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薬院法律事務所

犯罪被害者

会社内で上司にお尻を触られたけど、警察が被害届を受理してくれないという相談


2026年02月01日犯罪被害者

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、福岡市に住む20代女性です。従業員数が10名程度の中小企業に勤めています。先日、会社内の会議室で懇親会があり、酔っぱらった男性上司から冗談めかしてお尻を服の上から触られました。私は「痴漢ですよ」とすぐ抗議をしたのですが、男性上司は「冗談だから許して」と笑いごとにしようとしてきました。社長に抗議したのですが、「酒の席のことだから穏便に」とたしなめるようにいわれて、許せないと思いました。そこで、警察に被害届を出しにいったのですが「公共の場所ではないので痴漢として処罰できない」「ケガをさせるような行為ではないので、暴行罪にもできない」といわれて弁護士にセクハラで訴えてもらうようにいわれました。納得できないのですが、どうにかならないでしょうか。

A、一般論として、電車内などの公共の場所であれば「迷惑行為防止条例違反」として処罰される行為でも、会社内の会議室など、不特定多数の人が利用しない場所での痴漢行為は対象外となります。相談の行為は「不法な有形力の行使」として「暴行罪」に該当する可能性はありますが、傷害の危険性がない行為は暴行罪にあたらないとする説も有力です。いずれにしても弁護士に相談すべきであることは間違いないでしょう。刑事事件として処罰できなくても、セクシャルハラスメント事件として損害賠償請求はできます。

 

【解説】

電車内などでスカート越しに臀部を触るというのは典型的な痴漢行為として、迷惑行為防止条例で処罰されます。もっとも、迷惑行為防止条例は原則として公共の場所における行為を規制対象としていますので、不特定多数の人が利用しない会社内の会議室での痴漢行為は刑法上の犯罪が成立しないと処罰できないというのが現状です。ご相談の事例の場合は、不同意わいせつ罪と暴行罪の両罪が検討されますが、現在の考え方としては、臀部に対する短時間の接触行為は不同意わいせつ罪にはあたりません。そして、暴行罪については、傷害の危険性がない場合には暴行罪にあたらないという説も有力なため、警察として積極的に事件化しづらいということがあると思います。とはいえ、暴行罪にあたるとする学説もあるところですし、前例がないため警察が立件していないだけということも考えられます。弁護士に相談すべきでしょう。

 

※福岡県迷惑行為防止条例

第六条
何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)の上から触れること。

https://www.rilg.or.jp/htdocs/uploads/%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E7%9C%8C%E8%BF%B7%E6%83%91%E9%98%B2%E6%AD%A2%E6%9D%A1%E4%BE%8B.pdf

 

※刑法

(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_27-At_208

 

【参考文献】

 

前田雅英ほか編『条解刑法〔第5版〕』(弘文堂,2025年6月)639頁

【(ウ)違法性(不法な有形力) 本注嗣のとおり,軽微な有形力の行使 例えば抱きつくなどの行為も,状況によって暴行と評価され得るが,社会生活上通常行われることとして是認すべき場合がある。このような社会生活上許容される適法な行為と認められる有形力の行使と暴行罪における暴行とを区別するため,暴行罪における暴行は,「不法な」有形力の行使と定義される。
この「不法性」は,行為の目的,行為当時の状況,行為の態様 被害者に与えられた苦痛の有無・程度等を総合して判断されることになる(東京高判昭45・1・27判タ248-216参照)。】

https://www.koubundou.co.jp/book/b10134508.html

 

橋爪隆『刑法各論の悩みどころ』(有斐閣,2022年12月)29頁

【このように判例の立場は,身体に接触しない場合であっても,それが傷害の危険性を有する行為であれば「暴行」に該当すると解しつつ,身体的接触を伴う場合には,傷害の危険性を要求せずに一律に「暴行」に当たると解するものということができる11)。このような理解からは,傷害の危険性が乏しい行為が身体的接触を伴わない場合(たとえば塩を振りかけようとしたが,被害者の身体には当たらなかった場合)については,暴行罪の成立が否定されることになる(このような実例はないので,裁判所がどのように判断するかは定かではないが)。】

https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139558

 

不同意わいせつ罪と、痴漢(迷惑行為防止条例違反)との分水嶺(痴漢、刑事弁護)

福岡県迷惑行為防止条例第6条第1項(卑わいな行為等の禁止)の解説・第2回卑わいな言動