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薬院法律事務所

犯罪被害者

同棲期間中に彼氏に殴られたことについて、慰謝料を請求したいという相談(犯罪被害者)


2025年02月09日犯罪被害者

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は20代女性です。彼氏と3年間同棲していたのですが、同棲を解消することにしました。同棲を解消するにあたって、2年前に彼氏が私を殴って怪我をさせたことの治療費と慰謝料として30万円を請求したのですが、「今さらの話だ」とか「もう許したことだろ」と言っています。彼が殴った時に私が警察を呼んで、警察から言われて土下座して謝ったので、その時は治療費も慰謝料も請求せずに復縁したのですが、別に許したつもりはありません。彼の中では終わったことかもしれませんが、私は慰謝料や治療費は請求しないとは一言もいっていないです。今からでも請求できないでしょうか。そして請求するためにはどうすればいいでしょうか。

 

A、損害賠償請求ができる可能性は高いです。また、傷害事件として改めて被害届を提出することも考えられるでしょう。

 

【解説】

以下の内容はあくまで一般的な法的見解を述べたものであり、具体的な事案で最終的にどうなるかは事実関係や証拠の有無によって左右されます。実際には弁護士に相談のうえ、詳細を詰めることが望ましい点をご了承ください。


1.今からでも慰謝料や治療費を請求できるか

(1)時効について

暴行による不法行為に基づく損害賠償請求権(慰謝料や治療費請求)は、法律上「時効」によって制限されます。

  • 2020年4月1日施行の改正民法では、不法行為の損害賠償請求権の消滅時効は「被害者が損害及び加害者を知った時から5年間」または「不法行為の時から20年間」とされています。
  • 旧法(改正前民法)のもとでは「3年間」または「不法行為の時から20年間」でした。

本件では、殴られて怪我を負ったのが「2年前」ということですので、いずれの基準であっても3年または5年の期間はまだ経過していないと考えられます。そのため、現時点で時効で請求ができなくなる可能性は低いでしょう。

(2)「許した」ことの法的効果

加害者側が「もう許されたと思っていた」と主張していても、被害者が本当に法的に「慰謝料等の請求権を放棄する」旨を合意していたか、あるいは加害者側にそう誤認させるような行為(たとえば明確に示した免除の意思表示)があったかどうかが問題になります。

  • 単に「その場で謝罪を受け入れた」「警察を呼んだけれど、その後復縁した」というだけでは、法的に賠償請求を放棄したとみなされるわけではありません。
  • 謝罪を受け入れたことと、金銭的な請求権(慰謝料や治療費請求)を放棄したことは別問題です。

ご質問の内容からは、明確に放棄の意思表示をした形跡はないようですので、今からでも請求は可能であると考えられます。


2.請求するために何をすべきか

(1)証拠を整理する

まず、相手に請求する前に、以下のような証拠をできるだけ整理し、確保しておくことが重要です。

  1. 怪我をした際の診断書・医療費の領収書
    • 当時の診断書や通院履歴、領収書があれば、実際に負傷した事実や治療費の額を証明できます。
    • 紛失していても医療機関に行けば診断書の再発行が可能な場合があります。
  2. 暴行の事実を裏付けるもの
    • 警察に通報した記録や、警察で聴取を受けた際のメモなども有力な証拠になります。
    • 当時のケガの写真やLINE・メールなどでやり取りした謝罪のメッセージなどがあれば、暴行の事実を客観的に裏付ける手段となります。
  3. 土下座で謝罪を受けた際の状況を示すやり取り
    • 「謝ってもらったが、それで請求権を放棄したわけではない」ことを補強するため、可能であれば謝罪やその場の話し合いについて記録ややり取りが残っていると望ましいです。

(2)内容証明郵便等で請求書を送る

証拠を揃えたら、次のステップとして内容証明郵便など、証拠に残る形で相手に対して「○年○月頃に行われた暴行によって負った損害(治療費と慰謝料)を支払ってほしい」という主旨の請求書を送る方法があります。

  • 請求額、支払い期限、支払い方法などを明確に記載し、今後のやり取りの証拠を確保する意義もあります。
  • 相手が応じない場合に備え、書面での通知を残すことで、後の裁判手続きにおいても「請求の意思表示をした時期」などを明確にできます。

(3)示談交渉・裁判手続き

相手が任意に支払いに応じない場合は、示談交渉民事訴訟を検討することになります。

  1. 示談交渉
    • 内容証明郵便を送った後、相手が話し合いに応じるようであれば、直接または弁護士を通じて示談をまとめることが可能です。
    • 示談書を作成する際には、支払金額、支払期日、再度暴行等しない旨、違反した場合の損害賠償などの条項を定めることが考えられます。
  2. 民事訴訟
    • 示談が成立しない場合や相手が拒否・無視する場合は、民事訴訟を提起し、裁判で損害賠償請求を認めてもらう手続に進むことができます。
    • 弁護士に依頼すれば、請求金額や訴訟戦略について相談しながら進められます。

3.まとめ

  • 時効が成立している可能性は低く、今からでも慰謝料や治療費を請求できる見込みは十分にあると考えられます。
  • 「謝罪を受け入れた=法的請求権を放棄した」というわけではありません。明確な放棄の合意や意思表示がない限り、請求権は残っています。
  • 請求にあたっては、当時の治療記録や警察への通報記録、謝罪の事実を示す資料など、できるだけ多くの証拠を整理しましょう。
  • その上で、内容証明郵便等により請求書を送付し、示談交渉を行い、応じなければ民事訴訟も視野に入れるのが一般的な流れです。
  • 法的手続きは複雑になりやすいので、早めに弁護士へ相談し、具体的なアドバイスや手続きの代理を依頼されることをおすすめいたします。

以上が概要となりますが、ご不明な点や詳細については、直接弁護士に相談されるのが最も確実です。慰謝料や治療費を請求するための具体的な書面作成、相手方とのやり取りの進め方など、個別の事情に即したサポートを受けられるとよいでしょう。

 

民法

https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_5

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。