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薬院法律事務所

企業法務

建物賃貸借契約書の「賃借人が差押え、仮差押え、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始の申立てを受けたとき」という条項は無効です


2019年11月15日読書メモ

建物賃貸借契約書に良くある条項として、「借主が差押えなどを受けたら契約を解除できる。」という、いわゆる信用不安解除条項があります。
まあ、普通はそれで解約しないから問題は表面化しないのですが、実は効力が認められない条項です。これで解約すると、裁判では負けます。

日本公証人連合会『新版 証書の作成と文例 借地借家関係編 〔改訂版〕』(立花書房,2014年9月)11頁

【(2) 無催告解除事由の一つとして、「賃借人が差押え、仮差押え、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始の申立てを受けたとき」と定める条項(以下、この項において「信用不安解除条項」という。)は無効である(最判昭和43. 11.21民集22・12・2726参照)。
これらの事由は、それ自体債務不履行(義務違反)になるものではなく、賃料不払の危険の徴表となるからといって、それが直ちに賃貸人との間の信頼関係を破壊し、賃貸借契約の継続を著しく困難にする事情であるとはいえないからである。したがって、信用不安解除条項を公正証書に記載すべきではない(公証人法26条参照)。ところが、一般に普及しているとみられる賃貸借契約書の書式には信用不安解除条項が存在することが多く、実務上、公正証書に同条項の記載を求められることも多い。信用不安解除条項をあえて残すとすれば、同条項は、その事由のみでは無効であるから、例えば、同条項に、「ただし、他の事情と相まって、賃貸人との間の信頼関係が破壊されたときに限る。」旨を書き加えることなどが考えられようか。】

 

最高裁のこういう判例があります。民集搭載。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55089

建物の賃借人が差押を受けまたは破産宣告の申立を受けたときは賃貸人はただちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、借家法第六条により無効である。

 

澤野順彦『判例に見る借地・借家における各種特約の効力』(新日本法規,2008年7月)197頁

【賃貸借契約において解除権が発生するのは、民法612条による賃借権の無断譲渡・転貸の場合のほか、賃料不払、用法違反、無断増改築禁止特約違反、賃貸借を継続し難い重大な背信行為がある場合等、賃借人に何らかの義務違反、帰責事由がある場合である。しかるに、一般的に差押えを受けたり、破産の申立てを受けることは、賃貸借契約上の賃借人の義務履行とは何ら関係のないことであって、せいぜい賃料不払の危倶あるいは賃借人としての信頼関係が失われたということが考えられるにすぎない。しかし、これらの賃貸人の主観的危倶、不安をもって契約解除権の発生根拠とすることは、合理的根拠なく借家法1条ノ2、借地借家法28条の趣旨に反し、賃借人に不利なものとして、無効と解するのが相当であろう。】