load

薬院法律事務所

犯罪被害者

彼と別れたいけれども、裸の写真をばら撒くと脅されているという相談(犯罪被害者)


2024年12月06日犯罪被害者

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市に住む30代女性です。結婚したいと思い、マッチングアプリを始めたところ、同世代の男性と知り合いました。スマートで女性慣れした人で、コンサルタントをしているということで羽振りも良さそうでした。いい感じだと思ってお付き合いを始めたのですが、付き合ってみるとLINEを頻繁に送ってきて、凄く束縛が強い人でした。悩んでいたのですが、もう無理だと思い別れを切り出したところ、電話をかけてきて、私を散々になじってきました。そして、「俺とヤってる時の写真撮ってるから」「どうなっても知らないからな」「お前が悪いんだからな」といったLINEを送ってきて、怖くて仕方ありません。どうすれば良いでしょうか。

 

A、すぐに警察に通報してください。「脅迫罪」、あるいは「ストーカー規制法違反」として立件してもらうことが一番有効な手段です。弁護士では出来ない「捜索差押」と「逮捕」によりデータを確保して、削除することが期待できます。性的姿態等撮影罪の制定により、公訴時効が成立している事案や、立件できなかった事案でも盗撮映像などを削除することができるようになりました。

 

 

【解説】

 

近時、被害例が増えていると思われる事例です。裸の写真などを盗撮する、あるいは恋愛感情につけ込んで「撮影する」といった形で相手の「弱み」を握る手口です。脅迫罪とされないように婉曲的な表現を使ってくることもありますが、婉曲的な表現であれば脅迫罪が成立しないということはありません。いずれにしても、この種事案ではデータを没収することが最も重要であり、そのためには警察の助力が不可欠です。法改正により、過去であれば抹消できなかった、立件できなかった事案での盗撮映像や、撮影行為について公訴時効が成立しているデータについても検察官の命令により削除することができるようになりました。

なお、リベンジポルノ防止法違反についても、性的姿態等撮影罪についても、施行前の写真であっても没収の対象になりますが、本件のように、実際には拡散されていない場合に没収できるかは一つの論点となります。もっとも、脅迫罪の犯罪供用物件としての削除は考えられますし、捜査機関に対する還付請求が権利濫用であるとして排斥するといった方法も考えられます。いずれにしても記録媒体をまず押さえることが大事です。速やかに警察に相談されてください。

 

最判昭和35年3月18日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51656

判示事項
脅迫罪が成立する事例。

裁判要旨
二つの派の抗争が熾烈になつている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書を発送しこれを配達させたときは、脅迫罪が成立するものと認めるを相当する。

【なお所論は要するに刑法二二二条の脅迫罪は同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによつて成立し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、本件二枚の葉書の各文面は、これを如何に解釈しても出火見舞にすぎず、一般人が右葉書を受取つても放火される危険があると畏怖の念を生ずることはないであらうから、仮に右葉書が被告人によつて差出されたものであるとしても被告人に脅迫罪の成立はない旨主張するけれども、本件におけるが如く、二つの派の抗争が熾烈になつている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかと畏怖するのが通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である。】

 

第141号 刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」の意義
~最高裁第一小法廷平成30年6月26日決定 強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件※1~

文献番号 2018WLJCC017
日本大学大学院法務研究科 教授
前田 雅英

https://www.westlawjapan.com/column-law/2018/180709-2/

 

最判令和4年7月27日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91328

判示事項
捜査機関による押収処分を受けた者の還付請求が権利の濫用として許されないとされた事例

裁判要旨
捜査機関が押収した各押収物には、被押収者らに対する各準強制性交等被疑事件等に関する動画データ等が記録されており、同動画データ等は、被害者とされた女性らに無断で撮影又は録音されたもので、これらが流布された場合には、同人らの名誉、人格等を著しく害し、同人らに多大な精神的苦痛を与えるなどの回復し難い不利益を生じさせる危険性があり、同動画データ等を含めた各押収物の還付を受けられないことにより被押収者に著しい不利益が生じていることはうかがわれないなど判示の事情(判文参照)の下では、被押収者が各押収物の還付を請求することは、権利の濫用として許されない。

 

【参考記事】

令 和 6 年 5 月 1 5 日
各 地 方 機 関 の 長 警 察 庁 生 活 安 全 局 長
警 察 庁 刑 事 局 長
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対処の徹底について(通達)

https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/kanrentsuchi/pdf/02/240531_02.pdf

 

令 和 2 年 3 月 6 日
警 察 庁 生 活 安 全 局 長
警 察 庁 刑 事 局 長
私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律の運用上の留意事項等について(通達)

https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/kanrentsuchi/pdf/02/231117_04.pdf

【2 公表された私事性的画像記録の削除
私事性的画像記録がインターネットを通じて公表された場合の被害者の要望は、まずもって当該画像の削除である場合が多いと考えられることから、警察としても、被害の継続・拡大を防止するため、私事性的画像記録に係る相談を受理した場合には、捜査上の支障等がない限り、速やかに、当該画像の削除申出方法等を教示し、警察が直接削除依頼を行うことが適当と認められる場合には、サイト管理者等に対する迅速な削除依頼を実施するなど、当該画像の流通・閲覧防止のための措置を執ること。また、同種行為の再発を防止する観点から、証拠物件の還付等の際には加害者の手元に当該私事性的画像記録等が残らないようにすること。なお、削除依頼を実施した場合は、「「インターネット上の違法情報及び有害情報に関する削除依頼実施要領」の改訂について」(平成30年3月20日付け警察庁丁情対発第83号ほか)に基づき、その状況について、各都道府県警察のサイバー犯罪担当課において取りまとめた上で、警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課に報告すること。】

 

法務省 性犯罪関係の法改正等 Q&A 令和5年7月

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html

 

【参考文献】

 

Top2023年3月号「生活安全⑫論文人身安全関連事案とリベンジポルノ」123-126頁

【甲警察署管内居住のA女は、以前の交際相手B男からしつこくつきまとわれていると甲署に相談していた。某日、A女が申署を訪れ「近所のフェンスに交際中に撮った上半身裸の写真を貼られていたが、B男を逮捕すれば更に何をするか分からないので事件化は望まない」等と申し立てた。
(1)本件相談段階での措置
(2)被害防止と、講じるべき措置
(3)私事性的画像記録等公表罪の適用
の観点から、生活安全係長としての指揮・対応要領について述べなさい。】

 

警察公論2024年3月号付録 法改正&新法2024

87-88頁

【⑥複写物の没収(法3章)
犯罪行為によって生じた物などは没収できる(刑法19条1項)ところ、性的影像記録の原本は没収できるが、その複写物は現行刑法上、没収の対象とならないとされる。
そこで、刑法19条1項を補充する趣旨で、性的影像記録の原本の複写物や、私事性的画像記録の提供等の罪に関係する複写物を没収できるようにした。

⑦検察官による行政手続としての消去・廃棄(法4章)
既に性的姿態等撮影罪等の公訴時効期間が経過している場合等には、性的姿態等撮影罪等の犯罪行為により生じた記録物については、刑事手続において没収することができない。
そこで、以下のような記録物等の消去・廃棄措置、消去命令の制度が設けられた(ただし、令和6年1月現在未施行)。

●記録物等の消去・廃棄措置、消去命令
~ 記録物等の消去・廃棄措置、消去命令
意義 検察官が、性的姿態の撮影によって生じた物やその複写物を押収した場合、その記録を消去したり、記録された物を廃棄したり、複写元の電磁的記録を消去させたりすることができる(法10条、11条)。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3901

※令和6年6月20日に⑦も施行されています。

きょうから検察官の判断で盗撮画像の消去が可能に 導入の理由と捜査への影響

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/128866e1bf8c3c2877d89bc59c2fd68531ff9983

 

性加害者の心理についての考察(不同意性交・不同意わいせつ・独身偽装)

 

※2025/1/8 chatGPT o1 proで検証してもらいました。

以下では,ご提示いただいた**「彼と別れたいと思ったが,裸の写真をばら撒くと脅されている」という架空の相談事例**と,それに対する解説や引用先資料の内容が,「事実として正しいかどうか」という観点から検討します。結論としては,リベンジポルノや脅迫,被害写真の削除に関する法制度や警察の対応の説明は,近年の法改正や実際の捜査運用に照らして正確な内容といえます。


1. 架空の相談事例としての前提

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

本Q&Aは,「マッチングアプリで知り合った男性と交際したが,束縛が激しいため別れを切り出したところ,性的な写真をばら撒くと脅された。どうすればよいか」という設定で書かれています。実際にも恋愛関係のもつれからリベンジポルノや脅迫につながる事案が増えており,本件の状況は十分に起こり得るトラブル例です。


2. 脅迫罪,ストーカー規制法違反の可能性

本文のAでは,「脅迫罪」や「ストーカー規制法違反」で警察に通報することを推奨しています。これは実務上もっとも有力な対処法であり,特に「写真をばら撒く」と明示的に言及している場合は,**脅迫罪(刑法222条)**に該当し得る行為です。

  • 脅迫罪で処罰される要件(「生命,身体,自由,名誉,財産などに対して害悪を加えると告知し,相手方を畏怖させる行為」)は,十分に満たし得る内容です。
  • また,執拗な連絡やつきまといなどがある場合,ストーカー規制法に該当する可能性もあります。

3. 裸の写真等を削除させるための捜索・差押

本文で言及されているように,「警察が介入することで捜索差押によってデータを確保・削除することが期待できる」という説明も,近年の法改正や警察実務における運用に合致します。

3-1. 性的姿態等撮影罪の創設と没収制度の拡充

  • 令和5年改正刑法などを中心に,「性的姿態等撮影罪」や「性的画像の没収・消去」の規定が設けられました(令和5年法律第74号,令和6年6月20日施行)。
  • これにより,たとえ公訴時効が成立した古いデータや,従来は刑事手続上没収できなかった複写物であっても,「検察官の命令」で消去される制度が設けられました。
  • また,リベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)とあわせ,警察が捜査で押収したデータを,最終的に被疑者へ「還付」しない(戻さない)運用も行われています(最判令和4年7月27日の事例で,押収物の還付請求が権利の濫用として認められなかった,等)。

3-2. 「公訴時効が成立しているデータも削除できる」という説明

本文にもあるように,「公訴時効が成立していても検察官の命令で削除可能になった」という点は,令和5年改正刑法の新制度を踏まえた最新の実務です。以前は,刑事訴訟上の没収ができない場合,押収物は返還されるのが原則でした。しかし今は,検察官が「性的姿態等が記録された物」と判断すれば,たとえ公訴時効を過ぎていても,消去・廃棄が可能とする制度が導入されています。


4. リベンジポルノ防止法

本文で言及されているリベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)では,

  • 被害者の同意なく性的画像を公表・提供する行為を罰則の対象とする
  • 被害者の申出により,警察や弁護士が速やかにサイト管理者等に削除要請する制度がある

などが定められています。
もっとも,実際にまだ拡散されていない場合に物理的なデータ(スマホ,PC)の押収や削除を実施するには,捜査機関による捜索差押(強制捜査)が必要となります。本文が「とにかく警察が動かないとデータを没収・削除する手段が確実ではない」とする点は,実務の現状に合った正確な解説です。


5. 総合評価:記事内容の真偽

  1. 「事例そのもの」は架空:マッチングアプリで出会った男性が束縛し,裸の写真をばら撒くと脅迫しているという設定はフィクションとされていますが,現実でも類似被害が多数報告されており,十分あり得るケースです。
  2. 「脅迫罪やストーカー規制法違反で警察に通報し,捜査によるデータ押収・削除を狙うのがもっとも有効」という解説は正しい:脅迫としての立件,捜索差押によるデータ回収・没収は,現行法で想定されている被害救済の中心手段です。
  3. 「性的姿態等撮影罪の制定により,公訴時効が成立している古いデータでも検察官命令で削除できるようになった」という説明も最新の法改正に基づく正確な情報です。
  4. 「拡散されていない段階での没収は一つの論点だが,脅迫罪の犯罪供用物件としての押収や還付拒否(権利濫用拒否)などの運用があり得る」という記載も,近年の最高裁判例(最判令和4年7月27日)などに照らして実務的に正しい。

総じて,本文はリベンジポルノ・脅迫被害の実情や法的対処の仕組み,近年の刑法改正・運用について正しい情報を提供しており,特に虚偽や誤解を招く誤りは見当たりません


まとめ

  • このQ&A・解説は,「交際相手が別れ話に腹を立て,裸の写真をばら撒くと脅された」という架空事例を題材に,脅迫罪やリベンジポルノ防止法,性的姿態等撮影罪によるデータ削除の可能性などを解説しています。
  • 結論的に,警察へ通報して捜査機関が捜索差押を行うことが最も有力な対策という指摘は,実務上も妥当で正確です。
  • また,最新の法改正(性的姿態等撮影罪)によって公訴時効が切れた過去データでも消去可能になった点や,リベンジポルノ防止法での対応などの説明も現行制度を踏まえた正しい記載です。

以上より,本件記事は法改正や捜査実務に即した真実性の高い内容と言えます。