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薬院法律事務所

刑事弁護

少年事件と公訴時効(中学校時代の盗撮事件が高校生で問題になるか)


2021年07月23日読書メモ

少年事件と公訴時効の関係について。例えば、中学2年生の時に行った盗撮事件が、3年後の高校2年生の時点で発覚したとします。これは少年事件として裁かれるのでしょうか。

建造物侵入や迷惑行為防止条例違反は3年間が公訴時効ですが、公訴時効期間経過後の事件を少年事件として裁けるかという問題があります。理論上は可能という説もありますが、実質的には送致されることがなく問題にされないようです。

裁判所職員総合研修所監修『少年法実務講義案(再訂補訂版)』(司法協会,2012年9月)32頁

【3 処罰阻却事由及び訴訟条件

処罰阻却事由とは,刑罰権の発生を妨げる事由,例えば,親族相盗例(刑法244 1前段)における近親者としての身分などをいい,その存在は,刑の免除事由にすぎないから,犯罪の成立に影響はない。 また,親告罪における告訴や公訴時効の不完成等の訴訟条件は,訴訟を追行し,実体的審理,裁判をするための要件にすぎないから, これまた犯罪の成否とは関係がない。

要するに,処罰阻却事由の存在及び訴訟条件の欠鉄は, いずれも犯罪の成立を妨げるものではないから, これらの事実が存しても犯罪少年として取り扱うことができると解されている。刑の減軽事由も同様である。

ただし,公訴時効完成後に送致された事件につき,審判開始の要件を欠くものとして審判不開始決定をした裁判例があり(福岡家決昭61.5.15月報38-12-111),刑訴法337条に掲げる免訴事由の存在しないことが審判条件であるとの見解もある。】

廣瀬健二編『裁判例コンメンタール少年法』(立花書房,2011年12月)32頁
【福岡家決昭61 . 5 . 15家月38. 12. 111 (公訴時効完成後に送致された運転免許証の不正再交付事件を「公訴時効制度の趣旨、精神等に照らし、本件は審判開始要件を欠くものと解する」と判示して審判不開始とした事例) もある(判旨賛成、寺崎嘉博・百選28事件解説、澤登88)。】

平場安治『少年法〔新版〕(法律学全集44-Ⅱ)』(有斐閣,1987年4月)101頁
【親告罪の告訴、公訴時効の不完了などは訴訟条件であって、犯罪の成否とは関係がない。しかし、それらが訴訟条件とされる理由は少年法においても尊重されなければならない。】

最高裁判所事務総局編『少年事件実務要覧(上)』(法曹会,1983年11月)380頁
【非行後、刑が廃止されていないこと、大赦がないこと、公訴時効が完成していないこと等が審判条件となるかどうかについても、見解が分かれている(この点に関する学説等については資料集日六五二頁参照)が、実務上は、ほとんど問題とならない。】

多分、警察・検察段階ではじかれてしまい家裁に送致されていないと思います。

河村博編著『少年法-その動向と実務-〔第三版〕』(東京法令出版,2014年11月)
84頁
【捜査の段階で審判条件を欠くことが明らかになったときは, これを家庭裁判所に送致することは無意味であるから,通常の例によって(犯罪少年であれば刑訴法の原則に戻って), 事件を処理しなければならない。何が審判条件であるかについて明文の規定はないが,通常次のような事由があげられる。】
88頁
【犯罪後の法令による刑の廃止,大赦,時効完成等の事由の存しないこと
これらの事由は, いずれも免訴事由(刑訴法337条)であり,少年の保護という面から考えれば審判権を否定する理由にはならないとする説も有力であるが, これらの事由は, いずれも,過去の犯罪をなかったものとして扱おうとする制度であり, そのようなものとして本人も,被害者も, また社会一般も納得しているのであるから, これを再び掘り返して審判を行うのは適切とはいい難い場合が多く,かえって少年の情操を傷つけるおそれもある。
したがって, これらの事由がある場合には審判条件を欠くものと解すべきではなかろうか】