万引きして逃げ出したところ、店員を転ばせて強盗といわれたという相談(万引き、刑事弁護)
2024年10月14日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡県福岡市に住む40代の会社員です。高校2年生の息子がいます。今朝、自宅に警察官が来て、息子が、万引きを発見されて、店員に捕まえられたのに振り払って逃げたので、店員が転んで怪我をしたということです。店員が怪我しているので強盗致傷だといわれています。息子に訊いたところ、「本屋で、防犯カメラの死角でマンガ本をカバンに入れて、そのまま店を出たところで店員に声をかけられ、咄嗟に走って逃げたけど、店員に捕まえられそうになったので振り払って逃げた。そんな怪我をしているとは知らなかった。」ということでした。息子は、逮捕されなかったのですが、インターネットを見ると重い罪ということで少年院に入れられるのではないかと心配です。どうすればいいでしょうか。
A、逮捕の可能性もある重大な犯罪になります。ただ、強盗致傷ではなく、窃盗と傷害事件となることもありますので、逮捕回避のためにも、処分軽減のためにも早急に弁護士をつけるべきです。
【解説】
万引き事件においても、逮捕を免れるために暴行を加えた場合には、事後強盗罪が成立することがあります。さらに、それで怪我をさせた場合には事後強盗致傷罪となります。こうなると、非常に重たい事件になりますので、それまでの前歴がない少年事件であっても少年院送致を含む重大な処分がなされる可能性があります。被害弁償、示談のために努力することに加えて、非行事実を十分に吟味して、「反抗を抑圧すべき程度」ではないことを意見書等で主張していく必要があるでしょう。
刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(強盗)
第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(事後強盗)
第二百三十八条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
(強盗致死傷)
第二百四十条強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
リーフレット「少年審判について」
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/210031.pdf
【参考文献】
丸山嘉代「悩める現場の誌上事件相談室 検事!この事件,どうすればいいですか?(第1回)事後強盗致傷?それとも窃盗と傷害?」警察公論2016年9月号46-53頁
51頁
【これらの中には,検察官の私から見ると「えっ, (事後)強盗致傷罪にならないの?」と疑問を抱くものもあります。実際,①~④の各事件を担当した検察官は, (事後)強盗致傷罪で起訴しているわけですから,検察官と裁判官の判断が分かれた事案といえます。
ことほどさように,事後強盗による強盗致傷罪に当たるかというのは,判断が難しいものですから,警察官の皆さんに第一に考えていただきたいのは,被疑者の行為が何罪に当たるかという評価の問題よりも, 「被疑者の暴行,脅迫が,社会通念上一般に,被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであったかどうかを判断するための証拠を集めること」,具体的には,被疑者の行為をきちんと特定できる証拠を集めるということなのです。】
須賀正行「元検察官のキャンパスノートNo.89 -外事事件-万引き(窃盗-刑法235条)」捜査研究2018年12月号(817号)82-95頁
86-87頁
【万引き犯人が代金を支払うことなく,商品を持ち出し,私服の警備員(万引きGメン)に呼び止められた際逮捕を免れるために暴行又は脅迫を加えた場合には事後強盗罪(刑法238条)が成立します。
判例は,窃盗犯人が財物を得た後,その取返しを防ぎ又は逮捕を免れる目的で暴行をなしたときは,現実に逮捕を免れなくとも,事後強盗罪が成立するとしています(大判昭7.6. 9刑集11・778) 。また,暴行・脅迫の定義について「本条にいう暴行・脅迫は相手方の反抗を抑圧すべき程度なるものを要し,その程度は具体的状況に照らして判断すべきである」としています(大判昭19.2.8 刑集23・1) 。その際,相手方に傷害を負わせた場合には.強盗致傷罪(刑法240条)が成立する場合もあり得ます。】
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粟田知穂「刑事事実認定マニュアル 第16回強盗における反抗抑圧・機会性」警察学論集76巻12号(2023年12月号)131頁