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薬院法律事務所

刑事弁護

呼気検査がなくても酒気帯び運転で処罰されることがあります(ウィドマーク方式)


2024年01月28日読書メモ

道路交通法では酒気帯び運転、酒酔い運転について厳しい罰則が設けられています。

※道路交通法

第65条 第1項
何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
第65条 第2項
何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。

第65条 第3項
何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
第65条 第4項
何人も、車両(トロリーバス及び道路運送法第二条第三項に規定する旅客自動車運送事業(以下単に「旅客自動車運送事業」という。)の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項、第117条の2の2第6号及び第117条の3の2第3号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運送して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第1項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。

 

第117条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第65条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
二 第65条(酒気帯び運転等の禁止)第二項の規定に違反した者(当該違反により当該車両等の提供を受けた者が酒に酔つた状態で当該車両等を運転した場合に限る。)

第117条の2の2 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの

※道路交通法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000105

※道路交通法施行令

(アルコールの程度)
第四十四条の三 法第百十七条の二の二第一項第三号の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は、血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラムとする。

備考

二 一の表及び二の表の上欄に掲げる用語の意味は、それぞれ次に定めるところによる。
1 「無免許運転」とは、法第六十四条第一項の規定に違反する行為をいう。
2 「酒気帯び運転(〇・二五以上)」とは、法第六十五条第一項の規定に違反する行為のうち身体に血液一ミリリットルにつき〇・五ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態で運転する行為をいう。

※道路交通法施行令

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335CO0000000270

 

行政処分の定めもあります
[違反点数]
違反種別 酒酔い運転 35点
酒気帯び運転(呼気1リットル中のアルコール濃度0.25ミリグラム以上)25点

酒気帯び運転(呼気1リットル中のアルコール濃度0.15ミリグラム以上0.25ミリグラム未満)13点

※道路交通法施行令

備考

二 一の表及び二の表の上欄に掲げる用語の意味は、それぞれ次に定めるところによる。
1 「無免許運転」とは、法第六十四条第一項の規定に違反する行為をいう。
2 「酒気帯び運転(〇・二五以上)」とは、法第六十五条第一項の規定に違反する行為のうち身体に血液一ミリリットルにつき〇・五ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態で運転する行為をいう。

 

※警視庁 飲酒運転の罰則等

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/torishimari/inshu_info/inshu_bassoku.html

 

上記のとおり、酒気帯び運転の成立には、呼気か血液にアルコールが保有されているか、が処罰の基準になります。そのため、呼気検査や血液検査がなければアルコールの保有を立証できずに酒気帯び運転を立証できない、ということがありえます。その対策の一つとして、呼気検査拒否に対する罰則があるのですが、例えば現場から逃走してしまい時間が経過してからの出頭であったために既にアルコールが検出されない、ということはありえます。

 

その対抗策がウィドマーク方式による立件です。アルコールを摂取した量から逆算して酒気帯びを立証する手法になります。城祐一郎先生が捜査官向けの文献で強く立件を勧めているので、チャレンジしてきている事案が結構あるようです。これに関しては、下記文献が参考になるでしょう。

季刊刑事弁護4号(2008年夏号)76頁
ウィドマーク法を用いた酒気帯び運転の捜査の問題点
山室匡史

捜査研究2016年1月号(780号)47頁
ひき逃げ事件において,犯人性及び「酒気帯び」の事実認定が問題となった事案
東京地方検察庁検事 神谷佳奈子

月刊交通2020年10月号(633号)56頁
追加飲みによる酒気帯び運転逃れに関する質問と回答
城祐一郎

月刊交通 2023年2月号(663号)53頁

飲酒運転におけるウィドマーク式に関する質問と回答
城 祐一郎

 

幕田英雄「酒酔い運転・酒気帯び運転」藤永幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書14 交通犯罪(4訂版)』(東京法令出版,2008年4月)257頁

【イ運転直後に、運転者を確保できなかった事案におけるアルコール保有の程度の捜査について
ア) 方法
運転者が運転行為直後に逃走したなどのため、時間を隔てて運転者を検挙せざるを得ない場合においても、検挙後、早急に呼気検査・血液検査等の科学的検査を行い客観的資料を収集することが大事である。
しかし、運転行為時には法令で定めた数値以上の程度の酒気帯び状態であったにもかかわらず、検挙時までに、運転者の身体からアルコールが排出されてしまい、検挙時において収集した呼気や血液などの科学的資料も無意味になっていることが多い。そのような場合には、飲酒量、運転までの経過時間、運転時における酒気帯びの状況(酩酊した気分であったか、運転操作上不都合があったかなど)について運転者本人から的確に供述を得て供述調書化するとともに、飲酒状況及び運転状況について目撃者等から裏付けとなる供述を求め供述調書化しておく必要がある。これら飲酒状況に関する資料及び運転者の体格等のデータを、運転時のアルコール保有の程度を推定する計算式(上野正吉博士のいわゆる上野式計算法やウィドマーク法など)にあてはめる方法で、アルコールの推定保有程度を求めることが可能なこともある。】

 

裁判例も複数存在します。

 

警察公論2021年11月号付録令和3年度版警察実務重要裁判例

本判決は,上記のとおり述べた上, ウィドマーク式算定法は,下降期の下降率がほぼ一定することから,飲酒直後の血中アルコール濃度が最大であるとして減少率に飲酒後の経過時間を乗じて一定時間経過後の血中アルコール濃度を推定する計算式であるから,上昇期に適用することはできないものであり,上昇期であった可能性がある原告の運転時の呼気中アルコール濃度を推認するために用いることはできないとして,本件における飲酒開始約35分後の呼気検査結果から,飲酒開始約5分後の運転時における呼気中アルコール濃度が呼気1リットルにつき0.15mg以上であったことを推認することはできないとして,本件各処分を取り消した。
本件のように「飲み終えたばかり」との弁解がなされたり,そのような弁解がなされる可能性があったりする場合には,警察官としてはその弁解の真実性について十分に裏付けのための捜査をすることが止められることは言うまでもない。
また,本件のような事案でウィドマーク式算定法の使用が否定されたのは,飲酒検知時に呼気中アルコール濃度が上昇期にあったのか下降期にあったのかの特定ができないことによる。このことを念頭に置くと,取締り警察官としては,①できるだけ早期に飲酒検知を行うこと,②20~30分の間隔を置いて再度飲酒検知を行うことにより,被告人の呼気中アルコール濃度が下降期にあったか否かを判断するという手法をとることが考慮されてよかろう。
なお,令和2年に,公安委員会による免許取消処分等が取り消されたものとして,①深夜降雪による視界不良の中歩行者と衝突する死亡交通事故を起こした者に対する運転免許取消処分が手続的暇疵を理由に取り消された事例(札幌地判令2年8月24日・LEX/DB(文献番号) 25566802),②違反行為から直ちに原告が道路交通法や道路の安全を軽視していたとは言えないとして運転免許停止期間を短縮した事例(岐阜地判令2年9月4日・LEX/DB(文献番号) 25566783)がある。

 

警察公論2017年7月号付録『警察実務重要裁判例平成29年版』205頁
過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪の適用事例
行政法
札幌地小樽支判平28.9.28
本件で,裁判所は,被告人が,飲酒の上自動車を運転し,対面信号機の赤色表示を看過して本件交差点に進入して被害者と衝突したが, その場を離れて同日午前6時30分ころまでC方に留まった行為をとらえて過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪の成立を認め, その際, ウィドマーク計算法を用いて体内アルコール保有濃度を推計している。他方で,本判決は,裏付けの取れないアルコールの追い飲み行為については, 自白法則との関係で罪となるべき事実からはずしており, また, ウイドマーク計算法によって計算された体内アルコール保有濃度の下限を基準に犯行の終期を画する取扱いをしており,実務上念頭に置くべき裁判例である。LEX/DB(文献番号)25448215

 

ウイドマーク計算法によって飲酒運転が立件された場合は、難しい問題が出てくるので、弁護士に依頼して対応すべきでしょう。

 

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