何故、凶悪事件の弁護人が無理筋の主張をするかという疑問(刑事弁護)
2025年03月10日刑事弁護
ニュースを見ていると、凶悪事件で弁護人の主張が非難されて弁護士個人が人でなしのように言われているのを見かけますが…弁護人の主張は、被告人の言い分に強く拘束されていることは知られて欲しいと思います。特に国選弁護人は辞任が極めて困難です。そのため、ニュースで「(断定はできないですが)無理筋な主張をしている」記事を見ると…私は「担当している弁護人は気の毒だなあ」と感じることが多いです。仮に、弁護人としても無茶苦茶だと思っても、そう言えません。そういう弁護人の立場は、一般常識になって欲しいです。
さらに述べると、弁護人が被疑者・被告人に言い訳を入れ知恵することはまずないです。被疑者・被告人に【弱み】を握られる自殺行為なので。ですが…「弁護人に入れ知恵された」と嘘をつく被疑者・被告人は時折います。そういう話をすれば、嘘の責任を転嫁して、周囲の同情を買ったりできますので。
最決平成17年11月29日
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50080
【裁判官上田豊三の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件が,弁護人の訴訟活動の在り方という刑事訴訟の根幹に関わる問題を含むものであることなどにかんがみ,次のとおり意見を付加しておきたい。
刑事訴訟法が規定する弁護人の個々の訴訟行為の内容や,そこから導かれる訴訟上の役割,立場等からすれば,弁護人は,被告人の利益のために訴訟活動を行うべき誠実義務を負うと解される。したがって,弁護人が,最終弁論において,被告人が無罪を主張するのに対して有罪の主張をしたり,被告人の主張に比してその刑事責任を重くする方向の主張をした場合には,前記義務に違反し,被告人の防御権ないし実質的な意味での弁護人選任権を侵害するものとして,それ自体が違法とされ,あるいは,それ自体は違法とされなくともそのような主張を放置して結審した裁判所の訴訟手続が違法とされることがあり得ることは否定し難いと思われる。
しかし,弁護人は,他方で,法律専門家(刑訴法31条1項)ないし裁判所の許可を受けた者(同条2項)として,真実発見を使命とする刑事裁判制度の一翼を担う立場をも有しているものである。また,何をもって被告人の利益とみなすかについては微妙な点もあり,この点についての判断は,第一次的に弁護人にゆだねられると解するのが相当である。さらに,最終弁論は,弁護人の意見表明の手続であって,その主張が,実体判断において裁判所を拘束する性質を有するものではない。
このような点を考慮すると,前記のような違法があるとされるのは,当該主張が,専ら被告人を糾弾する目的でされたとみられるなど,当事者主義の訴訟構造の下において検察官と対峙し被告人を防御すべき弁護人の基本的立場と相いれないような場合に限られると解するのが相当である。】
※2025/3/10 ChatGPT4.5で詳細に検証してもらいました。
ご指定の弁護士のコメントについて、以下の観点で詳細に検証を行います。
- 「弁護人の主張は、被告人の言い分に強く拘束されていること」についての法的根拠
- 「国選弁護人は辞任が極めて困難」についての実際の判例や制度上の制約
- 「弁護人が被疑者・被告人に言い訳を入れ知恵することはまずない」についての実務的な見解と事例
- 「弁護人に入れ知恵された」と嘘をつく被疑者・被告人の事例の有無
これらの点について、具体的な法令・判例・弁護士会の見解などを基に検証を行い、結果を報告いたします。
1. 弁護人の主張は被告人の言い分に強く拘束される法的根拠
日本の刑事手続では、弁護人は被疑者・被告人の利益を守るため、基本的に被告人本人の主張や意向に沿った弁護活動を行う義務があります。被告人の意思に反して弁護人が事実関係を主張したり、罪状を認める・否認する方向を勝手に変更することは許されません。これは被告人の黙秘権(憲法38条1項)や弁護士の守秘義務との関係で説明されています。例えば学説では「被告人の意思に反して無罪を主張することは、被告人の黙秘権を侵害し、弁護士の秘密保持義務にも反する」と指摘されています ([PDF] 第3部 弁護士倫理 – 加藤ゼミナール)。また日本弁護士連合会の「弁護士職務基本規程」等により、弁護人は依頼者(被告人)の意思を尊重し、その利益のため誠実に職務を行う義務(いわゆる「誠実義務」)を負うとされています。判例上も弁護人の役割について、被告人の基本的主張に反して不利益な主張を行えば誠実義務違反となり、被告人の防御権を侵害し得ると解されています ()。実際、弁護人が被告人の無罪主張に反して有罪方向の最終弁論をしたために、手続違反と判断され判決が破棄された例もあります ()。もっとも、被告人の要求が明らかに不当でそのままでは被告人に重大な不利益を招く場合には、「弁護人は被告人の単なる代弁者ではなく正当な利益の擁護者である」として、被告人の意思に拘束されず独自の弁護活動を行うことも許されるとの判示もあります (EF069072338DFA3D49256CFA0006ED7)。要するに、通常は被告人の供述・方針が弁護活動の基盤となり、弁護人はそれに強く拘束されるものの、弁護人は被告人の利益最大化の範囲で専門的判断を行うという法的枠組みになっています。
2. 国選弁護人の辞任が極めて困難な理由(判例・制度)
私選弁護人とは異なり、国選弁護人(裁判所が選任する弁護人)は自らの意思で自由に辞任することが認められていません。刑事訴訟法38条の3第1項各号は国選弁護人を解任できる事由を限定列挙しており、裁判所が「正当な理由がある」と認めて解任しない限り、国選弁護人は辞任届を出してもその地位を失いません (裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan)。最高裁判所も平成17年11月29日決定で、「国選弁護人は辞任申出をしても、正当な理由による解任がなされない限り職務を継続すべきである」と明示し、この運用は憲法37条3項(国選弁護人の付添権利)に反しないと判示しています (裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan)。同決定や関連判例(最決昭54年7月24日など)では、被告人が権利の乱用や法廷攪乱により「弁護人を通じた正当な防御活動を行う意思がない」ことを示したような極端な場合には、裁判所が国選弁護人の辞任をやむを得ず認め解任するのは相当とされています (〖刑事訴訟法〗国選弁護人の辞任の申出と解任の裁判 (昭和54年7月24日最高裁) | リラックス法学部)。しかしそのような例外的事由(例えば弁護人と被告人の利益相反、弁護人の心身の故障、弁護人への暴行・脅迫など刑訴法38条の3第1項2~5号に該当する場合 (大阪の刑事示談交渉の弁護士相談|相談無料・着手金11万円~))を除き、国選弁護人の解任・辞任は極めて困難です (大阪の刑事示談交渉の弁護士相談|相談無料・着手金11万円~)。実務上も、裁判所は一度選任した国選弁護人を簡単には解任しないため、弁護人側から「被告人との信頼関係が皆無」など深刻な理由を示して申請しても認められにくいのが現状です (大阪の刑事示談交渉の弁護士相談|相談無料・着手金11万円~)。そのため国選弁護人が辞任したい場合、被告人が新たに私選弁護人を立てる(刑訴法38条の3第1項1号)以外には現実的な手段がなく、経済的理由で私選が困難な場合は事実上辞任はできません (大阪の刑事示談交渉の弁護士相談|相談無料・着手金11万円~)。どうしても方針対立が深刻な際、弁護人が法廷で被告人の意に反する主張をあえて行い(例えば被告人が有罪を望むのに無罪主張を貫く等)、裁判所に「弁護人活動が被告人の希望とかけ離れている」と認めさせて解任してもらう消極的手段も論じられています (依頼者の意に反する弁護活動(刑弁倫理)(2/2・完)|名古屋市中区の弁護士法人 金岡法律事務所)。いずれにせよ制度上、国選弁護人は安易に辞任・交代できず、被告人の防御権保障の観点から継続して職務を全うする義務を負う点が判例・法令で確立されています。特に最決平成17年11月29日 (裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan)はその趣旨を明確に示した重要判例です。
3. 「弁護人が被疑者・被告人に言い訳を入れ知恵することはまずない」について
一般に刑事弁護人は、被疑者・被告人に対して事実と異なる供述や言い訳を“創作”して教唆することは倫理上も禁止されており、現実にもまず起こりません。弁護士倫理の解説でも、「弁護人は被告人に不利な証拠を本人の意思に反して提出しないことは許される。しかしそれを越えて被疑者・被告人に虚偽の陳述をするよう助言することは許されない」とされています ([PDF] 弁護士倫理・ここが問題)。実際の刑事弁護では、弁護人は依頼人に対し事実関係を丁寧に聞き取り、法律的に有利となる点(正当な弁解や主張)を引き出す助言はしますが (弁護士の入れ知恵ってあるの? | 碁法の谷の庵にて – 楽天ブログ)、「嘘の供述をしろ」と積極的に入れ知恵することは弁護士の使命にも反する行為です (弁護士の入れ知恵ってあるの? | 碁法の谷の庵にて – 楽天ブログ)。日本弁護士連合会や各地の弁護士会も、「黙秘や否認の権利行使を助言することは被疑者の権利擁護上当然の義務だが、虚偽の主張を仕立てるのは弁護人活動の実態ではない」と公式に表明しています (産経新聞大阪本社 編集室 御 中|弁護士会の意見|和歌山弁護士会)。例えば和歌山弁護士会は、ある新聞コラムで「弁護士が否認や黙秘を入れ知恵している」との指摘に対し、「現実の弁護活動は決してそのようなものではありません」と抗議しています (産経新聞大阪本社 編集室 御 中|弁護士会の意見|和歌山弁護士会)。実務家の見解としても、弁護人が接見後に被疑者が新たな弁解をし始めると外部からは「弁護士が入れ知恵したのでは」と見られがちですが (弁護士の入れ知恵ってあるの? | 碁法の谷の庵にて – 楽天ブログ) (弁護士の入れ知恵ってあるの? | 碁法の谷の庵にて – 楽天ブログ)、それは弁護人が法律知識にもとづき有効な弁解を引き出した結果である場合が多く、“嘘のストーリー”を一から教え込むわけではないとされています (弁護士の入れ知恵ってあるの? | 碁法の谷の庵にて – 楽天ブログ)。むしろ弁護人は、被疑者が事実誤認や法律の無知から不要な自白をしないよう保護したり、正当な弁解の重要性を教える役割を果たしているのです (弁護士の入れ知恵ってあるの? | 碁法の谷の庵にて – 楽天ブログ)。過去の懲戒事例等を見ても、弁護士が依頼人に虚偽供述をさせようとしたケースは極めて稀です。ごく例外的に、近年横浜の弁護士が依頼人に虚偽の供述を持ちかけたとして刑事訴追された事件が報じられましたが (無免許死亡事故、そこに隠されたまさかの冤罪! | ドライバーWeb|クルマ好きの“知りたい”がここに)、これは異例中の異例であり、刑事弁護の通常業務とはかけ離れた特殊事案といえます。総じて、弁護人が被疑者に「言い訳」を吹き込むという世間のイメージは誤解であり、実務上まず起こりえないと考えられます。
4. 「弁護人に入れ知恵された」と嘘をつく被疑者・被告人の事例の有無
被疑者・被告人が「弁護人にこうしろと言われただけだ」と主張するケースは、多くは取調官や第三者による推測・非難として現れ、当事者が嘘をついて弁護人に責任転嫁する事例はほとんど表面化していません。むしろ典型的なのは、被疑者が警察で自白していたのに弁護人との接見後に否認や黙秘に転じた場合に、捜査側が「弁護士に入れ知恵された嘘だ」と決めつける場面です (弁護士の入れ知恵ってあるの? | 碁法の谷の庵にて – 楽天ブログ)。有名な志布志事件(鹿児島県の冤罪事件)でも、取り調べで否認に転じた被疑者に対し警察官が「誰がそんな入れ知恵をしたんだ!」と怒鳴り、担当国選弁護人を解任すると脅した例があります ([PDF] 私はこうして『自白』した~志布志事件の冤罪被害者 … – 埼玉弁護士会)。一方で、被告人自身が公判で「実は弁護人にそう言えと言われた嘘でした」と供述するケースは極めて稀です。仮に被告人がそのような主張をしても、弁護人側が否定し証拠もなければ、裁判所が直ちに信用するとは考えにくく、むしろ被告人の供述の信用性を失わせるだけでしょう。実務的にも、弁護人との打合せ内容は秘密保持の範疇であり、被告人が嘘をついて弁護人の入れ知恵だと主張しても立証は困難です。現在知られる限り、「弁護人に言わされた」と被告人が虚偽主張した判例は見当たりません。ただし近年、前述の横浜の弁護士(江口大和弁護士)が交通事故事件で依頼者らに罪を着せ替えるよう助言したとされ、有罪判決を受けた事案があります (無免許死亡事故、そこに隠されたまさかの冤罪! | ドライバーWeb|クルマ好きの“知りたい”がここに)。この事件では依頼者である被告人側が「弁護士に虚偽工作を指示された」と証言した可能性があり、事実だとすれば弁護人の不祥事、仮に虚偽なら被告人が責任逃れに弁護人へ罪をなすりつけた事例ともいえます。いずれにせよ極めて異例なケースであり、通常の刑事裁判で被告人が弁護人への“入れ知恵”をでっち上げて嘘をつく事態はほとんど起きていません。その背景には、弁護人が違法な入れ知恵をしないことはもちろん、仮に被告人が虚偽主張で弁護人を陥れようとしても自らの信用を損なうだけで得るものがないためです。万一起きた場合の弁護人の対応策としては、公判で適切に反証・反論するほか、必要に応じて弁護士会による調査・懲戒手続きや、場合によっては名誉毀損として法的手段をとることも考えられるでしょう。しかし幸いにも、そのようなトラブルは日本の刑事司法において例外中の例外であり、現行の判例・報道から見る限り顕著な事例は確認されていません。
【参考法令・判例等】 刑事訴訟法36条、38条の3、43条3項;弁護士職務基本規程第29条の2(国選弁護人の辞任制限)等;最決平成17年11月29日(平成17年(あ)第1344号) (裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan);最決昭和54年7月24日 (〖刑事訴訟法〗国選弁護人の辞任の申出と解任の裁判 (昭和54年7月24日最高裁) | リラックス法学部);志布志事件国賠判決(鹿児島地裁平成20年3月)、江口大和弁護士事件(最高裁令和5年8月30日決定)ほか。