【えん罪】家宅捜索を受けて、スマホを取り上げられたので顧問弁護士に相談できなかったという相談(刑事弁護)
2024年12月03日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む50代男性です。クリニックを経営しているのですが、クリニックの休診日の朝、警察官が何人も自宅にきて「家宅捜索をする」と言われました。びっくりして顧問弁護士に電話しようと思ったのですが、「スマートフォンも差し押さえるから」といわれて、取り上げられました。警察の話では、どうやら私がクリニックの女性患者さんを盗撮したと疑われているようです。パソコンから何から色々なものを持って行かれて業務に支障が出るので、顧問弁護士に相談したいと繰り返しいったのですが、「後で相談してもらえばいいから」といわれて、家から出ることもダメだと言われました。自宅には固定電話はないので、電話がかけられないままでした。結局、昼までかかって、そのままパトカーで警察署につれていかれて調書を作成したのですが、納得できません。違法ではないでしょうか。
A、ひとつひとつを見れば、スマートフォンの差し押さえは捜索差押令状の執行であり、家から出ないように指示したのは、刑事訴訟法に基づく出入禁止措置といえますが、実質的には、弁護士に相談する機会を奪っているといえます。違法捜査にあたる可能性はあると思います。弁護士の面談相談を受けられて下さい。
【解説】
一般論として、捜索差押中であっても、暴力団関係者などの特殊な事情がなければ、電話を発信すること、受信することは可能です。もっとも、本件のような場合は、事実上外部と連絡をとることができないという状況におかれています。こういった場合に、捜査が違法といえるかどうかということについて論じた文献は見当たりませんでした。本件については、形式的には「違法」とは言いがたいと思います。とはいえ、弁護士のアドバイスを受ける権利は憲法上保障されていること、本件のように「顧問弁護士に連絡したい」と明確に述べている案件で、警察官が確認した上で発信することも可能なのに、あえてそれをせずに調書まで作成したということは、「実質的逮捕」あるいは、「弁護人選任権の侵害」として違法といえる場合があると考えます。事実関係の十分な確認が必要ですので、弁護士の面談相談を受けられて下さい。
刑事訴訟法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_1-Ch_9
第百十一条 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え、記録命令付差押え又は捜索をする場合も、同様である。
②前項の処分は、押収物についても、これをすることができる。
第百十一条の二 差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる。公判廷で差押え又は捜索をする場合も、同様である。
第百十二条 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行中は、何人に対しても、許可を得ないでその場所に出入りすることを禁止することができる。
②前項の禁止に従わない者は、これを退去させ、又は執行が終わるまでこれに看守者を付することができる。
福岡高裁平成24.5.16判決
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=82463
判示事項の要旨
強制採尿令状を執行中の捜査官らが,携帯電話機で外部の者と連絡を取ろうとした被告人から強制力を用いて携帯電話機を取り上げ,さらに,被告人からの携帯電話機の返却要求を拒んだ行為は,いずれも刑事訴訟法111条1項の「必要な処分」には当たらず,違法と言わざるを得ないが,その際,被告人が知り合いの弁護士に連絡する意図を有していたか疑問があるし,捜査官らは被告人が弁護士に連絡しようとしていたことを知らなかったから,捜査官らが故意に被告人の弁護人依頼権を侵害したとみることはできない上,捜査官らが被告人から取り上げた携帯電話機を返却するまでの時間は多く見積もっても40分程度であったこと,捜査官らの行為は被告人が携帯電話機で外部の者に連絡し暴力団関係者を呼び寄せて強制採尿令状の円滑な執行を妨害するのを防止するのに必要なものであったこと,ただ,その手段がやや行き過ぎたに過ぎなかったことにも照らすと,その違法の程度が重大であるとはいえないだけでなく,捜査官らに令状主義を没却する意思があったともいえないとして,捜査官らの行為が被告人の弁護人依頼権を侵害したことを理由に強制採尿令状によって採取された尿に関する鑑定書を違法収集証拠として証拠から排除した1審判決を破棄し,同鑑定書に証拠能力を認めて被告人を有罪とした事例
【参考文献】
渡辺咲子「刑事訴訟法112条」河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法第二版第2巻〔第57条~第127条〕』(青林書院,2010年9月)404-410頁
409-410頁
【(5) 電話の使用禁止捜索場所の電話の使用を禁ずることは,人の出入りと同様であるから, 112条の法意から許されるとする説がある(河上・捜索差押138頁)。
111条の処分と解する説もある(河上ほか編・警察実務判例(捜索・差押え篇)〔樋口建史〕61頁)。
しかし,上記のとおり,出入禁止措置の目的は,捜索活動の妨害排除,差押対象物の隠匿・廃棄・搬出の防止にあるから,電話の使用を本条の出入禁止に準じて当然に禁止することができると解すべきではない。特に,発信については, これを制限できる特段の理由はないように思える。
受信については,例えば,捜索を開始しようとする警察官の動きを察知して現場に駆けつけた関係者が中にいる者に証拠の廃棄•隠滅の方法を教示するなど,電話による妨害活動も考えられるが, このような場合でも,受信を制限しなくとも,受信者の行動を監視すれば足りるのであるから,結局,電話の受発信が制限できるのは,立会人による頻繁な電話の受発信によって捜索の執行が物理的に妨げられるような例外的な場合であろう。前掲東京地判平8• 11 • 22は,電話の受発信の制限を111条に該当するかどうかを検討し,必要な処分といえないという結論を示しているが,本条の適用ないし準用として許容できるかどうかを判断すべきであろう。】
https://www.seirin.co.jp/book/01513.html
警察公論2019年8月号付録「令和元年版警察実務重要判例」140-143頁
【刑事訴訟法5 捜索の際被告人を含むその場に居合わせた者による携帯電話の使用を一律に禁止したことを違法と判断した事例
福岡高判平30.7.20
LL|/DB判例秘書(判例番号) LO7320532,研修846号63頁】