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薬院法律事務所

刑事弁護

交通行政処分を回避するためには~違反等登録までの2ステップ~


2026年09月04日刑事弁護

交通違反事件の相談では、「罰金よりも、免許停止や免許取消しになる方が困る」という方が少なくありません。

トラック、タクシー、営業車などを運転する仕事だけでなく、地方での通勤、家族の送迎、介護など、運転免許が生活の基盤になっている方もいます。そのような方にとって、免許停止・取消しは、刑事処分以上に深刻な結果をもたらすことがあります。

ところが、行政処分については、

意見の聴取の通知が届いてから弁護士に相談すればよい

と考えられがちです。

しかし、点数制度による行政処分では、その段階ですでに警察内部の「違反等登録」が行われ、累積点数に基づく処分手続が進んでいることがあります。

免許停止・取消しを回避するためには、処分通知を待つのではなく、違反等登録が行われる前から対応することが重要です。

本稿では、交通違反・交通事故について違反等登録が行われるまでの手続を、実務上重要な二つのステップに分けて解説します。

※本稿は、主として交通違反・交通事故に基づく点数制度上の行政処分を扱うものです。一定の病気など、点数制度によらない免許取消し・停止については、別の検討が必要です。

 

1 交通違反の切符を切られたら、直ちに点数が登録されるのか

 

交通違反について青切符や赤切符を作成されたからといって、その場で直ちに運転免許の違反点数が登録されるわけではありません。

警察庁の「点数制度による行政処分事務に関する事務処理要領」では、おおむね次のような流れが定められています。

交通違反・交通事故の発生

警察官による違反報告書の作成

第1ステップ 警察署等における違反等登録票の作成

警察本部の行政処分担当課への送付

第2ステップ 警察本部における違反等登録の審査

違反等登録・累積点数の計算

免許停止・取消しなどの行政処分手続

ここでいう「違反報告書」には、交通反則切符、交通切符、点数切符、現認報告書その他の違反事実を認定するための資料が含まれます。

那須修『実務Q&A 交通警察250問』も、まず取締り警察官が違反報告書を作成し、そのうち送致又は通告不相当と認めた事案以外について違反等登録票を作成し、審査を経て警察本部に送付するという流れを説明しています。

したがって、

違反報告書が作成されたこと
=違反等登録票が作成されたこと
=違反点数が登録されたこと

ではありません。

厳密には、この間にも書類の審査、補充捜査、訂正などの事務がありますが、行政処分を回避するという観点から重要なのは、次の二つの関門です。

 

2 第1ステップ――警察署等が違反等登録票を作成するか

 

最初の関門は、違反を取り扱った警察署、交通機動隊、高速道路交通警察隊などにおける審査です。

現行の警察庁の事務処理要領では、警察署長等は、違反報告書に係る事案のうち、**「送致又は通告することが不相当と認めた事案以外」**について、違反等登録票を作成することとされています。

ここでいう「送致」とは、道路交通法違反事件を刑事事件として検察官に送る手続をいい、「通告」とは、いわゆる青切符の反則事件について反則金納付の通告手続に乗せることをいいます。

つまり、警察官がいったん違反報告書を作成したとしても、警察署等で事件を検討した結果、

  • そもそも違反事実が存在しない
  • 運転者や違反場所などを取り違えている
  • 違反成立に必要な要件を満たしていない
  • 現認状況や客観証拠から、当初の事実認定を維持できない
  • 送致又は通告をするだけの証拠が整っていない

と判断されれば、違反等登録票を作成しない可能性があります。

もっとも、公開されている警察庁及び都道府県警察の事務処理要領には、「送致又は通告不相当」に該当する事案が網羅的に列挙されているわけではありません。上記は、後述する違反等登録の除外基準などから整理できる典型的な問題です。

また、単に運転者が違反を否認したというだけで、直ちに登録票が作成されなくなるわけではありません。

福岡県警察の取扱要領では、否認事件について、捜査報告書、供述調書、実況見分調書その他の資料を整備することが予定されています。否認があった場合には、むしろ警察側も証拠を補充した上で、登録の可否を判断することになります。

したがって重要なのは、単に「私は違反していません」と述べることではありません。

警察の事実認定のどこが誤っているのか、その誤りを裏付ける客観的資料があるかが問題になります。

 

3 第2ステップ――警察本部が違反等登録をするか

 

警察署等で違反等登録票が作成されると、違反報告書その他の資料とともに、警察本部の行政処分担当課に送付されます。

しかし、警察署等が登録票を作成したからといって、その内容が無条件で違反等登録されるわけではありません。

警察本部では、違反等登録審査官が、少なくとも次の事項を審査します。

  1. その交通違反又は交通事故が違反等登録の対象となるか
  2. 違反事実の認定が適正か
  3. 違反事実についての証明が十分か

その結果、違反事実が存在しない、事実誤認があるなどと判断された場合には、違反等登録から除外されます。

福岡県警察の取扱要領では、さらに、

  • 違反行為が存在しない
  • 事実誤認がある
  • 「告知等の基準」に該当しない

場合を、違反等登録から除外する事由として明記しています。もっとも、公開されている取扱要領には、「告知等の基準」の具体的内容までは記載されていません。

このように、警察署等で登録票が作られた後にも、警察本部において、事実認定と証拠の十分性を改めて審査する仕組みがあります。

ただし、ここには注意が必要です。

警察庁の事務処理要領では、資料に不備があっても、追加調査によって補うことができる場合には、明らかな登録除外事案を除き、いったん違反等登録をした上で、行政処分を行うまでに追加調査や訂正を求める取扱いも予定されています。

したがって、

警察の書類に記載漏れがある
調書の内容が十分ではない
形式的な手続ミスがある

というだけでは、登録を回避できるとは限りません。

重要なのは、その不備が補充可能なものなのか、それとも、違反事実の存在や成立要件そのものを左右するものなのかという点です。

 

4 違反等登録を回避できる可能性がある事案

 

実際に違反等登録を回避できる可能性が問題となるのは、主として、違反事実や事故態様について具体的な争いがある事件です。

(1)運転者の特定に問題がある場合

車両の所有者と実際の運転者が異なる事件、警察官がいったん対象車両を見失った事件、後方からの視認しかない事件などでは、誰が運転していたのかが問題となることがあります。

単に「別の人が運転していた」と述べるだけでは足りません。ドライブレコーダー、車内外の防犯カメラ、携帯電話の位置情報、同乗者や目撃者の供述などを検討する必要があります。

(2)警察官の現認内容に問題がある場合

信号無視、一時停止違反、携帯電話使用等、通行区分違反などでは、警察官が、いつ、どこから、どの程度の時間、何を見たのかが問題になります。

警察官の位置、対象車両との距離、遮蔽物、道路の形状、交通量、天候、明るさなどによっては、現認の正確性を検討する余地があります。

もっとも、「警察官が見間違えたはずだ」という抽象的な主張では足りません。現場写真、走行映像、地図、見取図などを用いて、具体的に指摘する必要があります。

(3)違反の成立要件を満たしていない場合

事実関係自体に大きな争いがなくても、その事実が道路交通法上の違反に当たるかについて争いが生じることがあります。

例えば、交通事故後の救護義務違反・報告義務違反であれば、事故発生の認識、負傷の認識、事故後に取った行動などが問題になります。

酒気帯び運転であれば、測定方法、測定時刻、運転終了後の飲酒の有無などが争点となることがあります。

ただし、当初の違反名や点数評価が誤っているだけで、別の違反が成立する場合には、正しい違反に訂正された上で登録されることがあります。「当初の処理が誤っていた」というだけで、すべての登録がなくなるわけではありません。

(4)交通事故の態様や過失の程度に誤りがある場合

人身事故では、事故の発生自体だけでなく、

  • 事故の原因となった違反
  • 負傷結果との因果関係
  • 運転者の不注意の程度
  • 専ら運転者の不注意による事故か、それ以外の事情もあるか

などによって、付加点数が変わることがあります。

警察署等の審査責任者も、人身事故について、違反行為の種別、交通事故の種別及び不注意の程度に誤りがないかを審査することとされています。

事故現場の映像、車両の損傷状況、実況見分の内容、診断書、被害者の供述などを総合して検討しなければなりません。

 

5 弁護士は、違反等登録前に何をするのか

 

違反等登録を回避するための弁護活動は、免許取消処分に対する正式な審査請求や取消訴訟とは異なります。

警察が違反等登録票を作成し、登録するまでの間に、事実認定や証拠評価について意見を述べる活動です。

具体的には、次のような対応を検討します。

①客観的証拠を直ちに確保する

ドライブレコーダーや防犯カメラの映像は、短期間で上書きされることがあります。

GPS記録、デジタルタコグラフ、携帯電話の位置情報、通話履歴、決済記録、現場写真、車両データなども、時間が経過すると取得が困難になります。

まずは、何が争点になり得るかを見極め、必要な証拠を保存します。

②警察の事実認定を具体的に分析する

「納得できない」「警察官が間違っている」というだけでは、警察署や警察本部の判断を変えることは困難です。

警察官が作成したと考えられる書類、取締り状況、現場の構造、供述内容などを推測・確認しながら、

  • どの事実認定が誤っているのか
  • どの証拠と矛盾するのか
  • 道路交通法上、どの要件を満たしていないのか
  • 追加捜査をしても認定できない問題なのか

を整理します。

③警察署又は警察本部に意見書・資料を提出する

事件がまだ警察署等にある場合には、違反等登録票を作成する前に、捜査担当者や交通課に対して意見書及び資料を提出することを検討します。

すでに警察本部の行政処分担当課に送付されている場合には、行政処分担当課に資料を届けることが適切な場合もあります。

ただし、登録前の意見書提出は、意見の聴取や審査請求のように法律上の手続として保障されたものではありません。意見書を提出すれば必ず登録が止まるという制度ではなく、最終的には、提出した資料の内容と証拠価値が問題になります。

④刑事事件と行政処分を並行して検討する

交通違反では、罰金、起訴・不起訴などの刑事処分と、点数、免許停止・取消しなどの行政処分が並行して進みます。

この二つは目的も手続も異なるため、不起訴になれば自動的に違反点数もなくなる、という関係にはありません。裁判例も、刑事処分と運転免許の行政処分は、その目的、性質及び判断主体を異にするものとしています。(裁判所)

もっとも、不起訴の理由が「嫌疑なし」又は「嫌疑不十分」であり、その理由となった証拠が違反事実の不存在や事実誤認を示すものであれば、行政処分側の判断を見直す資料になる可能性があります。

大切なのは、不起訴という結論だけではなく、どのような事実と証拠によって不起訴になったのかという点です。

 

6 意見の聴取通知が届いてからでは遅いことがある

 

違反等登録の事務処理は、相当に早く進みます。

一般的な交通切符、交通反則切符等に係る違反等登録票については、原則として違反の翌日から5日以内、人身事故その他の事案については、原則として事故又は違反の翌日から10日以内に警察本部へ送ることとされています。

警察庁の現行要領も、交通反則切符や交通切符等を受理した場合には速やかに送付手続を進め、違反等登録を迅速かつ正確に行うことを求めています。

そのため、交通違反から数週間、数か月たって相談を受けた時点では、すでに違反等登録が完了していることがあります。

また、裁判例では、違反点数の付加・登録は、それだけで直ちに免許の効力を停止・消滅させるものではなく、警察内部における確認・記録にすぎないとして、それ自体を独立して取消訴訟の対象とすることはできないとされています。

もちろん、登録後に事実誤認が判明した場合には、登録内容を変更し、又は抹消する仕組みがあります。警察署等も、登録後に登録を不適当とする事情が生じた場合には、警察本部に連絡することとされています。

しかし、時間が経過すれば、映像が消去され、目撃者の記憶が薄れ、警察内部でも当初の事実認定を前提に手続が進みます。

したがって、実務上は、

登録された後に覆すことだけを考えるのではなく、登録前の二つの審査段階で、正確な資料を提出する

ことが重要です。

 

7 違反等登録を回避できるのは、事実又は証拠に問題がある場合です

 

免許が仕事に必要であること、家族の送迎に欠かせないこと、免許を失えば勤務先を解雇されるおそれがあることは、本人にとって極めて重大な事情です。

しかし、そのような生活上の不利益があるというだけで、存在する違反事実を登録しないよう求めることは困難です。

違反等登録前の二つのステップで中心となるのは、

  • 違反事実が本当に存在するか
  • 運転者の特定に誤りがないか
  • 違反の成立要件を満たしているか
  • 事実認定を支える証拠が十分か
  • 事故態様や不注意の程度が正しく評価されているか

という問題です。

仕事や生活への影響は、行政処分の軽減を求める後の手続で検討される事情になり得ますが、違反等登録そのものを回避するためには、事実及び証拠に即した主張が必要です。

 

8 まとめ――行政処分を見据えた対応は、捜査段階から始まります

 

交通違反について切符や違反報告書が作成された後、違反等登録までには、実務上、二つの重要な関門があります。

第1ステップは、警察署等が、送致又は通告を相当と判断して違反等登録票を作成する段階です。

第2ステップは、警察本部の行政処分担当課が、事実認定と証拠の十分性を審査し、実際に違反等登録を行う段階です。

違反事実に争いがある場合には、この二つの段階で、客観的証拠と法的な意見を提出することが重要です。

特に、

  • ひき逃げ・当て逃げを疑われている
  • 酒気帯び運転を疑われている
  • 交通事故の態様や過失の程度に争いがある
  • 警察官の現認内容に納得できない
  • 運転者を取り違えられている
  • 累積点数の関係で今回の違反により免許取消しとなる
  • 免許取消し・停止により仕事や事業に重大な影響が生じる

という場合には、意見の聴取通知が届くまで待つべきではありません。

薬院法律事務所では、交通違反の刑事処分だけでなく、違反等登録及び運転免許の行政処分まで見据えて対応を検討します。

違反から時間が経過するほど、証拠の確保と登録前の働きかけは難しくなります。免許停止・取消しの可能性がある交通事件については、できる限り早い段階でご相談ください。

 

参考資料

  • 那須修『実務Q&A 交通警察250問』東京法令出版、2021年、276~277頁。
  • 警察庁交通局長「点数制度による行政処分事務に関する事務処理要領」(令和7年3月13日付け丙運発第35号)。(警察庁)
  • 福岡県警察本部「運転免許の行政処分事務取扱要領」。

交通犯罪弁護要領(救護義務・報告義務違反の例)