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薬院法律事務所

企業法務

オフィスビルにおける「扉」の修繕費用は家主負担か、借主負担かという相談


2024年09月10日読書メモ

【相談】

 

Q、私は、ビルの一室を借りて事業をしているものです。最近、扉の開閉が重たくなったので管理会社に確認したところ、ドアヒンジに不具合が生じているということでした。修繕をお願いしたところ、家主から「テナントの専有部分の修理だからテナントが修理費を負担すべき」と言われています。契約書には、テナント内の建具の不具合については借主が負担することとされています。

A、法律の原則として修繕義務を大家に課していますので、それを否定するのであれば明確な定めが必要です。契約書を見なければ判断できませんが、明確な定めがなければテナント側が修理費を負担するものではないでしょう。

 

【解説】

 

民法606条1項は賃貸人の修繕義務を課していますが、これは任意規定ですので特約により免除することが可能です。もっとも、その特約の解釈にあたっては制限的に解釈される傾向があります。本件の場合、扉が「テナント内の建具」といえるかが問題になりますが、テナントが設置したものでないこと、外部と接触する部分であることから、賃貸人が修繕義務を負担することになると考えられます。

 

※民法

(賃貸人による修繕等)
第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_2-Se_7-Ss_2

 

【参考文献】

 

馬場・澤田法律事務所編『弁護士に聞きたい!マンションの紛争Q&A』(中央経済社,2008年6月)156頁

【玄関ドアは,共用部分ですが,錠は専有部分と考えられますので,各区分所有者が自己の費用負担において,自由に交換できると考えられます】

 

渡辺晋『【改訂三版】建物賃貸借-建物賃貸借に関する法律と判例-』(大成出版社,2022年10月)100頁

【第 7項特約の効力の及ぶ範囲
賃借人修繕負担特約の効力の及ぶ範囲が問題になることは少なくない。
東京高判昭和51.9.14は、貸しビルの契約書に「共同部分の設備関係に要する修繕費用は使用坪数により賃借人の負担とする」との特約があった事案だが、地下に設置された排水ポンプの瑕疵による取替等の工事費用は、賃借人負担ではなく、賃貸人が負担すべきであるとされている 。
東京高判昭和59.10.30は、土地、設備一切を含むゴルフ練習場の賃貸借において、「税金(固定資産税を除く)その他経営上必要とする 一切の経贄は Yの負担とする 。ただし、昭和52年11月 1日以降、ネット張替えの必要が生じた場合の経費は XY折半して負担するものとする」、「ゴルフ練習場の大修理をするには事前に Xの許諾を要する」との定めがあったケースである 。 ゴルフ練習場のポ ール (鉄柱)の破損の修繕について、 Yが負担すべきか否かが問題になったけれども、ポール(鉄柱)は構造物そのものであって、その破損についてまで Yに修繕義務があるとするにはよほど明確な約定があることを要する、として、 Yの修繕義務を否定し、 Xが修繕をすべきであると 判断した(ほかに、特約の範囲が問題とされた事例として、名古屋地判平成2.10.19、東京地判平成26.9.22-2014 WLJPCA09228002がある )。】