子どもがキャンプ場の外でたき火をしたら、延焼して警察に通報されたという相談(刑事弁護、少年事件)
2024年12月16日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、東京都江戸川区に住む会社員です。先日、中学2年生の子どもがサマーキャンプに参加したのですが、キャンプ場の外で、落ち葉を集めてたき火をしたところ、燃え広がってしまい騒ぎになったそうです。警察に通報されて、「森林法違反」ということで警察署に来るように言われています。聞き慣れない法律ですが、どうすれば良いのでしょうか。
A、おそらく、森林法202条1項(他人森林放火)で立件されたものだと思います。もっとも、森林放火罪になるか否かには疑問があり、先例の少ない分野です。弁護士に面談相談をして、犯罪が成立しないことを主張できないか検討してもらうべきでしょう。
【解説】
この問題については、京都地判昭和47年10月11日(判タ291号293頁)という先例があります。
同裁判例では、森林放火罪に該当しないという弁護人の主張について次の通り判断を示しています。
【弁護人は、森林法にいわゆる森林とは木竹が集団して生育している土地およびその地上にある立木竹をいうのであるが、被告人は、単に枯草に火を点じ、かつ、枯草に燃え移らせただけであるから、その所為は森林放火に該当しないと主張する。
森林法第二〇二条第一項にいわゆる森林とは、主として農地、住宅地に使用される土地等を除くほか、「木竹が集団して生育している土地及びその土地の上にある立木竹」または「木竹の集団的な生育に供される土地」をいうものと定義されている(森林法第二条第一項)。そこで、津崎長次郎の司法警察員に対する供述調書および司法警察員作成の実況見分調書を総合すると、本件土地は、登記簿上津崎長次郎所有の山林となつていて、本件犯行当時その地上には松、檜等の樹木や孟宗竹等が群生していた事実が認められるから、右山林が森林法にいわゆる森林であることは明らかである。
そして、森林放火の罪が成立するには、いわれなく他人の森林に火を放つて、その土地から発生した産物を焼燬することを必要とし、その産物は、地上の立木竹のみならず、落葉、落枝、下草等を包含するものと解すべく、したがつて、単に森林の産物である落葉、落枝を焼燬した場合でも、森林放火の既遂罪が成立するものというべきである。そうだとすれば、本件にあつては、前記認定のように、被告人の点火延焼により焼燬するに至つたものは地上の落葉、落枝等であり、これらがいずれも本件土地から発生した産物であることは、周囲の状況に照らしてみても優に推測しうるのであるから、被告人の本件所為を目して森林法第二〇二条第一項の森林放火と認めるに毫も疑いを入れないところである。
弁護人の主張はこれを排斥する。】
もっとも、同裁判例を掲載している判例タイムズのコメントでは【森林法二〇二条一項は、「他人の森林に放火した者」を、二年以上の有期懲役に処することとし、右森林放火罪の未遂罪も処罰される(同法二〇四条)。そこで、同罪の既遂時期が問題となるのであるが、本判決は、これを、「他人の森林に火を放つて、その土地から発生した産物を焼燬し」たときであるとし、右産物の中には、落葉、落枝、下草等を含むとする。同法二〇二条違反の既遂罪の成立に、「森林の焼燬」まで要求されないであろうことは、同条と同法二〇三条、刑法一〇八条等との法文を対照すれば、容易に推察がつくが、それでは、森林の焼燬に至らないどの段階から、同罪の既遂を認めるべきかについては、解釈上直接の手がかりとなるものが見当らない。本判決は、右の問題につき、一つの見解を示したことになるが、なお検討の余地のある点であろう。】とされており、議論があるところです。
軽犯罪法1条9号の「火気乱用の罪」に留まるという主張もあり得ると思います。
森林法
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000249#Mp-Ch_8
第二百二条 他人の森林に放火した者は、二年以上の有期懲役に処する。
2自己の森林に放火した者は、六月以上七年以下の懲役に処する。
3前項の場合において、他人の森林に延焼したときは、六月以上十年以下の懲役に処する。
4前二項の場合において、その森林が保安林であるときは、一年以上の有期懲役に処する。
第二百三条 火を失して他人の森林を焼燬きした者は、五十万円以下の罰金に処する。
2火を失して自己の森林を焼燬し、これによつて公共の危険を生じさせた者も前項と同様とする。
第二百四条第百九十七条、第百九十八条及び第二百二条の未遂罪は、これを罰する。
【参考文献】
警視庁刑事部刑事総務課編『実務(41) 諸法令』(警視庁刑事部刑事総務課,2021年2月)203-205頁
福山道義「森林法」伊藤榮樹ほか編『注釈特別刑法 第五巻-Ⅱ 経済法編Ⅱ』(立花書房,1984年7月)225-226頁
【「森林」とは、法二条にいう、(一)木竹が集団して生育している土地及びその上地の上にある立木竹(二)右の土地の外、木竹の集団的な生育に供される土地を指す。この法二条一項の定義を忠実に解し、森林放火罪の客体は立木竹に限るとの見解もある。これによれば、森林内の木材、薪等に放火したのみでは森林放火の既遂にはならず、また林地上の枯草等が燃えただけのばあいも同様に解すべきことになる(森林法解説420頁)。】
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001706258
安西温『特別刑法〔5〕海事・漁業・森林・狩猟・外事 改訂版』(警察時報社,1987年10月)205頁
【森林の主産物である立木竹を焼煉してはじめて既遂になるとする見解もあるが、立木竹を除く森林産物に対する放火罪を前提として立木竹の焼殻を結果的加重犯として構成していた森林放火罪の沿革(旧旧森林法四一条、旧森林法八九条参照)、および燃焼しやすい副産物に放火して焼殻する行為の危険性を考慮すると、右の見解は相当でなく、主産物たる立木竹を焼殻する必要はないと解すべきである。】
http://www.k-jiho.com/templates/shows/law/tokukei.html
法務省刑事局軽犯罪法研究会編著『軽犯罪法101問』(立花書房,1995年5月)96-97頁
【また、森林に延焼する危険があることを予見しながらあえて本号に当たる行為を行い、森林に延焼させた場合には、森林放火罪(森林法202条)、延焼するに至らなかった場合には森林放火未遂罪(森林法204条)が成立する。】
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002434212
【参考リンク】
トップ > 裁判手続案内 > 裁判所が扱う事件 > 少年事件
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_syonen/index.html