【解決事例】加害者(被害者)の住所、氏名を伝えずに示談する具体的手法(刑事弁護、犯罪被害者)
2024年12月17日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、鐘ケ江啓司先生のホームページを拝見して、被害者(加害者)に自分の住所・氏名を伝えずに示談する方法があると知りました。そこで、現在依頼している弁護士に相談したのですが「住所、氏名を伝えないで示談はできない。少なくとも氏名を伝えないと効力がない。」と言われています。どうすれば良いのでしょうか。
A、どういう目的で「示談」をするかです。処罰を回避する、事実上の請求を遮断するということであれば、住所氏名の開示は必須ではありません。私は、被害者の氏名も知らないまま示談書を交わして不起訴処分を獲得した事例もあります。
【解説】
末尾の2記事が良く見られていましたので、追加で解説記事を作成しました。
「相手に住所・氏名を伝えないのであれば、どうやって示談するの?」という質問です。
そもそも、刑事事件(捜査弁護)で示談書を交わす意味は、①刑事罰の回避、②以後の損害賠償請求の回避、の2点だと思います。そうなると、①については、検察官が正式に示談が成立したことがわかればそれで十分ですので、弁護人が被害者の住所・氏名を知る必要はありませんし、被害者が加害者の住所・氏名を知る必要もありません。②についても、検察官の手元に示談書があれば、事実上損害賠償請求がなされることは考えられません(犯罪被害者が、もらっていないと嘘をついて請求すれば、詐欺罪になります)。純理論的にいっても「犯人の弁護人と示談した」ということで、和解契約の効力は発生します。
そう考えていくと、刑事事件で示談をするにあたって、相手方の住所・氏名を知ることが必須という場面はそう多くないのです。
住所・氏名を伝えずに示談をする手法ですが、刑事弁護人の場合だとこういった方法があります。
①検察官に、被害者との示談交渉をしたいと打診する。その際に、あらかじめ「匿名のままお電話してもらっても構わない」と伝えておく。
②被害者と電話、面談ないしメール等で協議をする。
③メールで示談書案を書いて、OKの返信をもらったら、振込口座を尋ねて振り込む。名前を知られたくないという場合は、現金を持参するといった手法をとる。
④書面での示談書をかわすという場合は、被疑者名にはマスキングシールを貼り、被害者名を書いてもらったらマスキングシールを貼ってもらい、そのまま投函する(一緒に警察署に持っていったこともあります)。
⑤被害者の氏名の代わりに「電話番号~の契約者」と署名してもらう。
私はこういった方法で示談を複数成立させ、検察官に提出して不起訴処分を獲得してきました。検察官は被害者に直接確認の電話をしますので、いままで問題が生じたことはありません。
これに対しては、「被害者になりすまして来る人がいるかもしれない」と考える人もいると思いますが、それは「詐欺罪」という立派な犯罪です。それをしてくるような人であれば、それはこちらから刑事告訴すべきということになるでしょう。この手法は、犯罪被害者側で賠償金を請求する時にも使える手法だと考えています。
※犯罪捜査規範
https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50400000002
(被害者等に対する通知)
第10条の3 捜査を行うに当たつては、被害者等に対し、刑事手続の概要を説明するとともに、当該事件の捜査の経過その他被害者等の救済又は不安の解消に資すると認められる事項を通知しなければならない。ただし、捜査その他の警察の事務若しくは公判に支障を及ぼし、又は関係者の名誉その他の権利を不当に侵害するおそれのある場合は、この限りでない。