自転車盗、占有離脱物横領罪と窃盗罪のいずれが成立するか(刑事弁護、窃盗)
2026年01月16日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、東京都に住む大学生です。友達と一緒に有名なラーメン屋に行くためにいつも行かない駅まで行きました。たまたま、駅の入り口近くに不法駐輪している鍵のかかっていない自転車を見つけて乗っていって、帰りにそのまま駅のホームの近くに乗り捨てました。同じ場所に戻すと持ち主に見つかるかもしれないと思い、別のところに乗り捨てています。後日警察から連絡があり、窃盗罪だと言われています。悪いことをしたとは思いますが、鍵もかけておらず、駐輪場にも置いていなかったのに窃盗罪と言われると納得できません。
A、一般論として、鍵をかけてない不法駐輪の自転車でも窃盗罪として取り扱われます。もっとも、「占有」が認められない場合は占有離脱物横領罪にとどまることもあるでしょう。いずれにしても被害者に対する謝罪や迷惑料の支払いといった弁護活動をすることが考えられますので、弁護士の面談相談をお勧めします。
【解説】
刑法上の占有が認められるためには、財物に対する客観的な支配関係を意味する「占有の事実」と、その物を支配しようとする主観的な「占有の意思」が必要であるとされています。占有の事実につき、判例は、「刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であって,その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によって一様はでないが,必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく,物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。しかして,その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によって決するの外はない。」としています(最判昭32 • 11 • 8刑集11• 12 • 3061)。ケースバイケースであり、法曹によっても判断が割れる事案もあります。置き忘れて一昼夜経過していたといった事案であれば、占有の事実が否定されるようなこともあるでしょう。
なお、自転車については、短時間の使用の場合には「不法領得の意思」が否定されて不可罰とされることがあり(京都地判昭51.12.17判夕354号339頁)、警察実務においても「窃盗罪」又は「遺失物等横領罪」とされないこともあります。自転車の価格(高価品か)ということもあるでしょう。いずれにしても、具体的な事案を踏まえての判断になり、「返還意思」があるかといったことなど複数の要素が考慮されますので、前科がつくことを避けたいという場合は、弁護士に依頼して示談交渉と併せて法律論についてもカバーする必要があるでしょう。
※刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_36
(窃盗)
第二百三十五条他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(遺失物等横領)
第二百五十四条遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
※最判昭32 • 11 • 8刑集11• 12 • 3061
判示事項
一 刑法上の占有の意義
二 占有離脱物と認められない一事例
裁判要旨
一 刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であつて、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが、必ずしも物の現実の所持または監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以つて足りる。
二 被害者がバスを待つ間に写真機を身辺約三〇糎の個所に置き、行列の移動に連れて改札口の方に進んだが、改札口の手前約三・六六米の所に来たとき、写真機を置き忘れたことに気づき直ちに引き返したところ、既にその場から持ち去られていたもので行列が動き始めてからその場所に引き返すまでの時間は約五分、写真機を置いた場所と引き返した点との距離は約一九・五八米に過ぎないような場合は、未だ被害者の占有を離れたものとはいえない。
https://www.courts.go.jp/hanrei/51567/detail2/index.html
【参考文献】
地域・刑事実務研究会編『地域警察官実務必携』(立花書房,2019年10月)705頁
【自転車盗の引き当たりをして,被害者が停めた場所と一致すれば窃盗罪一致しなければ占有離脱物横領罪で送致するのが実務上の運用でしょう 。】
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3560
丸山嘉代「悩める現場の誌上事件相談室 検事!この事件,どうすればいいですか?(第18回)窃盗?それとも占有離脱物横領?」警察公論2018年3月号54-62頁
【では,他人の占有が及んでいるかどうかは,どうやって判断するのでしょうか。
他人の占有が及んでいる場合とは,他人がその財物を事実上支配している場合をいいます。他人がその財物を事実上支配しているというのは,他人が財物を占有する意思に基づいて,その財物を支配している事実があることをいいます。
とはいっても,「他人が財物を占有する意思に基づいて支配しているかどうか」という他人の内心は,正確には第三者が知るよしもありません。例えば,屋外のカフェの椅子の上にバッグが置いてあったとして,持ち主がバッグを置いたまま,食べ物を取りに行ったり,お手洗いに行ったりしているのか,それともバッグを忘れたまま店を出てしまったのかは,少なくとも椅子の上に置かれたバッグを見ただけでは分かりません。ですが,例えば,テーブルの上に読みかけの本とコーヒーが置かれていれば,店内やお手洗いに行くために一時的に席を外したにすぎないと想像がつきますし,閉店したカフェの外の椅子にぽつねんとバッグが置いてあれば忘れ物だと想像がつきます。結局,他人が財物を占有する意思に基づいて支配しているかどうか,ひいては他人の事実上の支配があるかどうかは,このように諸事情を総合的に考慮し,一般的,常識的に判断するほかありません。】(56-57頁)
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/4011


