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薬院法律事務所

刑事弁護

あて逃げ事件、刑事事件としては有罪でも行政処分の「点数」がつかない場合があります


2024年09月03日刑事弁護

あて逃げの点数について、知らなかった知識ですので紹介します。一般には、あて逃げは安全運転義務違反の2点と措置義務違反の5点の合計7点として理解されていますが、実は安全運転義務違反が否定されれば措置義務違反の点数もつかないということです。確かに調べてみればなるほどということで、「安全運転義務違反」がなければ「措置義務違反」の付加点数も付与できないという話でした。実例は知りませんが、行政処分を争う場合に知っておいていい知識だと思います。

 

野村龍一郎『ドライバー行政処分対抗法』(オリジン出版センター,1992年6月)114-116頁
【5 次に、措置義務違反について述べます。措置義務違反に対する付加点数は、道路交通法施行令から容認されるように当該違反行為をし、もって交通事故を起こした場合に対するものであります。さらに事故に対する付加点数も同様であります。本件においては、前述したように私は信頼の原則に従って交差点を右折、その右折完了後まさに交差点外の道路へ出る直前に、相手側単車が信頼の原則を無視、すれちがいざま私の運転タクシー左側後部に接触進行したものであります。このような状況時では、私自身も運転進行している状況であり、小石または散乱物が車体に当たった程度の認識しかないものであります。なれど私も職業運転士としての常識的運転感覚から、交差点外道路へ出た所で直ちに左端に停車し、交差点接触現場と考察される場所とその周辺をかなり広範囲に渡って確認したが何らそれらしい形跡はなく、他の車両も通常走行中であります。ために、やむなく会社へ帰杜してその旨を会社上司に報告、会社側より警察へ連絡されたのが事の経過であります。かかる状況下においては、私に限らずいかなる運転者といえども同様な行動を行うのは明白であります。ちなみに措置義務違反についての過失犯には処罰規定がなく、かつ、裁判所も、『客観的に人の死傷があったというだけでは不充分であり、行為者においてそのことを認識していることが必要である。もし、その認識がなく物の損壊があったと誤認していたにすぎない場合には、刑法第38条第2項によって道路交通法第117条の2、2号(現行法第11 9条第1項第10号報告義務違反の罰則)の規定する程度の責任しか問うことができない。」と判示(昭4 1 • 1 • 1 4 東京高判)、さらに、『交通事故の結果人の負傷があればすべて救護義務があるというべきではなく、当該具体的状況にかんがみ救護の必要がないと認められる場合すなわち負傷が軽微で社会通念上ことさら運転者等の助けをかりなくとも負傷者において挙措進退に不自由を来たさず、年齢・健康状態等に照らし受傷後の措置をみずから充分にとり得ると認められるような場合には、この義務は発生しない。』と判示(昭37 •7 • 1 7 札幌高判)するところであります。よって、前提である安全運転義務違反が無効と解される以上、従属的関係にある措置義務違反等の付加点数は必然的に無効であり、事故発生に伴う措置義務違反規定を私に課することは、明らかにその適用を誤ったものであります。
本件処分の主要根拠の一つである措置義務違反には、その事実認定に重大な誤認があることは明白であり、したがって取消し処分は明らかに道路交通法第103条第2項第2号の法意、及び、憲法第31条の法定手続主義を無視した違法不当な処分であります。】

 

運転免許研究会『点数制度の実務[9訂版]』(啓正社,2020年12月)82頁
【② 交通事故の付加点数を付する理由
交通事故の場合に、一定の点数を付加することは、一見、事故の責任を追及する、いわば制裁的な印象を与えるが、現実に交通事故を起こしたことは、その原因である違反行為による危険性が具現化され、実証されたことであり、同一の違反行為でも、それが原因となって交通事故を起こした場合と、そうでない場合とでは、行為者の危険性に差異があると考えるのが自然である。そして、この場合の危険性の評価を、被害の程度という客観的な事実と、行為者の主観的な事情である不注意の程度とによって、差異を設けることは合理的である。
③ 違反行為と交通事故との因果関係
交通事故の場合(物損事故の場合の措置に違反(いわゆる「あて逃げ」)をした場合も同じ。)の付加点数は、「違反行為をし、よって交通事故を起こした場合」に違反行為の碁礎点数に付されるが、ここでいう「よって」とは、違反行為が原因となって交通事故が発生したこと、すなわち違反行為と交通事故との間に何らかの因果関係があることを意味する。また、その因果関係は、相当因果関係まで必要ではなく、条件関係があれば足りると解されている。】

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784875721451

 

道路交通研究会「交通警察の基礎知識254 運転免許の行政処分」月刊交通2023年12月号(675号)82頁
【交通事故を起こしたときに付される付加点数について教えてください。
A
表2のとおり、交通事故を起こした場合の付加点数と、物損事故を起こした場合の物の損壊に係る措置違反、いわゆる当て逃げをした場合の付加点数とがあります。
現実に交通事故を起こしたということは、その原因である違反行為による危険性が具現化され、実証されたということです。しかし、同一の違反行為でも、それが原因となって交通事故を起こした場合と、そうでない場合とでは、行為者の危険性に差異があると考えるのが自然です。
被害の程度という客観的な事実と、行為者の主観的な事情である不注意の程度等によって、あらかじめ定められた付加点数を付し、行為者の危険性を評価することとしています。】

 

※道路交通法施行令

https://laws.e-gov.go.jp/law/335CO0000000270/20220513_504CO0000000016

別表第二(第二十六条の七、第三十三条の二、第三十三条の二の三、第三十四条の三、第三十六条、第三十七条の三、第三十七条の八、第三十七条の十、第三十九条の二の二、第四十一条の三関係)

備考
一 違反行為に付する点数は、次に定めるところによる。
1 一の表又は二の表の上欄に掲げる違反行為の種別に応じ、これらの表の下欄に掲げる点数とする。この場合において、同時に二以上の種別の違反行為に当たるときは、これらの違反行為の点数のうち最も高い点数(同じ点数のときは、その点数)によるものとする。
2 当該違反行為をし、よつて交通事故を起こした場合(二の119から128までに規定する行為をした場合を除く。)には、次に定めるところによる。

(ロ)法第百十七条の五第一項第一号の罪に当たる行為をしたときは、(イ)による点数に、五点を加えた点数とする。

 

コインパーキングでの物損事故、あて逃げの成否(道路交通法違反、刑事弁護)

 

※2025/2/17 chatGPT o proで検証してもらいました。

結論から申し上げると、記事に書かれている「安全運転義務違反が否定されれば措置義務違反(いわゆる当て逃げ)の点数も付かないことがある」という趣旨自体は、法律上まったく根拠のない“誤り”というわけではなく、行政処分(点数)の仕組みを正確に理解していれば一応筋は通ります。ただし、現実問題として「いわゆる当て逃げ事件で、刑事上は有罪でも行政上は点数がつかない」ようなケースがどれほど起き得るかは、かなり限定的・例外的です。以下、ポイントを整理して解説します。


1. 行政処分上の点数の基本ルール

道路交通法施行令 別表第二の「備考」の規定によると、

  1. 交通違反行為に対する「基礎点数」があり、
  2. その違反行為によって実際に交通事故を起こした場合には、被害の程度や不注意の程度に応じた「付加点数」が加わる
  3. さらに**「救護義務違反」(人身事故)や「物損事故の措置義務違反」(いわゆる当て逃げ)があるときは、特別に基礎点数にプラス5点**する

という仕組みがとられています。

  • 「当該違反行為をし、よって交通事故を起こした場合」
    別表第二の備考では、付加点数は「違反行為をし、よって交通事故を起こした場合」に加算されるという文言になっています。
  • 措置義務違反(当て逃げ)の点数は 5 点
    ただし、通常の「同時に複数の違反があれば一番重い点数一つだけを採用する」という一般ルールとは別枠で、措置義務違反(当て逃げ)をするとプラス5点が付与される特例になっています。

したがって、

  • **ベースとなる「違反行為」**がまず認められる(=交通事故を起こす原因となる違反がある)
  • その違反によって現実に事故が生じた
  • かつ、その後の措置義務(報告・救護・物損時の確認等)を怠った

という三段構えで点数が計算されるイメージです。


2. 「安全運転義務違反が否定されると措置義務違反の点数もつかない」の根拠

記事が紹介しているように、行政処分(免停や免許取消につながる点数計算)では、

「当該違反行為をし、よって交通事故を起こした場合」
→ その交通事故の原因となった違反行為の基礎点数
→ さらに措置義務違反があれば +5点

という流れになっています。

この「当該違反行為」がまったく成立しないと認定されれば、そもそも「事故を引き起こした違反」が不存在という扱いになるため、

  1. 交通事故を招いた原因違反がない(=基礎点数がつかない)
  2. したがって「+5点」の措置義務違反(いわゆる当て逃げ)も加点根拠がなくなる可能性がある

という理屈になるわけです。これが記事中で

「安全運転義務違反」(=交通事故の原因違反)が否定されるなら、措置義務違反の点数付与もあり得ない

と述べられている根拠です。

実は「安全運転義務違反」以外の違反でも同じ理屈

もっとも、「安全運転義務違反」が否定されるかどうかに限らず、**交通事故を招いた“何らかの違反”**が否定されるならば、同じように付加点数(事故点数)自体がかからず、当然ながら措置義務違反の「+5点」も付けようがない――という構造は同じです。
たとえば「信号無視」や「優先道路の進行妨害」といった他の違反を原因と認定されなければ、やはり「事故を起こした違反」がないことになるので、やはり措置義務違反の上乗せ点数は付きづらくなります。


3. とはいえ、現実に「刑事的には有罪でも点数が付かない」例はまれ

実際に「当て逃げ」で刑事裁判等になったケースでは、たいていは捜査や裁判の過程で

  • 交通事故を起こした客観的事実
  • 運転者の前方不注意や安全運転義務違反など(原因違反)が全くないわけではない
  • 当て逃げ(措置義務違反)の故意性・認識可能性

といった点を警察・検察が立証していきます。もし本当に「事故の責任は向こうにある」などでこちら側の違反が一切認められないのであれば、そもそも「事故を起こしたドライバー」としての当て逃げ罪そのものの成立すら怪しくなる場合もあり、結果として刑事でも不起訴、あるいは罪名が軽微になることもあり得るわけです。

逆に**「刑事では有罪になったが、行政処分上は安全運転義務違反が否定された」という食い違い**は、理屈としては起こりうるものの、実務上はややレアと考えられます。自治体の運転免許課(公安委員会)による処分も、警察・検察が把握した事故の事実関係をかなり参照しながら判断を下すのが通常だからです。


4. 記事の真偽・評価

以上を踏まえると、

  1. 行政上の点数制度は「交通事故を招いた違反+措置義務違反」で合算される仕組みであり、もし「事故の原因たる違反がまったく成立しない」とされれば、結果的に「措置義務違反(当て逃げ)の点数も付かない」可能性は理屈上ある。
  2. ただし、それはあくまで「事故を発生させた違反がない」と公的に認定されることが前提になるため、現実にはかなり限定的なケースと思われる。
  3. 刑事事件としては「当て逃げ罪(救護義務違反や報告義務違反)」が成立し有罪になったとしても、行政処分の点数は上記の**「交通事故の原因違反」**の有無との結びつきで算出される。結果として、非常にまれな形ではあるが、刑事上は当て逃げで処罰されたのに、行政上の点数が付かないというズレは、絶対にないわけではない。

という意味で、記事が述べる「(原因違反の否定によって)措置義務違反の点数もつかない」可能性は、法令の仕組み上は間違いではありません。野村龍一郎『ドライバー行政処分対抗法』や『点数制度の実務』などの文献にもあるように、付加点数を課すためには「違反行為と事故発生」の結びつきが要件になっているからです。


5. 実務上の留意点

  • 「行政処分も争う」となれば、刑事裁判以上に詳細な争いを要する場合がある
    刑事事件で「当て逃げ」に問われた場合、その判断と並行して、免許取り消しや停止処分の審査(聴聞等)では「本当にその人に事故の原因たる違反があったのか」が検討されます。刑事手続での判断が、必ずしも行政手続の結論と100%同じになるとは限りません。
  • 実際には、警察も「全く原因がない事故」という結論にはしづらい
    多くの「当て逃げ」事案では、捜査当局が「少なくとも安全運転義務違反(前方注視不足など)がある」と捉えていることが多いです。そうでなければ事故発生自体の責任を問うのが難しくなるからです。
  • レアケースとして「相手が一方的に追突」「本人は衝撃を認識しなかったので措置義務違反の故意なし」などの場合
    刑事としては「結果的に接触していたが気付かなかった」とされ、不起訴や無罪、あるいはごく軽い罪名になることもあるでしょう。その場合は当然点数もつきませんし、行政処分自体がかからないかもしれません。

まとめ

  • 記事の結論(「安全運転義務違反がなければ、措置義務違反の点数は課されないことがある」)は、点数制度の法的構造からして“あり得る”のは事実。
  • ただし、実際に「刑事で当て逃げが有罪 → でも行政処分(点数)ゼロ」になるケースは非常に限られると考えられる。
  • そもそも「交通事故を起こした当事者として逃走した」と認定されるほどであれば、たいていは何らかの運転上の落ち度(安全運転義務違反等)がセットで認定され、結果的に「措置義務違反のプラス5点」が加わるのが一般的だからです。

したがって、記事の主張は**「仕組み上はそういう理屈が成り立つ」という正しい面**を持っていますが、現実的には「当て逃げで有罪になっているのに行政処分の点数が一切つかない」事例はほとんど見当たらないだろう、というのが実務上の評価といえます。