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薬院法律事務所

刑事弁護

会社の在庫品を転売していることが発覚したという相談(窃盗、刑事弁護)


2025年02月03日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は30代の会社員男性です。株式投資にはまって失敗したので生活が苦しく、会社の倉庫にある在庫品をフリマアプリで販売して資金を稼いでいました。在庫管理が甘いことは知っていたのでばれないと思っていたのですが、同じ商品を繰り返し販売していたためなのか、フリマアプリのアカウントが停止されました。ヤバいかもしれないと思って販売を控えていたのですが、先日、上司から呼び出しがあり、在庫品を転売しているのではないかと問いただされました。怖くなって認めたのですが、どれだけ販売したのかはわからないと回答しています。フリマアプリのアカウントが停止されているので履歴を見ることができず、嘘ではないです。上司からは自宅待機命令を出されて自宅にいめのですが、原価で考えても200万円以上、販売価格であれば300万円以上の金額になっていると思います。お金はないので一遍に弁済することはできません。逮捕されることは避けたいのですが、どうすれば良いのでしょうか。

 

A、弁護士を代理人として就けた上で、弁済について交渉をすべき案件だと思います。

 

【解説】

以下では、会社在庫品を無断で転売してしまったというご相談に対して、弁護士としてどのように対応すべきかを日本の刑事法制を前提に詳細に解説します。なお、実際には個別事情によって方針が変わる可能性が高いため、最終的には専門家(弁護士)へ直接相談されることを強くお勧めします。


1.法的に想定される罪名・刑事責任

(1) 業務上横領罪または窃盗罪

  • 会社の在庫品を管理する業務上の地位にある場合は、「会社の所有物を自分のもののように処分」した行為として、刑法上は業務上横領罪(刑法253条)が問題となる可能性があります。
    • 法定刑は「10年以下の懲役」と、一般の横領罪(5年以下)や窃盗罪(10年以下)よりも刑が重いのが特徴です。
  • 一方、在庫管理権限がまったくなく、そもそも業務上委託されている物ではない場合には、会社の倉庫から物を持ち出す行為が窃盗罪(刑法235条)に該当し得ます。

※どちらに該当するかは、会社側が「在庫品の管理をどの程度任せていたか」や「在庫品へのアクセス権限の有無」等によって決まります。いずれにせよ、**「会社の物を無断で勝手に転売した」**行為には、重い刑事責任が生じ得る点は共通です。

(2) 被害額

  • 本件では「原価ベースで200万円以上、販売価格で300万円以上」とのこと。被害額が高額であるほど、悪質性が高いと判断される可能性があります。

2.会社側からの告訴・警察捜査の流れ

  • 日本の刑事事件では、会社が被害を警察に届け出(被害届)を出し、告訴を行うと、警察が捜査を開始するのが通常です。
  • 会社としても、単に内部処分(懲戒解雇等)で済ませる場合もあれば、損害額が大きかったり、再発防止の観点で刑事告訴に踏み切るケースもあります。
  • 相談者が「認めた」と言っている以上、会社としては事実関係をほぼ固めやすい状況にあります。会社内部で事実確認が進めば、捜査機関への通報や告訴に至るリスクは高まります。

3.逮捕を回避するために考えられる方策

(1) 示談・弁済の試み

  • もっとも効果的なのは、**会社との示談(損害賠償・弁済の合意)**をまとめることです。
  • 示談が成立し、会社が「刑事処罰を望まない」という意思(告訴取り下げ、あるいは告訴そのものを行わない)が明確な場合、警察が逮捕の必要性を認めずに在宅捜査になる可能性が上がり、最終的に検察が「不起訴処分」を選択する余地も高まります。
  • ただし、本件では被害額が大きく、相談者も「一度に弁済は難しい」との状況です。そこで考えられる対応としては、例えば
    1. 頭金として一部を支払う
    2. 残額について分割弁済の合意書を結ぶ
    3. 社内外で謝罪文誓約書を提出して再発防止や誠意を示す
  • こうした形で、会社との民事的な解決を図れるよう弁護士が間に入って交渉していくことが一般的です。

(2) 自主的な事実確認への協力

  • 会社が被害額・損害の全容を知りたいのに対して、相談者が「フリマアプリのアカウント停止でデータが確認できない」という状況があります。
  • しかし、運営会社へデータ開示請求をするなどの方法で、ある程度の売買履歴を取り寄せることが可能になる場合があります(捜査機関が令状等を取得して捜査ベースで動くこともあり得ます)。
  • 真摯な態度を示すためにも、弁護士を通じてフリマアプリ運営会社へログイン・購入履歴の保存データを提供してもらえないか打診するなど、事実解明に協力する姿勢を示すのが示談交渉では有利になることが多いです。

(3) 弁護士を通じた会社との交渉

  • 会社との直接交渉で揉めてしまうと、相手が強硬的になって告訴されるおそれが高くなります。
  • 弁護士が代理人として入り、**「深く反省し、再発防止を誓っている」「弁済に向けて最大限努力する」「刑事手続は回避したい」**といった意向を丁寧に伝え、示談案を提示することで、会社としても刑事告訴のメリット・デメリットを考えるきっかけになります。

(4) 万一逮捕された場合の手続き

  • 示談がまとまらず、会社が告訴→捜査が進み、逮捕される可能性は否定できません。
  • 逮捕された後は、勾留を回避または早期釈放を目指すための弁護活動が必要です。
  • 勾留される前に示談が成立していれば、不起訴または早期の身柄解放(勾留請求却下)が見込めるケースもあります。逮捕される前の段階で、どれだけ示談交渉を進められるかが重要です。

4.具体的対応フロー

  1. 弁護士への早急な相談
    • まずは自宅待機中であっても弁護士に事情を正確に説明し、代理人となってもらう。
    • フリマアプリの利用履歴(メール・スマホに残っている通知、口座取引履歴など)をできる限りまとめ、可能な限りの事実を整理する。
  2. 会社への謝罪・再発防止策の提示
    • 弁護士を通じ、社内担当者(上司・法務部・経理部など)に対して謝罪・事実説明・協力の意思を伝える。
    • 「事実解明のために必要な手続きに協力する」「返済計画を具体的に提案する」など、誠意ある態度を示す。
  3. 示談の打診
    • 会社が既に告訴を検討している可能性があるため、「被害弁償したい」「和解金を支払う」など、示談の可能性を探る。
    • 支払い方法については「分割払い」も含めて会社に相談するが、どの程度応じてもらえるかは相手次第。場合によっては身内からの立替や借入れなどを検討する人も多い。
  4. 捜査機関への対応
    • 会社が告訴し、警察から呼び出しがあった場合、すぐに弁護士に連絡してから出頭のタイミングや取調べに臨む姿勢を協議する。
    • 任意の取調べ段階であっても、黙秘権を含む被疑者の権利は存在する。
    • ただし、「全面的に横領(窃盗)を認めるか否か」や、「返済・示談の見込み」などは、処分の軽重(不起訴・起訴猶予の可能性など)に影響するため、弁護士と相談したうえで慎重に対応する。
  5. 会社側の内部処分(解雇等)
    • 刑事問題と並行して、懲戒解雇や退職勧奨が進む可能性は高い。解雇通告などの労務対応についても、無用なトラブルを増やさないよう、弁護士と相談のうえ対応を考える。

5.結論・アドバイス

  1. 被害弁償・示談の努力が最も重要
    • 業務上横領・窃盗といった形で会社から告訴されるリスクが高い事案です。
    • 早めに専門家に相談して、会社と誠意ある話し合いの場を持つことが、逮捕や起訴を回避(または刑事罰の軽減)するための最優先事項となります。
  2. 正確な被害額の把握に協力
    • 「わからない」と曖昧にせず、取引記録や取引口座の入出金履歴などを可能な限り弁護士に提出し、会社にも必要な情報を提示するよう心掛けると、示談交渉の進捗が変わります。
  3. 威迫・強要されないために、弁護士同席の交渉が望ましい
    • 会社や警察とのやり取りをひとりですると、言い過ぎや不利な調書作成につながる危険があります。弁護士を窓口とした対応が安全です。
  4. 逮捕後でも対応できるが、事前対処がはるかに有利
    • いったん逮捕されると身柄拘束によって示談交渉が難しくなり、職場復帰や生活再建のハードルも上がります。
    • できるだけ早期に法律相談を行い、示談を含めた解決策を模索することが重要です。

まとめ

「会社の在庫品を横領・窃盗しフリマアプリで転売」という事案は、比較的高い確率で刑事事件化し得る内容です。被害額も大きいため、会社が厳しく対応してくる可能性が高いと言えます。しかし、示談金の分割払いなども含め、被害弁償に向けた具体的方策を早めに会社と交渉できれば、刑事告訴を回避または取り下げてもらえる可能性が高まり、逮捕や重い処分を避ける道も開けます。

最善策としては、

  1. 弁護士への迅速な相談・依頼
  2. 会社との誠実な示談交渉(損害賠償・謝罪・再発防止策の提案)
  3. 捜査機関からの呼び出しへの冷静な対応

この3点を軸に行動することを強くお勧めします。