被害届を取下げてもらい、捜査を打ち切って欲しいという相談(刑事弁護)
2024年08月26日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む40代の独身男性です。先日、マッチングアプリで知り合った30代の女性とお酒を飲んで、路上で少し強引に迫ってしまいました。相手を抱き寄せて、少し様子を見てキスしました。相手は抵抗しなかったので同意していると思ったのですが、その後はあまり盛り上がる感じでなく終わりました。その後、LINEがブロックされてしまい、2週間後に警察から連絡が来ました。不同意わいせつ罪と言われて困っているのですが、示談をすることで被害届を取下げて、なかったことにしてもらえないかと思っています。ただ、地元の弁護士さんに相談したら「被害届の取下げ」という制度はないと言われています。そういうものなのでしょうか。
A、正式には「被害届の取下げ」という制度はありません。ただ、実務的には被害届を取下げるという意思表示をすることで、捜査が打ち切られることもあります。ご相談の事例では、仮に示談が成立しなかった場合には嫌疑不十分不起訴(故意の欠如)を狙う必要もある事案だと思います。近時の性犯罪に関する捜査実務、裁判実務に詳しい弁護人を選ぶ必要があるでしょう。
【解説】
時折、「被害届の取下げ交渉をお願いしたい」といった相談があります。ですが、告訴と違って「取下げ」という制度は実はありません。基本的には、処罰を求めない意思表示をしてもらうことで、不起訴を狙ったり、刑罰の軽減を求めるということになります。ただ、被害者が「被害届を撤回したい」という意思表示をすることで、事実上捜査が打ち切られることはあるようです。
【参考文献】
地域実務研究会『地域警察官のための被害届・実況見分調書作成の手引き 第二版』(立花書房,2014年6月)2頁
【被害届は、犯罪捜査規範に基づく様式であり、同規範第61条2項には、届出が口頭によるものであるときは、被害届に記入を求め、又は警察官が代書するものとすると規定されているように、本来、被害者等が作成して提出する書類であるが、警察官が代書することができるものである。そして、被害届は、犯罪捜査の端緒となることはもとより、余罪捜査や盗品等捜査に活用されたり、犯罪統計上の基礎資料ともなるほか、捜査幹部や事件の送致を受けた検察官が、事件内容を端的に把握するための資料としても活用され、さらに、公判では、犯罪を特定する上での証拠となるなど、極めて重要な役割を果たしている捜査書類である。】
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/1112
※犯罪捜査規範
https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50400000002
(被害届の受理)
第61条
警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。
田村正博「警察の個人保護型捜査の課題」
警察政策 第21巻(2019年)77-96頁
83頁
【捜査による被害者の不利益は、考慮するべき事由であると広く警察官に認識されているとは言えない16)が、少なくとも県警察本部の担当部署のレベルでは、児童虐待事案の場合には明確な考慮要素として認識されている。個人被害事件で被害届が一般に求められる理由の一端はここにある(被害者の意思によって被害者への不利益の可能性の問題が解消される。)との評価も可能であると思われる(被害届の撤回があった場合の捜査打ち切りも、実質的に不利益に対する評価の尊重の結果とみることが可能である。)。子どもの被害についての保護者による被害届も、不利益の可能性を受け入れるものとしての意義があるといえる。】
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3724