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薬院法律事務所

刑事弁護

執行猶予中の万引き事件、釈放してもらうためには私選弁護人を選任すべきかという相談


2026年03月06日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、東京都に住む男性です。妻とは結婚して10年目になります。先日、妻がスーパーで万引きをしたということで警察に逮捕されました。実は、妻は数年前から万引きをするようになり、一昨年には執行猶予付の判決を受けています。もう二度としないと約束をしたのですが、またやってしまったようです。現在、国選弁護人の人に示談交渉をしてもらっていますが、難航しているようです。子どもたちもまだ小学校にも上がっていませんし、早く釈放して欲しいのですが、私選弁護人をつけた方が良いのか悩んでいます。

A、一般論として、私選弁護人であるから釈放されやすいということはありません。国選弁護人でもしっかりと弁護活動をされているのであれば、変更する必要はないでしょう。もっとも、国選弁護人の場合は釈放された時点で国選弁護人ではなくなるので、示談交渉を継続してくれない場合があります。どうしても早期釈放の可能性を高めたいということであれば、私選弁護人に変更するというのも一つの案でしょう。

 

【解説】

 

被疑者の勾留については、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ、勾留の必要性の三要件で判断されます。弁護人が示談交渉をしているということは、一般には罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれを低減させる事情といえます。しかしながら、国選弁護人の場合は、釈放された時点で国選弁護人でなくなることから、示談交渉が継続されない場合もあります。後述の国選弁護人契約約款にあるように、国選弁護人が勾留決定に対する準抗告等をして身柄を解放した場合、「身柄釈放加算報酬」が支払われますが、この場合には示談加算報酬と比較して高い額のみ支払われます。すなわち、ほぼすべての場合において、元国選弁護人がボランティアで示談交渉をするか否かという話になりますが、当然ながら元国選弁護人に示談交渉の継続を強制することはできません。なお、検察官が被害弁償を行うことを条件に被疑者の処分保留釈放をして、その後に元国選弁護人が示談を成立させた場合に一定の条件の下で報酬が加算されることはありますが、これは別の話になります。

そういった点では、速やかな釈放を求めるためには、示談交渉の継続が確実な私選弁護人の方が良いということもあり得るでしょう。とはいえ、執行猶予中の同種再犯ということであれば、そもそも釈放が難しい案件にも思います。そのため、釈放を求めるということだけであれば、国選弁護人がしっかりとした仕事をしている限り、無理に私選弁護人をつける必要はないと思います。

 

刑事訴訟法

第三十七条の二 被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合又は被疑者が釈放された場合は、この限りでない。
② 前項の請求は、勾留を請求された被疑者も、これをすることができる。

第三十八条の二 裁判官による弁護人の選任は、被疑者がその選任に係る事件について釈放されたときは、その効力を失う。ただし、その釈放が勾留の執行停止によるときは、この限りでない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_1-Ch_4-At_37_2

 

 

【参考文献】

 

伊丹俊彦・合田悦三編集代表『逐条実務刑事訴訟法』(立花書房,2018年11月)134頁

【エ 罪証隠滅の主観的可能性 その上で,ウで検討した証拠隠滅の余地の大小,予想される処分の軽重,被告人の供述内容・経過・態度,被害弁償や示談に向けた対応の有無,現に証拠隠滅行為をした事実があるか否か等から,被告人が現実に罪証隠滅行為に及ぶと予想されるかどうかを判断する。罪証隠滅の余地が大きく,予想される処分が重いことは,一般論としては罪証隠滅の意図を推認させる。被告人の供述内容等については,それのみで罪証隠滅の意図を推認できるものではないとはいえ,事実を否認したり供述を二転三転させたりしていることは,罪証隠滅の意図が強いことを推知させる一事情となり得る。また,黙秘している場合にも,自白している場合と比べて,相対的には罪証隠滅の意図をうかがわせる一事情として考慮せざるを得ない。もっとも,否認といってもその内容は様々であり,他の証拠に働きかけることが可能な内容の否認かどうかも考慮すべきである。なお,被疑者が「酒に酔って犯行時の記憶がない」と供述することが実務上しばしばある。この場合,被疑者がそのような供述をしたことを,罪証隠滅行為に及ぶ意図がある方向に直ちに結びつけて考えるのは相当でない。飲酒検知の結果等から被疑者が実際に相当酪酎していて,記憶がないというのもあながちうそではないことがうかがわれ,かつ,被疑者が「記憶はないが,被害者が被害に遭ったというのであれば間違いないと思う」旨の供述をしていれば,自白している被疑者に準じて罪証隠滅のおそれの有無を判断できることが多いと考えられる。示談の意思も示すなどしていればなおさらである。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3488

 

松尾浩也監修『条解刑事訴訟法〔第5版〕』(弘文堂,2022年9月)77頁

【1) 釈放による弁護人選任の失効 被疑者国選弁護制度は,対象を勾留されている被疑者に限定しており, 37条の2, 37条の4および37条の5において,被疑者が釈放された場合は国選弁護人を選任することができないものとされていることとの均衡から,勾留中に被疑者国選弁護人の選任を受けた被疑者が釈放されたときは,その時点で国選弁護人選任の効力が失われるとしたものである。本条による国選弁護人選任の失効は自動的なものであるから,国選弁護人は解任の裁判を受けることなく,当然に国選弁護人の地位を失う。】

https://www.koubundou.co.jp/book/b10079766.html

 

 

「国選弁護人の事務に関する契約約款(変更)令和 6年 3月28日法務大臣認可 」83頁

【※ 番号1、1-2又は2の活動内容に掲げる活動をし、当該活動に対する特別成果加算報酬(以下この表において「身柄釈放加算報酬」という。)が支給され、 かつ、番号3から6までの活動内容に掲げる活動をし、当該活動に対する特別成果加算報酬(以下この表において「被疑者段階の示談等加算報酬」という。)が支給される場合は、身柄釈放加算報酬の額と被疑者段階の示談等加算報酬の額のうち、いずれか高いもののみを支給する。】

https://www.houterasu.or.jp/uploaded/attachment/3027.pdf

 

国選弁護報酬及び費用についての基本的な説明(FAQ)
2025年3月版
本部国選弁護課

【Q32(被疑者釈放後に示談を成立させた場合(被疑者国選弁護事件の場合の結果要件に関する特則))
被疑者国選弁護人に選任され、示談等に向けた活動を行い、被疑者の釈放後、報告書提出期限までの間に示談等を成立させました。被疑者国選弁護人の報酬算定に際し、示談等加算は算定されますか。
A32 報告書提出期限までの間に示談等を成立させ、さらに、その示談書を検察官に提出した場合であれば、示談等加算が算定できます。
被疑者国選弁護事件については、活動期間が比較的短期間であることから、国選弁護人として示談等に向けた交渉等を行っていれば、釈放等によって事件が終了してから、報告書提出期限までの間に、示談等の成果を証する書面を検察官に提出すれば、示談等加算を算定することができます。
具体的には、被害弁償を条件に検察官が処分保留釈放をし、その後、弁護人が現に示談等を成立させ、報告書提出期間内に、示談等を証する書面を検察官に提出したといった場合があげられます。】

https://www.houterasu.or.jp/uploaded/attachment/5626.pdf

 

万引き事件弁護要領(在宅事件)