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薬院法律事務所

刑事“専門”と言わない3つの理由

①依頼者に誠実でありたいから

第一の理由は、依頼された事件に誠実に応えたいからです。

私は、刑事弁護活動を弁護士業務の中心としていますが、ご紹介で民事事件を受けることはありますし、刑事事件から派生した民事事件を受けることもあります。依頼された事件に誠実に取り組んでいれば、必ずそうなるものだと思っています。

「私は刑事事件専門なので刑事事件以外はやりません」ということは不可能です。「専門」表示をして集客をするために、刑事事件以外の事件を切り捨てることはできません。

②弁護士の「専門」表示には問題があるから

第二の理由は、「専門」という表示には弁護士倫理上の問題があるからです。

日弁連の「業務広告に関する指針」では、弁護士が広告をするにあたり「専門」と表記することを控えるように述べられています。

12 専門分野と得意分野の表示

(1) 専門分野は、弁護士等の情報として国民が強くその情報提供を望んでいる事項である。一般に専門分野といえるためには、特定の分野を中心的に取り扱い、経験が豊富でかつ処理能力が優れていることが必要と解されるが、現状では、何を基準として専門分野と認めるのかその判定は困難である。専門性判断の客観性が何ら担保されないまま、その判断を個々の弁護士等に委ねるとすれば、経験及び能力を有しないまま専門家を自称するというような弊害も生じるおそれがある。客観性が担保されないまま専門家、専門分野等の表示を許すことは、誤導のおそれがあり、国民の利益を害し、ひいては弁護士等に対する国民の信頼を損なうおそれがあるものであり、表示を控えるのが望ましい。専門家であることを意味するスペシャリスト、プロ、エキスパート等といった用語の使用についても、同様とする。

※業務広告に関する指針

このように、専門表示は「差し控えるべき」とされているにも関わらず、実際にはよく使われています。一方で、弁護士から見ても「その分野の専門家である」と言うにふさわしい弁護士が行っている広告でも、業務広告に関する指針を意識してか専門表示を避けているものがあります。

そうすると、不都合なことに、誠実な(そして、しばしば真に特定分野の専門家である)弁護士ほど専門という表示がされず、利用者から専門弁護士に見えないことになります。

一方で、あえて推奨されない専門表示を行う弁護士ほど、利用者から専門弁護士に見られる、というパラドックスが生じることになると指摘されています(深澤諭史編著「Q&A 弁護士業務広告の落とし穴」(2018年2月)93頁参照)。

私は、2010年の弁護士登録以来、継続的に多くの刑事弁護活動を行い、実地での経験と書籍での学びを深めています。ネットで「専門」を自称している大半の弁護士よりも、刑事事件に関して深い知識と経験を有していると自負しています。

③刑事事件は「専門」だけで解決できるものではないから

第三の理由は、刑事事件は「専門」だけで解決できるものではないからです。
これが、私にとって一番重要な理由です。

刑事弁護活動の中心が、刑事手続における対応にあることは間違いありません。しかし、依頼者の人生を考えた場合、それだけに特化するのではかえって不十分なのです。

例えば、逮捕された場合、「その期間は仕事ができない」といった問題だけでは終わりません。逮捕されたことが職場に知られ、周囲に犯罪者としてのレッテルを貼られたり、家族関係が壊れたり、マスコミに報道されたり、被害者からネットに情報を晒されたり、懲戒解雇されたりといった不利益が生じることがあります。

これらは本来の刑事弁護の問題ではありません。しかし、依頼者の人生にとって深刻な問題です。弁護活動にあたっては、こういった問題も視野に入れた上で対応する必要があります。

また、刑事弁護人にとっての「成功」と、依頼者の人生にとっての「成功」は必ずしも一致しません。例えば、実際に犯罪を行った人に、黙秘を続けるように指示した上で、証拠不十分での不起訴あるいは無罪判決を獲得したとします。これは、刑事弁護人の視点では「成功」でしょう。

しかし、その間に勾留が続き、何か月間も拘束されて職も失ったとなれば、それが本人の人生にとって一番良いことなのかどうかは疑問です。むしろ、自白をアドバイスした上で、早期釈放させ、示談交渉に力を入れて不起訴を目指した方が良かったかもしれません。

あるいは、本人に執行猶予がつく可能性を高めるため、あるいは刑罰を軽くするために、到底払いきれない高額の示談金の支払い約束をして示談する、これも目先のことだけ見れば「成功」です。しかし、支払いをするために家族全体が疲弊してしまうということもありますし、その後結局払えなくなった場合には、被害者側の怒りを増すだけです。

「どういう選択が依頼者の人生にとって最適解か」は、単純に刑事事件の結果だけでは判断できません。最終的には依頼者本人が選択されることですが、それぞれの選択がどういった結果をもたらすのか、弁護士は見極める必要があると思います。そのためには、幅広い分野に対する知識と経験が必要になるのです。

このように、私は「専門」ではないからこそ、依頼者にとって最適な解決策を提示できるものだと信じています。私は、これからも、幅広い事件に取り組み研鑽を深めていくつもりです。

私は、2012年の事務所開設以後、この方針を貫き続けてきました。10年以上経過した今振り返って考えても、この方針は正しかったと確信を深めています。これからも、それぞれの人の人生にとってベストな選択肢が何なのか、依頼者、依頼者ご家族と一緒に考えていきたいと思っています。