べています。この助言は、被害者支援の観点からきわめて的確です。多くの専門家が、良心や共感を持たない人格者と対峙した場合、説得や更生を期待するのではなく物理的・心理的距離を置くことを勧めています  (Psychopathic Personality)。実際の研究でも、成人のサイコパスを治療によって改心させることは非常に困難で、むしろ治療を行うと術策を学習して余計に巧妙になる恐れさえ指摘されています (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。ある有名な研究では、暴力的サイコパスの受刑者に集中的なカウンセリングを施したところ、施さなかった群よりも出所後の再犯率が高まったという結果も報告されています (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。これは記事の表現通り「改心することはなく、治療さえ“演技の学校”としか思っていない」ことの裏付けとも言えます (This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。したがって、被害者側ができる最も建設的な行動は**関係性を断つ(No Contact)ことであり、相手に付け入る隙を与えないことです。筆者の言う「話せば話すほどマイナス」というのも、サイコパスにとって会話や謝罪要求は時間稼ぎや嘘のチャンスでしかなく、被害者の情を逆手に取る材料になるからです。特に親密な関係(恋人・配偶者・家族など)であった場合、情に訴えたり改心を装ったりする「ホーバリング(巻き戻し)」**が典型的に起こるため、情に流されず毅然と断つことが重要だと被害者支援の文献でも強調されています。記事では「相手にされないといずれ諦める。彼ら・彼女らが唯一恐れることは『相手にされなくなる』こと」と表現されていますが、これは「関心を引けなくなるとターゲットから手を引く」という意味であり、多くのケースで当てはまります。実際、サイコパスは人をもてあそぶことに飽きたり利益がなくなると、執着を失って別の標的を探す傾向があります。ただし留意すべきは、稀に執拗に粘着・報復するタイプも存在するため、安全確保は大前提です。しかし一般論として、被害者ができる最善の対策は距離を置くことであり、筆者の助言は被害者心理教育で広く推奨されている内容(例えば「良心をもたない人たち」やマーサ・スタウト『隣のサイコパス』などにおける第一のルール「逃げるが勝ち」)と一致します。法的にも、ストーカーやDV被害では接近禁止命令など「物理的距離を置く措置」が有効策として取られます。さらに記事は「良心をもたない人たちへの対処法」という書籍にも言及し参考に勧めていますが、これら実用書でも概ね同様のアドバイスがなされています。

以上より、記事に書かれた法律実務上のエピソードや経験則は、犯罪心理学的な分析と照らして極めて妥当だと言えます。筆者の観察(「民事に潜むサイコパス」「善良な若者が餌食に」「巧みな心理操作と自己正当化」「関係を絶つ重要性」など)は、いずれも専門家の知見や被害者の実態報告と合致しています。特に筆者が強調する「表面化しにくいサイコパス被害」の存在は重要なポイントで、これは法的にはグレーでも心理的・道義的には深刻な加害を行う人々です。犯罪心理学でも近年、このようなサブクリニカルな加害者への関心が高まっており (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today)、記事はそのリアルな実例を伝えていると評価できます。

3. 誤解やステレオタイプ、過度な一般化の有無

最後に、記事内容に科学的に見て誤解を招く表現やステレオタイプ、偏った一般化がないか検討します。その結果、大きな誤りや偏見は見当たらず、むしろ一般に流布する誤解を正す方向の内容でしたが、いくつか補足すべき点を挙げます。

  • フィクション上のステレオタイプを排除: 記事は「フィクションではクールで冷静なキャラクターがサイコパスとして描かれることがあるが、実際は人情のある人に擬態していることが多い」と述べ、世間の誤解を正しています。これは重要な指摘で、一般には「サイコパス=連続殺人鬼や狂気の犯罪者」といった極端なイメージが先行しがちですが、筆者は身近に潜む偽りの善人こそ注意すべきと強調しています。実際の研究者も「映画に出てくるような攻撃的で冷酷な人物というステレオタイプは誇張されており、現実のサイコパス研究はもっと地味である」と述べています (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today)。記事はこの点を踏まえており、サイコパス像を sensasional に描くのではなく実態に即して説明している点で評価できます。
  • 「サイコパス=精神病」との誤解回避: 記事では「サイコパス」と「精神病(サイコシス、いわゆる統合失調症などの精神障害)」を混同するような表現はなく、的確に人格特性として論じられています。用語の上でも、日本語ではサイコパス=精神病質者ですが、記事では文脈上その意味が明確であり、誤解は生じにくいでしょう。世間では「サイコパス」という言葉がしばしば誤用されますが、記事はむしろ専門的定義に沿っており、DSM-5やヘアのチェックリストといった診断基準にも言及して区別しています。
  • レッテル貼りへの慎重さ: 筆者は最後に「安易に実在の人物を『サイコパス』と認定することは厳に慎むべき」と注意喚起しています。この姿勢は科学的にも倫理的にも正当です。サイコパスの診断(評価)は専門家がPCL-Rなどを用いて総合的に行うもので、素人判断で他者にレッテルを貼るのは危険です (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb)。記事はそのリスク(侮辱罪・名誉毀損罪になり得る)にも触れており、一般向け啓発の記事として適切な注意が払われています。これにより、「嫌な人=すぐサイコパス呼ばわりする」という短絡的な一般化を避けるよう促しており、むしろ読者の誤解を防ぐ内容になっています。
  • 過度な一般化について: 記事内容を精査すると、特定の点でやや断定的・一般化的に聞こえる表現はありますが、文脈上大きな問題には至りません。たとえば「彼らが唯一恐れることは相手にされなくなること」という表現は、文字通り受け取れば「サイコパスはそれ以外何も恐れない」と読めます。しかし筆者の意図するところは「無視されることはサイコパスにとって打撃であり、それが有効な対処策だ」という意味合いでしょう。実際にはサイコパスにも個体差があり、法的処罰や肉体的危険を全く恐れないわけではありません(ただし恐怖心が薄いのは確かです (Psychopathic Personality))。「唯一恐れる」という表現は強調的ですが、被害者へのアドバイス文脈では「それほど無視が効果的」という趣旨と理解できます。従ってこれは過度な単純化というより、インパクトを持たせた表現上の工夫であり、大きな誤解には繋がらないでしょう。
  • 衝動型・低機能型サイコパスへの言及不足: 前述の通り、記事は主に巧妙で隠れ蓑を着たサイコパス像にフォーカスしています。結果として、典型的な犯罪者タイプ(粗暴で衝動的なタイプ)のサイコパス像はあまり強調されていません。しかし記事中でも「刑事事件で出会うこともある」と触れており、凶悪犯罪との関連自体は否定していません。むしろ引用文献(CleckleyとHareの捉え方の差異の解説 から、暴力犯罪に及ぶサイコパスとそうでないサイコパスがいることを示唆しています。したがって、低機能で衝動的な層への直接の言及が薄い点は、記事の焦点の問題であって誤りではありません。読者への注意喚起という目的上、「身近に潜む見抜きにくいサイコパス」に絞ったのは理解できます。ただ補足するなら、サイコパスには様々な亜型があり、計算高いタイプだけでなく激情型・寄生型など分類も提唱されていることを念頭に置くとよいでしょう (サイコパスにもタイプがある~寄生型サイコパス … – ラブすぽ)。記事でも「寄生型サイコパス」という言葉を用いて一類型に触れていますが、学術的には**一次型(生得的・冷淡で計画的)二次型(環境要因・衝動的で情緒不安定)**といった区分も議論されています。この点の詳細な説明は記事の範囲を超えるため省略されていますが、とくに不自然ではありません。
  • その他の潜在的誤解: 記事は全般に科学的エビデンスに忠実であり、明確な誤情報は見当たりません。用語の使い方も適切で、「反社会性パーソナリティ障害(ASPD)」と「サイコパス特性」の関係についても混同せず示唆しています 。唯一読者が誤解しうるとすれば、「1~4%もサイコパスがいるのか?そんなに多いのか?」という点かもしれません。この点は先述したように定義次第ですが、記事中でも「普段は擬態しているので分からない」とあり、潜在的には存在しているという文脈です。専門家の中には「サイコパスという言葉を乱用すると全人口の数%が皆サイコパスのような誤解を生む」と懸念する向きもあります。しかし筆者は一般の方に注意喚起するという目的であえて広めの数字を示した可能性があり、文脈上大きな問題ではありません。むしろ「それだけ身近にも潜み得る」という警鐘として機能しています。また記事は参考文献リストで読者に更なる学術情報源を提示しており、読者が誤解しないよう配慮されています。これらの点から、記事には顕著な誤解やステレオタイプの助長はなく、概ね正確でバランスの取れた内容と評価できます。

結論

薬院法律事務所のブログ記事「弁護士業務を通じてみる、サイコパスについての雑感」は、弁護士としての実務経験に基づきサイコパスと思われる人物の特徴と対処法を解説したものですが、その内容は犯罪心理学の理論や実証研究と高い整合性を持つことが確認できました。記事で描かれたサイコパスの人格的特徴(情動的共感の欠如、罪悪感の欠如、表面的な魅力、巧みな嘘と操作、冷酷さなど)は、ロバート・ヘアのPCL-Rで定義される精神病質者の典型的特徴と一致し、DSM-5の反社会性パーソナリティ障害の診断基準や最新の研究知見(共感に関する脳機能の異常など)によっても支持されています (神戸学院大学心理学研究第5巻第2号.indb) (Psychopaths’ Brains Show Differences in Structure and Function – School of Medicine and Public Health)。また、筆者が紹介する法律実務でのエピソード(刑事より民事で目立つこと、善良な人が狙われること、心理操作の具体的手口、関係を断つことの重要性など)も、サイコパスの典型的な行動パターンおよび被害者学の知見と矛盾しません(This Is How To Deal With Psychopaths And Toxic People: 5 Proven Secrets – Barking Up The Wrong Tree)。むしろ、日常社会で巧妙に振る舞うサイコパスに焦点を当てて注意喚起する点は、現代の「成功するサイコパス」研究の動向とも合致しています (Why Some Psychopaths Succeed | Psychology Today)。

特筆すべきは、記事が一般的な誤解を積極的に訂正しようとしている姿勢です。フィクションにありがちな「極悪非道の怪物」像ではなく、一見魅力的で普通に見える人物の裏に潜む異常性を説き、さらに「安易な決めつけは避けよ」と読者に注意することで、レッテル貼りやステレオタイプな偏見を助長しないよう配慮しています。このように、本記事は実務経験談でありながら内容は科学的知見に裏打ちされており、社会啓発的にも意義のあるものです。細部では表現上の誇張や一般化も見られますが、全体として事実とかけ離れた記述は無く、妥当性・信頼性は高いと言えます。

総合すると、筆者の観察・考察は犯罪心理学の理論とほぼ整合しており, 法律実務家の視点から具体例を示しつつ学術的知見をわかりやすく噛み砕いた内容でした。読者はこの記事をきっかけにサイコパスについて正しい知識を持ち、注意深く対人関係を見直すことができるでしょう。科学的裏付けのある警鐘として、本記事は十分に価値があり、その評価は高いと結論づけられます。

参考文献(本文中で引用した主な出典):