load

薬院法律事務所

一般民事

時効期間経過後、分割弁済の提案をしたら時効の援用はできない?


2019年08月02日読書メモ

消費者金融会社が、時効債権について訴訟提起して、電話をかけてきたという事例です。債務者が口頭で分割払いの提案をしたことが、時効援用権を信義則上援用できなくなるとされる、「債務の承認」にあたらないとしています。

過去の大審院判例では支払い猶予を求めたことをもって債務の承認にあたるとしたものもありますので、そこの関係はやや気になります。

答弁書で分割払いを希望していても時効援用権を喪失しないとした裁判例もあります。一審で分割払いの希望を書いた答弁書提出して、敗訴してからの控訴審です。
http://www.hyogoben.or.jp/hanrei/hanreihtml/215-190118.html

右陪席の家原尚秀裁判官は今最高裁判所の調査官をされていますね。

判例タイムズ1421号(2016年4月号)355頁

【訴え提起後に訴訟外で行われた和解交渉中に債務の支払の猶予を求めたことが,債務の承認に当たらないとされた事例
対象事件|
平成26年4月25日判決
東京地方裁判所民事第25部
平成25年(し)第1007号
貸金請求控訴事件】

【被控訴人は,甲野に対し,本件訴状を受け取ったことから,電話した旨を伝えたところ,甲野から,本件訴えは一括での支払を求めるものであるが,一括での支払は可能かと尋ねられたため,「それは極めて難しいので何回かに分けてお願いできればと思ってですね。」 と発言した(以下
「本件発言」という。)。
イその後,被控訴人は,甲野から支払可能な1箇月当たりの分割金の額を教えて欲しいと聞かれたが,同人から遅延損害金を含む本件債務の総額が約88万7000円であると示され, この金額が思っていた以上に多額であったこと等から,甲野に対し,検討したいので電話では即答はできない旨を述べ,本件訴えに対する答弁書を裁判所に提出する旨を伝えた。
さらに,被控訴人は,判決が出た後は分割での話し合いが困難になる可能性があると述べて,重ねて分割払による和解や一部弁済を求める甲野に対し,本件債務の総額が思っていた以上に多額であったと述べ, 「色々相談しなきややぱいなと思ってる。」などと発言し,一部弁済もできない旨を伝えて,電話での交渉を打ち切った。】

【(l)前記認定事実のとおり,被控訴人による本件発言は,控訴人が本件訴えを提起し,本件第1回期日を4日後に控えた時期に,被控訴人と控訴人の担当者との間の訴訟外における電話での和解交渉中にされたものであって, また,甲野から一括払による弁済を求められたことから,その要求に対する応答としてされたものにすぎず,一括払による弁済を拒絶したところに発言の趣旨があるというべきであって,分割払で支払う意思を明確に表明したものとみることはできない。
しかも,被控訴人は,その後の会話の中で,分割金の額の明示や一部弁済を求める甲野氏に対し,回答を拒み,一部弁済もできないと答えており,第三者に相談したいという趣旨の発言もしている。
そして,被控訴人は,甲野に対し,答弁書を提出する旨を述べて,実際に,本件発言の3日後に消滅時効を援用する旨記載した答弁書を提出していることからすると,被控訴人は,訴訟外での和解交渉がまとまらない場合には,本件債務の存否を争い,最終的には裁判所の判断を求める意思を有した上で,甲野と和解交渉をしていたものであり,甲野もそのことを容易に認識し得たものと推認することができる。
(2)そうすると,本件発言は,その一部に分割で支払いたいという内容の言辞が含まれていたとしても,本件訴えが係属した後に,訴訟外の和解交渉中にされた発言の一部にすぎないというべきであって,上記のような本件発言がされた状況や甲野との会話の内容からすると, これをもって被控訴人が控訴人に対し本件債務を負っている事実を通知して,債務を承認したものと認めることはできないというべきである。
(裁判長裁判官矢尾渉,裁判官家原尚秀,裁判官角田宗信)】

 

少しだけ払わせて「債務の承認」とする手法については複数の裁判例があります。
http://www.kabarai.net/judgement/other.html