黄信号で「安全に停止できない」ことから交差点に進入した場合の刑事責任と過失割合についての相談
2024年09月08日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、自動車を運転していたところ、交差点の直前で対面信号が黄信号であることに気がつきました。もう安全に停止できなかったので交差点に進入したのですが、対向の右折車と衝突しました。保険会社からは「黄信号進入」として過失割合を計算すると言われていますが、腑に落ちません。
A、道路交通法違反(信号無視)が成立しない場合でも、基本的には客観的に黄信号で進入しているのであれば、過失割合は黄信号進入で算定するのが基本です。但し、例外もあります。
【解説】
過失割合の判断にあたっては、基本的には実際の進入時に黄信号だったか赤信号だったかで判断されます。
確かに、道路交通法違反の判断でいえば、運転者が黄信号をいつの時点で認識したかが問題になるので、例えば客観的な意味で黄信号に変化した時点で「ブレーキをかければ安全に停止できた」といった状態であっても、運転者が黄信号変化を認識した時点ではもはや「ブレーキをかければ安全に停止できた」という状態でなければ「信号無視」の道交法違反は成立しないと考えられます(※そもそも見るつもりがなかったのであれば,信号に従うつもりがないということで信号無視になりますが)。
しかし、仮に「信号無視」の道交法違反は成立しなかった場合であっても、「対面信号機の信号表示に留意すべき自動車運転上の注意義務を怠り、青色信号から黄色信号に変わったのを見落とした過失」といったものが存在しえますので、青信号での進入と同様に考えることは出来ません。民事賠償上は黄信号を基準として過失割合を調整していくことになると思います。もっとも、交差点直前で、客観的な意味で黄信号に変化して(その変化を目撃して)、安全に停止することが出来ないために進入した場合は、青信号進入とほぼ同視して判断します(東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版(別冊判例タイムズ38)』(判例タイムズ社,2014年7月)229頁)。
※道路交通法施行令
(信号の意味等)
第二条法第四条第四項に規定する信号機の表示する信号の種類及び意味は、次の表に掲げるとおりとし、同表の下欄に掲げる信号の意味は、それぞれ同表の上欄に掲げる信号を表示する信号機に対面する交通について表示されるものとする。
黄色の灯火
一 歩行者は、道路の横断を始めてはならず、また、道路を横断している歩行者は、すみやかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと。
二 車両及び路面電車(以下この表において「車両等」という。)は、停止位置をこえて進行してはならないこと。ただし、黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く。
https://laws.e-gov.go.jp/law/335CO0000000270
【参考文献】
東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版(別冊判例タイムズ38)』(判例タイムズ社,2014年7月)229頁
【 直進車が黄信号で進入し.右折車が青信号で進入した後.黄信号で右折した場合
② 直進車④の黄信号進入が例外的に許されている場合(令2条1項。黄信号が表示された時において停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合)には,青信号進入と同視して,本基準によらず,【107】による。】
交通事故・事件捜査実務研究会編著『交通事件犯罪事実記載例集』(立花書房,2018年8月)5頁
【記載例5 黄色信号看過
法119条1項2項・1項1号の2、7条、4条1項、令2条1項 10万円以下の罰金
被疑者は,法定の除外事由がないのに、「日時」頃、「場所」先道路において、信号機の表示する信号を確認しこれに従うべき注意義務があるのに、「 」に気をとられその信号を確認しなかった過失により、信号機の表示する黄色の灯火信号を看過して、これに従わないで、普通乗用自動車を運転して進行したものである。】