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薬院法律事務所

窃盗(万引き)

前科なしの万引き事件で、実刑はあり得るのかという相談


2024年09月13日窃盗(万引き)

【相談】

 

Q、私は、転売目的で書店から漫画本を盗んで、フリマアプリで販売していました。今回、お店の人に捕まってしまい、警察から余罪を調べられています。総額で100万円以上になりそうなのですが、実刑になる可能性はあるでしょうか。

A、転売目的は悪質とされますので、金額が高額の場合はありえます。ただ、全部が立件されないことも多いです。

 

【解説】

 

一般論として、万引き事件には段階的な処分がなされています。微罪処分or不起訴→略式請求→執行猶予付判決→実刑判決、というものです。もっとも、万引きといっても色々とあり、組織的な集団窃盗となればもはや「万引き」事件としては扱われませんし、金額が高額といったことがあれば当然いきなり実刑ということもあり得ます。示談が重要になりますので、弁護士の面談相談を受けるべきでしょう。

 

【参考文献】

 

植野聡「刑種の選択と執行猶予に関する諸問題」大阪刑事実務研究会編著『量刑実務大系第4巻 刑の選択・量刑手続』(判例タイムズ社,2011年12月)1-103頁

52頁

【(ア) 財産犯の場合
財産罪の場合には,被害の程度やその回復の状況がかなり中核的な考慮要素になる。財産罪の罪種や態様は千差万別であり,法定刑と損害額が同じでも,類型的な非難可能性は罪名ごとに異なるし,また,例えば,詐欺の場合には窃盗よりそれが高く,恐喝の場合にはより高いと一応はいえるであろうが,反社会性が極めて高い巧妙かつ卑劣な手口の詐欺が,比較的単純な手口の恐喝よりも強く非難されるべき場合などもあるであろうから,定型的な一律の基準を設定することは困難である94)。
一般的指標にはできないという留保を付した上で.あえて具体的な数額を提示するとすればかつて庁内で行われた研究会では,比較的単純な手口の窃盗で,反省心も認められるが,被害回復がされておらず,被害者の宥恕も得られていないような場合を例にとると,未回復の被害額が100万円に近い額に達していれば,初犯でも実刑の選択をかなり現実的に考慮すべきではないかという意見が比較的多く.本研究会の席でも,ある程度有用な目安になるという限度では,特に反対する意見は見られなかった。】

 

【参考裁判例】

■28175046

仙台高等裁判所

平成21年(う)第47号

平成21年06月30日

【事実および理由

 弁護人の控訴趣意は、量刑不当の主張であり、被告人を懲役1年6月に処した原判決の量刑は、執行猶予を付さなかった点において、重過ぎて不当であるというのである。
そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を参酌して検討すると、本件は、被告人が、原審相被告人と共謀の上、平成20年7月17日から同年9月10日までの間に、前後4回にわたり、宮城県角田市所在のホームセンターほか3か所の店舗において、各店の店長がそれぞれ管理するインパクトドライバー等の商品合計14点(販売価格合計41万7200円)を万引きしたという事案である。
被告人らは、平成20年2月ころに無職となり収入がなくなったため、生活費等の金欲しさから、高価で換金できる電動工具等を万引きすることを企て、各犯行に及んだというのであり、安直な経緯や利欲的な動機に酌むべき点はもとよりない。タウンページの記載を参考に携帯電話のナビゲーション機能を使うなどして犯行に及ぶ店舗を選び出し、作業服を着用するなどし、客を装って店舗に入り、監視が厳しいと判断したときは、1人が見張りをし、他の1人が陳列してある電動工具等の商品を店員のすきをうかがって店舗の外に持ち出し、店員の目が厳しくないときは、各人が商品を手に取って店舗の外に持ち出していたものであって、大胆で手慣れた計画的犯行というべきであり、犯行態様は甚だ悪質である。被害金額は、上記のとおりであって、結果も重い。被告人らは、それぞれ万引きの実行行為を担当するなどし、盗み出した電動工具類をリサイクルショップなどで換金し、得た金を山分けして生活費のほかパチンコ等の遊興費などに費消するなど、犯行後の情状も芳しくなく、責任の点においても被告人ら両名の間に特に軽重はない。
被告人は、原審相被告人とともに、遅くとも平成20年5月ころから、東北地方や関東地方に所在するホームセンターで同様の行為を繰り返してきた中で、本件各犯行に及んだというのであり、常習的、職業的な犯行というべきであるところ、規範意識の鈍麻がうかがわれ、生活状況が芳しくないことを併せ考えると、再犯も懸念されるところである。
以上のような事情に照らすと、被告人の刑事責任には重いものがあるというべきであり、被告人を懲役1年6月に処した原判決の量刑も首肯できないわけではない。
しかしながら、原判決の「量刑の事情」の項における説示の中には、全体とすれば本件各犯行が職業的犯行であることを判示したものと理解できるものの、関係証拠によれば、被告人及び原審相被告人が盗んだ工具類の数は、5か月弱の間に1000点以上に及び、被告人及び原審相被告人はこれらを換金して800万円以上の金員を手にしたと認められるなどと、概括的ではあるが相当具体的にいわゆる余罪の存在に言及している記述があるほか、被告人らが商品を窃取したと思料されるホームセンターは山形県、宮城県、福島県、新潟県、茨城県、栃木県に所在する合計173店舗である旨の記載があり、これらのホームセンターの店名、所在地、電話番号の一覧表が添付されている司法警察員作成の捜査報告書を「証拠の標目」に挙示し、さらに、平成20年4月15日から同年9月19日までの間に、盗品である電動工具等1139点が合計827万8040円でリサイクルショップに売却された旨の記載がある司法警察員作成の捜査報告書をも取り調べていることからすれば、原判決は、起訴されていない犯罪事実を犯行の常習性を推知する資料として考慮するにとどめず、実質的に余罪を処罰すると同様の結果をもたらす被告人に不利益な事情として、刑を量定したとの疑いを免れない。
そうすると、起訴に係る被害金額は合計41万7200円であるところ、原審相被告人と協力し、余罪の分も含め被害店舗等に対し合計209万円余りの被害弁償金を送付したこと、逮捕時に所持していた現金については盗んだ商品を売却して得たものであるとして、130万円をしょく罪寄附したこと、実父が被告人の監督を申し出ていること、養育する責任がある幼い子どもがいること、前科がないこと、反省の言葉を述べ、更なる被害弁償の意思を示していることなどの原判決当時の事情に加え、新たに余罪分として合計948万円余りを追加して被害弁償したこと、原判示の各被害会社との間で示談が成立し、処罰を求めない旨の許しを得たこと、当審公判廷において、これからどんなことがあっても皆に迷惑をかける犯罪はしないと述べるなど反省を一層深めていることなどの原判決後の事情をも考慮すると、原判決の量刑は、執行猶予を付さなかった点において、重きに過ぎるに至ったというべきである。
論旨は理由がある。

第1刑事部】