【えん罪】満員電車で痴漢といわれ、手からスカートの繊維片が検出されたという相談(刑事弁護)
2024年10月30日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡県に住む30代のサラリーマンです。毎朝地下鉄に乗って出勤しているのですが、いつも満員電車になっています。この日、突然私の腕が掴まれて「痴漢」と言われました。びっくりして否定しながら駅員室に行ったのですが、駆けつけた警察官に粘着テープを手に貼られて、事情を訊かれてその日は帰されました。ところが、一週間後にまた呼び出しがあったので出かけると、私の手に女性のスカートの繊維片が付着していたということで、触っただろうと決めつけられて脅されました。絶対にそんなことはしていないのですが、どうすればいいでしょうか。
A、早急に弁護人をつけて意見書を出すべきでしょう。繊維片が付着しているからといって、必ずしも痴漢行為をしたといえるわけではないです。
【解説】
痴漢事件については、微物鑑定といって、手に繊維片が付着しているか検査されることが一般的です。そして、繊維片がある場合には、「触っただろう」などと決めつけられることもあります。しかしながら、満員電車においては繊維片は空中に舞っているので、少量の繊維片が検出されたからといって痴漢だといえるわけではないです。また、本当の痴漢は手を自分の服で払うなどといった証拠隠滅行為をはかります。弁護人から意見書を出してもらうべきでしょう。
福岡県迷惑行為防止条例
https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/4139/1/meibo.pdf?20190620183453
(卑わいな行為等の禁止)
第六条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)の上から触れること。
【参考文献】
平岡義博『法律家のための科学捜査ガイド その現状と限界』(法律文化社,2014年10月)91頁
【そしてもし被疑者から被害者の制服スカートの繊維片と同種のものを検出した場合、種類、本数、付き方を明らかにしておかねばなりません。スカートなどの生地にチェック柄などが入っていればその生地の繊維のほかに柄部分の繊維片も被疑者の手に付着する可能性があります。それらの繊維片がセットで検出されれば犯罪の蓋然性は高くなります。検出した本数は3本程度では意味がありません。満員電車内で身体が接触しているのですからその程度は何もしなくても付着して不思議ではありません。このような環境で有意な本数といえるのは数十本と考えています。殺人事件とは全く違うノイズが多い環境では「検出」といえる本数はオーダーが違うと考えた方がいいでしょう。
このように鑑定の困難性と証明能力の低さから,繊維鑑定は痴漢事件には適していないと考えています。】