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薬院法律事務所

一般民事

芸能事務所を辞めようとしたら多額の違約金を請求されたという相談(労働問題)


2025年02月07日労働事件(一般民事)

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は19歳の大学生です。芸能界に興味があり、SNSでコスプレの写真などを匿名であげていたのですが、芸能事務所を名乗るアカウントからDMがきました。聞いたことのない事務所だったので検索するとホームページがあり、社長は元大手プロダクションでタレントのマネージャーをしていた女性ということでした。地元に帰って、タレントの立場にたった事務所をしたいということで活動されているということで、オフィスもありましたし、スタッフの方も皆さん女性で安心できるかなと思いました。そこで、両親にも相談して契約をしたのですが、実際に入ってみるとレッスン料といってお金を取られたり、コンパニオンのような仕事をふられたりして、思っていたのと違うので辞めたいといいました。すると、それまで優しかった社長が豹変して、「辞めるなら3年契約だから違約金として300万円支払ってもらうから」と言われました。契約書を弁護士さんに見てもらうと「マネジメント契約」となっていて、私が、事務所に私のプロデュースを依頼するという内容になっているといわれました。私は個人事業主になるから労働法や消費者契約法の適用外といわれ、途方にくれています。事務所の言う通りにSNSも更新したりして一生懸命頑張っていたのに、だまし討ちにあった気分です。違約金を払わずに辞めたいのですが、どうすれば良いでしょうか。

 

A、仮に表面的にはあなたが事務所にプロデュースを依頼するとなっていたとしても、実質が労働契約であれば労働法の適用対象になります。労働法に詳しい弁護士を代理人について事務所と交渉されてください。

 

【解説】

※以下の回答は、あくまで一般的な法的観点からの情報提供であり、最終的な判断には実際に弁護士へ相談のうえ、具体的な助言を得る必要があります。実際の事例では契約書の内容ややり取り、事務所の実態などを精査する必要がありますので、あくまで参考としてください。


1. 前提整理

  • 契約の形式
    契約書上は「マネジメント契約」となっており、「あなた(タレント候補)が事務所にプロデュースを依頼する」形になっている。

    • 事務所側の主張:あなたは「個人事業主」であり、労働法(労基法など)や消費者契約法は適用されない。
  • 現状
    • レッスン料などを支払う義務を負わされている。
    • 実質は「コンパニオンのような仕事」をさせられている。
    • 辞めたいと申し出たところ、社長から「3年契約であり、違約金300万円を支払う必要がある」と要求された。
  • あなたの要望
    • 違約金を支払わずに辞めたい。

2. 法的論点

(1) 本当に「個人事業主」扱いでよいのか

  1. 実態による判断
    契約書上「個人事業主」であると記載されていても、実態が「労働者的な従属関係」にある場合は、労働関係法規が適用される可能性があります。

    • 具体的には、仕事の指示やスケジュール、活動場所、SNSの更新内容等を事務所が細かく管理している場合、報酬の計算方法など、総合的に見て「従属関係」が強い場合は労働者性が認められる場合があります。
    • ただし、芸能マネジメント契約において、タレントを「個人事業主」として扱うこと自体は珍しくありません。一方で、本来の芸能マネジメント契約と異なり、レッスン料をタレントに負担させたり、コンパニオン業務など意図しない仕事をさせたりしている場合、その実態が「労働契約に近いもの」と判断される場合もあります。
  2. 年齢による影響
    • 2022年4月の民法改正により、18歳から成人となります。よって、あなたは19歳ですから「未成年者取消権」は基本的に行使できません。

(2) 消費者契約法の適用可能性

  1. 消費者とは?
    • 消費者契約法上、「事業としてまたは事業のために契約する者」は消費者に該当しないとされています。
    • ただし、あなたが「芸能活動を始める目的で契約した」=「事業のための契約」と判断される可能性がある一方で、「まだ実績がない素人の段階で、単に夢を抱いて契約しているだけ」と評価できる場合は、消費者とみなされる可能性も完全には否定できません。
    • 実務的には「芸能事務所とマネジメント契約を結んだタレント候補」が消費者に当たるかどうかはグレーですが、高額のレッスン料等を請求するスカウトビジネスのトラブルでは、消費生活センターなどを通じて消費者として保護される事例も見受けられます。
  2. 不当条項(不当な違約金)
    • 消費者契約法9条では、消費者の利益を一方的に害する条項(違約金条項を含む)が無効とされる場合があります。
    • 仮に消費者契約法が適用されなくても、民法の一般原則(公序良俗や信義則等)に照らして、違約金が高額すぎる場合は裁判所によって減額される可能性はあります(民法の「過大な違約金の減額」規定)。

(3) 民法上の「錯誤」「詐欺」「強迫」などによる取消や無効主張

  • 初期説明と実際の乖離
    • 事務所が「地元に根ざしてタレントの立場に立った活動をする」と説明していたのに、実態は高額なレッスン料を払わせ、コンパニオン的な仕事を強要するなど、「説明と実際が大きく乖離していた」場合、詐欺や不実告知に該当する恐れがあります。
    • 詐欺まではいかなくても、重要な事項について誤認させるような説明があった場合は取消しの余地があり得るので、具体的なやり取り(DMや面談時の説明内容など)の証拠が重要です。
  • 脅迫的な言動
    • 「辞めるなら違約金300万円」と過度に脅されている場合、強迫とまでは言えなくても、心理的圧力をかけられている状態とも言えます。内容や言い方、脅しの程度によっては不法行為や公序良俗違反を構成する可能性があります。

(4) 違約金条項の妥当性

  • 芸能契約において、一定の違約金(解約金)が設定されること自体は、必ずしも違法ではありません。制作コストやマネジメントコストを事務所が負担している場合、その回収を目的として設定されることもあるからです。
  • しかし、実際に3年間で発生しうる費用や逸失利益をはるかに超える高額な違約金は公序良俗違反や民法上の減額の対象になり得ます。
  • とくに、あなたが支払ったレッスン料等が既に高額である場合、さらに300万円という違約金は過度に思われる可能性が高いでしょう。

3. 考えられる対応策

  1. 弁護士へ依頼し「契約無効・取消もしくは解約による違約金の不存在または減額」を主張する
    • 契約書の内容や経緯を精査し、「消費者契約法の適用」「詐欺または重要事実の不実告知」「公序良俗違反に基づく無効」などを検討し、違約金の支払義務がない、もしくは著しく高額なため減額の余地があると交渉・主張する。
    • 事務所と直接やり取りをすると感情的になりやすいので、弁護士名で内容証明郵便を送るなど、法的に整理した形で交渉するのが望ましい。
  2. 消費生活センターに相談
    • 実際に芸能スカウトや高額レッスン料をめぐるトラブルは多いため、自治体の消費生活センターも事例を把握している可能性があります。消費者契約法適用の余地など、行政機関としての助言を受けられる場合もあります。
  3. 契約書やレッスン料の支払い実績などの証拠確保
    • SNSでのDM、メール、LINEなど、勧誘時の説明内容が分かるやり取り。
    • レッスン料やその他費用の領収書・振込明細。
    • 契約書に記載された条項と実際の事務所からの指示・仕事の内容。
    • これらの資料は、後日交渉や裁判になった際の重要な証拠となりますので、必ず保管しておくことが大切です。
  4. 未成年であった場合の取消(※ただしあなたは19歳)
    • 現在は19歳であり、2022年4月以降は18歳から成人として扱われます。よって「未成年者取消権」は行使できません。
    • ただし「成人とはいえ社会経験が少ない学生」である点を交渉材料として、不当な契約は無効または取り消されるべきという方向で主張することは可能です。
  5. 万が一、強引な取り立てや名誉毀損的行為があれば
    • 違約金を強引に取り立てるため、脅迫や暴力行為、SNSでの誹謗中傷などが行われた場合は、警察や弁護士会への相談も検討する。

4. 最終的な方針

  • 法的根拠を整理し、まずは契約解除の意思を明確に伝える
    • 口頭だけで伝えるのではなく、内容証明郵便などで「事務所の説明と実態が著しく異なる」「不当な違約金条項を容認できない」旨を書面で通告し、契約を終了したい旨を伝える方法が一般的です。
  • 弁護士のサポートを受けて交渉・法的手続へ
    • 事務所側が強く抵抗する場合は、あなた自身で交渉するのは負担が大きく、精神的にも厳しいものがあります。
    • 高額な違約金を請求された場合には、弁護士を通じた交渉で「実質的に消費者として保護されるべき」「詐欺的な勧誘であった可能性」などを主張して、違約金を支払わずに(あるいは大幅に減額したうえで)解決を目指すことが考えられます。

5. まとめ

  1. 「個人事業主だから法律は一切適用されない」という主張は一面的
    • 実態が労働者性に近ければ労働法が適用される可能性もありますし、レッスン料等の形態によっては消費者契約法が適用される余地もあります。
  2. 高額な違約金の条項は無条件に有効とは限らない
    • 民法や消費者契約法などにより無効、または減額される可能性が十分にあります。
  3. 適法性・妥当性を争いつつ、解約を交渉
    • まずは契約解除の意思を書面で明確に示す。
    • 必要に応じて消費生活センターや弁護士に相談し、適切な法的対応を取る。

**結論としては、弁護士等の専門家に依頼し、事務所と交渉または法的手段を用いて「違約金なし/もしくは大幅に減額」で契約を解消する道を探ることが現実的」です。事務所側の主張にそのまま従う必要はない場合が多いので、まずは専門家と相談して契約書や支払い実績、当初の勧誘内容などの証拠を整理することが最優先となります。

 

国民生活センター タレント・モデル契約のトラブルにご注意!

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