歩行者も交通事故加害者として処罰されます(交通事故、刑事弁護)
2019年07月04日刑事弁護
実際に処罰されている事例もあります。
城祐一郎『Q&A実例交通事件捜査における現場の疑問〔第2版〕』(立花書房,2017年10月)397頁
【以上述べてきたものは, 自転車の運転者が加害者となって重過失致死傷罪や過失傷害罪に問われた事案であるが,では,歩行者が加害者となって,それらの罪に問われるようなことはないのであろうか。
歩行者は,被害者になることが通常であって, これが加害者となって被疑者となる事件も存在する。理論的にいっても,歩行者が何らかの過失により, 自転車や自動二輪車の運転者に傷害等を負わせるケースは考えられないではな
い。実例として, いずれも公刊物未登載であるが, ここで3件の例を挙げ,それらのケースに基づいて歩行者の過失の捉え方について検討してみたい。
(1) まず, l件目の事例は,被疑者が,東京都千代田区内の片側3車線で中央分離帯にガードレールが設けられた大通りにおいて(当然,横断禁止とされている場所である。),反対車線を横断した上, ガードレールを乗り越えて更に横断を続け,そこには,渋滞のため停止していた車両がたくさん
あったため, その間を小走りで通り抜け,一番歩道よりの第1通行帯に飛び出した際, その通行帯を走ってきていた自動二輪車が被疑者に衝突して転倒し,被疑者は2か月の重傷を負ったものの,その自動二輪車の運転者を内臓器損傷等により死亡させてしまったというものである。
このような場合,従来であれば, この被疑者は歩行者であるから, 2か月の重傷を負った被害者としてだけ取り扱われていたのではないかと思われる。しかし, このケースでは,歩行者の被疑者は重過失致死罪で略式請求され,罰金40万円の略式命令が出された。
この道路は,横断禁止とされており,歩行者が横断してくることが予想されないような道路であるから,歩行者である被疑者としては, そのような横断を差し控えるか, また,渋滞車両の間を通り抜けた際に’一度立ち止まって左右の安全を確認すれば,事故を回避できたのであるから, このような場合は, 「わずかな注意を払うことにより結果発生を容易に回避しえたのに,これを怠って結果を発生させた場合」に十分該当することから,重過失致死罪は当然に成立するものと思われる(「研修」平成12年7月号)。
(2) 次のケースは,歩行者が過失傷害罪として略式請求により処理された事件で, 中年の男性の被疑者が,交差点を斜め横断して走り,その交差点の自転車横断帯を走行していた自転車に自分の身体を衝突させて同自転車を転倒させ,その結果,その自転車を運転していた高齢の女性の被害者に約2か月間の加療を要する骨折を負わせたというものであった。
この場合,重過失というまでの過失内容ではないものの,斜め横断をして走っていた際に前方をよく見ていなかったという過失があるから,過失傷害罪として,略式請求され,罰金20万円に処せられた。
(3) 3件目のケースも横断中の歩行者に関するもので,上記(1)のケースと極めて類似したものである。この事例では,被疑者は,片側一車線南北道路の東側歩道から同道路北行き車線上の連続停止車両の間を通って同道路を横断するに当たり,上記停止車両と西側歩道との間の通行余地を南方から原動機付自転車等が進行してくることがあり得たにもかかわらず,漫然と速足で,同道路を横断した重大な過失により,折から,同通行余地を南方から進行してきた原動機付自転車に気付かないまま, その進路上に進出し, 自己の身体を同車に衝突させて, これを転倒させ, よって,その運転者を死亡させたというものであった。
これについても上記(1)と同様に重過失が認められ,罰金30万円の略式命令が認められている。】