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薬院法律事務所

刑事弁護

逮捕される前に弁護士へ相談すべき理由


2026年06月04日器物損壊

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は会社員です。先日、警察から電話があり、「話を聞きたいので警察署に来てほしい」と言われました。

自分としては、事件になるかもしれない心当たりがあります。ただ、まだ逮捕されているわけではありません。警察からも「任意の事情聴取です」と言われています。

家族にはまだ話していません。勤務先にも知られたくありません。インターネットで調べると、「逮捕されたらすぐ弁護士を呼ぶべき」と書かれていますが、逮捕される前の段階で弁護士に相談する意味はあるのでしょうか。

A、逮捕される前の段階でこそ、弁護士に相談すべきです。

刑事事件では、最終的に不起訴になるか、罰金で終わるか、執行猶予になるかといった処分結果も重要です。しかし、それと同じくらい、場合によってはそれ以上に、そこに至るまでの過程が重要です。

逮捕されると、本人は自由に動けなくなります。家族や勤務先への説明、被害者対応、証拠保全、身元引受人の準備、警察・検察・裁判所への意見書提出などを、本人自身で行うことは困難になります。

また、逮捕されることで、実名報道、勤務先発覚、退職・懲戒、家族への影響、学校・資格・取引先への影響が一気に現実化することがあります。たとえ後で不起訴になっても、逮捕や報道による不利益は完全には回復しないことがあります。

だからこそ、逮捕されてから弁護士を探すのではなく、警察から連絡が来た段階、事件が発覚しそうな段階、自首や出頭を考えている段階で相談すべきです。

もっとも、弁護士に相談すれば必ず逮捕を避けられるというものではありません。重要なのは、弁護士が「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」を踏まえて、在宅捜査で足りることを具体的な資料とともに示せるかどうかです。

弁護士ができることは、単なる気休めではありません。

・警察への出頭方針を整理する
・取調べ対応を助言する
・逮捕の必要性がないことを意見書で示す
・身元引受書や誓約書を準備する
・証拠隠滅のおそれがないことを具体化する
・被害者対応や示談交渉を始める
・自首・出頭に同行する
・家族や勤務先への説明時期を検討する
・報道発表リスクを下げるための対応を考える
・捜索差押えを避けるため、任意提出や資料整理を検討する

こうした活動は、逮捕された後よりも、逮捕される前の方が効果を発揮しやすいです。

 

【解説】

1 刑事事件は、逮捕されてから始まるわけではありません

 

多くの方は、刑事事件というと「逮捕された後」のことを想像します。

しかし、実際には、逮捕される前から刑事事件は始まっています。

たとえば、次のような段階です。

・被害者から警察に相談されている
・勤務先で不正が発覚した
・警察から電話があり、任意出頭を求められた
・自宅に警察官が来た
・家族に警察から連絡があった
・被害者側から連絡が来た
・会社から事情説明を求められた
・交通事故後に警察から再度呼び出された
・スマートフォンやパソコンの提出を求められた
・自首するか迷っている

この段階でどう動くかによって、その後の逮捕、勾留、報道、処分結果、社会生活への影響が大きく変わることがあります。

逮捕されてからでは、本人が自分で動けません。

家族も突然のことで混乱します。
勤務先への説明も後手に回ります。
被害者対応も遅れます。
捜査機関には、本人側の事情が十分に伝わらないまま、逮捕状請求や勾留請求が進んでしまうことがあります。

刑事事件では、初動が重要です。

 

2 逮捕されると、本人の生活は一気に止まります

 

逮捕されると、本人は警察署の留置施設等に入れられ、外部と自由に連絡できなくなります。

携帯電話も使えません。
仕事の連絡もできません。
家族と自由に話すこともできません。
取引先や勤務先への説明もできません。
被害者対応も自分ではできません。

逮捕後は、警察から検察官へ事件が送致され、さらに検察官が勾留請求をするかどうかを判断します。勾留が認められると、原則として10日間、さらに延長されれば最大20日間、身体拘束が続くことがあります。

その間、本人は仕事に行けません。学校にも行けません。家庭にも戻れません。

会社員であれば、無断欠勤、長期欠勤、懲戒処分、退職勧奨の問題が生じます。公務員や資格職であれば、より深刻な影響が生じることがあります。自営業者や会社経営者であれば、事業そのものが止まることもあります。

だからこそ、逮捕を避けられる可能性がある事件では、逮捕前の段階で在宅捜査にできないかを検討する必要があります。

 

3 逮捕回避のためには、逮捕の理由と必要性を見る必要がある

 

通常逮捕には、まず「逮捕の理由」が必要です。これは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるということです。

しかし、それだけでは足りません。

逮捕には「逮捕の必要性」も問題になります。一般には、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれなどが問題になります。

したがって、逮捕を避けたい場合には、単に「逮捕しないでください」とお願いするだけでは不十分です。

弁護士としては、具体的に次のような事情を整理します。

・住居が明確であること
・家族や身元引受人がいること
・勤務先や生活基盤があること
・警察からの呼出しに応じていること
・逃亡する現実的な動機が乏しいこと
・証拠の多くが既に捜査機関により確保されていること
・被疑者が隠滅できる証拠がないこと
・関係者との接触を避ける体制があること
・被害者対応や示談交渉を弁護士が行うこと
・再犯防止策が始まっていること
・逮捕による仕事、家族、社会生活への影響が過大であること

これらを、本人の誓約書、身元引受書、勤務状況資料、家族の陳述書、被害者対応の経過、再犯防止策の資料などとともに、意見書として提出することがあります。

弁護士がついているというだけで逮捕を避けられるわけではありません。

逮捕の必要性がないことを、警察官、検察官、場合によっては裁判官が理解できる形で示す必要があります。

 

4 逮捕前だからこそ準備できる資料がある

 

逮捕された後でも、弁護士は動けます。

しかし、逮捕前の方が準備しやすい資料があります。

たとえば、次のようなものです。

・身元引受書
・家族の陳述書
・勤務先や事業内容を示す資料
・出頭誓約書
・被害者と接触しない誓約書
・証拠隠滅をしない誓約書
・反省文
・被害弁償の準備資料
・医療機関やカウンセリングの受診資料
・再犯防止策に関する資料
・任意提出する証拠や資料
・防犯カメラ、ドライブレコーダー、LINE履歴等の保存状況
・事件に関する時系列メモ

逮捕されてしまうと、本人がこれらを自分で集めることは困難になります。

家族が集めることもできますが、本人しか分からない事情も多いです。事件の時系列、関係者とのやり取り、スマートフォン内の資料、当時の認識、被害者との関係、勤務先での立場などは、本人から早期に聞き取って整理する必要があります。

逮捕前の相談では、弁護士が本人から詳しく事情を聞き、どの資料を準備すべきかを判断できます。

 

5 取調べ対応を誤ると、不利な調書が作られることがあります

 

逮捕前の任意取調べでも、供述調書が作成されることがあります。

ここで不正確な供述調書が作られると、後で大きな不利益になります。

よくある問題は、次のようなものです。

・警察官の見立てに合わせて、実際より重く認めてしまう
・記憶が曖昧なことを、断定的に書かれてしまう
・法律評価を本人の言葉として書かれてしまう
・本当は争うべき点まで認めた形になる
・後から知ったことと、当時認識していたことが混同される
・「反省しています」という言葉で、事実関係まで認めたように扱われる
・黙秘権を使うべき場面で、焦って話してしまう
・逆に、話すべき事情を整理できず、捜査機関に不信感を持たれる

取調べで大事なのは、嘘をつかないことです。

しかし、嘘をつかないことと、警察官の見立てに迎合することは違います。

覚えていることは覚えていると言う。
覚えていないことは覚えていないと言う。
見たことは見たと言う。
見ていないことは見ていないと言う。
後から知ったことは、後から知ったこととして区別する。
法律評価は、事実とは分けて考える。

このような基本的な対応を、取調べ前に整理しておくことが重要です。

 

6 自首・出頭は、相談してから判断すべきです

 

事件によっては、自首や出頭を検討すべき場合があります。

自首や出頭には、逮捕回避、処分軽減、被害者対応、報道リスク低減につながる可能性があります。

しかし、常に自首すればよいわけではありません。

自首には、まだ発覚していない事件を自ら捜査機関に伝えるという重大な意味があります。また、出頭したその場で逮捕される可能性もあります。スマートフォン、パソコン、車両、自宅などの捜索差押えが問題になることもあります。

そのため、自首や出頭をする場合には、事前に次の点を検討すべきです。

・事件が既に警察に発覚している可能性
・被疑者として特定されている可能性
・逮捕される可能性
・捜索差押えの可能性
・持参すべき資料
・任意提出する証拠の範囲
・供述方針
・被害者対応の方針
・家族や勤務先への説明方針
・報道発表のリスク
・出頭に弁護士が同行すべきか

自首・出頭は、本人の人生に関わる重大な判断です。

道徳的に「早く謝りに行くべきだ」と単純に決めるのではなく、刑事手続と社会生活への影響を踏まえて判断すべきです。

 

7 被害者対応は、早い方がよいことが多い

 

被害者がいる事件では、早期の被害者対応が重要です。

被害弁償、謝罪、示談交渉、接触禁止、再発防止策の提示などは、逮捕回避、不起訴、処分軽減に影響することがあります。

もっとも、本人が直接被害者に連絡することは危険です。

謝罪のつもりでも、被害者からは圧力や口止めと受け取られることがあります。性犯罪、盗撮、痴漢、暴行、傷害、ストーカー的な事案では、本人からの接触自体が二次被害になることもあります。

弁護士が入ることで、被害者の意思と安全を尊重しながら、適切な方法で謝罪や被害弁償の申入れをすることができます。

被害者対応は、逮捕される前から始められることがあります。

むしろ、早期に弁護士が窓口となり、本人が被害者と直接接触しない体制を作ることは、罪証隠滅や威迫のおそれがないことを示す事情にもなります。

 

8 報道発表・実名報道のリスクを下げるには、逮捕回避が重要です

 

逮捕された場合、報道発表や実名報道のリスクが高まります。

特に、公務員、教員、医師、士業、会社役員、著名人、地域で知られた職業の方などは、事件そのものが比較的軽くても報道対象になることがあります。

一度実名で報道されると、後で不起訴になっても、インターネット上に情報が残ることがあります。勤務先、取引先、学校、家族、近隣関係にも影響が出ます。

報道発表を完全に止めることはできません。警察や報道機関の判断を完全にコントロールすることはできないからです。

しかし、逮捕を避け、在宅事件として進めることができれば、報道リスクを下げられる場合があります。

また、事案によっては、警察署長又は広報責任者宛てに、報道発表を控えてほしい、少なくとも実名発表を控えてほしいという意見書を提出することも考えられます。

報道リスクを考えるなら、逮捕後ではなく、逮捕前から動くべきです。

 

9 会社・学校・家族への説明も、逮捕前に考えておくべきです

 

警察から呼び出しを受けた場合、本人は「会社に言うべきか」「家族に話すべきか」で悩むことが多いです。

これは事案によって判断が分かれます。

勤務中の事件、社用車の事故、会社の財産に関する事件、職務に関連する事件、就業規則上報告義務がある事件では、早期の報告が必要になることがあります。

一方で、事実関係が整理されていない段階で、不正確な説明を会社にしてしまうと、後から訂正が難しくなることもあります。

家族についても同じです。

身元引受人になってもらう必要がある場合、逮捕回避や勾留回避のために家族の協力が重要になる場合には、早めに説明すべきです。しかし、どのように説明するかは慎重に考える必要があります。

弁護士に相談すれば、会社、学校、家族に対して、いつ、何を、どの範囲で、どのように説明するかを整理できます。

 

10 捜索差押えを避けるために準備できることがある

 

事件によっては、自宅、勤務先、車両、スマートフォン、パソコンなどの捜索差押えが問題になります。

捜索差押えを受けると、家族や勤務先に事件が発覚することがあります。また、スマートフォンやパソコンには、事件と関係のない家族、仕事、依頼者、取引先、友人の情報も含まれています。

もちろん、捜索差押えが必要な事件もあります。

しかし、事案によっては、弁護士が関与し、必要な資料を任意提出したり、証拠保全の状況を説明したりすることで、強制捜査を避けられないか検討する余地があります。

たとえば、自宅の写真、証拠物の写真、データの保存状況、任意提出可能な資料、関係者との接触状況などを整理し、捜査機関に対して、強制的な捜索差押えまでは必要ないと意見を述べることがあります。

このような対応も、逮捕前・捜索前の段階だからこそ意味があります。

 

11 逮捕される前に相談すべき典型的な場面

 

次のような場合には、早急に弁護士に相談すべきです。

1 警察から呼出しを受けた場合

任意の事情聴取と言われても、後に逮捕される可能性がないとは限りません。出頭前に、事件の見通し、供述方針、持参資料、逮捕リスクを整理すべきです。

2 被害者が警察に相談している場合

被害者対応、示談交渉、接触禁止、謝罪方法を誤ると、逮捕や処分に影響します。本人が直接連絡する前に相談してください。

3 会社で不正が発覚した場合

横領、背任、窃盗、情報持出し、経費不正などでは、会社が警察に相談する前から対応を検討すべきです。会社への説明、被害弁償、証拠保全、出頭方針が重要になります。

4 盗撮・痴漢・性犯罪の疑いがある場合

スマートフォン解析、余罪、被害者対応、報道、勤務先発覚が問題になります。早期に弁護士に相談すべき類型です。

5 薬物事件の場合

所持品検査、採尿、家宅捜索、逮捕、入手経路、再犯防止、家族対応が問題になります。単純所持・自己使用でも軽く見るべきではありません。

6 交通事故で救護義務違反・飲酒運転が問題になる場合

逮捕だけでなく、運転免許、会社、報道、被害者対応が問題になります。警察に呼ばれる前後で早めに相談してください。

7 公務員・教員・資格職・会社役員の場合

刑事処分だけでなく、懲戒、資格、報道、信用への影響が大きいため、逮捕前から生活防衛を考える必要があります。

 

12 逮捕前にしてはいけないこと

 

逮捕が不安なときほど、してはいけないことがあります。

・証拠を消す
・LINEやメールを削除する
・スマートフォンを初期化する
・関係者と口裏合わせをする
・被害者に直接連絡して口止めを求める
・警察に嘘をつく
・家族や会社に不正確な説明をする
・インターネット情報だけで自己判断する
・警察からの呼出しを無視する
・弁護士に不利な事情を隠す

これらは、逮捕や勾留のリスクを高めることがあります。

特に、証拠を消す、関係者に連絡する、被害者に圧力をかける行為は、罪証隠滅のおそれを強く疑われる事情になります。

逮捕を避けたいのであれば、隠すのではなく、弁護士に正確に事情を話したうえで、正面から対応方針を立てるべきです。

 

まとめ

 

逮捕される前に弁護士へ相談すべき理由は、単に「逮捕されないようお願いするため」ではありません。

刑事事件では、逮捕される前の段階で、次のような対応ができます。

・逮捕リスクを見極める
・警察への出頭方針を決める
・取調べ対応を整理する
・逮捕の必要性がないことを意見書で示す
・身元引受書や誓約書を準備する
・被害者対応や示談交渉を始める
・自首・出頭に同行する
・報道発表リスクを下げる対応を検討する
・会社、学校、家族への説明方針を整理する
・捜索差押えを避けるための任意提出等を検討する
・再犯防止策を始める
・不起訴や軽い処分を目指すための資料を整える

逮捕された後でも弁護士は動けます。

しかし、逮捕前だからこそできることがあります。

刑事事件で本当に守るべきものは、最終的な処分結果だけではありません。仕事、家族、生活、名誉、将来も含まれます。

警察から連絡が来た、事件が発覚しそうだ、自首や出頭を考えている、逮捕されるかもしれないと不安がある。

その段階で、できるだけ早く弁護士に相談してください。

 

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