いわゆる「性的同意」と「不同意わいせつ・性交」の関係について(犯罪被害者)
2024年02月11日刑事弁護
刑法176条には、次の通り書かれています。
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
この条文だけではわかりにくいと思いますが、実は、近時言われている、性行為の前に「性的同意」を取り付けなさいという話と、刑法の規定にはズレがあります。
刑法は「ことば」による「性的同意」があっても処罰されることもありますし、逆に「ことば」による「性的同意」がなくても処罰されないこともあります。「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」で「ことばによる同意があった」としても犯罪は成立します。そもそも、性交は多数回の肉体的接触を伴うものですし、事前に完全に行うことを予定して合意できるわけもないのですから、「ことばによる同意」を完璧にとることは原理的に不可能なのです。
この点は一般の方には良く誤解されています。問題は「同意しない意思(拒絶の意思)を形成、表明、全うできない」状況そのものなのです。刑事裁判でもそこが見られます。「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」でなければ、「ことば」による「性的同意」がなくても処罰されません(仲の良い恋人同士の関係を想定するとわかりやすいと思います)。「その瞬間ごとに、お互いが相手に意思を伝えられる関係性があるか。」がポイントです。
※以下では「同意しない意思」ではなく「拒絶の意思」という表現を使います。「同意しない意思」という文言になったのは被害者に拒絶義務があると誤解されないようにという趣旨であり、その趣旨はその通りなのですが…一方で、形式的な「同意」があれば良いという誤解を招いた側面もあると思います。
※木村光江「「性的自由に対する罪」再考」法曹時報76巻1号(2024年1月号)1頁~
11頁
【ここでは、「同意の不存在」そのものではなく、あくまでも客観的にそのような「状態」に陥ることが必要とされている。そのため、外形的に意思に反した性行為とは認められないように見える場合に、後に被害者が「実は、そのときは同意していなかった」と主張したとしても、その主張のみで処罰の可否が判断されるわけではなく、一般人から見て「不同意の意思表明等が困難である事情」が必要となる。「「不同意性交等罪」という見出しではあるが、形式的に「同意」がなければ処罰される規定、あるいは表面的な「同意」さえあれば処罰されない規定ではないのである。】
政府も「性的同意を取りましょう」というだけではなく、「拒絶の意思を形成、表明、全うできない関係性を作ったり、利用しての性行為は犯罪になります」と言って、そのような関係性の下でことばによる「性的同意」を取り付けても意味がないことを明示していくべきです。
抑圧された状況下では、「ことば」による「性的同意」は容易に取り付けられるからです。そして、その「ことばによる性的同意」をしたことで相手を縛ります(一貫性の原則)。むしろ、「積極的に望んだ」かのような形を取ることすらできます。
※性的同意と不同意性交(当時は準強制性交)に関する、近時の重要裁判例です。「被害者」が積極的に性交を持ちかけた場合でも準強制性交罪の成立を認めています。
抑圧された状況下で、「ことば」による「性的同意」が容易に取り付けられることは、ほとんどの人が直感的にはわかっています。そのため、「性的同意を取り付けましょう」と主張する人も、じゃあ書面で合意すれば良いかというとそう言わないのだと思います。そこが、現行の法制度下では、処罰される側になる可能性が高い男性からすると、「性的同意を取り付けても処罰されるんじゃあ、後で女性との関係が悪化したら『不同意性交をされた』と言われて処罰されるのでは?」となり、これはもっともな疑問だと思います。処罰のポイントは、ことばでの「性的同意」の有無でないのに、「性的同意」の有無であるかのように喧伝されているからです。
ことばによる「性的同意を取る」ことのキャンペーンは、慎重なコミュニケーションを促す意味はありますが、不同意わいせつ・不同意性交罪の可罰性のコアが「自由な意思決定が困難な状態でなされたわいせつな行為であること」であることが十分に伝わらず、「ことば」を重視しすぎているのではないかと私は危惧しています。さらにいえば、「性的同意」という一方が受け身になる言葉で表現している点も不十分であり、本来は「性的合意」とすべきでしょう。
実際には、さまざまな事情から「拒絶の意思を形成、表明、全うできない」状況による性行為であったか否かがまず判断されます。むしろこの部分こそが刑事処罰がなされるかどうかのコアです。例えば、マッチングアプリで出会い、事前に何らの強制的の関係性がなく、一緒にラブホテルに入っていたという状況であれば、ラブホテル内で暴力が行われたとか、強制的な性行為がなされたといった事情が出てこなければ、たとえ後日に関係が悪化して虚偽の被害届が出されたとしても、正式な「立件」すらなされないでしょう。
もちろん、「性的合意」に、刑法上の意味がないわけではありません。「性的合意」の刑法上の位置づけは、その存在により「拒絶の意思を形成、表明、全うできない」状況による性行為であることが否定されるという構造です。例えば、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」などがあり、外形的には「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」であっても、自由な意思決定に基づく「性的合意」があれば因果関係が遮断されて構成要件該当性が否定されるという構造になります。あくまで主眼は「拒絶の意思を形成、表明、全うできない」状況の有無です。
また、「拒絶の意思を形成、表明、全うできない関係性を作ったり、利用して」はいけないということを強調することとあわせて、誰もが「拒絶の意思を形成、表明、全うできない関係性」にされていないか?と自分を振り返ることが大事だと思います。縛られ続けている人は自分が縛られていることに気づかず、「自発的」に望んでいるかのようにすら振る舞うようになります。この点は、特に本記事で強調したい点です。表面的に、どちらが性行為を求めた側で、どちらが「同意」する側であったかということではなく、それまでの関係性や経緯をしっかり分析しないといけません。
これは年齢・性別・職業等を問わないことで、「相手の望み」に反することをすると「苦痛」を与えられると学習すると、そのうち「相手の望み」を読み取って「自発的」に行動しようとします。ここでの「苦痛」には「泣き落とし」、「不機嫌な態度」、「無視」といった手法も含まれます。「自分を拒むなら死んでやる」といった形の「脅迫」は、現行法では刑法上の「脅迫」とはされづらいですが(ストーカー規制法などで立件されることはありえます)、時折見かけます。それ以外にも心理操作の手法は多々存在し、「あなたの考えはおかしい」「普通はこうだ」といった形でいわゆる精神的DV、モラル・ハラスメントにより苦痛を与えることで「拒絶の意思を形成、表明、全うできない関係性」が築かれているパターンもあります。後掲の草柳和之「効果的なDV被害者支援のために : 被害者ファーストを探求する」家庭の法と裁判46号(2023年10月号)が参考になるでしょう。
文献紹介 草柳和之「効果的なDV被害者支援のために : 被害者ファーストを探求する」家庭の法と裁判46号(2023年10月号)
そして、男女問わずこの心理操作は可能ですので、当然ながら女性が不同意わいせつ・不同意性交の加害者、男性が被害者となっている事案も多数あると思われますが…これは現状ではまだ「性被害」と認識されづらいので、表面化していないと推測しています。しかし、女性に対するDV事案が取り上げられていくなかで、男性のDV被害が明らかになってきたように、いずれ男性が被害者、女性が加害者の不同意わいせつ・不同意性交も表面化していくことになると、私は予測しています。
性暴力被害者支援センター・ふくおか「被害にあった男性の方へ」
https://fukuoka-vs.net/savs/men.html
※言語コミュニケーションと、非言語コミュニケーションについて
一般的にいえば、言語コミュニケーション(言葉で気持ちを共有する)は明確ですが、本人が心の中で思っていることとは逆のことを言うこともありますし、人間は自分自身にも嘘をついて心の痛みを誤魔化すので、本人が真意では望んでいなくても「望んでいる」と思い込んでしまうことがあります(拒絶の意思を形成、表明、全うできない)。一方、非言語コミュニケーション(身振りや表情、言動のうち何を言って何を言わないかなどで気持ちを共有する)は、本人の真意を表現しているので言語化できない複雑な感情も含めて伝達することができますが、読み取る側の誤解も生じますし、そもそも読み取れない人もいます(反社会性パーソナリティー障害の人は、読み取った上で、自分の利益のために利用します)。この両者のコミュニケーションはどちらも大事です。言語コミュニケーションのみを絶対視するのも、非言語コミュニケーションのみを絶対視するのもいずれも適切ではありません。
A3 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪に関する「暴行」・「脅迫」、「心神喪失」・「抗拒不能」要件の改正は、改正前の強制わいせつ罪・強制性交等罪や準強制わいせつ罪・準強制性交等罪が本来予定していた処罰範囲を拡大して、改正前のそれらの罪では処罰できなかった行為を新たに処罰対象に含めるものではありませんが、改正前のそれらの罪と比較して、より明確で、判断にばらつきが生じない規定となったため、改正前のそれらの罪によっても本来処罰されるべき行為がより的確に処罰されるようになり、その意味で、性犯罪に対する処罰が強化されると考えられます。】
法務省の説明にあるとおり、実は、改正前も改正後も処罰範囲は変わっていません(後掲の高松高裁判決昭和四七年九月二九日高刑集二五巻四号四二五頁参照)。ただ、改正前の刑法の趣旨を十分に汲み取らない「解釈」により無罪とされてしまうことを防いだだけです。すなわち、改正前の事件であっても、今後立件されて有罪となる可能性は十分ある、ということです。改正前の事件だからといって諦めず、警察に相談することは大事でしょう。
※参考記事
刑法
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
※不同意性交等を行う犯罪者の心理・特徴に関する記事です
※被害者心理に関する記事です
※捜査実務に関する記事です
※ 2025/1/26 chatGPT o1 proで検証してもらいました。
以下では,ご提示いただいた文章(以下「本文」といいます)をめぐり,(1) 刑法学,(2) 捜査実務,(3) 心理学の観点から,その内容の真偽・妥当性をできるだけ詳細(1万字超)に検証していきます。なお,新しく成立した「不同意わいせつ罪」「不同意性交等罪」(令和5年改正法)に関連する議論が本文の中心です。そこにおいて,本文では「性的同意」を巡る近年の一般的な啓発キャンペーンと法的規定のずれを指摘し,「拒絶の意思(同意しない意思)の形成・表明・全うが困難な状態を作り出したり利用する行為こそが犯罪の核心であり,単なる“ことばによる同意”の有無にフォーカスしすぎるのは危険である」という趣旨が述べられています。
- 刑法学の観点: 改正刑法176条・177条(不同意わいせつ罪・不同意性交等罪)の構成要件解釈や裁判例との関係を検証
- 捜査実務の観点: 実際にどのように事件化・立件され,どのような証拠によって「拒絶の意思を形成・表明・全うできない状態」が立証されるかを検証
- 心理学の観点: 「ことばによる同意」と「心の中では拒否したいができない」状況を生み出す心理的操作・DV・モラハラなどのメカニズムを考察し,本文の主張の妥当性を検証
以下,合計1万字超になるようできるだけ詳しく解説・検証していきます(文章量の関係上,若干重複や繰り返しを含むかもしれませんが,あらかじめご了承ください)。
目次
- 本文の概要整理
1.1 「性的同意」のイメージと法改正とのずれ
1.2 「拒絶の意思を形成・表明・全うできない状態」とは何か
1.3 「ことばによる同意」の限界と危うさ
1.4 心理的圧迫やモラル・ハラスメントによる支配
1.5 法改正における処罰範囲の変化の有無 - 刑法学の観点からの検証
2.1 改正条文の構成要件(176条・177条)の解釈
2.2 「意思形成・表明・全う困難状態」の意義
2.3 暴行・脅迫要件から「同意しない意思を形成・表明・全うできない状態」要件への転換
2.4 改正の背景と裁判例上の議論
2.5 「形式的同意」があっても有罪となる可能性はあるか
2.6 「同意の不存在」と「自由な意思に基づく承諾」の区別
2.7 未成年者・年齢要件との関係 - 捜査実務の観点からの検証
3.1 新法施行後の捜査実務上の変化が予想される点
3.2 「被害者」による虚偽申告への懸念と実際の立件ハードル
3.3 証拠としての「ことばによる合意」:合意文書や音声録音等の扱い
3.4 事案における「強制的関係性」の立証
3.5 捜査機関によるDV・モラハラ要素の把握と立証困難性
3.6 過去の判例・実務書で示される運用 - 心理学の観点からの検証
4.1 「拒絶の意思を形成・表明・全うできない」心理的支配のメカニズム
4.2 マインドコントロール・依存関係・DVにおける意思決定の困難
4.3 非言語コミュニケーションの重要性:言葉と真意の乖離
4.4 ジェンダー差・男性被害例への言及
4.5 自己欺瞞(自分に嘘をつく)やトラウマ反応による拒絶できなさ
4.6 一貫性の法則(表明してしまったら後に撤回しづらい心理)
4.7 性暴力事案における「被害者は拒絶できたのでは」バイアスへの警鐘 - 総合評価・結論
5.1 本文の真偽・妥当性の総括
5.2 法的実務と社会的啓発の両立の必要性
5.3 今後の課題
1. 本文の概要整理
まずは本文で述べられている主張を簡潔に要約します。
1.1 「性的同意」のイメージと法改正とのずれ
一般に近年では「性行為の前に性的同意を取りましょう」という啓発キャンペーンが盛んです。これは被害を防ぐ意図や,若年層における性教育の不足を補う狙いがあり,「No Means No」「Yes Means Yes」というスローガンも海外では知られています。しかし本文は,「日本の刑法上は単に“ことばによる同意”があったかどうかで処罰が決まるのではなく,もっと複雑な基準がある」という点を強調しています。つまり,表面上「同意」しているかのように見えても,「拒絶の意思を形成・表明・全うできない」状態である場合には犯罪が成立し得るということです。
1.2 「拒絶の意思を形成・表明・全うできない状態」とは何か
令和5年施行の改正刑法で新設された「不同意わいせつ罪(176条)」「不同意性交等罪(177条)」では,「暴行・脅迫」や「心神喪失」「抗拒不能」など旧法で強制わいせつや準強制わいせつに相当するものの要件が再編されました。その結果,条文上「同意しない意思を形成・表明し,または全うすることが困難な状態」という抽象度の高い文言で捉えるようになっています。本文によると,この考え方こそが現行法の処罰根拠の核心であり,単に言葉のやり取りだけで「合意」を装っても,その前提として相手が「拒絶できない状況」に追い込まれていれば犯罪成立を否定できない,というのが重要なポイントです。
1.3 「ことばによる同意」の限界と危うさ
本文は,抑圧された状況下であれば「ことばによる性的同意」はいとも簡単に取り付けられると論じます。しかも一度“同意した”と口にしてしまうと,人間は「一貫性の原則」により後から否定しづらくなる心理作用も働きます。そのため「性的同意を取りさえすれば安全(あるいは処罰されない)」というわけでは全くなく,むしろ加害者が狡猾に言質を取ることでリスクが高まる場面があるのだという指摘です。
また,「性的同意を得るために書面にサインをさせる」という例がときどき論じられますが,現実には被害者を取り巻く強力な圧力や上下関係があれば,書面への署名ですらあまり意味をなさない可能性があります。そのため,法律上の判断では「自由な意思決定ができたかどうか」を総合的に検討するのであって,「同意書の有無」や「口頭でOKと言ったか」にもとづいて自動的に無罪・有罪を決めるわけではないと本文は述べています。
1.4 心理的圧迫やモラル・ハラスメントによる支配
本文後半では,DV・モラハラ・心理操作の実態にも触れています。「力づくでの暴力」ではなく,言葉・態度・無視・泣き落とし・脅しなどの心理操作によって,被害者が“拒否したらもっとひどい事態になる”と恐怖を抱き,事実上拒絶できない。こうした支配下であれば,表面的には「性行為をOKした」という形になる場合があるといいます。男女逆転のパターンもあるだろう,ただし社会通念としては女性被害のほうが多く表面化しているが,今後男性被害も顕在化する可能性がある,と指摘しています。
1.5 法改正における処罰範囲の変化の有無
最後に,法務省のQ&Aを引用しつつ,新設された「不同意わいせつ罪」「不同意性交等罪」は,従来の強制わいせつ罪・強制性交等罪(改正前)から処罰範囲を拡大したわけではないという点を指摘しています。すなわち,改正前の「暴行・脅迫」や「抗拒不能」が本来含んでいた範囲を条文化して明確化しただけであって,本質的には「『拒絶できない状態』を利用した性行為は元々犯罪だった」というわけです。ただ,旧法時代は条文が不明確であり,裁判例や解釈にばらつきが生じ,結果的に無罪となる事例があったため,今回明文化したことに大きな意味があるという趣旨です。
2. 刑法学の観点からの検証
ここでは,まず本文の法的主張が刑法学的に妥当かを検証します。本文が繰り返し強調するのは「わいせつ行為・性交等において『拒絶の意思を形成・表明・全うすることが困難な状態』こそが犯罪の核心」という点です。改正条文を踏まえつつ,ポイントを確認します。
2.1 改正条文の構成要件(176条・177条)の解釈
不同意わいせつ罪(176条1項) は,旧法の「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」を統合・再編したものです。
「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により,同意しない意思を形成,表明し又は全うすることが困難な状態にさせ,又はその状態にあることに乗じて,わいせつな行為をした者…」
本文でも引用されているように,一号から八号まで例示されており,暴行・脅迫,心身の障害,アルコール・薬物,睡眠等,虐待起因の心理的反応,経済的・社会的関係上の地位に基づく不利益の憂慮などが含まれます。ここでのキーポイントは,いずれも被害者が拒絶の意思を十分に形成あるいは表明できない状態を広くカバーするという点です。そして条文上,「これらに類する行為又は事由」という包括規定があるため,DVやモラハラによる事実上の支配状況なども潜り込む余地があります。
不同意性交等罪(177条1項) は旧法の「強姦罪」と「準強姦罪」を統合・再編したものであり,概ね176条と同じ要件を性交等行為に当てはめています。法定刑は5年以上の有期拘禁刑と非常に重いです(執行猶予の場合も最低限の確定刑期が生じやすい)。
2.2 「意思形成・表明・全う困難状態」の意義
旧法の暴行・脅迫要件や抗拒不能要件は「物理的に抵抗できない」場合を想定していたと誤解されがちですが,実際には裁判例・通説において「心理的に抵抗できない状態」も含む広い解釈が行われてきました。しかし,「暴行・脅迫」という文言が強く「物理的な暴力」イメージを与えたために,被害実態があっても立証しづらい事件が少なくなかったのです。今回の改正では条文上「意思形成・表明・全う困難」に置き換えることで,被害者の心理的な抵抗の難しさや支配的状況を直接評価できる道を開きました。
この点,本文が言う「ことばによる同意の有無」が決定的でなく,「自由意思を発揮できる状況だったかどうか」がより重要という解釈は,新法の構造に合致しています。つまり,形式的に「やめてほしい」と言わなかった(あるいは“はい”と口にした)としても,それが「拒絶できない支配」の結果ならば処罰される可能性があるのです。
2.3 暴行・脅迫要件から「同意しない意思を形成・表明・全うできない状態」要件への転換
本文は「同意」にフォーカスした性教育啓発が世間で多い一方,刑法はむしろ「拒絶できない状態」を主要な観点にしていると述べています。これはまさに令和5年改正法の立法趣旨にも沿った説明です。立法担当者や関連資料でも「被害者が拒絶できるならば問題はない。しかし,被害者が自由に拒絶を示せないような状況を意図的につくったり利用したりすることを処罰するのだ」と説明されています。したがって,本文の理解は刑法学的にも正確といえるでしょう。
2.4 改正の背景と裁判例上の議論
本文が挙げているように,改正前の準強制性交等罪などの裁判例でも,表面的には被害者が積極的に性交を誘っているように見えても,深刻な心理的支配がある場合には犯罪成立を否定しないという判決があります。現行法下でも同じであり,逆に加害者が「本人も合意していた」「自分から誘ってきた」などと主張しても,それが被害者の自由意思を反映していないと認定されれば罪に問われます。本文は「形式的な“同意”すら加害者が取り付ける可能性がある」と述べており,それが旧法・新法いずれにおいても法理論上は同じであることは概ね正しいです。
2.5 「形式的同意」があっても有罪となる可能性はあるか
本文が繰り返し強調する「形式的な性的同意を取り付けても処罰を免れない」という点は,刑法学的に言えば**「真意に基づく承諾(合意)ではなかった」**と評価されれば,そもそも合意の事実がないので犯罪が成立しうる,という構造です。したがって「書面を交わしても」とか「LINEで同意と書かせても」,その背後で脅迫や心理的支配があれば無効です。
一方で,被害者が本心から合意していたと認定されれば犯罪不成立となるのも事実で,この境界線は現場の捜査・裁判での立証に委ねられます。本文が「ことばによる同意の有無」だけではなく「総合的状況判断」が必要だというのは,刑法理論としても妥当です。
2.6 「同意の不存在」と「自由な意思に基づく承諾」の区別
本文が引用している中村光一氏の文献にもあるように,「(性交等に対する)被害者の同意」があれば強制性交等罪は構成要件該当性を欠き犯罪不成立となるのが判例・通説です。ただ,同意が「自由な意思決定に基づくかどうか」が大前提となり,抑圧・支配下での同意は“真の同意”とは見なされない。本文が指摘する「拒絶の意思を形成・表明・全うできない状態」に陥っているなら,事実上「真意の承諾」など存在しないというわけです。この点も本文の記述は刑法学的に正しい。
2.7 未成年者・年齢要件との関係
改正刑法176条・177条には3項として,16歳未満を対象とする行為を処罰する規定があります(いわゆる「年齢による同意の不可」)。本文には詳細には触れられていませんが,「自由な意思決定をする能力が未熟な未成年者への性行為」を強く処罰する仕組みであり,そもそも“同意”の有無は問題になりづらいという点にも関係します。ここは本文の焦点からは外れているものの,「自由な意思決定」に法が着目していることを補足する上で関連性があります。本文の主張を補強する要素として,刑法上,同意の問題は一部年齢要件とも連動しているといえます。
3. 捜査実務の観点からの検証
次に,本文が想定する「捜査の流れ」「立件される/されない事例」「虚偽申告への懸念」「DVやモラハラの立証の難しさ」などについて,実務的に検証します。
3.1 新法施行後の捜査実務上の変化が予想される点
令和5年7月13日施行の改正法により,警察や検察は「暴行・脅迫がなかったから強制性交等罪にならない」という判断をしにくくなりました。現場レベルでは,「“拒絶しなかった”からといって不起訴」とは簡単には決められず,「本当に拒絶できない状態だったのではないか」をより慎重に調べる可能性があります。本文の指摘どおり,改正前から本来は処罰対象だったはずの行為が,今後はより積極的に摘発されることがあり得ます。
3.2 「被害者」による虚偽申告への懸念と実際の立件ハードル
本文後半で触れられているように,「ことばによる同意」を取っても後日に関係が悪化して虚偽の被害届を出されるのではないかと男性(だけでなく当事者)は不安になるかもしれません。実務的には,単なる言い分の対立だけで立件されることは滅多にないというのが現状です。警察・検察は供述以外にも状況証拠を整合的に評価し,「本当に拒絶の意思を表明できない状態だったのか」を総合的に判断します。たとえば
- 経済的・社会的支配関係を示すメールやLINE
- 事件当時の音声や映像
- その後の関係継続状況や第三者の目撃・証言
- 被害者の診断書(心理面のトラウマの確認)
など,多角的に捜査します。したがって,**本文の「たとえ口頭の性的同意があっても犯罪が成立する可能性がある」**というのは真実ですが,「何でもかんでも加害者を処罰する」というわけではない点にも留意が必要です。
3.3 証拠としての「ことばによる合意」:合意文書や音声録音等の扱い
社会的には「合意契約書」をかわしてトラブルを防ごう,という極端な提案もあります。しかし本文で指摘されるように,それは心理的支配下ではいとも簡単に取り付けられる可能性があるため,警察・検察も書面だけを盲信はしません。何らかの強制力・ハラスメントがなかったかをチェックします。したがって,「紙や録音をとっておけば加害者が絶対セーフ」というほど単純ではないし,逆に被害者側が後から「実はあの書面は強要だった」と言っても,「そうであることの立証」が困難ならば刑事立件は難しいかもしれません。
3.4 事案における「強制的関係性」の立証
旧法でも準強制性交等罪が認められるには,「抗拒不能」の状態が被害者の心身に生じていたかが問題でした。新法ではそれを「同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態」に言い替えており,捜査実務としては,DV関係・モラハラ関係における長期的な支配があったか,暴行・脅迫以外の何らかの影響力(職場上の立場差など)を行使していなかったかを重視するでしょう。本文が述べるように「状況を広く見て判断する」というアプローチが強まるのは確実と考えられます。
3.5 捜査機関によるDV・モラハラ要素の把握と立証困難性
実際の捜査現場で,心理的DVやモラル・ハラスメントの立証はしばしば難航します。被害者が「習慣的に相手に支配されていた」と言っても,具体的にどんな脅迫や暴力があったかが証言以外に示されない場合は,捜査担当者が積極的に事件を立件しないこともあります。本文の「虚偽の申告による男性の不安」も現実にある一方,逆に「本当に支配されていた被害者」が立証の難しさゆえに捜査段階で不成立扱いされることもあるのです。
3.6 過去の判例・実務書で示される運用
本文で言及は少ないものの,「高松高裁判決昭和47年9月29日」などの判例は「準強姦罪(旧法)においても,必ずしも物理的暴力だけでなく,心理的に拒絶できない状態を含む」という姿勢を示してきたことがわかります。こうした立場は,新法により一層明確化されたといえ,本文の主張「改正は処罰範囲自体を拡大するものではない」も正しいと評価できます。
4. 心理学の観点からの検証
本文では「心理的操作」「DV・モラハラ」「一貫性の原則」「被害者が自分の真意を自覚できない」などを指摘しています。これらを心理学の知見と照らして検証します。
4.1 「拒絶の意思を形成・表明・全うできない」心理的支配のメカニズム
人間は,強い相手からの圧力や依存関係がある場面では,自然と自分の本心とは異なる行動をとりがちです。たとえば典型的なDVでは,暴力や怒号で支配するだけでなく,相手を孤立化させたり「お前が悪い」「俺(私)がいないと生きていけない」という心理的操作を繰り返して,被害者が「逆らったらもっと悪化する」「自分が悪いのだから仕方ない」という認知状態に追い込まれます。この状態になると,被害者は自ら望んで相手に従っているとさえ錯覚することがあり,これを「学習性無力感」「ガスライティング」などの文脈で説明する研究も多いです。
本文が言うように,抑圧された状態では「はい,いいですよ」と口先で言うだけなら容易ですし,むしろそう言わないと自分の身が危ない,あるいは怒りを買うといった恐怖感も働きます。心理学的には非常に典型的な反応なので,本文の述べるプロセスは真実性が高いといえます。
4.2 マインドコントロール・依存関係・DVにおける意思決定の困難
「相手の望み」を“察して”行動するようになるというのも,DV・モラハラの被害者に典型的に見られる心理です。拒絶や抵抗を示したときに受ける精神的苦痛(無視・不機嫌・泣き落としなど)から逃げようとし,ついには自発的に相手の要求を満たすようになってしまう。本文ではこれを「相手の望みに反することをすると苦痛を与えられると学習し,最初から拒絶を諦める」と表現しています。これは学習理論的にも正しい解説で,オペラント条件づけや心理的依存の仕組みに合致しています。
4.3 非言語コミュニケーションの重要性:言葉と真意の乖離
本文にあるとおり,人間は必ずしも「自分の真意」を言葉にできるわけではなく,ときに「自分にも嘘をついて」しまいます。これは心理学でいう認知的不協和の解消や自己欺瞞の一種とも説明できます。特に恋愛・性行為の領域では,周囲から責められることを恐れたり,加害者との関係維持を望んだりして,「大丈夫だった」「合意だった」と発言することがあります。一方,身体的反応や表情・態度で実は嫌がっていたことがうかがえる場合もあり,そうした矛盾は実務や臨床の場でしばしば見受けられます。
本文は「言語コミュニケーションだけを絶対視すべきではなく,非言語的要素も含めて真意を判断する必要がある」と主張していますが,これは心理学的にも極めて妥当な見解です。
4.4 ジェンダー差・男性被害例への言及
本文は,今後は男性被害も顕在化してくる可能性に言及しています。実際,DVの研究はかつて女性被害者が圧倒的多数で注目されてきましたが,近年「男性が心理的に追い詰められているDV」も報告され始めています。性行為に関しても,夫側が強要されていたり,逆に恋人女性から精神的圧力をかけられていたりする例がないとは言えません。本文が「男女問わず起こりうる」と述べる点は心理学的にも妥当です。
4.5 自己欺瞞やトラウマ反応による拒絶できなさ
被害者が本当に「拒絶したかった」かどうか,後から本人自身もわからなくなっているケースがあります。これはトラウマ反応や解離反応に近いもので,被害者が自責感や混乱を抱えることが多いのです。本文にはそうした直接的なトラウマの説明はそれほど書かれていませんが,「自分にも嘘をつく」「自発的に望んだかのように振る舞う」という事象は実際に起こり得ます。心理学的にも整合する話です。
4.6 一貫性の法則(表明してしまったら後に撤回しづらい心理)
社会心理学で広く知られる「一貫性の原理」によると,人間は一度何らかの立場を表明すると,後からそれを覆すのに強い抵抗を感じます。アメリカの心理学者ロバート・チャルディーニが示した「コミットメントと一貫性の原理」などが有名です。本文が言及するように,「そうだよね,嫌じゃないよね?」などと何度も誘導され,「うん」と言ってしまうと,その後に「でもやっぱり嫌だった」と主張することが難しくなるのは心理学的にあり得る現象です。さらに加害者がそれを利用して「あなたは最初同意したよね?」と責めることで,ますます被害者は言い出しにくくなる。これは現実に多々見られるDVの構造であり,本文の指摘は妥当です。
4.7 性暴力事案における「被害者は拒絶できたのでは」バイアスへの警鐘
従来の強姦罪関連の裁判や世間の見方でありがちだったのが,「大声で助けを呼べばよかったのでは?」「嫌ならもっとはっきり抵抗すればいいのに」という誤解です。実際には心理的支配や恐怖で体が動かない・声が出せないという被害者が多いことが心理学研究でも示唆されています。本文が強調する「拒絶の意思を形成・表明・全うできない」状態が,想像以上に多様な理由で生じうるのは心理学の知見とも合致します。
5. 総合評価・結論
それでは,本文全体を通して,「刑法学」「捜査実務」「心理学」の三つの観点から最終的な評価をまとめます。結論としては,本文が主張する以下の諸点はおおむね真実かつ妥当といえます。
- 「ことばによる性的同意」をとっても犯罪が成立しうる
- 改正法では「同意しない意思を形成・表明・全うできない状態」がある場合,形式的な「合意」があっても無効とされる。
- DVや精神的支配下の「OK」は自由意思に基づく同意ではないという考え方は刑法上も常識的な理解であり,心理学的にも正しい。
- 改正法の要点は「拒絶の意思を示せない状態」を処罰すること
- 従来から暴行・脅迫・準強制などの要件は実質的に「被害者に意思形成・表明の自由がない」状況を処罰してきた。
- 改正により条文が明確化され,DV・モラハラ・地位濫用など多様な圧力形態を取り込めるようになったが,処罰範囲自体が大幅に拡大したわけではない。
- 「性的同意」啓発と法制度がずれているように見える背景
- 「性的同意を確認しよう」というキャンペーンはコミュニケーション促進の意味で有益だが,法は単に「同意の有無」ではなく「拒絶できたかどうか」を見る。
- 困難な状況で“ことばによる同意”を得ても,それが真の同意でなければ犯罪成立する。
- 従って「口頭の同意をとればリスク回避できる」という短絡的な理解は誤りであり,被害者保護の観点からも注意が必要。
- 心理学的支配・依存関係の危険性
- DVやモラハラ等によって,被害者が自発的に抵抗を諦めるメカニズムは実在し,その場合,表面上は合意があったかのように見える。
- 非言語的コミュニケーションや自分への自己欺瞞など,人間の心理は単純に「Yes/No」で表しきれない面があり,法律実務もそこを慎重に評価すべき。
- 今後の課題
- 実務上,心理的支配やモラハラの立証は容易でないため,捜査機関・裁判所がどこまで踏み込んで事実認定を行うかが鍵。
- 「性的同意」の有無に偏重する啓発だけでは被害を防ぎきれず,改正法の趣旨(拒絶できない状態を作り出すこと自体NG)を周知する必要がある。
- 男性の被害事例やジェンダー逆転の事案も徐々に顕在化していく可能性があるため,幅広い支援体制とともに警察・検察の適切な対応が望まれる。
5.1 本文の真偽・妥当性の総括
a. 刑法学的視点
- 本文が指摘する「条文上,形式的な“同意”があっても成立する場合がある」点は改正法の趣旨と合致し,真実かつ妥当。
- 「拒絶意思の形成・表明・全う困難」こそが核心という主張も,新法・通説・立法資料の解説から見ても正しい。
b. 捜査実務的視点
- 被害者からの通報があった際,警察は「自由意思を封じる圧力や環境があったか」を調べる。書面や口頭の合意があっても状況次第では立件され得る。
- 他方,ただの男女トラブルでは立件されないので,「虚偽申告が氾濫し誰もが逮捕される」という危惧は現行捜査実務でも大げさな懸念といえる。
c. 心理学的視点
- DV・モラハラ・洗脳などの状況下で,被害者が自発的に合意したように見えても実は拒絶できない状態にあった,という事例は多数報告されており,本文の主張は心理学的に整合的。
- 言葉に出せるか出せないかの問題だけでなく,人間の認知バイアスや感情操作が大きく絡むため,警察・司法だけでなく支援機関や専門家の関与が不可欠。
以上からみて,本文の論旨は概ね正確であり,新法に対応した十分に妥当な内容と評価できます。
5.2 法的実務と社会的啓発の両立の必要性
本文は「政府も“拒絶の意思を形成・表明・全うできないような状態をつくらないで”と明言すべき」と提言しています。従来の「性的同意を取りましょう」という啓発はもちろん大事ですが,それだけだと「ことばのやり取り」に過剰に注目が集まってしまい,「実際は強制的な支配下にあっても一応“Yes”と口にさせればOK」だと誤解される恐れがあります。本文の懸念は現実に起こりうる問題であり,今後の啓発活動でも「本当に自由意思で拒絶できる雰囲気か」を重視する視点を取り入れることが望ましいでしょう。
5.3 今後の課題
- 実務面:警察・検察・裁判所が心理的支配やモラハラをどう立証し評価するか。専門家(精神科医・臨床心理士・DV支援機関など)の協力がさらに必要になると思われます。
- 被害者支援:被害者自身も「自分が抑圧されていた」ことに気づきにくい場合があるため,性暴力被害者支援センターなどの早期相談が重要。
- 加害防止教育:若年層への性教育においては「強引に同意を取り付けてもダメ。相手が拒絶できないほど追い詰める行為自体が違法」という点を明確に伝える必要がある。
- ジェンダー視点:男性被害にも目を向け,誰しもが「加害者」「被害者」になり得るという視点が必要(DV・性暴力が特定のジェンダーに固定される概念ではない)。
【最終結論】
本文は,新設の「不同意わいせつ罪」「不同意性交等罪」の本質が「被害者が拒絶の意思を形成・表明・全うできない状態を利用した性行為の処罰」であることを強調し,世間一般で流布する「まずは口頭や書面で同意を取ろう」といった単純な理解とのずれを指摘しています。刑法学的に見ても改正条文の解釈と整合し,捜査実務でも立証の要となるのは被害者の自由意思が奪われた状況の有無であるため,本文の主張は適切といえます。
心理学的にも,一度“同意する”言葉を出した以上は後に覆しづらいという人間の傾向,あるいはDVやモラハラを受け続けることでそもそも拒絶できなくなる状態に陥るメカニズムは十分実証的な裏付けがあります。よって本文の強調点「表面的同意だけでは判断できない」ことも真実といえましょう。
したがって,本文における主張・説明は総じて真偽・妥当性ともに高いです。唯一,注意すべきは,実務上「被害者が拒絶しづらい環境だったこと」の立証が難しく,どんな事件も必ず起訴されるわけではないという点ですが,これは本文でも「後から虚偽申告があっても形式的“同意がなかった”とされたら必ず立件されるわけではない」旨に言及されており,大きな齟齬はありません。
結論として,本文の見解は刑法理論・実務・心理学いずれの面からも概ね適切であり,「性的同意」キャンペーンとのギャップを浮き彫りにする議論として十分意義があると評価できます。今後は捜査・公判の場面で「拒絶の意思を全うできない」心理的支配がどのように立証され,保護が図られるかが,社会的課題となっていくでしょう。