被害者が不明の自転車窃盗事件、示談ができないので処罰されるのかという相談
2026年01月31日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む20代女性です。先日、友達の家で遊んで帰るとき、マンションの駐車場に置いてあった鍵のかかっていない自転車に乗って帰ろうとしました。警察に職務質問をされれて、盗んできたことを白状しています。自転車の窃盗ということで取調べを受けているのですが、前科がつくのはどうしても困ります。ですが、自転車の所有者がわからないということで示談交渉ができません。微罪処分はできないということで検察庁に記録を送るといわれているのですが、不起訴になりませんでしょうか。
A、被害者が不明の自転車窃盗事件でも、福岡地方検察庁や、東京地方検察庁は、被害者特定のための一定の手続きを経たうえで送致を受け付けているようです。そして、被害者が不明のままで処罰されることもあるようですが、相談者が所有者でないことの証拠が自白しかないのであれば、嫌疑不十分不起訴または起訴猶予となる可能性は十分あると思います。
【解説】
窃盗罪にせよ、占有離脱物横領罪にせよ、「他人の物」であることが構成要件要素となっています。もっとも、この「他人」ということは特定されている必要性はなく、本人以外の所有、管理に係るものであることが立証されれば足ります。そのため、理論的には被害者が不明であっても処罰できます。とはいえ、検察官としては有罪判決を得るために十分な証拠があるか否かという観点で事件を処理しますので、「他人の物」であることの証拠が自白しかないということであれば、起訴しないという判断もあり得るでしょう。
※刑法
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
(遺失物等横領)
第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_36
【参考文献】
地域実務研究会編『部内用 地域警察官のための乗り物盗一件書類記載要項〈自転車盗を中心とした〉』(立花書房,2014年12月)128頁
【1 送致の基準(警視庁での運用)
(1)被疑者が特定され、被疑事実が裏付けられていること。
(2)証拠品(自転車)に財産的価値があること(自走不可能な自転車に財産的価値は認められない。)。
(3)被害者発見のための捜査を十分に尽くしていること。】
警察実務研究会編著『地域警察官のためのチャート式事件処理要領(第2版)』(立花書房,2014年6月)31頁
【被害者に面接可能であれば.被害自転車の確認及び被害届の受理還付手続を行うこととなるが.防犯登録がなく盗品としての手配がないなど被害者が不明である場合でも,地方検察庁によっては.付近の聞き込み等の被害者発見のための相当な捜資及び公告を実施することを条件として.被害者不明のまま事件を受け人れている場合もある。乗り物盗専用の被害届の新様式が平成26年4月1日から運用されている(平成25年7月30日付け警察庁丙刑企発第52号)】
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I025511372
安西温著・河村博補筆『実務刑事法Ⅳ刑事訴訟法(下)改訂第6版』(警察時報社,2010年3月)221頁
【窃盗罪における被害物件が他人の所有又は管理であることは構成要件要素であるから、それが他人の所有又は管理に属するかを示すことは訴因の明示に必要不可欠のことである。しかし、他人の所有であることは明らかであるが、その他人が誰であるか不明の場合もありうる。このような場合は、「氏名不詳者所有の」と記載しても、訴因は特定されている(東京高判昭和二九 • 1 0・七東京高裁判決時報五 • 1 0 •四0二)】
https://homutosho.com/products/detail/108171
藤永幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書2 財産犯罪(3訂版)』(東京法令出版,2008年6月)105頁
【刑法は、遺失物等横領罪について、「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、 1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と規定している (254条)。窃盗罪が、他人の占有を侵害して財物を不法に領得する罪であるのに対して、遺失物等横領罪は、占有を離れた物を不法に領得する罪である。つまり、窃盗罪と遺失物等横領罪の区別は、目的物について他人の占有を認めることができるか否かにかかっている。占有を離れた物といっても、遺失物等横領罪は、他人の物を不法に領得することが必要であるから、他人の所有に属しない物であれば、遺失物等横領罪すら成立しないことになる。】(落合俊和)
https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?358
愛知県警察本部編『改訂版 問答でわかる微罪処分手続のすべて』(東京法令出版,2001年3月)27-28頁
【【問】
自転車に乗ったAを職務質問したところ、「駅の駐輪場から 盗んできた。」と自供した。自転車には防犯登録や記名はなく、盗品等手配もされていなかったので、被害確認ができなかった。
しかし、自供があるので微罪処分してよいか。
【答】
微罪処分できない。
微罪処分するには、被害者が真に処罰を希望しないことが必要である。したがって、被害者が不明な事件は、この処罰意思が確認できないばかりでなく、被害回復も中断しているのであり、また、犯罪事実立証上からも微罪処分することはできない。この点、占有離脱物横領罪においても同様である。】


