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薬院法律事務所

刑事弁護

睡眠薬を飲んだ後に運転をして交通事故を起こして、危険運転致傷といわれているという相談


2026年02月15日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、福岡市に住んでいる公務員です。最近、仕事が忙しくてストレスのたまることが多く、精神科に通院しながら仕事をしています。睡眠薬の処方を受けているのですが、先日の深夜、睡眠薬を飲んで寝ようとしたところに部下から重大なインシデントの連絡があり、急いで自家用車を運転して会社に向かったところ、車道を横断していた歩行者を跳ねてしまい大けがをさせてしまいました。警察からは「危険運転致傷」といわれているのですが、罰金刑ならともかく拘禁刑となると確実に失職しますし、運転免許を失うことも困ります。どうにかならないでしょうか。

A、危険運転致死傷罪は飲酒運転での事例が典型例ですが、アルコールに限られません。合法の他の薬物、たとえば睡眠薬の影響で「正常な運転が困難な状態で自動車を走行」した場合にも成立します。具体的な運転状況が重要になりますので、早急に弁護士に依頼して運転状況を吟味してもらってください。危険運転致傷となれば罰金刑での終結は法律上できません。

 

【解説】

睡眠薬を飲んだ上での運転行為そのものに刑事罰がないことから(過労運転等として処罰される可能性はあります)、飲酒運転と異なり、事故を起こしたときに重大な犯罪になり得るという意識が薄い人もいます。しかし、法律上はアルコールも薬物も区別はされていませんので、本件のような事例も存在し得ます。城祐一郎『ケーススタディ危険運転致傷罪(第3版)』(東京法令出版,2022年4月)173-190頁に多くの裁判例(主に有罪判決)が紹介されています。

https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?12764

 

※道路交通法

(過労運転等の禁止)
第六十六条 何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。
(罰則 第百十七条の二第一項第三号、第百十七条の二の二第一項第七号)

第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
七 第六十六条(過労運転等の禁止)の規定に違反した者(前条第一項第三号の規定に該当する者を除く。)

https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105#Mp-Ch_4-Se_1-At_66

 

※自動車運転死傷処罰法

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は十五年以下の拘禁刑に処する。

https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000086#Mp-At_2

 

【参考文献】

 

橋爪隆「危険運転致死傷罪をめぐる諸問題」(法律のひろば67巻10号,2014年10月号)21-30頁

【本罪における「薬物」については、覚せい剤などの規制薬物に限られず、睡眠薬などの合法な薬物もこれに含まれる。なお、過労や体調不良のために居眠りなど「正常な運転が困難な状態」に陥っても当然ながら本罪は成立しないが、アルコールや薬物の影響と過労、体調不良などがあいまって「正常な運転が困難な状態」に陥ったと評価できる場合には本罪が成立し得ることになる。もっとも、この場合についても、アルコールや薬物の摂取がなければこのような状態に至らなかったことを立証する必要があるため、実際に処罰できる事例は限られてくることになるだろう】(22頁)

https://www.fujisan.co.jp/product/2430/b/1140888/

 

大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第三版 第10巻〔第193条~第208条の2〕』(青林書院,2021年3月)580-581頁

【「薬物」とは,麻薬,覚せい剤等の規制薬物に限らず,シンナーや医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律に規定する医薬品をはじめ,運転者の精神的・身体的能力を低下させて正常な運転が困難な状態を生じさせる薬理作用のあるものを指し,睡眠薬,脱法ハーブ等もこれに含まれる.
24 薬物の影響により正常な運転が困難な状態であったことの認定に当たっては,薬物の種類,効能,服用量,事故前の状態事故の態様,事故後の状況等を総合的に考慮して判断することが必要である.
25 脱法ハーブがこれに当たるとされた事例として,名古屋地裁平成25年6月10 日判決(判時2198 号142 頁)がある. また,鎮静剤がこれに当たるとされた事例として,佐賀地裁平成14 年11 月6日判決(公刊物未登載)があり,鎮静剤を飲んだ後に運転をし,その影響により強い眠気を覚え,意識が朦朧とし,前方注視が困難な状態で,軽四輪自動車を時速約40 キロメートルないし50 キロメートルで走行させ,仮眠状態に陥り,自車を対向車線に進出させ,対向車両に衝突させたと認定された同事案においては,服用したのは,市販されている鎮静剤であるが,服用後の運転が禁じられているものであり,また,鎮静剤使用後の居眠り運転による自損事故をこれまでに度々起こしていたという事情も認められている(なお,神戸地豊岡支判乎14 • 3 • 22 公刊物未登載も鎮静剤を服用していた事案である). また,福井地裁平成14 年6月21 日判決(公刊物未登載)のように,薬物の服用に加えて飲酒していた事案について,適用が認められた例もある.】(中村芳生)

https://www.seirin.co.jp/book/01807.html