顧客名簿を持ち出した従業員に対する法的手段※chatGPTo1pro作成(企業法務)
2025年01月26日企業法務
あなたは企業法務と刑事事件のエキスパートです。今回、従業員100名を抱える企業から元従業員が顧客名簿を持ち出して同業他社を設立して、顧客に営業をかけているという相談を受けました。実際に10社以上顧客がその従業員が設立した会社に流れているそうです。顧客名簿は従業員であればだれでも社内のネットワークで見ることができるものです。印刷禁止という表記は画面上になされており、就業規則で秘密情報の持ち出し禁止という文言はありますが、顧客名簿が秘密情報にあたるという明記はなく、誓約書も取得していません。依頼者は、元従業員の事業をやめさせる、顧客を取り戻す、顧客が離れたことによる損害額を回収する、元従業員に刑事罰を与える、ということを希望しています。どういった戦略をとり、どういう証拠収集をするのか、元従業員に対してどんな書面を送るのか1万字以上で詳細に解説してください。
以下の解説は、あくまでも一般的な法的論点や実務上の対応策を整理したものであり、最終的には個別事情を踏まえ、弁護士や専門家と相談の上で対応を決定する必要があります。また、本回答は法的アドバイスを確定的に提供するものではありません。ご承知おきください。
第1章:問題の概要と依頼者の希望
1.1 事案の概要
- 企業規模:従業員100名を擁する企業(依頼者)。
- 被疑行為:元従業員が在職中または退職時に顧客名簿を持ち出し、同業他社を設立。
- 行為の内容:顧客名簿を基に顧客に営業をかけ、実際に10社以上の顧客が元従業員側に流出している。
- 管理状況:
- 社内ネットワーク上で従業員であれば誰でも閲覧可能。
- 画面上には「印刷禁止」との表示あり。
- 就業規則には「秘密情報の持ち出し禁止」の文言があるが、「顧客名簿が秘密情報にあたる」との明記はない。
- 誓約書(秘密保持契約等)は未取得。
1.2 依頼者の希望
- 元従業員の事業をやめさせたい
→ 競業行為の差止、営業活動の差止、廃業・競業禁止などの実現。 - 顧客を取り戻したい
→ 不正に奪われた顧客の回復、顧客との取引再開。 - 顧客が離れたことによる損害額を回収したい
→ 損害賠償請求や逸失利益の回収。 - 元従業員に刑事罰を与えたい
→ 刑事告訴(警察・検察が受理するかは別問題)。
第2章:法的評価の大枠
元従業員の行為が「不正競争防止法」の違反や、民事上の債務不履行・不法行為、さらには刑法上の罪に該当しうるかをまず検討する必要があります。また、そもそも顧客名簿が「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当するか、あるいは競業避止義務に違反しているかなどの論点があります。以下では主な論点を整理します。
2.1 不正競争防止法違反の可能性
不正競争防止法上、「営業秘密(trade secret)」を不正に取得・使用・開示する行為は違法とされます(同法2条1項7号〜9号、及び3条〜5条)。
営業秘密として認められるためには、以下の3要件が必要とされています(同法2条6項):
- 秘密管理性:事業者が合理的な管理をして秘密として管理されている情報であること。
- 有用性:事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること。
- 非公知性:公然と知られていないものであること。
本件では顧客名簿が社内ネットワークで「誰でも閲覧できた」という点が、秘密管理性を満たすか否かの争点となります。ただし「印刷禁止」の表示があり、就業規則でも秘密情報持ち出し禁止の規定があったとはいえ、顧客名簿が営業秘密だという認識を従業員に徹底させる措置がどれだけとられていたかが問題になります。要件を満たせば不正競争防止法違反として、差止請求や損害賠償請求が可能です。
2.2 民事責任(不法行為・債務不履行)
- 債務不履行責任:従業員には労働契約上、会社の利益に反する行為を控え、会社情報を適正に扱う義務(信義則上の付随義務、あるいは就業規則や雇用契約書上の秘密保持義務)が認められる場合が多いです。就業規則に「秘密情報の持ち出し禁止」の規定がある以上、それに違反した行為は債務不履行として損害賠償を請求される可能性があるでしょう。
- 不法行為責任:営業妨害や企業秘密の侵害があった場合には不法行為に基づく損害賠償が認められる可能性があります。名簿の持ち出し行為が会社の権利侵害と認定されるか否かがポイントとなります。
2.3 刑事責任
- 刑法上の業務上横領や窃盗:顧客名簿というのは「有体物」ではなく、データであるため、古典的な窃盗罪が成立するか否かは争いがあります。データの複製の場合、情報自体の窃盗は従来の刑法上は難しいとされてきました。しかし、データの不正持ち出しが「器物損壊罪」(データ損壊)や「不正アクセス禁止法違反」に該当する可能性も検討されます。
- 不正競争防止法違反の刑事罰:営業秘密を不正に持ち出した場合、不正競争防止法で刑事罰が科されることがあります。ただし、営業秘密要件を満たすことが前提です。
- 背任罪(刑法247条):従業員が在職中に自社の利益を損なう意図で顧客情報を不正利用し、自分の利益を図った場合に検討される可能性があります。もっとも、背任が成立するハードルは比較的高く、会社に「財産上の損害」が生じ、本人が「財産上の利益」を得ていることが必要となります。
- 信用毀損罪・業務妨害罪:元従業員が虚偽の情報を流布して顧客を引き抜いている場合には検討される場合がありますが、今回の事例ではそこまでの虚偽行為があるかは不明。
第3章:依頼者が取り得る法的手段と戦略
依頼者の希望(事業停止・顧客奪還・損害回収・刑事罰)を実現するために、以下のような手段を総合的に考えることが重要です。
3.1 差止・営業停止を求める
不正競争防止法に基づき「営業秘密侵害の差止」を請求できるか検討します。
営業秘密として認められる要件を満たすかが争点ですが、満たす余地があれば不正競争行為による差止請求を行い、元従業員の営業活動を制限することが可能です。
また、元従業員の設立した新会社(同業他社)の営業活動に対して直接差止を求めるためにも、「新会社が侵害行為を行っている」事実を立証する必要があります。
3.2 顧客奪還策
- 民事訴訟や仮処分による営業差止請求
元従業員の営業活動を止めることができれば、奪われた顧客を取り戻すための交渉をしやすくなります。ただし、顧客は契約自由の原則の下、どの業者と取引するかを基本的に自由に決定できるため、法的強制力で顧客を「連れ戻す」ことは難しい場合もあります。
しかし、不正行為による営業活動を強制的にやめさせれば、依頼者側が顧客との関係回復を図るための機会を確保できます。 - 営業努力による信頼回復
法的対応と並行して、自社の顧客へのフォロー、なぜ顧客が流出してしまったのかを分析し、サービス・価格・アフターケアなどの観点から関係再構築を図ることも重要です。単に法的措置だけで顧客が戻るわけではなく、顧客のメリットを再提示することが必要となります。 - 営業秘密侵害による損害賠償請求とともに交渉
元従業員や新会社に対し、損害賠償請求を行う前提で交渉に入り、その中で「顧客情報の使用停止」「既に奪われた顧客への働きかけ停止」を条件とした和解案を提案することも考えられます。
3.3 損害賠償請求
- 不正競争防止法に基づく損害賠償:営業秘密が成立すれば、侵害を理由として損害賠償を請求可能。
- 債務不履行または不法行為に基づく損害賠償:就業規則違反、秘密保持義務違反(会社に対する義務)の違反として、損害の発生(逸失利益も含む)を立証の上、賠償を請求する。
損害額の算定は非常に難しく、通常は流出した顧客の売上高や営業利益をベースに算出されることが多いですが、確実な立証が必要です。
3.4 刑事告訴
- 不正競争防止法違反での告訴:営業秘密侵害が認められるなら、刑事告訴が可能となります。ただし、捜査機関が立件するかどうかは証拠や案件の明白性によります。
- 背任罪・窃盗罪・業務上横領罪などでの告訴:実務上、会社データの不正持ち出しが古典的な窃盗や横領として扱われるかは微妙な場合も多く、最終的には警察・検察の見解次第です。「データは無体物だから窃盗罪は成立しにくい」という判例上の通説があり、不正アクセス禁止法や不正競争防止法の領域に移行することが多いです。
- 告訴の効果:刑事事件化すれば元従業員や新会社への圧力になる可能性は高いですが、捜査機関が動かない可能性も視野に入れる必要があります。
第4章:証拠収集の方法とポイント
法的手段を講じる際の最大の課題は証拠です。 顧客名簿の不正取得と利用の事実をいかに立証するかが鍵となります。以下、具体的な収集・保全策を示します。
4.1 顧客名簿の秘密管理性に関する証拠
- アクセス制限や運用ルール
- 顧客名簿にアクセスできる権限が全従業員にあったのか、部門限定だったのかを明確化。
- 「印刷禁止」の画面表示の有無や、ダウンロード制限等の技術的措置を取っていたかどうか。
- 就業規則や社内規程の写し(顧客名簿が機密情報である旨の記載がない場合でも、“一般的な秘密保持義務”の規定があるなら、その範囲や運用状況など)。
- ID・パスワード管理
- いつ、誰が、どの端末からアクセスしたかのアクセスログ。
- 元従業員が退職直前に大量に閲覧やコピーをしていた形跡があれば証拠として有力。
- 研修や啓発の履歴
- 従業員に対して秘密情報管理の研修を行った記録や、社内メールのアナウンス、掲示物など。
4.2 元従業員の不正行為に関する証拠
- 顧客への営業連絡の内容
- 元従業員から顧客に送付されたメールやDMなどがあれば、会社の内部情報を利用しているかの痕跡を確認。
- 「どこから顧客情報を知ったのか」を顧客が問い合わせたメール・メッセージがあればなお良い。
- 新会社の設立時期と営業活動のタイミング
- 登記情報(設立日や代表取締役)を取得。
- 退職前から準備していた場合は、会社の在職中に行った背任行為の可能性が高まる。
- 顧客へのヒアリング
- 「なぜ取引先を変えたのか」「どのような営業を受けたのか」を聞き取り、元従業員が自社の内部情報を使って優位に立った形跡を固める。
- 顧客がどのようなアプローチを受けたかを記録化・証言化しておく。
4.3 デジタルフォレンジックの活用
- 元従業員のPCやスマートフォン、USBメモリなどの記録媒体が会社所有物であれば、退職時に返却を受け、デジタルフォレンジックの専門家に解析を依頼するのも有力な手段です。
- ただし、プライバシーや個人情報保護の問題もあるため、社内規程で「会社PCは業務以外での使用不可」「退職時にはすべての機器を返却する義務がある」旨を明確にしていた場合に限り、比較的スムーズに調査が可能となります。
4.4 仮処分の検討
- 証拠保全手続
本案訴訟に先立ち、顧客リストや通信履歴などの証拠を保全するため、裁判所に証拠保全を申し立てることができる場合があります。 - 刑事告訴に伴う捜査
刑事告訴が受理されれば、捜査機関による強制捜査で新会社や元従業員の端末を押収する可能性もあります。ただし、告訴が受理されるか、捜査機関がそこまで積極的に動くかはケースバイケースです。
第5章:実務上の戦略
5.1 第一段階:事実関係の把握・社内調査
- 社内ログ・メールの調査
- 顧客名簿へのアクセス履歴、社内メール・チャットなどで元従業員がどのような動きをしていたのかを調べる。
- 退職前後で不自然な操作やデータ持ち出しの形跡を確認する。
- 顧客への聞き取り・記録化
- 可能な範囲で顧客に連絡し、元従業員からのアプローチ内容を確認する。
- メールや電話の具体的な内容、営業資料の有無、元従業員が自社情報をどの程度使っているかをヒアリングし、客観的な証拠を確保する。
- 役員・管理職との打合せ
- 会社としてどういった対応を取るか方針を固める。
- 刑事手続を重視するか、それとも民事で早期解決を目指すか。依頼者の強い意向があれば刑事告訴も検討するが、立証困難な部分が多い場合は民事中心で進める方が現実的という見方もある。
5.2 第二段階:相手方への警告・交渉(書面送付)
元従業員およびその設立した会社に対して、まずは内容証明郵便等で「警告書」を送付し、不正行為の即時停止と損害賠償などの交渉を促すステップです。文面のポイントは以下の通りです。
- 契約違反・就業規則違反の主張
- 就業規則で秘密情報持ち出しが禁止されている旨を明示。
- 元従業員が退職前・退職後にそれに違反していることを指摘。
- 不正競争防止法違反の可能性
- 顧客名簿が営業秘密に該当するとの立場を示す。
- 不正取得・不正使用行為は同法違反であり、刑事罰の可能性があることを示唆。
- 差止請求・損害賠償請求の意向
- これ以上の営業利用を行わないよう要求し、利用・開示が継続されれば法的手段(民事・刑事)をとる旨を明確に伝える。
- 既に生じた損害については損害賠償請求を検討していると通知。
- 一定期間内に回答を求める
- 通常、2週間〜1か月程度の期間を設定し、回答や謝罪、侵害行為の停止措置を求める。
- 応じない場合は直ちに法的措置に踏み切る旨を明記する。
5.3 第三段階:法的手続の準備
相手の対応次第では、以下の法的手段を講じます。
- 民事訴訟(不正競争防止法に基づく差止・損害賠償)
- 営業秘密該当性と不正取得・使用を立証し、顧客名簿の利用差止、損害賠償を求める。
- 同時に、仮処分により緊急的な差止を狙うことも有効。
- 不法行為または債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟
- 就業規則違反を根拠に会社の被った損害を立証し、賠償を請求する。
- 刑事告訴
- 不正競争防止法違反や背任罪などにあたる行為の事実を証拠とともに警察・検察に提出。
- 捜査機関が動く可能性があれば、相手への圧力としても機能する。
第6章:元従業員に送る書面(例)
以下に、内容証明郵便で送る「警告書」または「催告書」の例文を示します。実際には専門家と相談の上で文面を調整する必要がありますが、構成例としてご参考ください(本回答は1万字超を目的としているため、詳細・例示を拡大して記載します)。
【書面サンプル】
件名:貴殿による当社顧客名簿の不正使用等に関する警告書
令和○年○月○日
○○(元従業員氏名) 殿
住所:○○県○○市○○町○丁目○番地
差出人:株式会社○○○○
代表取締役 ○○ ○○
住所:○○県○○市○○町○丁目○番地
拝啓 貴殿におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、当社は貴殿が当社を退職後、設立したとされる株式会社○○○(以下、「貴社」といいます)において、当社の顧客名簿を不正に使用して営業を行い、当社の顧客を奪取している事実を確認いたしました。つきましては、当社として以下のとおり申し入れます。
第1 事実関係
- 当社顧客名簿に関する情報管理体制
当社は、従業員各位に対して就業規則その他の社内規程により、顧客情報を含む営業上の機密事項を社外へ持ち出すこと、または在職中および退職後を問わず無断で第三者へ開示することを厳しく禁じております。また、当社のネットワーク上で管理されている顧客名簿には「印刷禁止」の文言を明示し、利用履歴を監視・保存するなど、営業秘密としての管理措置を講じています。 - 貴殿の在職中の立場
貴殿は当社在職中、営業部門の社員として顧客情報を取り扱う立場にあり、貴殿が当該顧客名簿にアクセスできたのは専ら業務目的のためであったことは明白です。 - 貴殿の退職後の行為
当社が把握している情報によれば、貴殿は退職後、直ちに株式会社○○○を設立し、当社の主要顧客であるA社・B社・C社ほか複数社に対し、貴殿の新会社のサービスを紹介する営業行為を行いました。当社が顧客へ確認したところ、貴殿が当社のみが把握していた顧客の個別情報(担当者名・購買履歴・条件面)を踏まえた提案を行った事実が判明しております。
以上の事実は、貴殿が在職中に知り得た当社の顧客情報を無断で取得・使用していることを強く示唆するものであり、当社としては、就業規則違反はもちろん、不正競争防止法上の営業秘密侵害に該当する重大な行為と認識しております。
第2 法的評価
- 就業規則および誠実義務違反
当社就業規則には、秘密情報の持ち出しや退職後の不正利用を厳に禁ずる旨が明示されております。貴殿がこれに違反した場合、債務不履行責任を免れないほか、当社に対する損害の賠償責任を負うこととなります。 - 不正競争防止法違反
当社は、問題の顧客名簿につき、秘密として管理し(秘密管理性)、公に入手可能な情報ではなく(非公知性)、営業上有用な情報である(有用性)と考えており、不正競争防止法第2条第1項各号の不正行為に該当する可能性が高いと判断しております。貴殿の行為は、同法に基づき差止請求や損害賠償請求の対象となるのみならず、刑事罰の対象となる場合もあります。 - 刑法上の背任罪または不正アクセス禁止法違反等の可能性
貴殿が在職中の立場を利用して当社ネットワーク上の機密情報を不正に取得したと認められる場合、背任罪(刑法第247条)や不正アクセス禁止法違反となり得る可能性も否定できません。当社としては、これら刑事事件としての告訴も視野に入れて対応を検討する所存です。
第3 要求事項
当社は、貴殿および株式会社○○○に対し、下記の措置を速やかに実施するよう求めます。
- 当社顧客名簿の使用停止と破棄
直ちに、当社の顧客名簿およびそれに基づき作成された営業資料・データ等を使用する行為を停止し、物理的・電子的にすべて破棄してください。 - 当社顧客への接触の禁止
退職後に当社顧客と接触を図る行為は、当社の権利利益を著しく侵害するものであり、今後一切行わないことを要求します。 - 損害賠償に関する協議
貴殿の行為により当社が被った損害(顧客流出による売上減少、逸失利益、調査費用等)について、貴殿と協議の上、損害賠償に関する具体的な手続きと金額を決定することを求めます。 - 保証書の提出
上記1および2に関して、貴殿および貴社が今後一切、不正競争防止法等に違反する行為を行わない旨の誓約書を速やかに提出してください。
第4 回答期限
本書面到達後、2週間以内に文書にて回答をお願いいたします。期限内に誠意ある回答が得られない場合、当社としては貴殿に対する損害賠償請求訴訟および刑事告訴を含む厳正な法的措置を講じざるを得ませんので、予めご了承ください。
第5 その他
本書面に記載の内容は、貴殿の行為に対する最低限の主張・要求事項であり、今後の調査・協議の過程で追加の請求・主張を行う場合があります。なお、本件に関しては当社顧問弁護士に一任しており、貴殿が弁護士を通じて当社と協議されることを強く推奨いたします。
敬具
第7章:その他留意点
7.1 顧客との信頼関係の再構築
法的手段だけで顧客を取り戻すのは難しく、むしろ会社としては迅速なフォローアップが重要です。
- 流出した顧客に対し、改めて正当な方法で営業アプローチを行う。
- 流出の経緯を説明しつつ、サービス向上施策などをアピールすることで、顧客関係の修復を図る。
7.2 社内規程・誓約書の整備
本件を教訓に、再発防止策を整えることも重要です。具体的には以下の点が考えられます。
- 顧客名簿を「営業秘密」として明確に定義し、就業規則や秘密保持規程により「営業秘密」である旨を社内で周知。
- 退職時に秘密保持誓約書を必ず取得する運用を徹底。
- アクセス権限を業務担当者のみに厳格化し、定期的にログを監視する。
- 印刷・ダウンロードの技術的制限をより強化する。
これらの措置によって、今後同様の事案が発生した際に不正競争防止法上の「秘密管理性」をより確実に立証しやすくなります。
7.3 刑事告訴の実効性
依頼者としては「元従業員に刑事罰を与えてほしい」という強い要望がありますが、実際に警察や検察が立件・起訴するかは別問題です。
- 実務上、民事的な紛争として処理されるケースも多い。
- ただし、明確な証拠がある場合や悪質性が高い場合は、警察が捜査に乗り出すこともある。
- 告訴状を提出する際は、どの犯罪要件に該当するかを明示し、証拠を整理してわかりやすく提出する必要がある。
7.4 時間とコストの試算
民事訴訟、刑事告訴、仮処分など、どの手続も時間と費用がかかります。
- 弁護士費用、裁判所の手数料、調査費用など。
- 訴訟が長引けば1年〜2年以上かかる場合もある。
- 顧客奪還を最優先にするなら、早期の和解・交渉も視野に入れるべき。
第8章:結論と実務対応フロー
- 証拠固め(社内調査・ログ確認・顧客ヒアリング)
- 顧客名簿が営業秘密に該当しうるだけの管理実態があるかを詳細に立証。
- 元従業員が名簿をダウンロード・コピーした具体的証拠を集める。
- 顧客流出の状況を把握し、損害額を概算でも算定。
- 内容証明郵便による警告
- 不正使用の停止・損害賠償・営業活動差止を要求し、一定期間内の回答を促す。
- 無視された場合は即座に法的措置に移行するという姿勢を示す。
- 民事的手続
- 不正競争防止法や債務不履行・不法行為を根拠に損害賠償請求・差止請求を検討。
- 必要に応じて仮処分を申立て、早期に侵害行為を止めることを狙う。
- 刑事告訴
- 不正競争防止法違反や背任罪等での告訴を検討。
- 告訴状を作成し、証拠資料を整え、警察・検察へ提出。
- 受理・捜査の動向を見ながら、相手方との交渉を有利に進める。
- 顧客対応
- 法的手続と並行して、会社としては失った顧客との関係修復を図る。
- サービスの品質向上や価格面での優位性を打ち出し、再度契約を取り戻す努力を行う。
- 社内体制の見直し
- 秘密管理規程やセキュリティ体制を強化し、今後のリスクを低減。
- 退職時の秘密保持誓約書取得や、権限管理の厳格化を徹底。
第9章:想定されるQ&A
Q1. 顧客が「元従業員の方が条件が良いので乗り換えた」と言っている場合、取り戻すのは難しい?
- A1. 競業は原則自由ですが、不正取得した営業秘密を利用して顧客を奪取した場合には、法的手段でその行為を止めさせることができます。しかし、顧客が新会社との取引を自主的に続行したいという意思を持っている場合、法的に顧客の意思を強制的に変えさせることは困難です。よって、条件面やサービス面で改めて魅力を提示して、顧客が自発的に戻るよう働きかけることが基本となります。
Q2. 顧客名簿が「営業秘密」に当たらない場合はどうなる?
- A2. 営業秘密の要件を満たさない場合でも、就業規則違反や民法上の信義則違反、不法行為などを根拠に損害賠償を請求できる可能性は残ります。ただし、不正競争防止法による差止請求など、法的保護の範囲が限定される場合があるため、立証戦略には工夫が必要です。
Q3. 刑事告訴をすれば必ず捜査が始まる?
- A3. 刑事告訴をしても、警察・検察が証拠不十分として動かなかったり、起訴猶予となる可能性もあります。ただし、会社として「法的に厳正に対処する意思」を示すことで、元従業員への抑止効果や交渉上の優位性を得られることが多いのも事実です。
Q4. どれくらいの損害賠償を請求できる?
- A4. 具体的には「流出した顧客から得られるはずだった利益」の立証が焦点です。たとえば、過去数年の平均売上・利益をベースに算出することが多いですが、逸失利益の算定は裁判所で厳密に吟味されるため、数字の裏付けが不可欠です。顧客が何社流出したか、単価や契約期間、将来の継続性などを勘案し、合理的に推計する方法が主流です。
Q5. 元従業員に競業避止義務を課すことはできる?
- A5. 通常、競業避止義務を課すには就業規則や労働契約で明示的に合意が必要となります。日本の労働法制では労働者の職業選択の自由を尊重する立場から、競業避止義務は厳しく制限されています。ただし、営業秘密の保護を目的とした競業避止義務は適切な対価や期間・地域的範囲の限定があれば一定程度認められる余地があります。本件では明示的な競業避止契約がないようなので、後付けで強制するのは難しいかもしれません。
第10章:まとめ
本件においては、元従業員が顧客名簿を不正に持ち出し、新会社を設立して顧客を奪ったという重大な問題が発生しており、依頼者が求める「事業停止・顧客奪還・損害回収・刑事罰」の実現には次のステップが不可欠です。
- 証拠の徹底収集:アクセスログ、メール履歴、顧客からのヒアリング結果などを精査し、顧客名簿が営業秘密に該当すること、元従業員が不正に利用したことを立証できる資料を集める。
- 警告書の送付と交渉:内容証明で警告書を送付し、不正行為の差止と損害賠償を要求。回答がなければ法的手段へ移行する姿勢を示す。
- 民事手続による差止・損害賠償請求:不正競争防止法や債務不履行・不法行為を根拠に訴訟や仮処分を起こし、営業利用を止めさせる。
- 刑事告訴の検討:警察・検察が動くかはケースバイケースだが、告訴することで元従業員への圧力となり交渉を有利に進められる可能性がある。
- 再発防止策・顧客フォロー:同時進行で社内規定を強化し、顧客をフォローアップして関係回復を図る。
特に、元従業員に刑事罰を与えるには警察・検察の捜査が必須であり、捜査機関が積極的に動くために刑事事件として成り立つだけの具体的証拠を提示することが重要です。会社側で実施できる調査と並行して、弁護士と連携しながら告訴状の作成と証拠の整理を進めるのが現実的です。
最終的に、法的措置が奏功し、または交渉段階で元従業員や新会社が譲歩すれば、事業停止や顧客名簿の破棄、損害賠償の支払いなどの形で解決が図られる可能性があります。ただし、その過程で時間と費用がかかることや、顧客対応が重要であること、立証のハードルがあることを踏まえて戦略を立てることが肝要です。
【重要な留意事項】
- 本回答は、一般的な企業法務・刑事事件の観点から、典型的な対応策や論点を整理したものです。
- 個別事案では証拠の内容や会社内部の規程整備状況、元従業員との雇用契約の詳細などによって結果は大きく変わります。
- 実際には弁護士や専門家と相談し、具体的な対応方針・書面の文言を練り上げる必要があります。
(以上、1万字を超える分量を目安として詳細に解説いたしました。実務ではさらに細部の文言や証拠収集の具体手順、裁判手続の選択肢などを精査しながら進めることとなります。)
※元従業員側からの反論記事です