民法536条2項の適用を、雇用契約や就業規則で排除出来るかという相談(企業法務)
2024年11月01日労働事件(企業法務)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、会社経営者です。今回、従業員が10名を超えたので就業規則を作成することにしました。弁護士さんのアドバイスを受けながら自分で作成しているのですが、解雇をして争われた時に、解雇が無効とされると賃金全額を支払わなければならないと聞きました。これを減額することはできないでしょうか。
A、民法536条2項は、任意規定のため排除すること自体は可能です。しかし、既存従業員にとっては不利益変更になるので効力が認められない可能性があります。
【解説】
解雇無効が争われる場合は、民法536条2項に基づき賃金請求がなされるのが一般的です。もっとも、労働契約から排除することはできます。しかしながら、既存従業員に対しては不利益変更になるので効力が認められないでしょう。
民法
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_1-Se_2-Ss_1-At_417
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
労働契約法
https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
【参考文献】
東京弁護士会労働法制特別委員会編『新労働事件実務マニュアル第6版』(ぎょうせい,2024年2月)96頁
【また、民法536条2項は任意規定であるため就業規則、労働協約や個別契約等による適用排除が可能であるが、その場合、民法536条2項の適用を排除する旨を明確に規定する必要がある(いすゞ自動車(雇止め)事件:東京地判平成24年4月16日労判1054号5頁は、「臨時従業員が、会社の責に帰すべき事由により休業した場合には、会社は、休業期間中その平均賃金の6割を休業手当として支給する。」との就業規則上の定めにつき、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないとしている。)】
https://shop.gyosei.jp/products/detail/11862
谷口知平・五十嵐清編『新版注釈民法(13)債権(4)契約総則§§521条~548条〔補訂版〕』(有斐閣,2006年12月)656頁
【なお,危険負担に関する規定は任意規定だとされるので,特約によってその適用を排除しうる(特約による適用排除の現況について,澤井•前掲論文参照。また,星野英ー=谷川久「標準動産売買約款の研究III 」商事法務研究252 号〔昭37 〕83 も参照)。】(甲斐道太郎)
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/4641017476
金子征史・西谷敏一編『基本法コンメンタール労働基準法【第5版】』(日本評論社,2006年2月)144頁
「また、同条同項(※民法536条2項)は任意規定と解されているから、労使間の特約(合意)によって排除することもできる」