業務中の交通事故で社員が逮捕されたとき、企業がとるべき対応とは?(ChatGPT4.5作成)
2025年06月18日刑事弁護
業務中の交通事故で社員が逮捕されたとき、企業がとるべき対応とは?
業務中の交通事故は、一瞬で人命に関わる重大事態となり得ます。会社の看板を背負って運転する以上、万一の事故では企業自体の信用も問われ、適切な対応を怠れば社会的非難や法的制裁を受けかねません。社員が逮捕されるような重大事故に直面した企業は、どのような法的責任やリスクがあるのかを理解し、実務的に何をすべきか把握しておく必要があります。本記事では、業務中の交通事故で社員が逮捕された場合に企業が直面する法的責任(刑事・民事)や行政処分リスク、そして社内対応や弁護人との連携方法について詳しく解説します。
事故発生・逮捕時に企業へ来る連絡と初動対応
**社員が業務中に交通事故を起こし逮捕された場合、まず企業にはどのような連絡が入るのでしょうか。**一般的に、勤務中の事故であれば警察から会社へ直接連絡が入る可能性があります。例えば社有車で人身事故を起こした場合、警察は車両の所有者である会社に問い合わせをしたり、捜査の一環で職場を訪れて事情聴取を行ったりすることがあります。特に社員がひき逃げなど悪質な容疑で逮捕されたケースでは、同僚への聞き取りや職場内の捜索が行われる可能性もあります。
警察以外では、社員の家族や弁護人から会社へ連絡が入る場合もあります。逮捕直後は本人と直接連絡が取れないため、まずは家族に状況を確認することが重要です。家族には警察から連絡が行っている場合が多く、事故の概要や拘束先の警察署について情報を得られることがあります。また、社員が逮捕直後に自分で弁護士を依頼した場合、その刑事弁護人から会社に連絡が入るケースもあります。弁護人からは事件の大まかな内容や今後の手続見通しについて共有を受けることが期待できます。
一方で、報道機関からの問い合わせにも備える必要があります。重大事故で逮捕者が出た場合、早ければその日のうちに報道され、記者が会社にコメントを求めてくることがあります。企業としては事実関係を確認しつつ、「事実関係を調査中であり、被害者の方にお見舞い申し上げます」といった慎重なコメントを速やかに出すことが望ましいでしょう。特に社員の逮捕報道が出た場合は、企業として信頼回復のため対外的にコメントを発表することがありますが、この際も断定的に社員の有罪を決めつける表現は避けるべきです。事実が確定していない段階で「当該社員は犯罪を犯しました」などと述べると、後に名誉毀損や不当解雇の問題に発展しかねません。
さらに、業種によっては行政当局からの連絡や調査もあります。運送会社や旅客運送事業など事業用自動車を使う業態では、重大事故(死亡事故等)が発生すると国土交通省(運輸局)による特別監査(臨時の抜き打ち監査)が実施されます。監査では法令遵守状況や安全管理体制がチェックされ、必要に応じて後述する業務改善命令や営業停止処分等につながるため、会社は迅速に対応準備を進める必要があります。
以上のように、警察・家族・弁護人・報道・行政と複数方面から連絡や問い合わせが発生します。初動対応としては、まず慌てずに事実関係の把握に努めましょう。担当警察官に事故の概要や容疑を確認し(答えられる範囲は限られるものの)、家族や弁護人とも連絡を取り合って、社員の拘束場所・容疑内容・今後の見通しを収集します。また被害者やその家族の連絡先が分かる場合は、早急にお見舞いとお詫びの意思を伝える準備をします(後述の「遺族対応」で詳述)。これら初期情報の収集が、適切な社内対応と広報対応の出発点となります。
社員の身柄拘束が業務へ与える影響と企業の責任
社員が逮捕・勾留され長期間拘束されると、企業の業務にも直接的な影響があります。逮捕による身柄拘束は最長72時間で、その後検察の勾留請求が認められればさらに最長20日間の勾留が続きます。つまり最大で23日間は社員が職場に戻れない可能性があるのです。この間、その社員の担当業務は止まってしまうため、例えば物流ドライバーであれば代替要員の手配や配送スケジュールの見直しが必要になります。社員が要となるポジションの場合、業務停滞による取引先への迷惑や納期遅延など二次的な問題も発生しかねません。企業は速やかに社内で業務分担を調整し、他の従業員にカバーを依頼するなどして業務継続に努める必要があります。この際、社内周知では「○○さんがしばらく出社できない」という事実のみ伝え、逮捕の理由や罪状については断定せず伏せる配慮が望まれます。うかつに事情を話し過ぎると従業員間の噂拡散や、万一容疑が晴れた場合に本人の名誉を損ねる恐れがあるためです。
企業の法的責任という観点でも、社員拘束に関連して問われるポイントがあります。まず挙げられるのが、企業の安全配慮義務および監督義務です。安全配慮義務とは、本来は労働契約上、会社が従業員に安全・健康に配慮して働かせる義務を指します。しかし運転業務においては、社員本人だけでなく第三者の生命・身体に危害を及ぼさないよう職務を遂行させることも含め、企業には広い意味での「安全管理責任」があると言えます。例えば、過労や心身の不調を抱えた状態で社員をハンドルにつかせていたような場合、会社は適切な休息を取らせる義務(乗務前の健康チェック等)を怠ったとして責任を問われる可能性があります。道路交通法第66条は運転者に対し「過労や病気で正常な運転ができないおそれがある状態」での運転を禁じ、さらに第75条では使用者や安全運転管理者がそのような状態で運転させることを禁止しています。これに反して過労運転を命じたり容認した場合、会社の代表者や安全運転管理者も3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑に処され得るのです。実際、平成28年に山陽自動車道で発生した多重衝突事故では、居眠り運転をしたトラック運転手のみならず、その運行を管理していた運送会社社長と運行管理者も、過労運転を容認したとして刑事責任を問われ有罪判決を受けました。
また、**社員が事故を起こした背景に企業の管理義務違反があれば、民事上の損害賠償責任も生じ得ます。**過労運転が原因で事故が起き被害者が出た場合、会社は使用者責任に基づき被害者への賠償義務を負います(詳細は後述)。さらに運転手自身がその事故で負傷したり死亡した場合、今度は従業員やその遺族から「安全配慮義務違反」による損害賠償請求を受けるリスクもあります。実際に、長時間の過重勤務が原因で運転中に心筋梗塞を起こし死亡した運転手の遺族が会社を訴え、約3,700万円の賠償が命じられた裁判例もあります。このように、企業がドライバーの勤務状況や健康状態の管理を怠った結果として事故や健康被害が生じた場合、対外的(被害者)にも対内的(従業員)にも二重の賠償責任を負いかねません。
監督義務の観点では、企業は社員に対し運行前の点検や安全運転ルールの遵守を指導監督する責任があります。例えば、飲酒運転や無免許運転を防止することは当然ですが、もし社員が無免許で社用車を運転し事故を起こせば、会社も管理監督を怠ったとして社会的・法的な非難を免れません。また、安全運転管理者を選任すべき規模の事業所でこれを置いていなかったり、定期講習を受けさせていない場合には、それ自体が道路交通法違反となり会社(法人)に罰金が科されることもあります。さらに、社員の日常の運転記録や健康状態の把握、運転前後のアルコールチェックなど、企業に義務付けられた監督項目は多岐にわたります。重大事故が起きた際には、これら企業の監督体制に不備がなかったかも厳しく問われます。したがって、平時から運行日誌・点呼記録・アルコール検知記録等を整備し、「安全運転管理義務を尽くしていた」と説明できる体制を構築しておくことが重要です。
以上のように、社員の身柄拘束中は業務上の人的リソース欠如という直接の影響だけでなく、企業自身の安全義務・監督義務が改めてクローズアップされます。事故後に慌てて対応するのではなく、日頃から適正な勤務管理と安全教育を行い、万一の際にも「会社の責任は果たしていた」と主張できるよう備えておくことが肝要です。
刑事責任:社員に科される罪と拘禁刑、企業の民事上の責任
次に、事故を起こした社員本人に問われる刑事責任と、企業が負う民事上の責任について整理します。
社員(加害ドライバー)の刑事責任
業務中であれ私用中であれ、交通事故で人を死傷させてしまった加害運転者には刑事上の責任が生じ得ます。事故態様に応じて適用される主な犯罪類型は**「過失運転致死傷罪」と「危険運転致死傷罪」**です。
- 過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法第5条):自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた場合に成立する罪です。典型的にはわき見運転や安全不確認、ブレーキとアクセルの踏み間違いなど過失による事故が該当します。法定刑(法律上定められた刑の範囲)は*「7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」*と規定されています。ここでいう拘禁刑とは、令和7年6月の刑法改正で従来の懲役刑・禁錮刑が一本化された新名称であり、懲役・禁錮相当の自由刑を指します。過失運転致死傷罪は比較的一般的な交通事故に適用される犯罪で、人身事故(負傷事故)や死亡事故を起こした場合にまず検討されます。ただし、被害者の傷害がごく軽微な場合には同条但書により刑が免除(起訴猶予となる等)される可能性もあります。もっとも骨折など重傷以上を負わせたケースでは不起訴(刑免除)になる例は少なく、基本的には正式に立件されると考えておくべきでしょう。
- 危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法第2条):飲酒や著しいスピード超過など悪質な態様で運転し人を死傷させた場合には、過失ではなくこちらの罪が適用されます。危険運転致死傷罪は法定刑が過失犯より重く、被害者が負傷した場合は*「15年以下の拘禁刑」、死亡した場合は「1年以上の有期拘禁刑(上限20年)」*が科されます。例えば飲酒運転や薬物影響下での運転、制御困難なほどの高速度運転、免許がないのに運転した場合、さらに「あおり運転」のように他車の通行を妨げ重大な危険を生じさせた場合などが該当します。業務中の運転でも、お客様との時間に間に合わせようと法定速度を大幅に超過して走行し事故を起こしたようなケースでは、危険運転致死傷罪で立件される可能性があります。同罪には罰金刑の規定がなく、有罪となれば必ず実刑の拘禁刑(または執行猶予付き判決)となるのが通常です。
- ひき逃げ等(道路交通法違反):事故後の救護義務違反も重大な犯罪です。道路交通法第72条は運転者に対し、事故を起こした際ただちに車を停めて負傷者の救護や事故防止措置・警察への報告を行う義務を課しています。これらを怠り現場から逃走すると、いわゆる「ひき逃げ」として5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(負傷者を救護せず立ち去れば、人身事故が発生したか認識していなくても処罰対象になります)。業務中でも同様で、社員が動転してその場を離れてしまった場合など、後で必ず発覚し一層厳しい処分が下るでしょう。企業としてもひき逃げは断じて容認できない重大違反であり、発生すれば速やかに警察に連絡・自首させるなど、人命救助とコンプライアンス最優先の対応が求められます。
以上が社員本人に科される主な刑事責任です。過失運転致死傷罪であれば情状によっては執行猶予判決の可能性もありますが、死亡事故や悪質な態様では実刑も十分あり得るため、企業としても「社員が刑務所に服役する事態」まで念頭に置き対応を検討しなければなりません。また、刑事手続の進行に伴い社員の身柄拘束が長期化すれば、企業内での扱い(休職や懲戒処分の検討)も課題となりますが、それについては後述の社内対応の章で触れます。
企業の民事責任(使用者責任・運行供用者責任)
社員が業務中に起こした事故により第三者(被害者)に損害を与えた場合、企業は民事上の賠償責任を負う可能性があります。その代表が民法上の使用者責任と、自動車損害賠償保障法上の運行供用者責任です。
- 使用者責任(民法第715条):従業員が事業の執行中に第三者に与えた損害について、使用者である企業も連帯して賠償責任を負うとする規定です。これは「事業活動で利益を得ている以上、その過程で生じた損失も負担すべき」という報償責任の原理と、「他人を使うことで社会に危険を発生させた以上、その危険の結果に責任を負うべき」という危険責任の原理に基づいています。今回のケースのように社員が業務中に事故を起こした場合、被害者は加害社員だけでなくその使用者である会社にも損害賠償を請求できます。判例上、事故当時に業務の範囲内だったか否かは広く解釈される傾向にあり、たとえ社員が業務時間外や通勤途中で事故を起こした場合でも、会社が業務で車の使用を黙認していたような事情があれば使用者責任が認められる可能性があります。要するに被害者救済を優先する観点から、会社側に有利な狭い解釈はされないと考えておくべきです。今回のように社用車・業務車両で起こした事故であれば、ほぼ確実に会社の使用者責任が問われ、被害者への損害賠償は最終的に会社が負担することになるでしょう。
- 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法第3条):自動車の運行による人身事故について、その車両の運行支配および運行利益を有する者が負う無過失賠償責任です。簡単に言えば「その車を事実上支配し運行によって利益を得ている者」が事故の人的被害について賠償責任を負う制度で、自賠法(強制保険)の根拠規定にもなっています。会社所有の営業車で事故を起こした場合、会社は運行供用者にあたり、人身損害について賠償責任を負います。使用者責任との違いは、運行供用者責任は人身損害に限られ物損は含まれない点ですが、実務上は被害者の治療費・慰謝料等の人的損害についてまず自賠責保険(対人保険)で賄われ、不足分を加害者および使用者(会社)が賠償する形になります。もっとも、自賠法上の運行供用者責任が問われる状況では同時に民法上の使用者責任も成立するため、結果的には会社が被害者に対して負う賠償責任の範囲は、人身・物損を含めて極めて広範となります。被害者から見れば、資力の乏しい個人より企業に請求したほうが確実に賠償を得られるため、現実には会社が損害の全額を補填せざるを得ないケースが多いでしょう。
以上のように、事故による損害賠償については基本的に企業が前面に立って対応することになります。実際には会社が加入する任意保険(自動車保険)の対人賠償で被害者との示談交渉や賠償支払いが行われます。しかし保険で賄いきれない高額賠償や、保険適用外の事柄(行政罰の違反金など)が発生した場合、企業自ら負担するコストも大きくなります。また、被害者感情として会社からの公式な謝罪や補償を求められることもあり、単に保険会社任せにするだけでは不十分な場合もあります。なお、会社は賠償金を立て替えた後で従業員個人に求償(肩代わり分の請求)する権利も法的にはあります(民法第715条但書)。しかし実務上、従業員の過失が軽度で会社にも落ち度があったような場合は求償権を行使しない慣行が多いです。よほどの重過失や故意(飲酒運転など社内規範に反する行為)でない限り、「使用者責任の一環として会社が最終的な損害を引き受ける」対応が、従業員との信頼関係や社内士気の面でも望ましいでしょう。
行政処分のリスク:道路運送法に基づく監査・命令・営業停止
**社員の事故・逮捕に関連して企業が直面しうるもう一つの側面が、行政上の処分です。**特に事業用トラック・バス・タクシーなど運送事業者の場合、重大事故発生時には所轄官庁(国土交通省・地方運輸局)による厳格な対応が取られます。
前述のとおり死亡事故や悪質な違反があれば**「特別監査」として抜き打ちの立入検査が行われます。監査の結果、法令違反が見つかれば、文書警告・車両使用停止・事業停止・許可取消しといった重い行政処分が科され、併せて安全改善のための業務改善命令が発出されることもあります。例えば運行管理者の選任義務違反や乗務員の労務基準違反(過労運転防止違反)、点呼未実施、整備不良などの違反が明らかになれば、違反の重大性に応じ処分点数が付与され、一定点数を超えると営業所単位で一定期間の営業停止**処分が下ります。最悪の場合、累積違反が深刻であれば事業許可の取り消し(営業免許剝奪)という措置もあり得ます。
具体的な行政処分として多いのは**「車両の使用停止命令」です。違反の程度に応じて、営業所所属車両の一部または全部について「○日間使用禁止」とするものです。例えば初回の重大違反で10日車(のべ10日間、1台の車を止める)や20日車、再違反で100日車…といった具合に累積されます。「事業停止命令」は営業そのものを一定期間止める処分で、営業所全体の業務を○日間停止させます。これが科されると、その間は事業収入が途絶え取引先にも迷惑をかけるため、運送事業者にとって極めて厳しい制裁です。さらに悪質なケースでは「許可の取消し」**、つまり事業免許自体を取り消され業界から退場せざるを得なくなります。実際に飲酒運転の隠蔽や事故多発を放置した事業者が免許取消しとなった例も報道されています。
運送業以外の一般企業の場合でも、社有車で重大事故を起こせば警察や労働基準監督署等から事情聴取や指導を受ける可能性があります。とくに業務中の死亡事故は労災事故として労基署による調査対象にもなりえますし、状況次第では事業所の安全管理体制について指導勧告が出ることもあります。もっとも行政処分という形で営業停止などの制裁を受けるのは、主に許認可事業者(運送業や旅客業など)です。該当業種の企業は、自社の輸送安全マネジメントが問われる局面と捉え、監査に備えて関連書類(運行記録、整備記録、乗務員台帳など)を整理し、必要なら専門家の助言を仰ぐべきでしょう。
行政処分を回避・軽減するために企業ができることも押さえておきます。事故後、運輸局の監査までに会社がどれだけ真摯に対応策を講じているかは、処分量定に影響し得ます。例えば事故直後から社内で安全対策会議を開き再発防止策をまとめた、ドライブレコーダーや衝突被害軽減ブレーキの導入を決定した、管理職の責任を明確化し処分した、といった自主的な改善措置はプラス材料となります。また被害者遺族への誠意ある補償・対応を行っていることも評価されるでしょう。これらを監査の際に説明し、「会社として真摯に受け止め改革している」姿勢を示すことで、最悪の事業停止処分が回避できたケースも実際に存在します(後述の事例参照)。日頃から法令遵守と安全管理を徹底し、万一の際にも速やかな改善行動を取ることが、企業存続の危機を乗り越える鍵となります。
企業の社内対応:事故調査・再発防止策・被害者対応・広報
社員の逮捕にまで至る重大事故が発生した場合、企業内部では早急に事故対応プロジェクトを立ち上げる必要があります。具体的には、事実関係の社内調査、再発防止策の策定、被害者・遺族への対応、社内外への広報対応など、多方面にわたる対策を同時並行で進めます。
1. 事故原因の社内調査:まず事故の直接・間接の原因を究明するため、社内の関係部署(安全管理部門や運行管理担当者など)による調査を行います。警察の捜査とは別に、会社として把握できる事実を洗い出します。例えば、当該社員の勤務状況(直近の労働時間や休憩状況)、運行指示内容、車両の整備履歴、ドライブレコーダーやデジタコの記録、目撃者情報、事故現場の状況などです。内部調査では社員本人への聞き取りも重要ですが、逮捕勾留中は直接面会できない場合もあります。その場合は後述のように弁護人経由で本人の陳述を入手することになります。社内調査チームは警察の捜査と抵触しない範囲で事実を集め、**「なぜ事故が起きたのか」「防げなかったのか」**を多角的に分析します。その結果明らかになった問題(例:ブレーキの整備不良や、安全ルールが形骸化していた等)は、今後の再発防止策に直結させます。
2. 再発防止策の検討・実施:事故原因を踏まえ、具体的な再発防止策を速やかに講じます。たとえば長時間労働が一因ならば運行スケジュールの見直しや人員増強、車両の安全装置不足が問題ならば最新の衝突防止システム搭載への切替え、安全運転教育の欠如があれば緊急研修の実施や定期教育計画の策定、といった具合です。再発防止策は社内外に示す重要な姿勢でもあります。国土交通省の指導や被害者側への説明において、「このような対策を講じ再発防止に努めています」と言えることが、企業の信頼回復に繋がります。従って、単に形だけの対策ではなく実効性のある施策を立案し、可能なものは即時に実行に移します。例えば全乗務員への臨時安全教育を行い、事故の経緯や教訓を共有することも有益でしょう。また社内規程の不備が見つかれば、服務規程や安全マニュアルの改訂も検討します。こうした組織的改善のプロセスは全て記録し、後日の行政監査や社外説明に備えてエビデンスとして残しておきます。
3. 被害者・遺族への対応:事故でお亡くなりになった被害者のご遺族や、負傷された被害者への誠意ある対応は企業の重大な責務です。事故直後にまず上席者(経営者や安全統括管理者など)が被害者のもとを訪れ、直接謝罪とお見舞いを申し上げます。特に死亡事故の場合は、ご遺族の悲しみや怒りに真摯に向き合い、企業としてできる限りの償いを示すことが大切です。具体的には、葬儀への弔慰金の提供や、香典・供花をお届けする、会社代表として葬儀に参列し謝罪する、といった対応が考えられます。負傷者に対しても、治療費や休業損害の補償は当然として、快復を祈る気持ちを形に表すことが必要です。賠償実務は保険会社を通じて進めますが、被害者感情のケアは人間対人間の問題です。会社として被害者に寄り添い、「二度とこのような事故を起こしません」と誓う姿勢を見せることで、被害者側の許しや和解が得られれば、結果的に社員の刑事処分においても情状が考慮される可能性があります。ただし、謝罪に際して事故原因の詳細や法的評価について迂闊な発言は禁物です。「社員に全面的な非がある」と断定してしまうと、後の刑事裁判や民事賠償交渉で不利になる恐れもあります。あくまで被害者の心情を慮り謝意と反省を伝えるに留め、責任割合などの言及は弁護士と相談の上で慎重に行いましょう。
4. 社内外広報(情報統制と発信):逮捕事案が発生した際の情報の扱いにも注意が必要です。まず社内向けには、当該社員が一定期間出社できない旨と業務フォローのお願いを関係部署に周知します。その際、「○○さんが逮捕された」といった刺激的な表現は避け、「諸事情により不在となる」と濁すか、事実を伝える場合でも**「容疑について現在調査中」など断定を避ける表現に留めます。社員による不祥事は社内でも不安や動揺を招くため、できれば経営トップや担当役員が直接従業員に向けメッセージを発すると良いでしょう。「被害者への対応を最優先にしている」「事故の原因を徹底究明し再発防止に取り組む」といった方針を示し、社員にも協力と再発防止への意識向上を呼びかけます。次に社外向け対応ですが、既に報道されている場合は速やかにプレスリリース等で公式見解を出します。「この度の事故でお亡くなりになられた方に深くお詫び申し上げます。弊社社員が逮捕されたことを厳粛に受け止め、現在警察の捜査に全面協力するとともに、社内に事故対策本部を設置し再発防止に努めております」といった内容が考えられます。ポイントは、先述のように容疑については断定しないこと、そして被害者と社会へのお詫び・再発防止の意思を明確に示すことです。またマスコミ対応窓口を一本化し、下手な社員が取材に答えて情報が錯綜しないよう情報統制を図ることも重要です。広報担当者や顧問弁護士と相談の上、記者会見を開くかどうか、コメントの出し方など戦略を練ります。なお、SNS等で従業員が軽率な投稿をしないよう注意喚起しておくことも忘れてはいけません。不用意な発言が二次被害や炎上を招く恐れがあるため、「情報は広報担当者に一元化する」**旨を社内周知しておきましょう。
弁護人との連携:刑事手続への対応と情報共有のポイント
社員が逮捕・勾留され刑事手続が進行する中で、企業は社員の弁護人(弁護士)との連携も図る必要があります。刑事事件は捜査や裁判のプロセスが専門的であり、企業側だけでは把握しきれないため、弁護人と適切に情報交換し協力することが肝要です。
1. 弁護人からの情報収集:逮捕後しばらくは社員本人と直接連絡を取れないため、状況把握には弁護人が重要な窓口となります。もし社員が自ら弁護士を依頼していれば、その弁護人に連絡を取り、今どの段階にあるか(勾留中か起訴されたか)、見通し(不起訴の可能性や起訴後の公判予定)などを教えてもらいます。ただ注意すべきは、弁護人の第一義的な依頼者は社員本人であり会社ではないという点です。弁護士には守秘義務があるため、弁護活動に支障が出ると判断すれば会社側に詳細を開示してくれないこともあります。特に会社と社員の利害が相反する場合(例:社員が「会社に無理な運行を強いられた」と主張している等)には、弁護人は会社に協力しない可能性もあります。とはいえ多くのケースでは、社員本人も会社に迷惑をかけたことを負い目に感じており、会社にも状況を伝えてほしいと弁護人に頼むことが多いでしょう。会社としても、弁護人に連絡を取り**「会社としてできるサポートがあれば協力したい」と伝える**ことが大切です。例えば被害者への謝罪や示談交渉について会社の支援状況を共有し、刑事処分の情状面で有利になる材料を提供するなど、弁護人と歩調を合わせます。
2. 事実調査への協力:前述した社内調査で判明した事項のうち、社員の刑事弁護に有用な情報は弁護人に提供します。例えば「当日の配車スケジュール上、無理のない行程だったことを示す資料」や「車両の整備記録(ブレーキ不具合がなかった証拠)」などは、過失の程度を判断する材料になります。過労運転が問題となりそうな場合には「運行前の健康チェックでは異常がなかった記録」があれば提出するでしょう。逆に会社に不利な情報(社員に過重な残業をさせていた記録等)でも、弁護人には正直に伝えます。なぜなら、いずれ警察や検察の捜査で明らかになる可能性が高く、弁護人が把握せず後手に回ると不利になるからです。会社として隠し事をせず事実を共有することが、結果的に社員本人を守ることに繋がる点を認識しましょう。その上で、弁護人と相談し「会社として法廷にどこまで協力するか」を決めます。場合によっては会社側の関係者(上司や安全管理責任者)が情状証人として出廷し、「日頃から安全教育をしていたがこのような事故となり遺憾だ」等と証言することもあります。また、事故後に会社が講じた再発防止策や被害者対応について弁護人に伝えておけば、公判で社員の所属企業が真摯に対応している事実として弁護側から主張してもらえるでしょう。それは裁判官の心証を和らげ、社員への量刑が軽減される一因となるかもしれません。
3. 家族と企業の意思調整:社員が逮捕されている状況では、社員本人に代わり家族と会社が協力して事態に対処する局面が多々あります。例えば被害者対応一つとっても、社員本人が拘束中は直接謝罪に行けないため、家族と会社代表者がともに訪問するといった形になります。また示談交渉についても、本人不在の間は家族が代理で進めることが一般的です。この際会社が示談金の原資を支援するケースもあります。家族からすれば高額な賠償金の用意は困難でも、会社が一定額を立て替えあるいは貸与することで早期示談成立が図れ、ひいては刑事処分の軽減に役立つこともあります。こうした連携を円滑に行うには、家族と企業との間で意思疎通を密にし、お互いの役割分担や方針を共有することが重要です。弁護人も交えて三者で打ち合わせの場を持ち、例えば「会社は被害者との窓口対応に専念し、家族は本人の身の回り(差し入れ等)を担当する」「示談金は会社が負担し、後で本人に返済してもらう合意を家族ともしておく」といった取り決めをしておくとよいでしょう。注意すべきは、弁護人の最終的な意思決定先はあくまで本人とその家族だということです。会社として意見や要望を伝えるのは構いませんが、弁護方針に踏み込みすぎたり強制したりしないよう注意します。企業と家族が足並みを揃えてサポートに当たれば、社員本人も安心して更生に向け努力でき、被害者への対応や社会的信頼回復もスムーズに進むでしょう。
4. 社員の処遇検討:最後に、逮捕された社員の社内的な身分・処遇についても弁護士と相談しながら判断します。起訴され有罪が確定すれば就業規則に基づき懲戒解雇処分も検討されますが、起訴前・裁判中の段階で性急に解雇するのはリスクがあります。無断欠勤が続いていることを理由に懲戒する場合でも、起訴猶予や無罪の可能性が残っているうちに解雇すると不当解雇と判断される恐れがあるため慎重さが必要です。一般的にはまず**「起訴休職」**扱いとし、公判の推移を見守る会社が多いでしょう。判決確定後に改めて処分を決定しても遅くはありません。また、社員が反省し更生する意思を示している場合、会社が引き続き雇用継続の意向を表明することは情状にプラスに働く可能性があります。裁判官に「復職先がある(社会復帰の環境が整っている)」と映れば執行猶予判決を得やすくなるとも言われます。もっとも再び運転業務に就かせることの是非など社内的な課題も残るため、一概に寛大な対応が正解とは限りません。いずれにせよ、社員の今後の処遇については会社単独で判断せず、顧問弁護士や社会保険労務士とも協議しつつ、法的リスクと企業倫理の双方を踏まえて決定することが望ましいでしょう。
ケース事例(仮名):高齢ドライバーの死亡事故と企業対応
最後に、架空の事例を通して企業対応の具体像をイメージします。
**<事例>**配送業「A運送株式会社」で、60代のベテランドライバーXさんが集配業務中に死亡事故を起こしました。Xさんは夕方、取引先からの帰路で交差点を直進中に赤信号を見落とし、横断歩道を渡っていた歩行者と衝突し死亡させてしまいました。現場は見通しの良い交差点でしたが、Xさんは「考えごとをしていて信号に気付かなかった」と供述。過失運転致死の容疑でその場で逮捕されました。Xさんは長年無事故無違反でしたが、この日は配達先でトラブルがあり予定より1時間遅れの行動となっていました。
<企業の対応>事故発生から逮捕の一報を受けたA運送では、直ちに社長以下役員と安全管理担当者が緊急会議を開きました。社長はまず被害者宅を訪問して土下座で謝罪し、香典と見舞金を手渡しました。併せて「原因究明と再発防止に全力で取り組みます」と約束し、後日改めて改悼の意を表しました。社内では即日、全ドライバーを集めて臨時の安全ミーティングを開催。事故の概要と信号無視の危険性を共有し、運転中の気の緩みが如何に重大な結果を招くか改めて指導しました。さらに再発防止策として、(1)高齢ドライバーの運転適性チェック強化(毎年の実技テスト実施)、(2)運行スケジュールの見直し(遅延時も焦らず安全第一で対処するルール徹底)、(3)車両への安全装置導入(全トラックに前方衝突警報装置を追加)を即時に決定しました。これらを文書にまとめ全社員に周知するとともに、社外にもプレスリリースで公表しました。
一方、Xさんの刑事手続については、会社顧問の弁護士とXさんの家族が協議して弁護方針を検討。被害者遺族とは社長とXさんの長男が示談交渉にあたり、会社側は任意保険とは別に見舞金として独自に数百万円を支払い、遺族から「刑事処分を望まない」との嘆願書を得ることに成功しました。これらの経緯は弁護人から検察官・裁判所にも伝えられました。結果、Xさんは起訴こそされたものの、裁判では執行猶予付き判決が下され、実刑を免れました。また監督官庁の運輸局は事故後1週間して特別監査に入りましたが、A運送が迅速に安全対策を講じ遺族にも誠意を尽くした点を評価し、3ヶ月間の業務改善命令と一部車両の30日使用停止という処分に留まりました(営業所全体の事業停止処分は回避)。社長は処分公表後に記者会見を開き、「被害者の命は戻らず処分も真摯に受け止める。二度と悲劇を繰り返さぬよう社員一丸で安全最優先の会社に生まれ変わる」と宣言しました。
**<事例の教訓>**このケースから分かるように、**事故後の企業対応の迅速さと誠意が、行政処分や社会的評価を大きく左右します。**被害者への謝罪・補償、再発防止策の即時実行、そして組織トップによる明確な姿勢表明が功を奏し、企業として最悪の事態を免れることができました。もちろん被害者が受けた損失は取り返しがつかず、企業としても深い反省が必要ですが、危機対応としては適切だったと言えます。重大事故は起きないに越したことはありません。しかし万一発生してしまった時、企業が取るべき対応を平時からシミュレーションし備えておくことで、被害の拡大(社会的信用の失墜や事業継続困難など)を最小限に抑えることが可能となります。
以上、業務中の交通事故で社員が逮捕された際の企業対応について、法的観点と実務ポイントを解説しました。刑事・民事・行政それぞれの責任領域で企業に求められる対応は多岐にわたりますが、根底にあるのは「人命尊重」と「法令遵守」の姿勢です。被害者への真摯な対応を最優先に、社内の規律と安全体制を立て直し、外部には誠意と改善意欲を示すことができれば、企業は信頼を取り戻し再出発できるでしょう。不幸にも社員の逮捕という事態に直面した企業のご担当者の方々に、本記事の内容が少しでも参考となれば幸いです。
参考資料:
- 藤川祐介ほか『交通事故と企業責任』株式会社○○出版, 2025年
- 国土交通省「自動車運送事業者に対する行政処分基準」
- よつば総合法律事務所・大竹裕也「従業員が逮捕された場合に企業がとるべき対応」企業法務ブログ, 2024年
- Findaway法律事務所・荒武竜「従業員が逮捕されたら…」(Web記事, 2025年)
- AIG損害保険・解説「従業員の過労運転に関する企業・安全運転管理者のリスク」