逮捕状が発付される嫌疑の程度についての実務知識(刑事弁護)
2025年02月25日刑事弁護
一般論としては、逮捕の際に必要とされる「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」と、勾留の時の「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」は異なり、前者の方が嫌疑の程度は低くて足りるとされています。これは事実なのですが…実は、実務的には逮捕状が請求されるとき勾留請求がなされる時と同じレベルの嫌疑の程度があると見るべきです。
そのため、刑事弁護において、逮捕状が発付されて逮捕された人の身体拘束解放の活動をするためには、「勾留請求をするに足りる一定の証拠がある」ということを前提に、勾留請求を却下するために活動することが必要です。
刑事訴訟法
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
② 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。次項及び第二百一条の二第一項において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。ただし、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
③ 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
【参考文献】
河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法第二版第4巻〔第189条~第246条〕』(青林書院,2012年4月)198頁
【実際には,かなり高度の(少なくとも,直ちに勾留請求が可能な程度の)嫌疑の存在がないと逮捕状の請求は行われない。身柄拘束を慎重に行おうとする配慮によるものであって,その限りでは望ましい運用である。しかし, これは,逮捕前の任意同行を長引かせることにつながり,さらに,逮捕後の釈放に慎重になることにもつながる。逮捕に慎重さを求めれば求めるほど,逮捕(特に通常逮捕)は,勾留と同質の手続として,高度の嫌疑を前提とした運用がなされるようになってきたが,上記の危険も看過してはならない。】(渡辺咲子)