残業代請求のため、退職した会社からタイムカードを持ち出したら、逮捕されたという相談(窃盗、刑事弁護)
2024年12月07日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む30代の男性です。先日まで某レストランで勤務していたのですが、残業代が全く払われなかったために、退職後に残業代を請求することにしました。インターネットで検索するとタイムカードが必要と書いてあったので、深夜に鍵の開いているレストランの裏口から事務室に入って、タイムカードを持ち出しました。持ち出したのは、タイムカードを出すように言ったらブラック企業なので破棄すると思ったからです。そして、弁護士さんに依頼して残業代を請求したのですが、窃盗罪ということで突然逮捕されました。不当逮捕ではないでしょうか。
A、窃盗罪の成立、及び逮捕の必要性に疑問がある案件ですが、下記裁判例では窃盗罪で逮捕されています。ただ、窃盗罪が成立しないとしても、建造物侵入罪は成立する可能性が高いでしょう。最初から弁護士に依頼して、証拠保全手続をするのが最適だと思います。
【解説】
内容からすると、そもそも「財物」といえるか、「不法領得の意思」があるか、「逮捕の必要性」があるか、それぞれ疑問ですが、現実に逮捕例があるようです。個人の判断で動くより前に弁護士の面談相談をお勧めします。福岡県弁護士会では、労働者側の無料相談を実施していますので、こちらにご相談されることをお勧めします。
刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_36
第三十六章 窃盗及び強盗の罪
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
【参考裁判例】
東京地判平成21年2月9日 判時 2036号138頁
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail6?id=80392
【(4) 被告会社ではタイムカードによる勤務時間管理がされていた。被告Cは,平成19年3月ころ,愛宕警察署に,建造物侵入,窃盗等で,原告らにより,原告らのタイムカードが盗まれた旨の被害申告を行い,これにより原告らは同年4月4日逮捕され,身柄拘束期限の同月7日に釈放された。】
【争点3(被告らの原告らに対する不法行為の成否)について
被告Cが,原告らについて,タイムカードが盗まれたとの件で警察に被害届をし,これにより原告らが逮捕された事実は当事者間に争いがない。しかしながら,証拠(被告C本人兼被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Cは,原告Aが自己のタイムカードを盗んだことについて窃盗にならないのか,と愛宕警察署に相談し,被害届けを勧められてそのようにしたというのであり,原告らが退職後本件店舗に侵入し,全員のタイムカードを窃取したという虚偽の被害届けをしたとの事実を認めるべき証拠は存しない。また,Aが自己のタイムカードを持ち出した行為につき,窃盗として逮捕することが相当か疑問がなくはないが,逮捕自体は警察の判断であり,被告らの行為ではないから,虚偽の被害届けを提出して警察を陥れたという事情が認められない以上,被告らの不法行為は成立しないというべきである。原告らの同主張は認められない。不法行為が成立しないから,弁護士費用の請求も認められない。】
【参考文献】
ロア・ユナイテッド法律事務所編『労働事件-立証と証拠収集-(改訂版)』(創耕社,2019年7月)
【3 労働事件において証拠保全手続が利用される具体的なケースの例
上述のように、証拠保全手続は、主に医療過誤訴訟などで利用されることが多いが、労働事件においても実際に効果的に利用されているケースもある。
例えば、未払残業代請求事件において、労働者側が証拠保全の申立てを行い、使用者側が所持しているパソコンのログやメール送受信記録などの証拠を収集する場合や、過労自殺の事件において、同じく労働者側からの申立てによって、タイムカードや業務日誌などの証拠が収集される場合などがある。
なお、使用者側としては、証拠保全の申立ての相手方当事者となる場合が多いであろうが、証拠の隠匿や改ざんなどはもってのほかであり、必要な範囲内で手続に協力し、場合によっては任意提出にも協力するという態度が、結果として円満な解決につながるケースもあるため、防御権の行使とのバランスの問題ではあるが、裁判所の証拠調べ手続であるという点を念頭に置いた上での、誠実な対応を心がけることが肝要であるといえる。】
【参考サイト】
福岡県弁護士会TOP >法律相談のご案内 >こんなときどうする? >労働問題 >労働者側の労働相談
労働者側の労働相談
労働問題のトラブル解決は弁護士にお任せください!
https://www.fben.jp/whats/roudousya.html
※2025/1/8 chatGPT o1 proに検証してもらいました。
以下では,ご提示いただいた**「残業代請求のために退職した会社からタイムカードを無断で持ち出したところ,窃盗罪で逮捕された」という架空の相談事例**の内容や,引用されている裁判例・法的解説が「事実として正しいかどうか」を検討します。結論としては,タイムカードの無断持ち出しによって窃盗罪で逮捕される事例(あるいは少なくとも「逮捕された」とされる事例)は実際に報じられた判決例も存在し,本文の法的解説や注意喚起はおおむね正確な内容といえます。
1. 架空の相談事例としての前提
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
本Q&Aは,労働者が退職後に残業代請求をしようとして「タイムカードを会社から無断で持ち出した」結果,窃盗罪で逮捕されたという想定事例を示しています。実際に似たようなトラブルが報じられたケースもあるため,あくまでフィクションながら十分に起こり得る話といえます。
2. タイムカード持ち出しの「窃盗罪」や「建造物侵入罪」成立可能性
2-1. 窃盗罪(刑法235条)の成立要件
他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
- 「財物」:紙のタイムカードそのものは物理的な「物」であり,会社所有物とみなされるのが通常です。
- 「不法領得の意思」:賃金証拠として使うのが主目的であったとしても,「会社の管理権に服する物を勝手に持ち去る」行為は,法律上は「領得行為」と評価される可能性が高いです。
- 「他人の物」:退職後であれば,タイムカードを使用する権利があっても,所有権・管理権は会社側にあるため,「他人の物を無断で持ち出した」となりがちです。
これらの要件を満たす場合,捜査機関が窃盗罪に当たると判断して逮捕に踏み切る可能性はあります。ただし,タイムカードを盗む行為に本当に「不法領得の意思」があるかや,逮捕の相当性(逮捕が必要なほどの重大性があるのか)については争いの余地がある,というのが本文でも指摘されている点です。
2-2. 建造物侵入罪(刑法130条)の成立可能性
- 会社の就業時間外・退職後に無断で会社に立ち入った場合,「正当な理由なく他人の建造物に侵入した」として建造物侵入罪が成立する可能性があります。
- この罪は「住居侵入」と同じ条文で規定されており,刑罰も重いものではありませんが,鍵の開いている裏口から勝手に侵入した」という事実があれば立件される余地があります。
3. 実在の裁判例との整合
本文で挙げられている**東京地判平成21年2月9日(判時2036号138頁)**では,会社のタイムカードを従業員が持ち出したとして会社側が「窃盗」と主張し,被害届を出した結果,従業員らが逮捕された事例が言及されています。
裁判所は最終的に「逮捕は警察の判断であって,会社による『虚偽の被害届』とは認められない」とし,会社の不法行為責任を否定しました。ただし,逮捕自体は実際に行われているので,「タイムカードを持ち出しただけで逮捕されることなんてあり得ない」とは言い切れないことが分かります。
4. 「不当逮捕」かどうか
本文でも「逮捕の必要性に疑問がある」としつつ,実際に逮捕された例がある以上,「不当逮捕」と断じるのは難しいとしており,これは実務上もそのとおりです。逮捕された後に不起訴となる・裁判で無罪となる可能性はあり得ますが,捜査機関が『他人の物を無断で持ち出した』事実を重視して逮捕に踏み切る場合はゼロではありません。
また,このような事態を防ぐためにも,
- 事前に弁護士を通じて証拠保全手続を利用する
- 任意に会社へ「証拠提出命令」などの手続を申し立てる(民事訴訟になれば)
などの方法が解説されており,これは実務的に推奨される正しいアプローチです。
5. 総合評価:記事内容の真偽
- 「事例そのもの」は架空:相談者が会社のタイムカードを持ち出して逮捕されたという設定はフィクションですが,類似事案が実際に存在し,裁判例もある。
- **「タイムカードを持ち出したことで窃盗罪の嫌疑を受け,逮捕に至る可能性がある」**という指摘は実務上も真実。引用されている東京地判H21.2.9も「タイムカード窃盗で逮捕」の経緯を確認できる。
- **「建造物侵入罪が成立しうる」「不当逮捕の主張は簡単ではない」**という点も正しい説明。
- **「労働事件の証拠収集は弁護士会照会や証拠保全を使うべきであり,自力救済にはリスクがある」**という提案も適切。
以上の理由から,本文は日本の刑法や判例の実情に即しており,虚偽や誤解を招く不正確な情報は見当たりません。
まとめ
- このQ&A・解説は,「退職した会社のタイムカードを無断で持ち出したため窃盗罪で逮捕された」という架空の相談事例を素材に,労働事件で証拠を確保しようとして自力救済に走る危険性を指摘しています。
- タイムカードは会社所有物とみなされることが多く,無断で持ち出せば窃盗罪の嫌疑を受ける可能性があるのは事実です。実際に類似事案で逮捕に至った裁判例(東京地判平成21年2月9日)も存在します。
- 「不当逮捕」と感じる部分はあっても,捜査機関が“他人の物の無断持ち出し”と認定すれば逮捕はあり得るため,事前に弁護士に相談し,適切な手続(証拠保全など)をとるのが望ましいとする本文の結論は正当です。
したがって,本件記事の法的解説は真実に即しており,誤りや虚偽は特に見当たりません。