load

薬院法律事務所

刑事弁護

アルコール依存症を理由に、運転免許が取消されそうという相談(道路交通法違反、刑事弁護)


2024年12月15日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、東京都足立区に住む30代の会社員です。先日、飲酒運転をして、駐車場内で壁にぶつかる自損事故を起こしてしまいました。救急車を呼ばれて病院に運ばれたのですが、酒気帯びの検査はなされませんでした。入院中に警察官が病院にきて事情聴取をされたのですが、酒気帯び運転については立件しないということで終わりました。ところが、退院してからしばらくして、福岡県公安委員会から免許取消の通知書がきてびっくりしています。「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者であることが判明したとき。」とのことですが、確かに私は酒を良く飲んでいますが(入院中も禁止されていましたがもコンビニで買ってきて飲んでいました)、中毒者ではないつもりです。なんとかならないでしょうか。

 

A、「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者」というのは、単なる常用者は含まれないとされています。聴聞では、その点を説得的にいえるかが大事になるでしょう。なお、私はこれまでに取扱経験はありません。あまりない事例だと思いますので、実際に取り扱ったことがある弁護士を探すのも良いでしょう。

 

【解説】

 

点数制度によらない行政処分としては、重大違反唆し等若しくは道路外致死傷又は自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある状態(いわゆる危険性帯有)を理由とするものと一定の病気、身体障害、アルコール・薬物中毒等を理由とするものがあります。相談事例は後者のパターンです。「中毒者」でないことを医師の診断書で立証する必要があるでしょう。

※道路交通法

(免許の取消し、停止等)
第百三条 免許(仮免許を除く。以下第百六条までにおいて同じ。)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなつた時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。ただし、第五号に該当する者が第百二条の二の規定の適用を受ける者であるときは、当該処分は、その者が同条に規定する講習を受けないで同条の期間を経過した後でなければ、することができない。
一次に掲げる病気にかかつている者であることが判明したとき。
イ幻覚の症状を伴う精神病であつて政令で定めるもの
ロ発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であつて政令で定めるもの
ハイ及びロに掲げるもののほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの
一の二認知症であることが判明したとき。
二目が見えないことその他自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある身体の障害として政令で定めるものが生じている者であることが判明したとき。
三アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者であることが判明したとき。
四第六項の規定による命令に違反したとき。
五自動車等の運転に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこの法律の規定に基づく処分に違反したとき(次項第一号から第四号までのいずれかに該当する場合を除く。)。
六重大違反唆し等をしたとき。
七道路外致死傷をしたとき(次項第五号に該当する場合を除く。)。
八前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。

https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105#Mp-Ch_6-Se_6

※参考(診断書書式)

https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/13854/1/sindansyo11.pdf?20230313152635

 

【参考文献】

 

道路交通執務研究会編著『執務資料道路交通法解説(19訂版)』(東京法令出版,2024年1月)993頁

【(90条の解説)「中毒者」とは、アルコール等によりいわゆる中毒症状に陥っている者のことで、飲酒あるいは注射すると意識の変調を呈し興奮、憂うつ、多言、沈黙、暴行又は精神異常等の症候を呈する者をいい、単なる常用者は含まないと解される】

https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?236

 

道路交通法令研究会編著『注解道路交通法〔第5版〕』(立花書房,2020年2月)583

【(90条の解説)(2) 「中毒者」とは、いわゆる中毒症状に陥っている者のことをいう。単なる常用者は含まれない。】

https://www.gov-book.or.jp/book/detail.php?product_id=350863

 

東京地方検察庁交通部研究会編『三訂版 道路交通法辞典 下巻』(東京法令出版,1988年5月)1107-1108頁

【(旧88条の解説)b 「中毒者」とは
「中毒者」とは、いわゆる中毒症状に陥つている者で、飲酒あるいは注射すると、意識の変調を呈し、興奮、憂うつ、多言、沈黙、暴行又は精神異常等の症候を呈する者をいう。単なる常用者は、本号には該当しない(旧令51条4項参照) <横井・木宮 <同旨>宮崎>。】

 

伊藤榮樹ほか編『注釈特別刑法第六巻交通法・通信法Ⅰ』(立花書房,1982年11月)673頁

【(旧88条の解説)アルコールや特定の薬物の中毒を欠格事由としたものである。酒や薬物の一時的影響下にある状態での運転禁止規定は別に置かれているが、ここでは、アルコール等の中毒に陥っている者は精神、身体の機能に異常が生じ、運転をさせることが一般に危険であることに着目して、欠格事由としているものである。…(略)…「中毒者」とは、「麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤」とは、それぞれ麻薬取締法に規定する麻薬、大麻取締法に規定する大麻、あへん法に規定するあへん又は覚醒剤取締法に規定する覚醒剤である。アルコールや薬物等の常用によって身体や精神の機能障害を起こしている者をいい、単なる常習者はこれに該当しない。】

 

木宮高彦・岩井重一『詳解道路交通法〔改訂版〕』(有斐閣,1980年5月)238条

【(旧88条の解説)「中毒者」とは、いわゆる中毒症状に陥っている者で、飲酒あるいは注射すると、意識の変調を呈し、興奮、憂うつ、多言、沈黙、暴行または精神異常等の症候を呈する者をいう。単なる常用者は、本号には該当しない。】