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薬院法律事務所

交通事故(刑事)

駐車場(コインパーキング)での物損事故、あて逃げの成否(付・飲酒運転の場合)


2023年08月25日交通事故(刑事)

良くある質問で、「駐車場内で他の車に軽くぶつけてしまったが、大丈夫だろうと思ってそのまま立ち去った。あて逃げとして逮捕されないだろうか。」というものがあります。

 

この場合、成立する犯罪として考えられるのは、報告義務違反(道路交通法第119条第1項10号)となります。3か月以下の懲役または5万円以下の罰金です。軽くぶつけたという場合、道路上の危険がないので、危険防止措置義務違反(道路交通法第117条の5)は成立しないことが多いと思います。こちらは1年以下の懲役または10万円以下の罰金です。行政処分については、安全運転義務違反で2点、当て逃げの付加点数は5点です。

 

この問題については、まず犯罪が成立するかどうかを検討しなければなりません。

 

1.コインパーキングは「道路」にあたるか

こういう問題について考えるときは、まず、当該コインパーキングが、道路交通法2条1号の定める「道路」【道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。】にあたるかどうかを検討しなければいけません。これは一概にはいえませんし、最終的な検察官の判断と、警察官の判断が異なることもあります。

「一般交通の用に供するその他の場所」とは、道路法に規定する道路及び道路運送法に規定する自動車道以外で不特定の人や車が自由に通行することができる場所をいうとされています。

この判断にあたっては、「道路の体裁の有無」、「客観性・継続性・反復性の有無」、「公開性の有無」及び「道路性の有無」を検討するのが一般的です(道路交通執務研究会編著『執務資料道路交通法解説(18-2訂版)』(東京法令出版,2022年11月)6頁~)。

まずはこれを満たすかですが、事実上通り抜けできるというというだけでは、あたらないといえるのではないかと考えます。私のした事例でも、警察で酒気帯び運転として立件された事案が、意見書を出して嫌疑不十分不起訴になったことがあります。

最二小決昭46年10月27日(裁判集刑181号1012頁)は、【右駐車場は、公道に面する南側において約一九・六米、川に接している北側において約一四・一米、南北約四七米のくさび型の全面舗装された広場であって、そのうち東側および西側部分には、自動車一台ごとの駐車位置を示す区画線がひかれ、南側入口には、県立無料駐車場神奈川県と大書された看板があって、本件の広場の全体が自動車の駐車のための場所と認められるところであるから、駐車位置区画線のない中央部分も、駐車場の一部として、該駐車場を利用する車両のための通路にすぎず、これをもつて道路交通法上の道路と解すべきものではない。ホテルなどの利用客等のうちには、右駐車場を通行する者があるとしても、それはたまたま一部の者が事実上同所を利用しているにすぎず、これによって右駐車場中央部分が、一般交通の用に供する場所となるわけのものではない。】としています。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=59548

 

2.軽微な破損でも「交通事故」といえるか

報告義務が生じる物の損壊の程度については、道路交通執務研究会編著『執務資料道路交通法解説(18-2訂版)』(東京法令出版,2022年11月)842頁は【その物の損壊の程度、具体的危険発生の有無、危険防止措置の要否の如何を問わず、いやしくも物の損壊のあったすべての場合を含むものであって、その程度が軽微であってもよい(昭四三・五二七仙台高裁)】とします。これが一般的な解釈です。なお、伊藤榮樹ほか編『注釈特別刑法第六巻交通法・通信法Ⅰ』(立花書房,1982年11月)347頁は、【物の損壊は、自らの車両の損壊も含む。しかし、交通秩序の回復を目的とする本条の趣旨から、崖にぶつかって自車を走行に差支えない程度に損壊したような自損事故の場合には、交通事故とはいえない。(河上和雄)】としますので、自損事故については成立しないといえる余地があります。

 

3.「故意」が認められるか

さらに、報告義務違反は故意犯なので、車両等の運転者に「車両等の交通による物の損壊」(道路交通法72条1項、同67条2項)についての認識が必要です(最三小判昭和45年7月28日刑集24巻7号569頁、最三小決昭和47年3月28日刑集26巻2号218頁)。すなわち、「接触した」という未必的認識のみでは足らず、「物が損壊したのではないか」という認識が必要です。ただ、運転者に感じられる程度の衝撃があった場合は、「物の損壊」について未必的認識があったとされることが多いでしょう。警察官向けの文献から記載を引用します。

佐藤隆文ほか『3訂版 新・交通事故捜査の基礎と要点』(東京法令出版,2022年2月)145頁【救護義務違反及び報告義務違反は、いずれも故意犯であるから、人の死傷、物の損壊が生じたことを運転者等において認識していることが必要である。認識がないのに救護義務・報告義務を負わせるわけにはいかない(浜松支部平10. 2 ・18高検調同年番号15)。ただ、その認識の程度については、必ずしも確定的であることを要せず、「人の死傷、物の損壊が生じたかもしれない」との未必的な認識で足りるとされている(最判昭40・10・27刑集19・7 ・773、最判昭45. 7 .28刑集24. 7 .569)。この認識は、救護・報告義務違反の刑事責任を問うため必要不可欠の要件であるから、特に重点をおいて捜査すべき点であり、「事故を起こして怖くなり、酒を飲んでいることがばれては大変だと思って、そのまま逃げてしまいました。」という程度の供述では、単に事故を起こしたという漠然とした抽象的な認識だけであって、人の死傷、物の損壊について認識していたのかどうかという肝心な点の供述は何らなされていないわけであるから、このような供述を録取しても、故意に関する自白調書としては不完全・不十分と言わざるを得ないのである。
しかし、上記の認識の点は、特に被疑者が無免許、酒酔い運転の途中に事故を起こしたという場合、重い刑に処せられるとの恐怖心などから必死になって否認する点でもあるので、被疑者から真実を吐露させる努力を尽くす一方、事故発生の経緯、状況、特に車両の破損状況、受傷、物損の程度、衝突音の大小、事故前後の被疑者の挙動(いったん停止して車外に出たとか、窓を開けて外を見たとかなど)、同乗者があれば同乗者との事故についての会話の内容等についても丹念な捜査を行い、いかに否認しようとも被疑者に人の死傷又は物の損壊についての認識がなかったはずはないとの状況証拠を収集し、万全の証拠固めをしておく必要がある。】

 

4.逮捕状が発付されるか

これらの検討を経た上で、逮捕状が発付される可能性があるかを検討します。前科がなく、反社会的勢力に所属しているといった場合でなければ、通常は逮捕状が発付されることはないと考えていますが、すべて個別判断になります。以下をご覧ください。

逮捕回避のための弁護活動とはどういうものか(意見書サンプルあり)

 

5.「自首」のご相談について

私にご相談に来られた場合には、こういった検討を経た上で、自首すべきか否か、弁護士が同行して意見書を出すべき案件か否か等につき判断しています。微妙な案件の場合は、意見書を出した方が良いこともありますし、そうでなければ、ご自身のみで対応するということもあるでしょう。費用対効果の問題があるからです。

 

6.飲酒運転の場合

あて逃げをしてしまった場合で、特に問題になるのは、飲酒運転だった場合です。弁護士は「嘘」に協力することができませんので、警察に対して、依頼者が酒気帯びであったのに酒気帯びでなかったという話をすることはできません。ただし、上記の「1.コインパーキングは「道路」にあたるか」の論点、道路にあたるかという問題はありますし、飲酒の事実は「3.「故意」が認められるか」にも影響します。酒気帯びの検知がなされていないので、酒気帯び運転として立件されない可能性もあります。難しい問題ですので、面談相談を受けた上で検討すべきでしょう。

あて逃げ事件、刑事事件としては有罪でも行政処分の「点数」がつかない場合があります

交通犯罪(救護・報告義務違反)