保釈請求をしないことは、量刑上有利に働くかという問題(刑事弁護)
2025年02月18日刑事弁護
この論点、一概に判断することはできないです。基本的に、保釈請求ができるのであれば私はしていますが、量刑上の問題については微妙です。
参考文献のとおり、確実に実刑あるいは確実に執行猶予という事案であれば保釈請求が不利になることはないのですが、執行猶予付判決と実刑判決のボーダーラインの事案では、あえて保釈請求をしないことが有利に働く場合もあり得ます。実務的には、示談ができていない不同意性交等(被害者1名、自白)などで、あえて示談成立前に保釈請求をするかといったことで悩むと思います。
【参考文献】
和田真「刑事訴追に必然的に伴う負担と量刑」大阪刑事実務研究会編著『量刑実務大系第3巻 一般情状等に関する諸問題』(判例タイムズ社,2011年11月)321-346頁
335-336頁
【ウ実刑か執行猶予か微妙な場合
(ア) 罪体及びこれと密接に絡む事情や前科関係等から実刑以外考えられない場合は別として,一応,執行猶予も考えられる事案では,量刑判断に当たり, まず,執行猶予を付すことが可能かという判断が先行するものと思われる。その際未決勾留において受けた特別の負担を,未決の算入では解消しきれないということは17 ),事案によっては執行猶予を付す方向へと働く有力な事情になるものと考える。そして,被害者あるいは社会一般も,被告人が身柄拘束を受けたことを事実上の処罰ととらえ,これを有利な事情とすることを比較的違和感なく受け入れているのではなかろうか18) 。また,初犯者(高齢,病気を抱える,あるいは,外国人で言葉が不自由である等の特殊事情の存在する場合も同様の思考が可能であろう。)が身柄拘束を受けることに伴い負う通常を超える負担,感銘力等(以下,これらを「属人的要素に基づく負担」という。)も,主として特別予防の観点から意味を持つことになるのではなかろうか。 したがって,法律上の障害がなく,執行猶予を付すことが他事件との平等を害することにもならない限り,身柄拘束を受けたという事実は,執行猶予へと傾く,比較的大きな量刑事情になるものと思われる(特に,比較的短期の刑が予想される場合には,その意味は大きいであろう。)。 この場合の量刑事情としての位置づけは,実質的に一定程度の処罰を受けたのと同視できる不利益を受けたことによって,被告人に対する非難が事後的に和らぎ,法秩序も維持されたことで応報の趣旨が満たされ,一般予防や特別予防の目的も達し得たということになるのではなかろうか。】
343頁
【18) 身柄拘束の不利益を最刑上考慮する場合,同不利益が未決の算入の対象となる身柄拘束から生じるものか否かを特に区別することなく考慮の俎上にのぽらせることも考えられる。しかし,実刑に処す場合,将来の受刑が前提になり,未決の身柄拘束がもたらす不利益は未決の算入により解消されることになるため,未決の身柄拘束固有の問題として考慮しなければならないものは余り考えられない。一方,執行猶予等の受刑が前提にならない場合には,考えられる不利益は,未決の身柄拘束から生じたものに限られる。その際量刑上,最も大きな意味を持つのは,未決の算入では自由を奪われた不利益を実質的には清算できないことではなかろうか。もっとも,本文で述べたとおり研究会では,この場合にも実質的清算になるとの意見も強かった。】
https://www.hanta.co.jp/books/6422/
坂本正幸ほか編著『情状弁護ハンドブック』(現代人文社,2008年5月)10頁
【保釈請求をすると不利になるという話は実務の世界では聞くことで。しかし,本当に保釈申請することが不利になるのでしょうか。 実際は.必ずしも不利にはなりません。 検察官は.早く外に出たがる被告人を反省していないと評価することがあるといわれているようですが,決して,そのようなことはありません。反省していないと評価するだけのきちんとした理由がある場合がほとんどでしょう。例えば,勤務先を解雇されないように早期に保釈が認められる必要性が高い事例もありますし.特に,個人的なつながりで契約を獲得し会社を運営する中小企業の場合その経営者が身体拘束され,会社の運営がままならないときには.会社そのものの存続にも係わり,ひいては,その会社の従業員や家族の生活にまで悪影響を与えかねません。決して.近視眼的な視点で物事を考えてはいけないのです。 他方.弁護人としては.執行猶予判決か実刑判決か微妙な事件においては.少しでも有利な事情を積み重ねるために,保釈申請を控えることもあります。 被害弁償をし.仕事や帰住先も確保し.身元引受人として家族が情状証人として出廷してくれた等の事情がある場合,それでも執行猶予か実刑判決か微妙な事案においては,保釈申請を控える方法は十分検討に値します。】