SNSでの誹謗中傷と、名誉毀損罪の成立について
2024年01月25日刑事弁護
- 一般論として、インターネット上での表現行為についても、名誉毀損罪の成立要件を厳しくするべきとは考えられていません。最高裁決定もあるところです。
- 事件番号
- 平成21(あ)360
- 事件名
- 名誉毀損被告事件
- 裁判年月日
- 平成22年3月15日
- 法廷名
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判種別
- 決定
- 結果
- 棄却
- 判例集等巻・号・頁
- 刑集 第64巻2号1頁
- 原審裁判所名
- 東京高等裁判所
- 原審事件番号
- 平成20(う)1067
- 原審裁判年月日
- 平成21年1月30日
- 判示事項
- 1 インターネットの個人利用者による名誉毀損と摘示事実を真実と誤信したことについての相当の理由
2 インターネットの個人利用者による名誉毀損行為につき,摘示事実を真実と誤信したことについて相当の理由がないとされた事例
- 裁判要旨
- 1 インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の表現手段を利用した場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない。
2 インターネットの個人利用者が,摘示した事実を真実であると誤信してした名誉毀損行為について,その根拠とした資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあることなどの本件事実関係(判文参照)の下においては,上記誤信について,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえない。
- 参照法条
- (1,2につき) 刑法230条1項,刑法230条の2第1項
裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
【所論は,被告人は,一市民として,インターネットの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行った上で,本件表現行為を行っており,インターネットの発達に伴って表現行為を取り巻く環境が変化していることを考慮すれば,被告人が摘示した事実を真実と信じたことについては相当の理由があると解すべきであって,被告人には名誉毀損罪は成立しないと主張する。
しかしながら,個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁参照)。】
もっとも、最高裁決定後に普及したSNS での利用者間論争については、より成立要件を限定して良いのではないかという考え方があります。名誉毀損罪の成立を争う刑事弁護人だけでなく、民事での賠償責任を争う代理人弁護士としても、このような考えがあることを把握しておく必要性は高いと思います。
宍戸常寿「判例講座・憲法人権:第15回表現の自由(5)表現の自由の現代的課題(2)放送の自由、通信の秘密、インターネットと表現の自由」警察学論集76巻10号(2023年10月号)
167頁
【本決定後に普及したSNS上での利用者間の論争等については、本決定と区別して、第1審のような考えを採ることもなお検討に値しよう39)】
【39)曽我部真裕「表現の自由(4)-インターネットがもたらした変容」法学教室492号(2021年) 54-55頁、高橋・前掲注12) 397-398頁参照。】