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薬院法律事務所

違法薬物問題

運転中に職務質問を受け、免許証の提示を拒否したら自動車のガラスを割られたという相談(大麻、刑事弁護)


2024年10月16日違法薬物問題

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市に住む20代会社員男性です。令和6年12月20日、自動車に乗っていたところ「一時不停止」違反だといわれて、職務質問を受けました。免許証の提示を求められたのですが、たまたま持っていなかったので持っていないと答えたところ、警察官の顔色が険しくなって、無線で応援を呼ばれました。車のなかを見せてくれといわれたのですが、乾燥大麻を隠していたので拒否したところ、パトカーがたくさんきて進路を塞ぐように囲まれました。任意だからおかしいと抗議したのですが聞き入れられず、窓ガラスを閉めて発進しようとしたところ、警察官が窓ガラスを割って、エンジンキーを抜いてきました。免許証不提示での現行犯逮捕だといわれ、そのまま自動車の中も見られて大麻が見つかり、押収されたのですが、違法な捜査ではないでしょうか。

A、免許証不提示での現行犯逮捕自体はあり得ることなのですが、本件では、逮捕前の職務質問の態様、パトカーで囲んだことが限度を超したものではないか(留置きの違法性)、現行犯逮捕にともなう有形力の行使として窓ガラスを割ったことが正当化されるか、捜索差押が大麻の発見を目的とした別件捜索だったのではないか等々色々な論点が考えられます。具体的な事情によりますが、違法な逮捕となることもあり得ますので、弁護人をつけて指摘することにより不起訴処分となる可能性があります。

※大麻施用罪は令和6年12月2日施行です。

 

【解説】

大麻施用罪が新設されたことにより、今後、大麻事案についても覚醒剤取締法違反事件と同様の取扱いがなされることが予想されています。相談事例は、覚醒剤取締法違反(所持)で良くあるパターンですが、この手続を子細に検討していくと、「留置き」の時間が長すぎる、所持品検査が乱暴すぎるといったことで捜査が違法となることがあります。捜査が違法となる場合は、公判で、押収した乾燥大麻及びその鑑定書が違法収集証拠として否定されることもあり、その可能性を考慮して、検察官が不起訴処分とすることもあり得ます。ただ、これは経験豊富な弁護人でなければ判断が難しいので、弁護人に依頼する場合は、薬物事犯の知識・経験が豊富な弁護士を選ぶことが大事です。

 最判平成6年9月16日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50156

二 覚せい剤使用の嫌疑のある被疑者に対し、自動車のエンジンキーを取り上げるなどして運転を阻止した上、任意同行を求めて約六時間半以上にわたり職務質問の現場に留め置いた警察官の措置は、任意捜査として許容される範囲を逸脱し、違法であるが、被疑者が覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動を繰り返していたことなどから運転を阻止する必要性が高く、そのために警察官が行使した有形力も必要最小限度の範囲にとどまり、被疑者が自ら運転することに固執して任意同行をかたくなに許否し続けたために説得に長時間を要したものであるほか、その後引き続き行われた強制採尿手続自体に違法がないなどの判示の事情の下においては、右一連の手続を全体としてみてもその違法の程度はいまだ重大であるとはいえず、右強制採尿手続により得られた尿についての鑑定書の証拠能力は否定されない。

 

私は、覚せい剤取締法違反事件で令状発付が違法であるという認定を得たことがあります(福岡地判令和2年12月21日最高裁判所刑事判例集76巻4号430頁)。国選弁護事件で、前例のない論点での違法収集証拠を主張し、強制採尿令状発付の違法が認定されました。一審は有罪判決でしたが、高裁では別の弁護人が就任して無罪判決となっています。最高裁では逆転有罪となっていますが、全ての審級で令状の発付が違法と認定されています。
最判令和4年4月28日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91131

 

道路交通法

https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105

(危険防止の措置)
第六十七条 警察官は、車両等の運転者が第六十四条第一項、第六十五条第一項、第六十六条、第七十一条の四第四項から第七項まで又は第八十五条第五項から第七項(第二号を除く。)までの規定に違反して車両等を運転していると認めるときは、当該車両等を停止させ、及び当該車両等の運転者に対し、第九十二条第一項の運転免許証又は第百七条の二の国際運転免許証若しくは外国運転免許証の提示を求めることができる。
2前項に定めるもののほか、警察官は、車両等の運転者が車両等の運転に関しこの法律(第六十四条第一項、第六十五条第一項、第六十六条、第七十一条の四第四項から第七項まで及び第八十五条第五項から第七項(第二号を除く。)までを除く。)若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律の規定に基づく処分に違反し、又は車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊(以下「交通事故」という。)を起こした場合において、当該車両等の運転者に引き続き当該車両等を運転させることができるかどうかを確認するため必要があると認めるときは、当該車両等の運転者に対し、第九十二条第一項の運転免許証又は第百七条の二の国際運転免許証若しくは外国運転免許証の提示を求めることができる。

 

【参考リンク】

 

令和6年12月12日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html

厚生・労働2024年06月19日
大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正
~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号
法案の解説と国会審議
執筆者:木村歩

https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3567820/

【(2)大麻等の施用等の禁止に関する規定・罰則の整備
① 大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻等の不正な施用についても、他の麻薬と同様に、同法の禁止規定及び罰則を適用する。
なお、大麻の不正な所持、譲渡し、譲受け、輸入等については、大麻取締法に規制及び罰則があったが、これらの規定を削除し、他の麻薬と同様に、「麻薬」として麻薬及び向精神薬取締法の規制及び罰則を適用する(これに伴い、法定刑も引上げ)。】

 

【参考文献】

 

交通捜査実務研究会編『八訂版 交通捜査提要』(東京法令出版,2019年9月)1354-1355頁

【第67 条第2項の規定による運転免許証の提示要求は、道路交通法等に違反し又は交通事故を起こした場合であることが前提であるので、この前提である交通違反が不成立となった場合には、免許証提示義務違反についても成立しないことになる。したがって、免許証提示義務違反を逮捕又は検挙しようとする場合、その前提となる違反の現認・立証は特に確実なものである必要があることに留意すること。】

 

東山太郎編『逮捕手続の実務~疑問解消110番~』(立花書房,2017年8月)144頁

【Q65
司法巡査Kは. A運転車両による一時停止無視を現認したのでこれを停車させたが, Aが運転席に座ったまま窓を開けずに逃走の気配を示したことから,Kは所携の警棒で窓ガラスを叩き割って車内に手を入れ,エンジンキー を回してエンジンを止めた上で, Aを道路交通法違反(一時停止無視)の現行犯人として逮捕した。現行犯逮捕手続として問題はあるか。
A
逮捕に際する有形力行使として相当性の範囲内を超えるものとして,違法となるおそれがある。】