load

薬院法律事務所

企業法務

口論の末の『辞めてやる』だけで退職は成立するか?(労働事件、企業法務)


2019年08月31日労働事件(企業法務)

実務的にはその後の退職を前提とする行動がなければ、口論の末での口頭の発言のみで退職というのは認められないです。

厚生労働省労働基準局『労働基準法コンメンタール』(労務行政,2005年3月)259ページ

【退職の意思表示は、客観的に明確なものでなければならない。一時の感情にかられて表明した退職の意思表示は真意とはいえないので、社会通念上退職の意思表示とは認められない。例えば、総務部次長が二日間の休暇をとって海水浴に行った八名の従業員が三日目も無断欠勤したことに対し「海水浴のことは水に流す、明日から、間違いを起こさぬように働いてもらいたい、なおA君だけは勤務成績に問題があるからあとで総務に来てくれ。」と述べたことを、他の七人はAだけがやめさせられるものと解し、Aを援護するため「一人やめるなら皆やめる。」「八人でやったことだから責任をとる。」などといい、次長が「皆やめるんだな」と念を押しても誰も異議を唱えるものがなかった事案に対し、右の退職の意思表示は、双方のやや感情的なやりとりの末なされたものであって、しかも個別的に表明されたのではなく、また、明確かつ決定的に退職の意思を明らかにしたものとはいい難いとした裁判例(横浜地裁判決昭38年(ヨ)193号、全日本検数協会事件昭38、9、30。同旨福岡地裁飯塚支部判決昭38年(ヨ)第8号、下崎商事事件昭38、11、19)がある。】

佐々木宗啓ほか編著『類型別労働関係訴訟の実務』(青林書院,2017年8月)344頁

【実務でみられる事例の中でも,上司や代表者と衝突する過程の中で, 「こんな会社,辞めてやる! 」 と口走ったというような事例は少なくないが, それが,確定的な意味での退職の意思表示と評価できるかは,前後の状況にもよるが, 慎重な検討が必要であろう】