軽犯罪法違反事件の弁護要領・第3回 軽犯罪法1条2号(軽犯罪法、刑事弁護)
2024年12月19日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は会社員です。最近は闇バイトでの強盗など物騒なニュースが多いので、万が一に備えて護身用の木刀を車の後部座席に積んでいました。すると、警察官から職務質問を受けて、軽犯罪法違反と言われています。納得できません。
A、ご相談の状況であれば、「正当な理由」と、「その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」、「隠して携帯」のいずれの要件についても争う余地があると思われます。
【解説】
本日は、軽犯罪法第1条第2号「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」について解説します。
この条文は、正当な理由がなくて刃物や鉄棒など、人の生命や身体に重大な害を加える可能性のある器具を隠して携帯する行為を禁止しています。
その趣旨は、【本号に規定する行為は、次の段階に言て人の生命、身体に重大な被害を生ぜしめる行為をひきおこす危険を内包しているので、これを処罰の対象として、実害の発生を未然に防止しようとするものである】(野木新一・中野次雄・植松正『註釈軽犯罪法』(良書普及会,1949年2月)32頁)とされているところです。実務的に問題になるのは、「正当な理由」と、「その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」ですが、これは一概にはいえません。
相談の事例についていえば、「人の生命や身体に重大な害を加える可能性のある器具」といえるかがまず問題になります。後掲参考文献のとおり、木刀について該当性を認める記述もありますが、具体的な内容によります。また、「隠して」いたかについても争う余地がありますし、「正当な理由」についても争う余地があるでしょう。いずれにしても具体的な事案の分析が大事ですので、弁護士の面談相談をお勧めします。
軽犯罪法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000039/
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
最判平成21年3月26日刑集第63巻3号265頁
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=37481
判示事項
1 軽犯罪法1条2号にいう「正当な理由」の意義及びその存否の判断方法
2 軽犯罪法1条2号所定の器具に当たる催涙スプレー1本を専ら防御用として隠して携帯したことが同号にいう「正当な理由」によるものであったとされた事例
裁判要旨
1 軽犯罪法1条2号にいう「正当な理由」があるとは,同号所定の器具を隠して携帯することが,職務上又は日常生活上の必要性から,社会通念上,相当と認められる場合をいい,これに該当するか否かは,当該器具の用途や形状・性能,隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係,隠匿携帯の日時・場所,態様及び周囲の状況等の客観的要素と,隠匿携帯の動機,目的,認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断すべきである。
2 職務上の必要から,軽犯罪法1条2号所定の器具に当たる護身用に製造された比較的小型の催涙スプレー1本を入手した者が,これを健康上の理由で行う深夜路上でのサイクリングに際し,専ら防御用としてズボンのポケット内に入れて携帯したなどの本件事実関係の下では,同隠匿携帯は,同号にいう「正当な理由」によるものであったといえる。
(2につき補足意見がある。)
【参考文献】
伊藤榮樹原著・勝丸允啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房,2013年9月)58-59頁
【「その他人の生命を害し,又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」は,その前に掲げられている「刃物」及び「鉄棒」がそれぞれ性質上の凶器及び用法上の凶器であることから分かるように,性質上の凶器と用法上の凶器との双方を含むが,単に結果的に殺傷の用に供されたとか,あるいは,殺傷の用に供しようとすれば供し得るといったものでは足りず,その器具の性質上,ある程度殺傷の用に供されやすいものであることが必要である。したがって.ステッキ,小石.縄,手ぬぐい.バンドなどは本号の器具には当たらないものと解する。これに対し,木刀などが本号の器具に当たることはいうまでもないし(注8), いわゆるこん棒や野球用のバット.ある程度の太さ及び長さを有する角材のようなものは.通常本号の器具に当たるものといえる。高松高判昭28.3.9高刑集6巻4号428頁は,長さ約1.5メートルで.その先端を斜めにとがらせた竹棒について.本号の器具に当たるものとしている。】
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3110
須賀正行『擬律判断・軽犯罪法【第二版】』(東京法令出版,2022年11月)22頁
【護身用として自動車内に木刀を置いた行為が本号に違反しないとされた事例(京都簡判昭48. 2. 19 判夕302 • 313)
護身用に木刀を自動車内に置いていた行為について,これを実質的に考察すると,けんか闘争に使用する積極的意図がなく,正当防衛の純然たる準備行為であるか,そうでないとしても,健康維持のための素振りに使用する目的に出た社会通念上相当と認められる行為であるとして,本号の罪の成立を否定した事例がある。ただし,防衛準備行為が正当な理由がある場合に当たるとの判断には異論もある。】