交通事故、診断書が出されなければ人身事故にならないのかという相談(刑事弁護、交通事故)
2023年06月05日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、交通事故を起こして現場から逃げてしまいました。警察に通報され、罪を認めています。ひき逃げ事件となると、免許を失うことになり困るのですが、被害者側が高額な示談金を請求してきています。被害者いわく、「支払いをすれば診断書を警察に出さないので人身事故にならず、ひき逃げとして行政処分も受けない」といわれています。本当にそうであれば支払ってなかったことにしたいのですが、どうでしょうか。
A、診断書が出なくても人身事故になる可能性はあります。また、「証拠隠滅」行為に当たりかねませんので弁護士としてはお勧めできません。
【解説】
一般論として、むち打ちなどの軽傷であれば診断書が提出されなければ物損事故とされ、重症であれば診断書がなくても人身事故として取り扱われると思います。なお、診断書が提出されたとしても、最終的に人身事故として処罰や行政処分がなされるとは限りません。診断書の内容(むち打ちなど客観的所見なし)、車の損傷状況(修理不要)、診断書の作成時期(事故から数日以上経過して作成)、以後の治療経過(通院なし)などから傷害の事実が認定できない、ということもあります。その場合、嫌疑不十分不起訴や、行政処分を免れることもあります。ただ、きちんと指摘しないとそのまま起訴や処分がされる危険性がありますので、相手が軽傷の場合は、ちゃんと弁護士に相談すべきです。
特にひき逃げとされた場合は免許取消という重大な不利益が生じますので、弁護士に依頼することが必要ということも多いでしょう。私の取扱い経験でも、きちんと意見書を出したことにより、刑事罰や行政処分を回避できたと思われるものがありました。ご相談の事例では、私であれば「被害者」の行動に怪しいものを感じますので、正当な方向で進めると思います。
【参考文献】
城祐一郎『Q&A 実例交通事件捜査における現場の疑問〔第2版〕』(立花書房,2017年10月)564頁
【実際にも,被害者の愁訴に大きく依拠するような診断結果に基づいて起訴された事案につき無罪判決もいくつか出されている。
そして,そのほとんど全てが,いわゆる鞭打ち(注1) と呼ばれる頸椎捻挫を被害とするものである(昭和52年9月20日大阪高裁判決・判時871 • 110, 昭和58年5月17 日横浜地裁判決・判夕504 • 183, 昭和63年4月26 日福岡簡裁判決・判時1279 • 160, 平成元年10 月25 日東京高裁判決・判夕739・251, 平成2年1月18 日東京高裁判決・判夕739 • 254等があるが,以上は全て頸椎捻挫の傷害に関するものである。)。】
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